ハーフリングたちの村と守護騎士
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「うわぁああっ!」
感動のあまり、花びらを撒き散らしながらクルクル回るミサキ。精霊の光もキラキラ輝いている。そのそばにはヴィルヘルムが。
星降る洞窟で、ミサキが精霊の悪戯に巻き込まれたせいか、剣に手をかけたままのヴィルヘルムは、とても近い距離にいる。無表情で一言も言葉を発しない。
(洞窟で速攻拐われたせいで、ヴィルヘルムさまの信頼を著しく損ねた様子!そろそろ挽回しなくては。)
今、ミサキはハーフリング族の住む村に来ている。
「よくいらっしゃいました。聖女様。」
少し毛の生えた小さな体。人間よりも少し長い寿命。一般的には人族には好意的ではなく、会おうとしても隠れられてしまう。
そんなハーフリング族の村に、ミサキは来ている。ちなみにただいま大歓迎の宴の最中だ。セバスチャンはちゃっかり、ハーフリングたちの輪に加わり、エールの飲み比べをしている。その周りには、死屍累々のハーフリングたちが倒れている。
(セバスチャンさん、酒豪なのね…。)
ミサキは1杯だけ飲んだが、それでほろ酔いになっている。
「あの時は、われらが主の命を救っていただきありがとうございました。」
「たまたま、通りすがっただけの話よ?」
2年前、聖女として活動していたミサキは、ある貴族からの招かれ珍しく神殿の外に出ていた。その道中で、怪我をした一人のハーフリングを癒しの力で救ったのだ。そのハーフリングは、アーノルドという名前でハーフリング族の若き長だった。
「久しいな、ミサキを招待出来て光栄だよ。」
ミサキよりもよほど小さいアーノルドだが、もう30歳を越えているそうだ。それでも130歳まで生きるハーフリング族の中では、若い部類に入る。
「アーノルドさん。お久しぶりです。お招きいただきありがとうございます。なんていうか、本当に素敵な村ですね!」
ミサキが日本にいたころに、想像した小人の集落がそこにある。小さなドアは、黄色や赤、青と丸に四角。かわいらしい形と色をしていて、赤茶色の屋根には煙突がある。
「はは。ミサキに気に入ってもらえてよかったよ。…ところでその御仁は。」
「私の守護騎士のヴィルヘルムさまです。とても強いんですよ?」
アーノルドは不審げな表情を隠さずにヴィルヘルムを見た。
「聖女様の守護騎士にしては、少し…。」
(すみません、だいぶ人見知りが強いんです。)
ミサキはその言葉は飲み込んで、ヴィルヘルムに伝える。
「ヴィルヘルムさま?ここは安全です。剣を離した方がよいと思います。」
ヴィルヘルムは表情を少しも変えない。しかし、少し不満げにそう答えた。
「ミサキ殿がそうおっしゃるなら従います。」
(やっぱりこの間のことが尾を引いているのかしら。それとも、この間注意されていたにもかかわらず癒しの力を使いすぎて倒れちゃったからかしら。)
ハーフリング族とヴィルヘルムの間には微妙な空気が流れる。その時、一人のハーフリングがひどく慌てた様子で飛び込んできた。
「怪我をしているわ。何があったの?」
「飛竜に子どもが一人さらわれた。」
楽しい雰囲気が急速に鳴りを潜める。周囲に重たい沈黙が広がった。
「…場所はどこだ。」
「え?」
「どこだと言っている!まだ間に合うかもしれない。早く案内しろ!」
ヴィルヘルムは、ハーフリングの若者と走り出した。
「わ、私も…!」
「聖女様は、私とともに待ちましょう。なに、坊ちゃんが飛竜ごときに後れを取るはずがありませんよ。」
ミサキの手をセバスチャンがつかむ。ヴィルヘルムに命を受けているのだろう。どうしても行かせる気はないようだ。
「ヴィルヘルムさまが心配です。」
先日の盗賊を切った時の、ヴィルヘルムの様子が気にかかった。
「そうであれば、今はなおさらここでお待ちください。たぶん、坊ちゃんは戦う姿を聖女様に見られたくないのでしょう。」
「え…なんでですか?」
「ふふふ。それはご自分たちが気づくべきこと。年寄りが余計なことを言うのは無粋というものです。」
ヴィルヘルムを待つ時間は、とても長く、長く感じた。
「ミサキ殿。戻りました。」
戻ってきたヴィルヘルムに、怪我をした様子はない。しかしなぜかハーフリング族の若者と子どもの両方を背負っている。
「まさか、怪我をして…。」
ミサキは、やはり自分も付いていけばよかったと後悔した。
「いえ、どうも時間が掛かりそうでしたので行きも帰りも背負ってきました。」
集まってきたハーフリングたちが、次々とヴィルヘルムの足元に跪く。
「守護騎士殿、先ほどの無礼をどうかお許しください。聖女様に救われただけでなく、貴方様はいま一度我々を救ってくださいました。」
「…当然のことです。」
傍からは冷たそうに聞こえるが、もうハーフリング族の誰もそんな風に思わないだろう。
直立不動のヴィルヘルムに、ハーフリング族の子どもたちが大量にぶら下がっている。まったくふらつかずに姿勢を保っているのがさすがだとミサキは思う。
問題はその後だった。惜しまれてハーフリング族の村を去ったミサキとヴィルヘルムだが、ハーフリング族は芸術が大好きでしかも噂好きだったのだ。
騎士が聖女とともにハーフリング族を救う物語が、王都をはじめ国中で大流行しているという。その小説は、上流階級の間でも、亜人たちの間でも大ヒットしているそうだ。
「大幅に脚色されてますね…ヴィルヘルムさま。」
「それは私ではありません…。」
しかし、聖女であるミサキと守護騎士のヴィルヘルムがモデルであることは、噂好きのハーフリングたちによって全国に広められてしまった。
どうやって届けられるのかはわからないが、莫大な印税の一部が今日もミサキに届けられる。たぶん大神官がまたしても一役買っているに違いない。
「ゆっくり旅したいだけなのに、困ったものね。」
ミサキはいつものように、頬に手を当てコテンと首を傾けた。
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