【06】映像②
◇メガソーラー建設現場の仮設事務所の防犯カメラ
モノクロで音声はなし。
仮設事務所の右奥の天井から室内を斜めに見下ろしたアングル。ポットや湯呑み、ヘルメット、スマートフォンが置かれた折り畳み式のテーブル、椅子が中央に見える。画面左上に入り口がある。
2時丁度に、警備員の制服を着た体格の良い男が、割り箸を載せたカップラーメンを両手で持って画面左下の方から現れる。
体格の良い男は、入り口に背を向けて折り畳み椅子に腰をおろし、スマートフォンを手に取って弄り始める。何かのゲームをやっているらしく随分と集中している。
更に6分後、入り口の扉が開く。その向こうから、長髪でベンチコートを着た男が入って来る。右手に鉈らしき物を持っている。うつ向いており、画質も悪いために人相は良く解らない。体格の良い男は、ベンチコートの男の侵入に気がついた様子はなく、まだゲームをやっている。スマートフォンに視線を落としたまま、何か言葉を発しているが独り言のようだ。ベンチコートの男は、ふらふらとした足取りで体格の良い男の背後に立つ。
それから数秒後、体格の良い男がカップラーメンをそのままにしていた事に気がつき、慌てた様子でスマートフォンを置いてカップラーメンへと手を伸ばした。
その瞬間、ベンチコートの男は右手の鉈を振り上げる。カップラーメンを食べようとしていた男の動きが止まる。
画面には映っていないが、体格の良い男の正面奥には、硝子戸のついたキャビネットがある。彼の視線はそこにある。どうやら、硝子に映ったベンチコートの男に気がついたようだ。
体格の良い男は驚いて、椅子に座ったまま勢い良く後ろを振り向いた。その瞬間の遠心力で、手に持っていたカップラーメンの中から麺の一部と汁が飛び出す。
同時にベンチコートの男は、体格の良い男の頭部に鉈を振り下ろす。
体格の良い男は、左半身を上にして腰を丸めた格好で床に倒れる。同時に椅子が倒れ、彼が手に持っていたカップラーメンが転がり落ちて、中の汁や麺が床にぶちまけられた。
ベンチコートの男は意に介した様子を見せずに、意識を失ったらしい体格の良い男に鉈を振り下ろす。
五回、鉈は振り下ろされ、体格の良い男の頭部や顔面から鮮血が溢れる。頭頂部から頬や顎、首筋辺りが激しく破損している。
その様子を立ち尽くしたまま見つめるベンチコートの男。
それから5分後にベンチコートの男は再び事務所の入り口へと向かう。ベンチコートの男がドアノブに手を掛ける前に入り口の扉が開き、その向こうから見回りから戻ってきたと思われる眼鏡を掛けた警備員の男が現れる。
眼鏡の男は叫んだようだ。
その顔面にベンチコートの男は鉈を振るった。大量の鮮血が飛び散る。叩き割られた眼鏡が顔から落ちる。
眼鏡の男は鼻っ柱を抑えて、ゆっくりと膝を床に突いた。
ベンチコートの男は、その頭頂部に鉈を振り下ろす。すると眼鏡の男は仰向けに倒れ込んだ。彼の両足から上が画面から消える。ベンチコートの男も彼を踏み付けながら扉口の外に出て画面の外に消える。
◇メガソーラー建設現場ゲート近くの防犯カメラ
右側から斜めにゲートを見下ろすようなアングル。
そのゲートの閉ざされた金網の扉。この上に無数の鴉が並んで止まっている。
鴉はゲートの内側を向いており、嘴をいっぱいに開いて鳴いている。
◇小高敬士のビデオカメラの映像(2)
助手席に置かれたカメラから運転中の小高敬士が映り込んでいる。やがて、小高は何かに気がついたらしく、車を停車させる。そして運転席のサイドウインドウを開けて叫んだ。
「すいませーん」
車の外から、はっ、はっ、はっ、という犬の息遣いと一緒に、年配の男性の声が聞こえる。
「何だ?」
「ちょっと、良いですか? この辺りには取材で訪れてまして」
「取材って、テレビの人?」
「いいえ。本を書いてまして」
「おー、そうかい。それはご苦労なこったね」
「犬の散歩ですか。この辺りには良く来るんですか?」
「ああ。やっぱ、取材って、あの事件の事?」
「はい。それと、この地域の……茂刈山の事も調べてまして」
「あー、山ね」
5秒ほど沈黙。再び男性の声が聞こえる。
「あんま、山の方に行かん方がいいよ」
「どうしてですか?」
「あの山、おっかねえから」
「おっかない?」
この小高の質問に、明らかに何かを誤魔化すような調子で男は苦笑混じりに答える。
「ほら。熊とか出るから。あと、鴉もいて突っついてくるから」
「あー」
「さっきも、若い女が二人、車に乗って山の方に行ったけど。あんなとこ行くもんじゃねえから」
「若い女が二人?」
「ああ。銀色の軽自動車で」
「どんな感じでした? その二人。人相とか、雰囲気とか」
「そんなの、覚えとらんて。すれ違っただけだし」
「ですよね」
「そろそろいいかい?」
「あ、はい。ありがとうございました」




