27「分かってねぇ」
ケイルがウォレンと序列戦の約束を取り付けた後。
一同はウォレンの小屋を出て、それぞれ帰路に着こうとした。
「おい、ちょっと待て」
ケイル、リリに続いてエレミーが小屋を出ようとした時、ウォレンが呼び止める。
「そこのメイド……エレミーっつったか。てめぇは残れ」
「……はい?」
名指しされたエレミーは、不思議そうに首を傾げた。
先に小屋を出たケイルとリリが、訝しむような目でウォレンを見る。
「てめぇらは先に帰ってろ。……心配すんな。ちょっと話があるだけだ」
ウォレンは軽く舌打ちして、ケイルたちに言った。
ケイルはまだウォレンのことを訝しんでいたが、渋々頷いて立ち去る。
ウォレンは恐ろしい悪魔だが、信用できない相手ではない。下級生であるケイルに、ライガットの不正について説明したことから、義理堅い性格をしていることが窺える。ドーピングを良しとせず、己の力のみで序列戦に臨むべきであるという彼の思想も共感できた。
小屋の扉が閉められる。
エレミーは改めて、ウォレンと相対した。
「ええと……いきなり何ですか、話って? 生憎ナンパはお断り――」
場を和ますための適当なジョーク。
それを口にしようとした直後、エレミーの眼前から炎塊が飛来した。
「――ッ」
真紅の炎が迫る中、エレミーは瞬時に掌を前に向けた。
掌を中心に大きな旋風が生まれる。荒れ狂う炎を、吹き荒ぶ風が相殺した。
白黒のメイド服が翻る。
家具も調度品も吹き飛び、部屋はあっという間にめちゃくちゃに破壊された。
「はっ! やっぱり、てめぇがヴィネか」
ひび割れた床や壁のことなどは一切意に介さず、ウォレンが笑う。
好戦的な笑みを浮かべるその男に、エレミーは怜悧な視線を注いだ。
「……どうして気づいたんですか?」
「家に入れる前に、俺がケイルを攻撃した時……てめぇも反撃しようとしていただろ? 反射的に身構えちまったんだろうが、その姿が他のヴィネ一族の悪魔とダブったんだよ」
ちっ、とエレミーは舌打ちした。
よく見ている――確かに自分はあの時、反撃に出るべきか迷った。ケイルの陰に隠れていたためバレていないと高を括っていたが、ウォレンは気づいていたらしい。
「表向き、ヴィネ一族は夜逃げしたことになっているみてぇだが……そんなわけがねぇ。てめぇら一族は強かった筈だ。出稼ぎでもすりゃあ、簡単に大金が手に入るだろうが」
兄といい弟といい、こうも正体を悟られると嫌気が差す。
エレミーは深く溜息を吐いた。
「強いと言っても、私は大したことありませんよ~」
「はっ! よく言うぜ。てめぇならそこそこいい序列も手に入んだろ!」
「……そこそこ止まりですよ」
エレミーは先程までの陽気な態度を改め、静かに告げる。
「私では……レベル2に到達できませんから」
「……そうかい。そりゃあ才能がなかったな」
厳しい指摘だが、事実だ。
エレミーは頷くしかなかった。
「あの餓鬼……ケイルは、レベル2に至っているのか?」
「いえ、まだですね~。しかし、あの方なら必ず至ってくれると思います」
そんなエレミーの発言に、ライガットは眉根を寄せる。
「てめぇ……分かってんのか?」
鋭い語気で、ウォレンは訊いた。
「仮に、ケイルが俺に勝った場合……その先に待っているのは、ライガット=バアルとの戦いだぞ」
「それは勿論、分かっていますよ~。ですが私は、ケイル様なら勝ってくれると信じていますので~」
エレミーは自信満々といった様子で告げる。
だが、ウォレンにはそれが、適当な発言に聞こえたのか――。
「分かってねぇな」
ウォレンはエレミーを睨みながら言う。
「元々ライガットには才能があったんだ。そいつが更に、反則級の道具を使ってんだぞ。……あいつはもう、とっくに魔王を超えてんだよ」




