24「時効」
「うおっ!? 化物!?」
「……その呼び方、やめてくれないか」
その日の放課後。
俺たちは校門前で、序列二位ウォレン=ベリアルの弟である、アラン=ベリアルと対峙した。
「アラン様、お久しぶりですね~。ちょっとお話いいですか~?」
「何が『いいですか~?』だ。待ち伏せしやがって……どうせ逃がす気ねぇんだろうが」
「話が早くて助かりますね~」
エレミーがにっこりと微笑む。
その先は俺が言うべきだろう。一歩前に出て、アランを見据えながら口を開いた。
「ウォレン=ベリアルに序列戦を申し込みたい。直接、申込書を渡したいから、案内してくれないか?」
その要求に、アランは僅かに目を丸くしたが、すぐに元の様子に戻った。
「いいぜ」
「……いいのか?」
「あ? 何が疑問なんだよ?」
「いや……素直に受け入れられるとは、思わなかったから」
戸惑いながら言うと、アランは後ろ髪を掻きながら溜息を吐いた。
「あのなぁ……お前、ちょっとは周りを見ればどうだ?」
溜息交じりに告げるアラン。
その言葉に従い、周囲を見回すと……いつの間にか多くの生徒たちが足を止め、俺たちに注目していた。
俺たち……というより、俺に注目しているのか?
「つい先日までピッカピカの新入生だった筈の男が、この短期間であっという間に序列三位になってんだぞ? 一桁台に入る時点で規格外だってのに、それだけでは飽き足らず、次々と順位を上げやがって。……皆、お前がここで立ち止まるとは微塵も思っちゃいねぇんだよ。俺も含めてな」
どうりで皆、期待の眼差しを注いでくるわけだ。
俺が序列三位で満足し、戦いを止めるとは露程も思っていないのだろう。
「ついて来い。ちょっと遠いから、暫く歩くぞ」
そう言ってアランは案内を開始した。
しかし、ついて来る俺たちの顔を見て、アランは一度足を止める。
「そこの従者は分かるが……なんでリリ=シトリーまで一緒に来てんだよ?」
当然のように、この場にはリリがいた。
アランの問いに、リリはどこか恍惚とした表情で、
「お、夫に付き添うのは、妻の役目……」
「夫!? はぁ!? てめぇら、そんな関係だったのか!?」
「違う」
「違いますよ~」
誤解を招きそうだったので、俺とエレミーがほぼ同時に否定した。
「い、今は違っても、いずれ夫婦に……!」
「ならない」
と、思うが……。
友人や恋人という関係を纏めてすっ飛ばしているような気がする。
「女の趣味が悪ぃと思ったが……そういうわけじゃねぇのか」
「趣味が悪い? リリは普通に、美人だと思うが」
そう言うと、リリが凄く嬉しそうな顔をした。
それだけで済ましておけばよかったのに、リリは勝ち誇った笑みを浮かべてエレミーを挑発した。その挑発に乗ったエレミーが、リリの髪を引っ張る。
俺とアランは、争う少女たちから無言で距離を取った。
「悪魔の男ってのはな、勝ち気で強ぇ女に惚れるんだよ。……まあ、人間の感性ならリリは人気かもな。背は高ぇが、見た目だけはお淑やかだし……」
「え、えっと、ごめんなさい。私……貴方のこと、タイプじゃないわ」
「こっちの台詞だクソアマ!!」
申し訳なさそうに言うリリに、アランは苛立ちを露わにした。
適当な会話を挟みつつ、悪魔学校を離れて街に出る。
様々な姿形の悪魔が行き交う光景を目の当たりにして、俺はつい「おぉ」と声を漏らした。
「キョロキョロすんじゃねぇ。初めて都会に来た田舎者かよ」
「いや……実際、初めて来たからな」
「は?」
目を丸くして驚くアランに、エレミーが説明した。
「ケイル様は、学校に入学するまでずっとお屋敷で過ごしていましたからね~」
「なんだそりゃ? 軟禁じゃねぇか」
「軟禁とは失敬な。記憶喪失だったので、迂闊に外出できなかったんですよ~」
エレミーの説明を聞いたアランは「なんか哀れになってきたぜ」と呟いた。
今となっては、その記憶喪失すら本当なのか怪しい。……エレミーは、俺が序列一位になると記憶が元に戻ると言っていた。どう考えても、ただの記憶喪失ではない。何か、事件性のようなものを感じる。
街を歩いていると、幾つもの露店が目に入った。
食べ物や日用品の他、土産など色んなものが売られているが……特に多いのは、照明を専門に取り扱っている不思議な家具店だった。
「随分と、灯りが売っているな」
「魔界は見ての通り、暗いですからね~。太陽があんな色ですし……だから灯りの類いがよく売れるんですよ~」
エレミーの説明を聞きながら、空を仰ぎ見る。
赤く禍々しい空。その中心にあるのは、黒い太陽だった。真っ黒に染まっているというより、日食のように輪郭の部分から仄かに白い光が漏れている。
「ん……?」
ふと、俺は疑問を抱く。
妙に沢山の話し声が聞こえるような気がした。
「なんか、騒がしくないか?」
「そりゃお前のせいだろ」
アランが溜息交じりに答える。
言葉の意味が分からず、首を傾げる俺の耳に、通行人たちの声が届いた。
「見て! あの角……ヴィネ一族よ!」
「あら、じゃああの方がケイル=ヴィネ様!?」
……様?
「悪魔学校に入学して、僅か一週間で序列三位まで上り詰めた天才よ……っ!」
「次の魔王はライガット様だと思っていたけど、あいつかもしれねぇなぁ」
「い、今のうちにツバつけといた方がいいかしら……」
「うちの店に寄ってくれねぇかな……いい宣伝になるのに」
どうやらアランの言う通り、騒がしさの原因は本当に俺だったようだ。
「メスどもめ……ケイル様に、なんて無礼な発言を……」
「貴女も同類だと思いますよ~?」
殺意を漲らせるリリに、エレミーが引き攣った顔で言った。
「……先を急ごう」
居心地の悪い空気を感じ、早足になる。
噂しているのは学生ではなく成人の大人たちだった。どうして彼らが学校のことを知っているのか気になったが、序列は魔王と関係する制度であるため、よく考えれば学外でも注目されているのは当然である。
「いや~。人気者でしたね~、ケイル様」
落ち着いた場所に出たところで、エレミーがニヤニヤとして笑みを浮かべる。
他人事だと思って……正直、あの注目はむず痒い。
「……おい」
「ん?」
不意に、アランから声を掛けられ、俺は首を傾げた。
「……てめぇ、本当に記憶がなくなったのか?」
神妙な面持ちでアランは訊く。
その様子に、俺は一つの確信を抱いた。
「やっぱり、お前は俺のことを知っているんだな」
「へっ、仮に知っていたとしても、てめぇには何も教え――――お、お、お、おい? なんでそんな殺気全開にして睨むんだよ? や、やんのか、てめぇ……っ!」
「……なんかお前を見ていると、腹が立つんだよな」
まるで、大切な人を傷つけられたかのような怒りが腹の底から湧いてくる。
「何かあったとしても、時効にしてくれよ。現にこうやって協力してやってんだろうが」
その反応からして、やはり俺とこの男には何らかの繋がりがあったのだろう。
だが、どのみち今はこの男の案内が欲しい。今は俺もこれ以上の詮索はしないでおく。
「ここだ」
アランが目的地への到着を告げる。
辿り着いたのは、郊外にある木造の小屋だった。
「ちょっと待ってろ。今、兄貴を呼んでくる」
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