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20「序列3位決定戦③」


「ふぇ――っ?」


 リリの唇から奇妙な声がこぼれ落ちる。

 放たれた風の斬撃は、悪魔たちの密集地帯をシュルリと縫うように潜り抜け、リリの傍まで迫った。


「ひぁっ!?」


 パン! と大きな音が響くと同時に、リリが悲鳴をあげる。

 辛うじてリリは斬撃を避けたらしい。斬撃はそのまま廊下の柱に命中し、そこに傷跡を残した。


 成功した――イメージ通りの技を実現できた。

 不思議なことに、初めて使ったような感覚がしない。


「い、今の攻撃は……っ!?」


 戸惑いの声が聞こえる。

 この技なら軌道の制御が簡単な上、見た目ほど殺傷力も高くない。


 ――いける。


 記憶の空白部分。

 そこに眠っているものが、俺に戦い方を教えてくれる。


「『部分獣化』……」


 頭の中に、腕を獣のものに変えている自分のイメージがあった。

 それをヴィネ一族の《狂飆》で再現する。

 右腕に、大きな風の手が顕現した。


「な、なに、それ……ヴィネ一族の《狂飆》って、そんなこともできるの……!?」


 分からない。

 ただ、今の俺に言えることは――きっと今までの経験がなければ、このような技を生み出すことはできなかった。


「吹き、飛べ――ッ!!」


 力一杯、腕を振るう。

 鋭い切れ味はいらない。巨大な掌で、迫り来る悪魔たちを強引に押しのける。教室の窓や扉が壊れ、押し出された悪魔たちは次々と廊下から教室へとなだれ込んだ。


 この圧倒的な膂力を俺は知っている。

 確信があった。――かつて俺は、この力でとんでもない死闘を潜り抜けてきたのだ。だから俺は、この感覚を信じることができる。


「ま、まだよ……」


 残り数人の悪魔たちに守られているリリが、言った。


「わ、私の《魅了》は、自分より"格"が低い相手にしか通じないけれど……い、異性が相手なら、自分と同等か、それ以上の相手にも通じちゃうの……」


 そう言えばエレミーも言っていた。

 シトリー一族の《魅了》は、異性に対しては特に効果を発揮すると。


「あ、貴方が、男である時点で……わ、私の勝ちは、揺らがない……ふへへっ!」


 紫色の髪の間から真紅の瞳が覗いた。

 その瞳を見た瞬間、脳が揺れたような気がした。思わず、戦意が消えてしまいそうになるが――すんでのところで堪えてみせる。


「……今のが、《魅了》か?」


 軽く頭を触りながら、俺はリリを見据える。

 目を見開くリリを見て、確信した。どうやら今のが《魅了》だったらしい。


「だったら――俺には通用しないみたいだな」


 頭の違和感は既に消えている。

 身体の奥底から自信が溢れ出ていた。今の俺は、負ける気がしない。


「う、嘘……貴方、なんでそんなに、大きな"格"を……っ!?」


 リリが怯えた様子で後退る。

 すると、周囲にいた悪魔たちが俺の前に立ちはだかった。


「リリ様を、守れぇ……!」


「守れぇ……!!」


 迫り来る悪魔たちも、今や脅威に感じない。


「――邪魔だ」


 風の腕で、悪魔たちを押しのける。

 操られている悪魔たちの数は、残り十人ほど。


「わ、私の《魅了》が、全く通じないなんて……こんなの、初めて……」


 前後から悪魔たちが襲い掛かり、挟み撃ちにされる。

 俺は前方から来た悪魔を、風の手で後方に投げ飛ばし、背後から迫っていたもう一人の悪魔にぶつけた。二人が呻き声を漏らした瞬間、風の斬撃で吹き飛ばす。


「す、凄い……」


 いつの間にかリリは、俺に感心の目を向けていた。

 気を抜いたら負けてしまう。リリの変化に構うことなく、俺は残党を次々と倒した。


「か、かっこいい……っ!」


 残党を全て倒す。

 これでリリを守る悪魔はいなくなった。俺は風の手を維持したまま、リリに歩いて近づき――。


「俺の、勝ちだな」


「……ひゃい」


 リリは、何故か頬を赤く染めていた。


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