17「挑戦」
「……今、この場で読んでもいいのか?」
「え、ええ、いいわよ……」
受け取った序列戦の申込書を軽く持ち上げて訊くと、リリは素早く首を縦に振った。
封筒を開き、中の書面を読む。
「ケイル様、どんな内容が書かれているんですか~?」
「あっ」
隣に立つエレミーが、書面を覗き込もうとした時、リリが焦ったような声を発した。
「ま、待って……その、言い忘れていたけど……貴方一人で、読んでちょうだい」
リリの声が尻すぼみに小さくなる。
一先ず、言われた通りにエレミーからは距離を取って書面を読んだ。
【ケイル=ヴィネ様へ、序列戦の申し込みがあります】
日時:8/23 14時30分
場所:本校舎二階の廊下
挑戦者:リリ=シトリー(序列3位)
備考:日時および場所は他言無用であること。
書面の隅には、悪魔学校の押印がされている。どうやら学校はこの書類を正式に受理したようだ。後は俺がこの申し込みを受け入れ、その旨を学校側に伝えれば序列戦は成立となる。
「ちょっと、考えさせてもらってもいいか? 条件は誰にも言わないから」
「え、ええ……こ、ここで待っているわ」
そう言ってリリは、少し離れた場所で待機した。
この場で返事が欲しいらしい。日時は今日の昼過ぎだ。確かに早い方がいいだろう。
「ケイル様、条件はどういったものなんですか~?」
書面を折りたたむと、エレミーが俺に尋ねた。
「条件自体は、そんなにおかしいわけじゃないんだが……意図が分からないな」
日時および場所は他言無用であること。これがリリの指定する条件だった。
正直、脅威には感じない。だからこそ意図が気になってしまうが――。
「エレミー。さっきリリは、条件を飲むなら挑戦を受け入れると言っていたが……俺の方から序列戦を申し込んだら、リリは断れないんじゃないのか?」
「はい、その通りですよ~。序列戦は、格下からの挑戦は拒否できない仕組みですから」
「じゃあ別に、俺がこの条件を飲む必要はないよな……?」
リリに聞こえないよう小声で会話する。
序列戦では、格下からの挑戦は拒否できないが、格上からの挑戦は拒否できるのだ。つまり今回の場合、俺はリリの挑戦を拒否し、それから改めて俺の方で挑戦を申し込めばいい。そうすればリリが提示した条件を飲むことなく、序列戦を行える。
「恐らく、その条件とやらは、リリ様にとって非常に有利なものなのでしょう。だからリリ様は、なんとしてもその条件下で序列戦を行いたい。……逆に、その条件を満たせない場合は敗色濃厚なので、すぐに降参する気なのかもしれませんね~」
「……じゃあ、俺の方から挑戦すれば、不戦勝できるということか」
「ですがそうなれば、今度はリリ様がケイル様に挑戦を申し込むことができます。そして、ケイル様はそれを拒否できません。……察するに、リリ様は、その条件下では絶対に負けないという自信があるのではないでしょうか~? 一時的に序列が入れ替わっても、後で必ず取り返すことができるから、条件を飲んだ上で戦って欲しいという主張な気がしますね~」
「……成る程」
条件を飲まずに俺が勝ったところで、どうせ後で取り返す。だから本当の意味で勝ちたいなら、条件を飲んだ上で勝負に挑んで欲しい……そう告げているのか。
「リリ様の能力は《魅了》。なんとなく、何がしたいのかは察することができますが……」
エレミーはそこまで言って、ふと俺の顔を見る。
「……ケイル様、本当はもっと強い筈なんですよね~」
「え?」
「いえ、なんでもありません。なんでもありませんが~……ここは敢えて、ノーヒントで挑んでみましょうか。その方が、ケイル様もちゃちゃっと覚醒してくれるかもしれませんし~」
「……さっきから何を言ってるんだ?」
ブツブツと一人で考え事をするエレミーに、俺は首を傾げた。
しかしエレミーは、いつも通りの明るい笑みしか浮かべず、
「というわけで、ケイル様! 折角、向こうから申し込みをしてくれたんですし、この挑戦、受けちゃいましょう!!」
エレミーの言葉に、俺は溜息交じりに頷いた。
元々そのつもりだ。なにせこの勝負、負けたところで俺の序列は変わらない。リリとの序列戦も、回数を重ねることで少しずつ攻略法が分かるかもしれないし、この勝負を受けたところで損はないだろう。
俺は改めて、リリの方を見て言った。
「ええと、そういうわけで……この勝負、受けさせてもらう」
「あ、ありがとう。そ、それじゃあ、私はこれで失礼するわ。……ふ、ふへへ、ふへへへへっ」
リリは最後に怪しい笑みを浮かべてから、俺たちの前から去って行った。




