13「しつこい男」
ベリアル一族の次男であるその男は、俺の顔を見るなり驚愕した。
ただ事ではないその様子に、俺は首を傾げる。
「化物……?」
「とぼけんなッ! てめぇ、吸血鬼領でのことを忘れたか!?」
この男が何を言っているのか、サッパリ分からない。
分からないが……吸血鬼領という言葉は、何故か俺の頭に引っ掛かった。
今、俺の頭の中には空白がある。失った記憶だ。
その空白の部分が、吸血鬼領という言葉に呼応したような気がした。正確には――吸血鬼という言葉が、何故か頭に強く響く。
「……ちょっと待て」
沈黙していると、男は怪訝な顔をした。
その目は、俺の頭から生えている角を見つめている。
「角が生えてんじゃねぇか。てめぇ、吸血鬼の次は悪魔の眷ぞ――」
「――はいはーい!! ちょっと失礼しますね~!!」
俺と男の間に、エレミーが割って入った。
そんな彼女に、ベリアル一族の男は眉を潜め、
「てめぇは、ヴィネ一族の――」
「それも、ナシでお願いしますね~!!」
男の言葉をエレミーは遮る。
目を丸くする男に、エレミーは無言で何かを訴えているように見えた。その後、エレミーは俺の方を振り向いて、
「ケイル様、変な奴に絡まれて面倒臭くなってきましたし、今日はもう帰りましょう」
「あァ!? どう考えても変なのはてめぇらだろうが!」
「うわ~、難癖つけてきましたよ、この悪魔。しつこい男は嫌われますよ~?」
「……喧嘩、売ってるみてぇだな」
エレミーの言葉に、男は額に青筋を立てた。
次の瞬間、男の右腕に炎が現れる。赤々としたその炎は、離れている俺にもはっきりと熱を伝えた。
「ひゃ~!! 逃げましょう、ケイル様! まったく、これだから短気な男というのは!!」
「あ、おい!?」
エレミーに手を引かれ、その場を後にする。
ベリアル一族の男は、立ち去る俺たちの背中に罵詈雑言を浴びせていた。
◆
「いや~、なんだったんでしょうね? あの悪魔」
ヴィネ一族の屋敷に帰った後、エレミーはいつも通りの笑みと共にそう告げた。
「知り合いじゃなかったのか?」
「私のですか? 全然違いますよ~。あちらは有名人ですから、私は知っていましたけど……直接、会話したことは一度もなかった筈ですね~」
ベリアル一族の次男であるあの男は、放蕩息子としてそれなりに有名らしい。
しかし、あの男はエレミーの顔を見るなり妙な反応をしていた。それと……俺の角にも注目していたことを思い出す。
あの男はもしかすると、俺の過去を知っているのかもしれない。
しかし、だとするとエレミーがあの男の言葉を遮ったことが気になる。あれではまるで、俺の過去を隠したがっているように――。
「……っ」
ズキリ、と頭が痛みを訴えた。
思考にモヤが掛かっている。あと一歩で手繰り寄せそうな何かを、掴み損ねたような後味の悪い感覚が残った。
「ケイル様。私はこれから夕食の用意をいたしますので、それまでご自由にお過ごしください」
「……ああ」
頭痛に苛まれ、少しだけ返事が遅れる。
暫く横になっていれば元の調子に戻るだろうか。そう思い、俺は革製のソファに身体を横たわらせ、目を閉じた。
そして俺は――夢を見る。




