12「再会?」
「ガシャスさん、お久しぶりです」
目の前の悪魔に、俺は頭を下げた。
「ああ、久しぶりだね。無事、悪魔学校に馴染んでいるようで何よりだ」
「それもこれも、ガシャスさんがヴィネ一族の借金を肩代わりしてくれたおかげですよ」
「同じ悪魔のよしみだ、気にすることはない。……聞けば、君は元々、悪魔領で過ごしていたヴィネ一族の家族とは疎遠だったのだろう? だというのに、彼らが夜逃げした責任を君になすりつけるのはお門違いというものだ」
その言葉を聞いて、俺は改めて深く頭を下げた。
ガシャス=バラム。この人物こそが、ヴィネ一族に残った借金を肩代わりしてくれた悪魔だ。彼がいなければ俺は今頃、記憶を失って右も左も分からないまま、エレミーと二人で借金返済のために馬車馬の如く働いていただろう。
「まあ私も、ヴィネ一族に君のような男がいるとは今まで知らなかったがね」
「ケイル様は、つい最近まで悪魔領の外で過ごしていましたからね~。だから知らない方も多いと思いますよ~?」
苦笑するガシャスさんに、エレミーが明るい笑みを浮かべながら言った。
「また何か困ったことがあったら、いつでも私に言いなさい。君たちは知らないかもしれないが、ヴィネ一族には私も何度か世話になったことがある。その恩を返させてもらおう」
そう言ってガシャスさんは俺たちの前から去って行った。
遠ざかる老人の背中を見送りながら、俺は口を開く。
「そう言えば、俺……ガシャスさんが恩人であることは知っているが、それ以外は何も知らないな」
「もう……本当にケイル様は、何も覚えてないんですね~」
エレミーはやれやれとでも言わんばかりに肩を竦めた。
「バラム一族は、魔王の座に君臨したことはありませんが、その代わりに悪魔族の宰相として代々魔王を補佐している一族なんですよ。いわゆる、立ち回りが上手な一族ってやつですね~」
「成る程。……実際、俺はその立ち回りに救われたようなものだしな」
ヴィネ一族もかつては永華を誇っていた。
ガシャスさんが俺たちを援助してくれたのも、政治的な意図があったのかもしれない。しかしそれでも、結果的に俺たちが助かったのは事実である。
「心強いな。ヴィネ一族の味方なんて、今や俺とエレミーの二人だけかと思っていたが……ガシャスさんのような大物が力になってくれるのは、ありがたい」
俺は、極々普通のことを言ったつもりだが……。
ふとエレミーの方を見ると、彼女は何故か悔しそうに唇を噛んでいた。
「……そうですね」
いつもの明るくて騒がしい様子ではない。
ガシャスさんが立ち去った方向を、鋭く睨み続けたエレミーは……次の瞬間には、またいつも通りの様子に戻る。
「ところでケイル様。もうとっくに授業は始まっていますが……どうします?」
エレミーの豹変に、俺は動揺を抑えて答えた。
「……次の授業から参加しよう」
「承知いたしました。ま~今回はどう考えても、いきなり襲ってきたアルケル=ザガンが悪いですし。私たちの責任じゃないですね~」
取り敢えず次の授業まで二人で時間を潰すことにする。
あまり教室の傍にいると授業の邪魔になるので、俺たちは校舎の外に出た。すると、俺たち以外にも適当にブラブラしている生徒の姿が見える。グラウンドの隅や、校舎の裏など、よく見れば授業中にも拘わらず生徒たちの姿は疎らにあった。
「……わりと授業をサボっている生徒、多いよな」
「まあ、悪魔なんて皆あんなものですよ。ぶっちゃけ生徒の半数くらいは、序列戦に参加することだけが目的で、授業はそこまで興味なしってパターンが多いですね~」
とはいえ授業も無駄にはならない内容なのだろう。だから積極的に授業に出る生徒もいる。
「……おや? あちらの男は、ベリアル一族の次男ですね」
エレミーが、ベンチに座っている男を見て言った。
「知り合いなのか?」
「いえ、知り合いというわけではありませんが~……中々の放蕩息子っぷりらしくて、有名ですよ~。基本的には悪魔領の外で過ごしている方なので、こうして見るのは久々ですね~」
エレミーが珍しそうにするので、俺もつられて視線を向けた。
ボサボサで不潔感が漂う黒髪の悪魔だった。瞳は金色で、尻尾は黒く、小さな角が生えている。
「ちなみに、あの方のお兄さんが、序列二位のウォレン=ベリアルです」
「……そうなのか」
言われてみれば、ベンチに座っている男も雄々しいというか……強そうな雰囲気を醸し出している。
「……ん?」
ふと、男が俺たちの方を見た。
無遠慮に見つめ過ぎたかもしれない。軽く頭を下げて立ち去ろうとした、その時――。
「おァ――っ!?!??!?!?!?!」
何故か、その男は俺を見て盛大に驚いた。
ベンチから立ち上がった男は、大きな歩幅で俺に近づき、
「て、ててて、てめぇ!! あの時の化物じゃねぇか!! なんでここにいるッ!!?」
男は俺に、訳の分からないことを言った。




