11「快進撃」
当たり前だが、序列戦以外の私闘は校則で禁止されている。
そこでエレミーは、気絶から目を覚ましたアルケル=ザガンにある提案をした。
それは、今回の私闘を序列戦扱いにして、序列を譲ってくれないかといったものだった。
私闘を始めたのはアルケル=ザガンの方であり、ケイルは終始、正当防衛に徹していたと説明できる。この提案を承諾しない場合、アルケルは校則違反で何らかの罰則を受けることになるだろう。
私闘とはいえ、ケイルはアルケルを倒してみせた。なら、どのみち序列戦をやったところで結果は同じ。アルケルは苦々しい顔で提案を受け入れ、今回の私闘は序列戦だったと学校側に説明し、そして俺と序列を交換した。
斯くして、俺は序列四位になった。
「前回の序列戦でも驚きましたけど、今回はもっと驚きましたよ~。ザガンの能力である《錬金》は、ケイル様と相性が悪かった筈ですが、どうやって倒したんですか~?」
エレミーが尋ねる。
彼女が言うには、今回の襲撃者であるアルケル=ザガンは俺と相性が悪かったらしい。確かに《錬金》で生み出された武器はいずれも強力であり、更に俺の攻撃は地面を硬化させた盾であっさりと防がれた。
かと言って、記憶を失った今の俺に、戦うための引き出しはそう多くない。では具体的に、どうやってザガンの錬金を打ち破ったのかと言うと――。
「《疾風槍》を五十本くらい用意して、数でゴリ押しした」
「……ほ、本当にゴリ押しですね、それ」
エレミーの笑顔が引き攣る。そうするしかなかったのだ。
そもそも《疾風槍》は数で攻撃するための技ではない。一本もあれば、フランキス=パイモンの《水塊槌》を相殺できるのだ。それを五十本も用意して、更に高速で射出すれば、どれだけ硬い盾を持っていても対処できないだろう。こちらの消耗を度外視した苦肉の策だ。
「しかし……序列戦にも、盤外戦術はあるんだな」
「……申し訳ございません。それについては、私があらかじめ説明しておくべきでした」
珍しく落ち込んだ様子を見せるエレミーに、俺は驚きつつも「気にしなくていい」と返事をした。悪いのはアルケルであってエレミーではないのだ。そのアルケルも結局は俺に序列を奪われたため、個人的にはもう溜飲が下がっている。
「あ、そうだ。ケイル様、これから挑戦する相手について調べておきました」
そう言ってエレミーはポケットからメモ用紙を取り出した。
「現在、ケイル様は序列四位ですから、魔王になるためには最低でもあと三人と戦う必要があります。一位のライガット=バアル様の説明は割愛するとして、後は二位と三位についてですね」
続けて、エレミーは説明する。
「二位はウォレン=ベリアル……三年生の男ですね。ベリアル一族はヴィネ一族と同じように貴族の家柄であり、その能力は《獄炎》……通常よりも遥かに強くて消えにくい炎です」
やはり上位の序列にもなると三年生が多いらしい。ライガット=バアルも三年生だった筈だ。
「気になっていたんだが、やっぱり貴族の能力は強いものなのか?」
「はい。ですが今更、気にする必要はありません。先日戦ったパイモン一族も貴族ですし、先程戦ったザガン一族も貴族ですよ」
「え、そうだったのか」
「悪魔は家柄よりも実力を重視しますからね。本人たちも、あまり貴族然とした態度を取らないんですよ」
アルケルに至っては格下相手に奇襲したくらいだ。お世辞にも貴族らしいとは言えない。
「一位のライガット一族も、貴族に該当します。ですが……次にケイル様が挑戦する序列三位の方は、貴族ではありませんね」
メモ用紙を捲りながら、エレミーが言う。
「三位の方は、リリ=シトリー……二年生の女性です。この方の能力は《魅了》……少々、特殊な力ですね」
「具体的に、《魅了》というのはどんな力なんだ?」
「端的に言えば、相手の好意を操って、自分の言いなりにする力です」
「……恐ろしいな」
「はい。特に、異性に対しては絶大な威力を発揮します」
そう言ってエレミーは、「む~ん」と難しい顔で唸った。
「ぶっちゃけ、ケイル様はその辺りがちょっと不安ですねぇ~。免疫がなさそうですし~……」
「……失礼な」
否定したいができない。
というより、記憶がないためその手の浮いた話があったのかどうかすら分からない。
「えいっ」
唐突に、エレミーが右腕に抱きついてきた。
「エ、エレミー? 何をして……」
「免疫がないなら、作ればいいと思いまして。私で慣れちゃいましょうか」
さらっとそんなことを言うエレミーに、頭の中が真っ白に染まった。
「ほらほら~、瑞々しい女体ですよ~」
「い、いや……そんなことされても、普通に困るだけなんだが……」
「とか言っちゃって~、お顔が赤くなってますよ~?」
そりゃ、なるだろ。
エレミーは容姿端麗な少女だ。身長こそ低いが、胸だけは平均を遥かに超えるほど大きく、先程からずっと右腕に柔らかい感触がしている。異性として、意識しない方が難しい。
「おやおや、随分と仲がいいご様子で」
その時、背後から声を掛けられる。
声を聞いた瞬間、エレミーは飛び退くように離れた。
振り返ると、そこには羊の角を生やした一人の老人がいる。
「ガシャス……さん」
ガシャス=バラム。
彼は、俺たちにとって恩人となる悪魔だ。




