09「平和志望」
ヴィネ一族の屋敷から、悪魔学校へと繋がる通学路を歩く。
その途中、衛士の格好をした悪魔たちが忙しない様子で目の前を横切った。魔界の出入り口へ走って向かう彼らの背中を、思わず目で追う。
「騒がしいな……何かあったのか?」
疑問を口にする俺の隣で、エレミーは新聞を購入していた。
「ふむふむ……どうやら昨晩、魔界の入り口へ襲撃があったみたいです。なんでも、二人組の女性が強引に魔界へ入ろうとしたとか」
紙面を読みながらエレミーは言う。
魔界、天界は地名こそ独特なものだが、その仕組みは一般的な亜人領と変わらない。他の領地とは陸続きになっているため、他国からの侵入者が入るリスクはある。
「襲撃って、そう簡単に起きるものなのか?」
「いえいえ、魔界も基本的には平和ですよ~。最近は天界との外交摩擦もありませんし」
「天界……そう言えば、入学式でライガット=バアルもそんなことを言っていたな」
天界とは文字通り、天使族たちの亜人領だ。
入学式の日、ライガットも似たような発言をしていた。
「悪魔と天使は、昔から仲が悪いですからね~。主義主張が相反するだけでなく、まあ、政治的に色々あるんですよ」
「そうなのか……」
などと話しているうちに、悪魔学校に辿り着く。
下足箱で靴を履き替え、教室へ向かっていると、すれ違う生徒たちの話し声が聞こえた。
「おい、あいつ……」
「新入生のくせに、いきなり序列五位になった……」
どこを歩いても似たような噂話が聞こえる。
「流石に目立ちますね~」
「誰のせいだと思ってるんだ……」
思わず額に手をやって、俺は言った。
「エレミー。この際だから、はっきりと言っておくぞ。当分は平和に過ごしたいから、序列戦に挑戦するつもりはない」
「え~! 何言ってるんですか、ケイル様~! それでもヴィネ一族の跡取りですか~? ビビっちゃったんですか~?」
「お前は本当に、一言多いな……!」
口元を掌で隠し、クスクスと笑うエレミーに苛立ちを覚える。
「大体、俺は記憶を失ってまだ間もないんだ。魔界の常識や、ヴィネ一族についても殆ど知らないままだし……もうちょっと、色んなことを整理する時間をくれ」
「も~……分かりましたよ。ですが、そう遠くないうちにまた序列戦に挑んでもらいますよ?」
いつになるかは分からないが、序列戦に挑むこと自体は吝かではない。ただ問題は、唐突に戦うのが好きでないことと、できれば綿密に相手を選びたいということだ。今回のように、いきなり序列五位と戦うような真似は心臓に悪いので二度としたくない。
「あ、ケイル様。先に教室へ行ってもらってもよろしいですか?」
「それは構わないが、何か用事でもあるのか?」
「掲示板で序列戦の予定だけ見ておこうかと思いまして。取り敢えず、今の序列についてざっくりと調べてきます」
今後のために序列戦の下調べをしておきたいらしい。
思えばエレミーは、俺と同じタイミングで入学したにも拘わらず、序列五位のフランキス=パイモンについて知っていた。きっとエレミーは入学前から序列について調べていたのだろう。
その上で、いきなり俺を序列五位に挑ませたのだ。
計画的な犯行である。
「……当分は何もせずに過ごそう」
エレミーと分かれた俺は、教室へ向かいながら呟いた。
本館の通路を抜けた後、外に出て渡り廊下を歩く。
その途中、黄土色の髪をした男が目の前に立ち塞がった。
「ケイル=ヴィネだな?」
突然の問いかけに、俺は驚きながらも答えた。
「そうだが――」
何か用か? と訊く前に。
いきなり足元の床が刃に変形して、俺の頬を掠めた。
咄嗟に顔を左に動かしていなかったら、今頃その刃は俺の顎から脳天までを真っ直ぐ貫いていただろう。頬から流れる血が、ぽたりと床に垂れ落ちた。
「死ね」
「……は?」
突然、注がれた殺意に、俺は困惑した。
11/20 新作、始めます!!
恐らく今年最後の新連載となります(今月2作目の新連載ですが、12月が忙しいので今のうちに始めます!)
人脈チート持ちの俺、国王に「腰巾着」と馬鹿にされて勇者パーティを追放されたので、他国で仲間たちと自由に暮らすことにした ~勇者パーティが制御不能になって大暴れしてるらしいけど知らん~
https://book1.adouzi.eu.org/n7848gp/
あらすじ
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
座右の銘は他力本願。
人脈という名の武器を使いこなす男、ネットは一年前に、最強の冒険者パーティを結成した。
しかしある日、国王に呼ばれたネットは残酷な宣言を下される。
「貴様の冒険者パーティを、我が国の勇者パーティに任命する。ただし貴様はいらん。追放だ!」
国王はネットをただの腰巾着と考え、勇者パーティには不要な存在だと判断した。
「あのパーティは俺が制御しないと、めちゃくちゃに暴れ回りますけど、いいんですか?」
「腰巾着の言い訳など聞きたくない!」
最後の忠告も無視されたネットは、一人パーティから追い出される。
ネットは他国へ向かい、別の仲間たちと自由に過ごすことにした。
他国に渡ったネットは様々な活躍をしてみせる。王子、王女、騎士団長、名うての冒険者……あらゆる者たちとの縁があり、彼らから慕われているネットのもとには、毎日のように非日常的な事情が転がり込んできた。
一方……国王は知らなかった。
ネットが集めた勇者パーティは、実力こそあるが、とんでもない問題児だらけであることを。
パーティの手綱を握っていたネットが消えた今、勇者パーティは制御不能に陥り、国王にとてつもない負担をかけることになった。
ネットのことをよく知る者たちは、彼のことをこう評価する。
「あの男は、勇者にはなれないが――誰かを勇者にできる男だ」
これは、他力本願をモットーとする男が、あらゆる異変の裏で暗躍し、世界中に影響を与えていく物語。
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人脈特化の主人公が、最強の仲間たちと共に活躍するお話です!
本作とはまた違ったタイプの最強主人公をお楽しみいただけます。その上で、本作と同じように終盤は思いっきり盛り上げるつもりです。
本ページの下部にある紹介テキストがリンクになっていますので、
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