08「不思議な夢」
頭の中で、不思議な映像が流れる。
青い空に白い雲。魔界では見られない光景だ。――俺は今、何処にいるのだろうか。
老若男女、多くの人々で賑わう城下町。
そこには悪魔の姿だけでなく、人間やエルフ、獣人など様々な種族がいた。
これは――俺が、旅をしていた頃の記憶だろうか。
随分と平和な街だ。魔界も決して荒れているとは言えないが、亜人領である以上、閉鎖的な空気だけはどうしても生まれてしまう。その点、この街はあらゆる種族に対して寛容で、穏やかな雰囲気に包まれていた。
『兄さん! おかえりなさい!』
場面が移り変わり、目の前に銀髪の少女が現れる。
少女の顔はぼやけていた。どんな顔だったのか、思い出せない。
少女に手招きされて、俺は家の中に入った。
旅の途中、知り合った少女の家に招かれたのか? それにしては随分と親密な様子だ。距離感は恋人そのものである。
しかし、少女を見つめる俺自身の感情は、とても落ち着いていて温かい。家族と過ごしているような感覚だ。
旅をしている頃の記憶かと思ったが……違うのだろうか。
不思議な気持ちになると同時に、また場面が切り替わる。
今度は大きな建物の中庭だった。
廊下があり、幾つもの大きな部屋があり、道行く人々は皆似たような制服を着ている。
これは……学校、だろうか。
だが悪魔学校ではない。魔界にはない別の学び舎だ。
『ケイル君! おはよう!』
陽光に照らされた中庭にて、青みがかった髪の少女が告げた。
彼女の顔もうまく思い出せない。ただ、その背中には黒い羽が生えている。
悪魔か……? いや、違う。
ほんの少しだけ思い出した。確か彼女の瞳は赤色で、その口からは小さな牙が見え隠れしていた筈だ。
彼女は吸血鬼だ。
そう思った直後、また場面が切り替わる。
『ケイル、今日もよろしく』
目の前に、虎の獣人が現れる。
長身痩躯の少女だった。その口調は淡々としているが、冷たい印象は感じない。単に感情を表に出さない性分なのだろう。
俺たちは馬車に乗って何処かに向かっていた。
荷台の片隅に、一枚の羊皮紙が落ちている。それを拾い上げることで自分たちの目的を思い出した。そうだ、俺たちはギルドの依頼で魔物の討伐に出向いているのだ。
ぐらり、と足元の地面が崩れ落ちるような感覚がした。
景色が目まぐるしく変わる。失われていた記憶が、濁流のように頭に流れ込む。しかしいずれも穴だらけで、記憶はうまく結びつかない。
『おーっす、ケイル』
『ケイル、おはよう』
教室で誰かが俺の名を呼んでいた。
どちらも男子生徒。どちらも俺と同じく制服を身につけている。
これは、本当に――旅の記憶なのだろうか。
直感が「違う」と訴えていた。
これは俺の……帰るべき場所だ。
◆
目が覚めると、頭に強烈な違和感があった。
「……なんだ、今の夢は?」
夢で見た内容はぼんやりと覚えている。
その、どれもこれもが突拍子もないものだ。夢なのだから、突拍子がなくて当たり前かもしれないが――。
本当に――ただの夢なのか?
「おはようございます、ケイル様っ!」
ノックもされずにいきなり部屋の扉が開く。
ヴィネ一族に仕えるメイド、エレミーが明るい笑みを浮かべて部屋に入ってきた。
「あら、もう起きていたんですね」
「ああ」
返事をして、ベッドから下りる。
そんな俺の様子に、エレミーは目を丸くした。
「どうかしましたか?」
「……いや、ちょっと変な夢を見ただけだ」
立ち上がって額に軽く触れると、じんわりと汗を掻いていることに気づいた。
「エレミー。記憶を失う前、俺はどこに住んでいたんだ?」
「どこと言われましても……以前お伝えした通り、私たちは各地を転々としていましたので、特定の場所に長居したことはありませんね~」
「……そうか」
夢の内容は朧気にしか覚えていないが、ひとつだけはっきりと知った事実がある。
多分、俺には――帰るべき場所がある。
そしてそれは、きっと……この屋敷ではない。
「では、本日も学校へ参りましょう!」
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迷宮殺しの後日譚 ~正体を明かせぬままギルドを追放された最強の探索者、引退してダンジョン教習所の教官になったら生徒たちから崇拝される。ダンジョン活性化につき戻ってこいと言われても今更遅い~
https://book1.adouzi.eu.org/n1579gp/
あらすじ
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「迷宮殺し。申し訳ないが、君が持つ探索者の資格を剥奪させてもらう」
かつてダンジョンは、モンスターの巣として人々に恐れられていた。
しかし近年、そこに眠る資源が重視され、人々はダンジョンと共存共栄を図ることになる。
その結果、これまで無数のダンジョンを『完全攻略』によって破壊してきた、最強の探索者――《迷宮殺し》のレクトは、ダンジョン運営によって利益を得る貴族たちに切り捨てられ、探索者協会を追放されてしまった。
現役を引退したレクトは、知人の紹介でダンジョン教習所の教官を務めることになる。
腐っても仕方ないと思ったレクトは、これを機に正体を隠し、第二の人生を楽しむことにしたが……。
「なんで教習所の先生がこんなに強いんだ!?」
生徒たちは最初こそ、若くして引退したレクトを見下していたが、いつの間にか崇拝するようになったり、
「アンタが引退したせいでダンジョンが活性化してるんですけど!?」
「ダンジョンと共存共栄とか無理に決まってんだろ!! 国の上層部は分かってない!!」
現場をよく知る探索者たちからは、現役復帰を懇願されたりと、まだまだ平和には過ごせそうにない。
探索者協会からの追放。
それは最強の力を持つレクトを、かえって自由にしてしまった。
貴族の陰謀。変化するダンジョン。
自由となったレクトは、気まぐれに顔を出し、それらに影響を与えていく。
これは、自分の役目はもう終えたと思い込んで平穏な日々を求める英雄が、無自覚のうちに世界へ大きな影響を与え続ける、なんちゃって後日譚。
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