06「序列5位決定戦」
午前中を全て作戦会議に費やした俺たちは、昼休みを報せるチャイムが鳴ると同時に、序列戦の会場へ向かった。
「さぁケイル様。いよいよ序列戦ですが……覚悟は決まりましたか~?」
「……ああ」
覚悟なんて最初からないに等しいが、ここまできた以上はやるしかない。
俺はエレミーと共に、序列戦の会場である第三演習場へと向かった。
演習場には既に大勢の観客が待機している。やはり入学早々、序列五位に勝負を挑んだことで有名になっているのだろう。二年生、三年生の先輩だけでなく、新入生たちもどこか楽しそうな表情で客席に座っていた。
「おい、来たぞ。ケイル=ヴィネだ」
「入学早々、序列五位に挑む馬鹿だ」
「四桁台と一桁台の勝負なんて初めて見るぜ。一秒でも保てばいいけどな」
ケラケラと笑い声が聞こえる中、俺は下を向いて演習場の中に入った。
演習場の中心には、水色の髪をした男が立っている。
恐らく彼が、対戦者だ。
「君が、ケイル=ヴィネか」
演習場に出ると、男が俺の顔を見て言う。
間違いない。この男こそが、悪魔学校の序列五位――フランキス=パイモンだ。
「まさか入学したばかりの生徒に、序列戦を申し込まれるとは思わなかったよ。見かけによらず豪胆な性格をしているね」
「いや、少なくとも俺は、申し込むつもりなんて全くなかったんだが……」
「ははは、そういう態度も作戦のうちってことかな? 今更、弱気なフリをしても意味ないよ」
この男、話を聞いてくれているようで全く聞いていない。
「《狂飆》のヴィネ。その噂はかねがね聞いているよ。でも――家の威光でどうにかなるほど、僕の序列は安くない」
フランキスの顔から笑みが消えた。
無理もない。フランキスからすれば、俺は格下にも拘らずいきなり序列戦を申し込んできた男だ。舐められていると感じたのだろう。
「両者、位置についてください」
いつの間にか用意されていた審判が俺たちの顔を見て言う。
「序列五位決定戦――開始ッ!」
戦いの火蓋が切られた直後、フランキスの頭上に大きな水塊が現れた。
――《水禍》のパイモン。
あれが、パイモン一族の能力である水の操作だ。
自由に水を生み出し、更にそれを自在に操作してみせる。単純ゆえに強力で、明確な攻略法がない。
「まずは小手調べだ。さあ……どう凌ぐ?」
フランキスが不敵な笑みを浮かべながら、腕を振り下ろす。
大量の水が、巨大な波と化して襲い掛かった。
「これが、序列五位……っ!」
先程、観戦した序列戦とは攻撃のレベルが違う。
盛り上がる歓声を聞きながら、俺は右腕を波に向けた。
――《狂飆》。
それがヴィネ一族の能力だ。
その、効果は――。
「吹き飛べッ!!」
荒れ狂う暴風が放たれる。
波は風によって左右に分割され、俺の両脇で飛沫を上げた。
これが《狂飆》……嵐を自在に生み出す能力だ。
風ではなく、荒れ狂う嵐を生み出すため、出力の制御には難があるものの、威力だけなら恐らくかなり強い。
初撃をどうにか凌いだ俺は、安堵に胸を撫で下ろした。
その様子を見て、観客たちは目を見開いている。
「お、おい……あいつ、新入生のくせに序列五位の攻撃を防いだぞ?」
「なんだよ、今の風……すげぇ威力じゃなかったか?」
最初の一撃で勝敗が決すると思っていた観客たちは、俺が無傷で攻撃を凌いだ光景を目の当たりにして驚愕していた。
――やっぱり、この能力はかなり強い。
記憶を失っているので、俺は自分の能力が他の悪魔にどの程度通用するのか不安で仕方なかった。しかし客席から聞こえてくる声を聞いたところ、《狂飆》の力はかなり強いらしい。
ヴィネ一族の能力は本物だ。
確かな手応えを感じる。その一方で、フランキスはじっとこちらを見つめていた。
「……よし、分かった」
フランキスが呟く。
「どうやら遊び半分で僕に挑んだわけじゃないみたいだね。それなら、手加減はもう止めよう」
そう言ってフランキスは微笑した。
先程の一撃はあくまで小手調べ。今、漸くフランキスはやる気になったようだ。
フランキスが頭上に腕を突き出す。
その周囲に五つの水塊が現れた。
初撃の時と違って、水塊の内部は激しく渦巻いていた。激しく音を立てて渦巻く水塊が、徐々に膨張する。
「――《水塊槌》」
渦巻く水塊が一斉に降り注ぐ。
瞬時に本能で悟った。これは――先程の嵐では防御できない。
巨大な質量の水が迫る中、俺は作戦会議でエレミーとした会話を思い出した。
『上位の悪魔にもなると、能力をそのまま使うだけではなく、独自の技を持っている場合が多いんです。……ライガット=バアルが見せた《黄雷宮殿》がいい例ですね。フランキス=パイモンも幾つかの技を持っているかと思います』
それがまさに、この水塊――《水塊槌》なのだろう。
『こっちは自分の能力すら上手く扱えるか分からないのに……先が思いやられるな』
『ご安心を! こんなこともあろうかと、ケイル様でも覚えられる技を私が伝授いたしますっ!!』
思わず不安を吐露すると、エレミーがそんなことを言った。
『なんでエレミーが、ヴィネ一族の技を知っているんだ?』
『え? ええっと、それはですね……今までずっと、ケイル様を見てきたからですよ~! ケイル様が記憶喪失になった以上、私の方がヴィネ一族の能力に詳しいと思いますっ!!』
エレミーはどこか誤魔化すように告げる。
『それでは早速、一つ目の技を伝授いたします。この技の名前は――』
そう言って彼女から教わった技を、鮮明に思い出す。
右手を横に突き出し、嵐を顕現。更にそれをある形に凝縮する。
ヴィネ一族の能力《狂飆》は、出力の制御こそ難しいものの、形状だけなら簡単に制御ができる。荒れ狂う嵐を細長い形に圧縮した俺は、それを水塊目掛けて放った。
「――《疾風槍》ッ!!」
嵐の槍が、目にも留まらぬ速さで水塊を撃ち抜く。
槍に貫かれた水塊は、その場で形を崩して破裂した。
「風の槍……? 威力が高いな……ッ!」
フランキスが焦燥する。
俺は次々と《疾風槍》を放ち、迫る水塊の全てを破壊してみせた。
「……驚いたよ。まさか本当に、僕と互角に戦えるなんて」
フランキスがそう告げた直後、再び《水塊槌》が発動される。
今度の水塊は十個……先程の倍だ。しかし――。
――互角?
俺は、頭上から降り注ぐ水塊を、脅威だとは感じていなかった。
――俺はもっと、いけるぞ。
両手を広げる。
左右に十五本の《疾風槍》を展開し、一斉に放った。
「なっ!?」
宙に浮かんでいた十個の水塊が、一瞬にして破壊された。
それまで余裕を見せていたフランキスが、ここにきて本格的に焦り始める。
――まだ、いける。
焦燥に駆られたフランキスを見て、俺は自分でも不思議なくらい冷静だった。
余った五本の槍をフランキス目掛けて放つと、咄嗟に生み出された水の盾によって防がれた。
瞬時に二十本の《疾風槍》を展開する。
俺の背後に並ぶ大量の槍を見て、フランキスはいよいよ絶句した。慌てて《水塊槌》を発動するが、水塊が生み出される度にそれを破壊していく。
「……なんだこれ?」
フランキスの余裕が失われていく一方、俺も疑問を抱いた。
――どこまでいけるんだ?
展開する《疾風槍》の数を更に三十本に増やす。
まだ、出せる。――威力も上げられる。
これは序列五位の決定戦だ。魔界に唯一存在する学校の、上位五名に食い込むための戦いだ。しかし……それにしては思ったよりも苦しくない。
フランキスが弱いのか?
それとも――。
「そ、そこまで!」
審判の悪魔が大きな声を発する。
放った槍が幾つか命中したのだろう、いつの間にかフランキスは遠くで倒れていた。
「勝者――ケイル=ヴィネ!!」
その結果は、この場にいる全ての悪魔にとって予想外だった。
俺も、観客も、誰もが無言のまま……序列戦は終わった。
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