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05「悪魔の戦い」


【序列戦 スケジュール】

・序列5位決定戦

  日時:8/21 12時30分

  場所:第3演習場

 挑戦者:ケイル=ヴィネ(序列1127位)

 応戦者:フランキス=パイモン(序列5位)



「……おい」


 入学式の翌日。

 校舎前の掲示板に張り出されたその情報を見て、俺は震える声を出した。


「おい! エレミー!!」


「はい! 貴方のウザカワメイドこと、エレミーちゃんですっ!」


 ぺろりと舌を出しながら、弾ける笑みを浮かべるメイドのエレミーへ、俺は怒りをぶちまけた。


「どうすんだよ! 申請通っちゃったじゃねーか!!」


「そりゃそうですよ。基本的に下の序列からの挑戦は断れませんからね。当日は相手の胸を借りるつもりで挑みましょう!」


「挑みましょう、じゃねーよ!!」


 手頃な相手に挑むと聞いたから、対戦相手の選別を任せたのだ。

 それが蓋を開ければ――対戦相手は序列五位。魔界に存在する唯一の学校で、五番目に強い悪魔である。


「おい、あいつがケイル=ヴィネか……」


「入学早々、五位に挑戦するとか……頭イカれてんじゃねぇか?」


「ていうかこれで負けたらめっちゃダサいよな……」


 散々な言われようだった。

 しかし仕方ない。立場が逆なら俺もそう思っている。


「……居たたまれない気持ちになってきた」


「いやいや~、よく聞いてくださいよ~」


 落ち込む俺に対し、エレミーが言う。

 何を言っているのか分からなかったが、言われた通りに耳を澄ましてみると、


「でも、この挑戦者……ヴィネ一族だぞ」


「それってあれだよな。《狂飆(きょうひょう)》の……」


「いやでも、ヴィネ一族って夜逃げしたんだろ? ってことは、やっぱりそんなに強くないんじゃ……」


 どうやら誰も彼もが俺のことを馬鹿にしているわけではないらしい。

 俺が優勢だと思っている生徒はいないようだが、一矢報いる程度なら有り得ると考える生徒はいるようだ。


「曲がりなりにも、ケイル様はヴィネ一族の血を継いでいますからね~。もしかしたら下剋上もありえるか……? って思う生徒も多いんですよ」


「……成る程」


「まあいずれにせよ、外野の声なんて無視しておきましょう! ケイル様は魔王を目指すんですから、序列が低いからって遠慮している場合ではありませんよっ!!」


 誰のせいだと思っているんだ……。


「あのな、俺は記憶を失っているんだぞ。昔の俺ならともかく、今の俺にとってはこれが初の序列戦どころか、初の実戦だ」


「う~ん……それは確かに不安ですねぇ。流石に実戦の感覚だけは、思い出していただきたいところですが……」


 頭を悩ませながら、エレミーはちらりと掲示板を一瞥した。


「あっ、ケイル様。今から他の方たちが序列戦を始めるようです。折角なので、こちらを見学してみては如何でしょうか? もしかしたら実戦の感覚も思い出せるかもしれませんよっ!!」


 その提案に、俺も掲示板を見る。



【序列戦 スケジュール】

・序列126位決定戦

  日時:8/21 8時30分

  場所:第1演習場

 挑戦者:アニキス=アムドゥスキアス(序列134位)

 応戦者:メイ=レラジェ(序列126位)



 序列戦のスケジュール一覧には、俺以外の名前も記されていた。

 現在の時刻は午前八時二十分ほど。丁度、これから戦いが行われるらしい。


「そうだな……折角だから、観ておくか」


 どのみち、ここまできたら後戻りはできない。昨日の段階では「仮に申請が通っても、どうにかキャンセルすればいいか」と楽観的なことを考えていたが、これだけ序列戦の情報が周知されてしまった以上、キャンセルしたらそれはそれで悪目立ちしてしまいそうだ。


 エレミーと共に本館の中にある第一演習場へ向かう。

 白い壁で囲まれた巨大な部屋で、二人の悪魔が対峙していた。


「緑色の服を着た男がメイ=レラジェ、大きな角を生やした男がアニキス=アムドゥスキアスですね」


 エレミーが軽く紹介する。

 数秒後、審判である生徒が序列戦の開始を告げた。


 先に動いたのは挑戦者であるアニキスだった。アニキスは腰に巻いてあるポーチから、小石程度の大きさである金色の球体を取り出した。


「なんだあれ? 金属の球?」


「ええ。ですが恐らく、直接あてるためのものではありません」


 アニキスは大きく振りかぶって、球を投擲する。

 エレミーの言う通り、その球はメイ目掛けて放たれたわけではなく、メイの足元へ真っ直ぐ進んだ。


 球が床に触れた直後――耳を劈く音が演習場に響く。

 その音は観客席にいる俺たちの耳まで届き、皆、一斉に両耳を塞いだ。


「い、今の音は……ッ!?」


 耳鳴りが続く中、俺は両耳を摩りながら隣のエレミーに尋ねる。


「ア、アムドゥスキアスの能力は、《轟音》……音を操ることです。今のは単純に、音を大きくしたみたいですね。……遠くにいる私たちですらこれ(・・)ですから、間近であの音を聞いたメイ=レラジェは、かなり苦しいんじゃないでしょうか」


 エレミーの言う通り、メイは苦悶の表情を浮かべていた。

 だが、あらかじめアニキスの攻撃を予想していたのか、すぐに体勢を立て直して背中の矢筒から一本の矢を取り出す。


 メイが矢を放つ。アニキスは紙一重でそれを避けた。

 カラン、と音を立てて矢が床に落ちる。その鏃は緑色に染まっていた。


「レラジェの能力は、《毒箭(どくせん)》……触れた相手を腐らせる矢を放つことです」


「あの矢自体が能力で生み出されたものなのか?」


「レラジェ一族の悪魔は、どんな矢でも触れるだけで自動的に毒矢にしてみせるんですよ。なので、矢筒に入っているのは、ただの矢だと思います」


 エレミーの説明に、俺は「そうなのか」と相槌を打つ。


「悪魔の能力は全部で七十二種ほど存在します。これはあらゆる種族の中で、二番目に多い数です」


「一番じゃないのか……?」


「はい。一番多いのは、人間ですね」


 人間――その言葉を聞いた瞬間、不思議な感覚を得た。

 どうしてか、人間の能力について簡単にイメージすることができる。


 何故か分かる。人間の戦い方が。

 何故か分かる。人間の能力が、どういったものなのか。

 だからだろうか。俺は相対的に、悪魔の能力もどういったものなのか、理解を深めることができた。


「人間の能力と違って、悪魔の能力は完全にパターン化されているんだな」


「はい。ですから対策が立てられている場合もあります」


 アニキスが再び金色の球体を手に持った。金属製で、きっと音が出やすい素材を使っているのだろう。あれを意図した場所に命中させ、その音を拡大させることが彼の戦術らしい。


 しかし、その球が投げられた直後、メイが矢を放った。

 矢が球を穿ち、アニキスの戦術が失敗に終える。


 次の瞬間――メイの矢がアニキスの右肩に刺さった。

 アニキスの右肩が緑色に染まって爛れる。


「勝敗が、決しましたね」


「……ああ」


 床に膝をついたアニキスを見て、俺は頷いた。

 序列戦で勝利したのは応戦者のメイ=レラジェ。今回は序列の変動がないようだ。


「どうですか、ケイル様? 序列戦の雰囲気は掴めましたか?」


「まあ、大体はな」


「勝てそうですか~?」


「それは分からないが……」


 考えながら、答える。


「126位の決定戦だったからか……正直、思ったより地味だと感じた。でも、俺の相手は多分あんな程度じゃないよな?」


「それは勿論です。序列三桁台と一桁台は、その実力に大きな差がありますから。先程の序列戦のように、地味なものにはならないと思いますよ~?」


「だよな……」


 俺にとっては的中して欲しくない考えだった。

 序列一位のライガットの能力は凄まじい。あの男ほどではないにせよ、相手はライガットと同じ序列一桁台だ。相当な手練れであることを覚悟せねばならない。


「では、ケイル様! これから作戦会議といきましょう!」


「これからって、授業はどうするんだよ」


「サボればいいんですよ。序列戦は魔王を決めるための大事な行事……授業なんかより、よっぽど大事なことです!」




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