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04「訓示」

「ライガット様は――王の素質(・・・・)を持つと言われています」


 神妙な面持ちで、エレミーが告げた。


「王の素質……?」


「ライガット様は、ケイル様と同じように悪魔の貴族であるバアル一族のご子息です。……ライガット様の実力は幼い頃から抜きん出ており、悪魔学校に入学する前から次期魔王と名高い御方でした」


「そんなに、凄い人なのか……」


「ええ。将来魔王となる悪魔は、大抵、若い頃から圧倒的な才能を発揮していますが、それにしてもライガット様は異例の早さで頭角を現しました。ですから序列一位は勿論、次期魔王の名が揺らいだことも一度もありません。……恐らく、悪魔の中でライガット様を知らない者はいないでしょう。例外は記憶を失ったケイル様くらいですかね」


 成る程、それほどの悪魔ならこの熱狂の渦にも納得する。

 魔王を尊敬する者にとってライガットは期待の星であり、そして魔王を目指す者にとってライガットは最大の好敵手(ライバル)となるわけだ。新入生が興奮するのも無理はない。俺も記憶があったら熱狂していただろう。


「三年生のライガットだ。新入生諸君、まずは入学おめでとう」


 ライガットの声が校庭に響く。


「知っての通り、悪魔学校には序列という制度が存在する。現在、私はその一位を所持しているが、いつ奪われるか分からないため常に緊張している」


 どこかで「嘘ばっかり」という呟きが聞こえた。

 クスクスと小さな笑みが聞こえる。新入生は誰もその言葉を信じていなかった。


「だが、この緊張感は間違いなく我々の能力を成長させるだろう。……昨今は天界との外交摩擦も落ち着いている。今だからこそ、自己の研鑽に集中するべきだ。どうか新入生諸君には、高い意識を持って学生生活に臨んでもらいたい」


 あちこちから拍手が聞こえた。

 次期魔王と名高い悪魔らしいが、あまり傲慢な態度は取らず、どちらかと言えば謙虚に見えた。しかし貫禄はある。そういう振る舞いも評価されているのだろう。


「では最後に――僭越ながら、訓示を披露(・・)させてもらう」


 ライガットの言葉に、俺は首を傾げた。


「今のが訓示じゃないのか?」


「あ~……まあ、これから行われるのは、毎年恒例のイベントみたいなものですね~。……通過儀礼とも言いますけど」


 エレミーの話を聞きながら、ライガットの様子を眺めていると……その頭上に小さな雷が現れた。


 雷は徐々に大きくなり、バチバチと帯電する音もやがて耳を劈く轟音と化す。


「――《黄雷宮殿(パレス)》」


 ライガットがそう唱えた直後、雷が学校全体を覆った。

 左右には雷の柱が屹立し、頭上には空を隔てる雷の屋根が現れる。まるで学校が巨大な雷の宮殿に飲み込まれたかのような光景だった。


「ようこそ、悪魔学校へ」


 辺り一帯の空間を雷によって難なく支配してみせたライガットは、爽やかな笑みと共にそう告げた。


 雷が消え、静寂が生まれる。

 ライガットの圧倒的な実力を目の当たりにして、俺を含めた新入生の全員が声を失っていた。


「《雷霆(らいてい)》のバアル……あれが、バアル一族の能力です」


 エレミーが小声で言う。


「毎年、悪魔学校の入学式では、在校生代表がああやって自分の能力を披露するんですよ。それを見て、新入生はやる気を漲らせる……というのが本来の狙いですけれど……」


 辺りにいる新入生たちの様子を見ながら、エレミーは続けた。


「在校生代表って、大体序列一位の方が選ばれますから……まー大抵の方は凹んじゃうんですよねー」


「……それで、通過儀礼か」


 どうやら悪魔学校では、このイベントを訓示もしくは通過儀礼と呼んでいるようだ。

 少し前までは瞳に野心を燃やしていた新入生も、今の光景を見て一瞬で心が折れてしまったらしい。きっとあの悪魔は三年間の学生生活を大人しく過ごすことになるだろう。


「あ、でもケイル様はへっちゃらみたいですね~。いや~、これは才能あるのでは~?」


「……煽てるな。まだ頭が追いついていないだけで、十分凹んでいる」


 あんな光景を見ておいて、それでも魔王を目指すなんて宣う奴は命知らずの馬鹿に違いない。


 ライガットが壇上から下り、入学式は終了した。

 訓示を披露された直後はお通夜のような空気となっていたが、少しずつ生徒たちも気力を回復し、またあちこちで雑談の声が聞こえ始める。


「あ、ケイル様! それを貰っておいてください!」


 校庭から出ようとすると、隣でエレミーがどこかを指差しながら告げた。

 見れば校門の傍で、係員が新入生に書類のようなものを手渡している。エレミーの言葉に従い、俺はその書類を受け取った。


「なんだこれ?」


「序列戦の申込書ですよ。これを戦いたい相手に渡せば、序列戦を行えるんです」


 説明を受けながらパラパラと書類を捲る。

 その内容は丁寧な果たし状のようなものだった。挑戦者記入欄と応戦者記入欄の二つがあり、まずは前者に自分の情報を記入した上で、この書類を対戦相手に送ればいいらしい。すると、対戦相手が応戦者記入欄に記入を済まして、書類を学校に提出してくれるようだ。これで序列戦の受付は完了となる。


「では早速、序列戦を申し込みましょう!」


「え? もうか?」


「早いに越したことはありませんよ。ほら、あちらでも色んな方が申込書に記入していますし、ケイル様も気軽に挑戦してみましょう!」


「……ま、まあ、挑戦するくらいなら別にいいか」


 なんだか乗せられている気もするが。

 エレミーの言う通り、既に序列戦を申し込もうとしている新入生も多数いるので、そこまで躊躇する必要はないのかもしれない。


 悪魔学校の全校生徒は千人を有に超える。そのため地道に序列を上げようとすると、結構な数の戦いをこなす必要がある。いちいち挑戦する度に恐れていれば、単純に時間が足りなくなるだろう。


「でも、誰に挑戦すればいいんだ」


「私にお任せください! 手頃な相手に申し込んでおきます!」


 エレミーに申請書を渡すと、彼女は「ちょちょいのちょーい」と口で言いながら宛先を記入する。


「完成です! あとはこれを、学校内のあちこちに設置されているポストに入れれば……」


 妙に手慣れた様子でエレミーは申込書の記入を終え、すぐ傍にあったポストに書類を投函した。


「――はい! これで序列戦の申し込みが完了しました! あとは対戦相手が日時や場所を指定するのを待てばいいだけですね!」


 エレミーが明るい笑顔を浮かべて言う。


「対戦相手の名前は、フランキス=パイモンと書いていたな。この相手は序列何位なんだ?」


 手頃な相手と言っていたし、俺にとっては初戦でもある。

 序列八百位とか、そのくらいだろうか。


「五位です!」


「……は?」


「フランキス=パイモン様は、序列五位の方です!」


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