38「思惑」
俺は、革命が始まる前に、クレナとした会話を思い出した。
◆
「革命に、協力しよう」
角翼の会から脱出し、クレナと再会したあの日。
俺は彼女にそう言った。
「協力って……ど、どうして? ケイル君、今まで革命には協力しないつもりだった筈じゃあ……」
「そのつもりだったが、どうしても確かめたいことができた」
「確かめたいこと?」
訊き返すクレナに、俺は頷く。
「さっき、獣人王と会ったんだ」
「えっ!? だ、大丈夫だったの!?」
「ああ、大丈夫だった。というより……多分、あの人は、最初から俺に危害を加えるつもりがない」
首を傾げるクレナに、俺は説明する。
「実は俺、獣人領に来る前に一度、獣人王に会っているんだ」
「え……どういうこと?」
「獣人領に来る途中、俺だけはぐれたことがあっただろ?」
「あ、うん。魔物に襲われた時だよね」
獣人領には馬車で来たが、その途中、俺たちはサイス・モンキーという魔物に襲われた。
サイス・モンキー自体は大して強くなかったが、戦闘中に荷物を奪われてしまったのだ。その荷物を取り返すために、魔物を追って一人で森に入った俺は道に迷ってしまった。
「あの時は本人に口止めされたから言わなかったが……迷っていた俺を、クレナたちのもとまで案内してくれたのは、獣人王なんだ」
あの人が獣人王だったなんて、当時の俺は全く予期していなかった。
目を丸くするクレナに、説明を続ける。
「だから、この領地で獣人王と再会した時は、目を疑った。獣人たちにとっては極悪非道の王でも、俺にとっては見ず知らずの人に対しても親切にしてくれる、優しい人だったからな」
「……そう、だね。私も、その二人が同一人物とはちょっと思えないかも」
初めて獣人王と会ったのは、俺が森の中で迷っていた時。
二度目は、獣人領で兵士たちと睨み合っていた時。
そして三度目は――ついさっきだ。
「さっき会った時、獣人王は俺にこう言った。『覚悟があるなら、私を討ちに来い』――これは一体、どういう意味だと思う? どうして極悪非道の、やりたい放題をしている王様が、そんなことを言わなくちゃいけない」
疑問を投げかけたところで、クレナは何も答えなかった。
その反応は当たり前である。
「分からないよな」
「……うん」
「だから、確かめたい」
一拍置いて、俺は自分の考えを述べた。
「なんとなくだが……獣人王は、俺たちが思っているような、悪い人ではないような気がするんだ」
戦って、勝つべき相手ではない。
殺すべき相手ではない。そんな気がしてならない。
「でも、確かめるってどうやって……あ、そっか。それで革命に協力するって……」
「ああ。ちょっと、リスキーではあるけどな」
大体、こちらの意図は理解してくれたようだが、念のため口に出して説明する。
「こっちから獣人王に会いたいと言っても、誰も許してはくれないだろ。爪牙の会も、角翼の会も、俺を最終兵器みたいに扱っているわけだから……」
「うん。多分、そんなこと言ったら、リディアさんあたりが止めると思う。あの人たちは革命の成功を最優先にしているから、革命前にケイル君が危険な目に遭うのは、できるだけ避けたいもんね」
俺は首を縦に振る。
「そもそも、俺一人で獣人王のもとまでたどり着けるかどうかも分からないし、どのみちリディアさんたちには協力してもらうしかないんだ。でも、俺の根拠のない仮説で皆を危険にはさらしたくはない。……だから、その責任を取るためにも、革命に協力する」
仮に王が俺との個人的な対話を承諾しても、それが罠でない保証はどこにもない。
リディアさんもミレイヤも、革命前に俺と王が接触することは極力避けたがるだろう。なら――革命の時に接触するしかない。
「革命に協力して、獣人王と話し合って……戦う必要がないと判断すれば、俺は戦わないことにする。逆に、どうしても倒さなければならないようなら、その時は俺が……」
続きを告げるには、覚悟が必要だった。
口を閉ざすわけにはいかない。俺は言葉の重たさを受け入れた上で、告げる。
「――その時は俺が、殺す」
それなら、俺の仮説が間違っていても、誰の迷惑にもならない。




