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22「威圧」


「陛下! あの男が例の獣人です!」


 兵士たちが俺を見て叫ぶ。

 数刻前、俺が獣人の兵士たちを撃退したことについて、彼らは既に王へ報告を済ませていたらしい。


「……そうか」


 王は短く相槌を打った。


 ――俺のことに気づいていないのか?


 獣人領に来る途中、この王は、森の中で迷っている俺を助けてくれた。

 しかしその時の俺はまだ人間の容姿を保っていたため、王はあの時助けた俺と、今この場に立っている俺が同一人物だと気づいていないのかもしれない。


 いや――そんなことはないだろう。

 獣人の見た目は殆ど人間と同じだ。それぞれ動物としての特徴はあるものの、それさえ除けば人間と何も変わらない。今の俺も、獣の耳と尻尾は生えているが、体格や顔立ちは人間の時と全く同じである。


「私の部下が、世話になったようだな」


 王の外套が微かに揺らめく。

 風は吹いていない。しかし王を中心に、得体の知れない圧力が放たれていた。


「少し――礼をしてやろう」


 王がそう告げた途端、強烈な威圧が放たれる。


「ぐぅ……っ!」


「い、息が……ッ!?」


 大気が軋み、建物の窓に亀裂が走った。

 辺りにいた他の獣人たちが、王の威圧に耐えきれず崩れ落ちる。

 娘を返せと叫んでいた男も青褪めた顔で失神していた。


 ――マズい!


 身体の内側に眠る力を一気に引き出す。

 全身に力を漲らせながら王を強く睨んだ。己の存在感を、強い圧力に変えて王に向ける。


 激しく大気が揺らいだ直後、のし掛かる圧力が消えた。

 王の威圧を相殺できたようだ。 


「……ほぅ。中々、良い"格"を持っている」


 王はまるで他人事であるかのように、俺を見つめながら言った。


「ば、馬鹿な……」


「王の"格"を、弾いた……?」


 こちらに槍を向けていた獣人の兵士たちが、驚愕を露わにする。


「なんで、こんなことをするんだ」


 そう訊くと、王は失笑した。


「ふん、愚問だな」


 顔を顰める俺に、王は続けた。


「私は獣人の王だ。全ての獣人は私の支配下にある。……私の物をどう扱おうと、私の勝手だろう」


 当たり前なことを言うように、獣人の王は告げる。

 虫けらを見るかのような王の瞳に、沸々と怒りが湧いた。


「それが、王の言葉か?」


「なに?」


「王は民のために存在するものだ。お前は、王ではない」


 思考が何かに引っ張られる。

 頭の中にいるもう一人の自分――獣人の王となった未来の自分が激昂している。


 まるで自我が塗り替えられていくような感覚だ。

 自分自身の、王としての"格"が強くなっていくのが分かる。


「貴様は……」


 王の眉間に皺が寄った。 


「余所者が!」


「図に乗るなよ……ッ!」


 王の側近と思しき兵士たちが、その存在感を急増させる。

 鳥の獣人の背中から大きな翼が生え、獅子の獣人の脚部が膨張した。


「……『部分獣化』か」


 流石に王を守る兵士なだけあって、強者も多い。

 獣人でも一部のみが使用できる特殊な技能、『部分獣化』が使えるらしい。


「ケイル、下がって」


 背後からアイナに声をかけられる。

 前に出たアイナは王を睨んだ。


「久しいな、アイナ=フェイリスタン」


「……そうね」


 王の言葉にアイナは小さな声で答えた。

 二人は面識があるようだ。だが、空気が和むことはない。アイナは険しい顔つきをしていた。


「この私に逆らう気か」


「ええ。これ以上、貴方の蛮行は見過ごせない」


 そう言ってアイナは、俺の方を一瞥する。


「ケイル、よく見ていて」


 アイナは言った。


「いつか貴方にも、この力を使ってもらう時がくるかもしれない」


 メキメキとアイナの肉体から音がする。

 手足が獣の体躯と化し、その輪郭は瞬く間に人間のものではなくなった。


「二つ目の獣化――『完全獣化』」


 眼前に、金色の虎が顕現した。


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