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20「革命軍」


 兵士たちを撃退した後、俺は周囲にいた獣人たちに爪牙の会へ案内された。


「それで……助けて欲しいというのは?」


 隣に座るクレナも、その答えを気にしている様子を見せる。

 アイナはリディアさんと共に、俺たちの向かいに座った。この構図が示唆することは、アイナも事実を知っているということだろう。


「今、この獣人領が王の圧政によって苦しめられていることは知っていますか?」


「……はい。アイナから聞きました」


 リディアさんの問いに、俺は頷く。


「近々、私たちは革命を起こすつもりです。……できれば、ケイル様にも協力していただきたいと思っています」


 唐突過ぎるその話を、リディアさんは真剣な面持ちで告げた。

 隣に座るクレナが硬直する。俺も、リディアさんの言葉をまるで理解できなかった。


「すみません。いくらなんでも急すぎて、頭の整理が……」


「貴方には、王の力があるのでしょう?」


 その問いに、俺は目を見開いた。


「何故、それを」


「虎の子……アイナから聞きました。吸血鬼領での一件も知っています」


 リディアさんは言う。


「圧政に苦しむ私たちが革命を決意したのは随分と前のことになります。しかし、問題は次代の王でした。当代の獣人王には兄妹がおらず、先代王も既に死去していますから、代えの王を用意することができなかったのです。半端な"格"の持ち主を次代の王に据えたところで、民衆はすぐに謀反を起こすでしょう。果たして次の王は誰が良いのか……苦悩する私たちの前に、貴方が現れた」


 リディアさんが、真っ直ぐ俺の方を見て言う。


「【素質系・王】……即ち、王になるべくして生まれた人間。ケイル様、どうか次の獣人王になっていただけないでしょうか?」


 強い意志を秘めた瞳で、リディアさんは俺を見る。

 不意の懇願に、俺は困惑する。


「何を、馬鹿なことを……」


「決して非現実的な話ではありません。先刻、貴方は私たちにその可能性を示しました」


 リディアさんの言葉に、周りにいる大人たちも小さく首を縦に振った。


「獣人の祖先は狼だと言われています。厳密には狼男……月の光と共に、姿を狼に変える人間だったとのことです。その起源(ルーツ)を尊重して、獣人の社会では狼の獣人が王位を継ぐ決まりになっています。実際、狼の獣人は"格"も高い場合が多いのです」


 狼の獣人。その言葉を聞き、俺は隣の窓を見る。

 窓に映る俺の頭からは、狼の耳が生えていた。


「貴方は今、狼の獣人です。それに、かなりの"格"を持っています。民衆も次代の王が貴方ならば納得するでしょう」


 求められているのは、狼の獣人と王たりえる"格"の高さ。

 どうやら俺は、それに該当してしまったらしい。


「む、無茶ですよ、そんなのっ!」


 クレナが立ち上がって言った。


「ケイル君は私やアイナさんと同じ、ただの学生です! いきなり亜人の王になるなんて、無理に決まってます!」


「王の責務を丸投げするつもりはありません。周囲の者ができる限りのサポートをします。それと……この話を承諾したいただけたら、私たちはケイル様のどんな要求にもお応えすることを約束いたします。これは、私たちが用意できる最大の見返りです」


 リディアさんの表情には罪悪感が滲んでいた。

 彼女もきっと、これが無茶な懇願であるという自覚はしているのだろう。

 そう思うと、頭が少し冷える。


「って、ちょっと待ってください。もしかして昨晩のアレも……」


 昨晩、見ず知らずの女性が代わる代わる俺の部屋へ訪れたことを思い出す。

 気まずそうに訊く俺に、リディアさんは思い当たったかのように「ああ」と声を漏らし、


「夜伽の件ですか? そうですね。白状しますと、ケイル様には少しでもこの獣人領を気に入ってもらいたかったため、私の方で手配させていただきました」


 夜伽。その単語を聞いたクレナは、氷のような冷たい眼差しで俺を睨んだ。


「ケイル君、詳しく」


「い、いや、未遂……未遂だから……」


 じっとりとしたクレナの目に睨まれると、何故か焦燥した。


「ふーん…………嘘だったらミュアちゃんに言いつけるから」


 そんなことしたら獣人領が滅んでしまう。

 女性には気をつけねばならない。革命の前に、妹がこの領地を滅ぼしてしまう。


「リディアさん。その、ああいうことはもうやめてください」


「畏まりました」


 リディアさんは思ったよりもあっさりと引き下がってくれた。


「……ここにいる人たちは、皆、革命に賛成しているんですか?」


「はい。爪牙の会は革命軍の隠れ蓑です。そしてここにいる者は、革命軍の中でも上層部に位置します。……我々だけが、貴方の正体は人間であると知っています」


 その答えを聞いて、俺は目の前に佇むアイナを見た。


「じゃあ、アイナは最初から……」


 その問いに、リディアさんは頷く。


「アイナには、この獣人領の外に王の素質を持つ者がいないか調査してもらっていました。学園に通っていたのもその一環です。ああいった学び舎には、他の領地で過ごす獣人も集まりますから」


 だが結局、アイナが次代の王に相応しいと判断したのは獣人ではなく俺だった。

 複雑な気分だ。俺は内心、アイナとは友情を築けていたと思っていた。少々不思議な空気を醸し出しているが、今後も仲の良い友人として共に過ごせると思っていた。


 だがアイナは、最初から俺のことを、革命を完成させるための材料としか思っていなかったのだろう。

 そう考えると……虚しい気分になる。


「ケイル」


 いつもの無表情で、アイナは俺を呼ぶ。


「私たちは強制しない。でも、どうか知って欲しい」


 赤みがかった茶色の瞳が、俺を映す。


「私たちはもう、貴方に頼るしかない」


 微かに震えたその声を聞いて――俺は、「少し考える時間が欲しい」と答えた。




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