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13「獣人領へ」

 サバイバル演習は、全員無事に合格することができた。

 俺が倒したゴーレムの身体にディーグリン鉱石が埋まっていたのだ。それを取り出し、遺跡の地下から出た俺とアイナは、地上で待機していたクレナ、ライオス、エディの三人と合流して演習の担当教師へ鉱石を提出した。


 それから三日後、王立ヘリイア学園は一学期の終業式を迎えた。

 学園の生徒たちはこれから二ヶ月近く、長期休暇を満喫できる。


 ほんの少し前まで、俺には長期休暇の予定なんて一切なかったのだが――今は違う。


 長期休暇、一日目。

 俺とクレナは、アイナの案内のもと、獣人領へと向かっていた。


「獣人領はあの森の中にある」


 御者台に座るアイナが言う。

 彼女が走らせる馬車の荷台に、俺とクレナは腰を下ろしていた。


 獣人領は王都から馬車で三日ほどかかる森の中にある。

 今、その森が見えてきた。学園のサバイバル演習で使った森とは規模が違う。広大で瑞々しい緑に覆われた、自然の塊だった。


「このまま真っ直ぐ森の中へと入るのか?」


「裏手に舗装された道があるから、少し迂回する」


 アイナが慣れた手つきで馬車を操縦し、車体を森の右側へと向かわせた。

 獣人なだけあって、馬の扱いにも長けているのかもしれない。


「むー……」


 隣で腰を下ろすクレナは、頬を膨らませてあからさまに不満気な顔をしていた。

 元々、この長期休暇に獣人領へ赴くことになったのはアイナの提案だ。最初は俺のみに対する提案だったが、後日、話を聞きつけたクレナが「自分も一緒に行く!」と言って聞かなかったのだ。


 斯くして長期休暇の前半は、獣人領への旅行となったわけだが、クレナの機嫌はあまり良くない。

 その理由は、多分、今の俺の状態だろう。


「確かに今から向かうのは獣人領だけど……ケイル君が獣人になる意味はあるの?」


「吸血鬼領の時はずっと吸血鬼の眷属だったから、今度は私の番」


「むぅ……」


 そう言われるとクレナも納得するしかないのだろう。

 クレナは口を噤み、無言で俺の方を睨んだ。……睨まれても困るが、道中、魔物に襲われる可能性を考慮すると俺はどちらかの眷属になるしかない。獣人領へ向かうのだから、獣人になった方が何かと好都合なことも多いだろう。


「森には魔物も多く棲息している。各自、気をつけて」


 アイナの言葉に、俺とクレナは頷く。

 馬車を操縦するアイナに代わり、俺とクレナが荷台から魔物の接近を警戒した。


「二人ともっ!」


 クレナが声を張り上げる。

 馬車目掛けて、数匹の魔物が接近していた。


「サイス・モンキーか……アイナと初めて会った時を思い出すな」


 尾が刃になっている猿型の魔物、サイス・モンキー。

 サバイバル演習で、俺がアイナと出会った直後、彼女の眷属として最初に戦った魔物だ。


 素早く、的が小さい上に、一撃の殺傷力が高い。

 加えて群れで行動する習性があるため、極めて危険な魔物だ。


「私が群れを分断する。ケイルとクレナは、散らばった個体を撃破して」


 そう言ってアイナは馬車を止め、御者台から地面に下りる。

 俺たちの意思を確認することなく、彼女は単身、サイス・モンキーの群れへと特攻した。


 魔物の数は――六匹。

 最前列にいた個体が、アイナの鋭い蹴りを受けて宙を舞った。


 サイス・モンキーたちが言葉にならない悲鳴を上げ、アイナから離れるよう散り散りになる。


「クレナ!」


「うん!」


 群れの陣形が乱れたと同時、俺とクレナもサイス・モンキーへ接近した。

 獣人の肉体は接近戦に向いている。アイナに警戒するあまり、後方への注意を怠ってしまった個体目掛けて俺は疾駆した。サイス・モンキーが接近する俺の存在に気づき、慌てて体勢を整えようとするが、もう遅い。


 雑に振り回された刃の尾を避け、その顎下を爪先で刺すよう蹴りを放つ。

 同時に、クレナも『血舞踏(ブラッディ・アーツ)』を駆使して一体のサイス・モンキーを倒した。


 まだ余力はある。

 次の狙いを定めようと周囲へ視線を巡らせた俺は――丁度、アイナが三体目のサイス・モンキーを倒す場面を目撃した。


「……こっちが一匹倒している間に、アイナは三匹か」


 やはりアイナの強さは獣人としての才能だけではない。彼女の無駄のない体術・格闘術は、どう見ても一朝一夕で身につくものではなかった。長い鍛錬に裏打ちされた技術は、【素質系・王】では再現できない。


 ――俺の能力で再現できるのは、あくまで才能だけだ。


 才能を手に入れられる俺だからこそ、アイナの実力がよく理解できる。

 きっと血の滲む努力を続けてきたのだ。獣人としての才能があるだけでは、あれほどの技術を身につけることはできない。


「ケ、ケイル君!」


 同級生との差を目の当たりにして悔しさを感じていたところ、クレナの慌てた声が聞こえた。


 振り返ると、そこには――馬車の荷台に載せていた荷物を、こっそり奪おうとしているサイス・モンキーがいた。


『キキッ!!』


 こちらの視線に気づいたのか、荷物を奪ったサイス・モンキーは素早く森の方へと逃げていく。


「あ、あの荷物の中には食糧も沢山入って――っ!?」


「俺が追いかける! アイナにはすぐ戻ると言っておいてくれ!」


 吸血鬼のクレナよりも、獣人の肉体を持つ俺の方が足は速い。

 クレナに一言伝えた後、俺は荷物を奪ったサイス・モンキーを追った。


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