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11「獣性轟く」


 アイナと共に遺跡の地下へと進む。

 階段を下りるにつれて辺りは暗くなっていったが、最後まで下りると視界が明るくなった。壁面に備え付けられた燭台が、小さな灯火で辺り一帯を照らしている。


 灯りが点いているということは、ここが探索されるのは学園にとって想定内ということだろうか。


「ここは毎年サバイバル演習の舞台に選ばれている。恐らくこの遺跡も探索済みの筈」


 黙り込む俺の心境を見透かしてか、先行するアイナが言った。


「しかし、ディーグリン鉱石はこの遺跡内にあるのか怪しいな」


「自然と落ちていることはないと思うけれど、さっき地上で、地割れの間にディーグリン鉱石を見つけた。多分、この辺りの地層にも混じっていると思う」


 そう言って、アイナは剥き出しになった地層に触れた。

 遺跡の地下は、地上と同じく床や天井がひび割れており、壁面の一部からは土が露出していた。


 燭台の灯りを頼りに、アイナと二人で鉱石を探し続ける。

 十分ほど歩き続けた後、唐突にアイナが足を止めた。


「……この先に魔物がいる」


「……了解」


 遺跡の地下は、狭い通路と小さな部屋で構成されていた。

 恐らく魔物がいるのは通路の先にある部屋だろう。部屋の広さから考えて、やり過ごすのは難しい。戦闘になる筈だ。


 獣人の身体能力を意識して、両手両足に力を入れる。

 肉体の調子を確かめていると……アイナが無言でこちらを見ていることに気づいた。


「王の力、使えるようになった?」


 いつも通りの無機的な瞳。

 けれど、どこか試すような視線に貫かれ、俺は微かに鼻白む。


「……いや。まだ使いこなせているとは、とても言えない」


 正直に答えると、アイナは顔を伏せ、神妙な面持ちをしながらブツブツと何かを呟いた。


「吸血鬼の時は、もっと早いペースで王に近づいていた筈。獣人の場合は成長が遅い……? どうして…………」


 足を止め、思考を声に出して漏らすアイナに、俺は違和感を覚えた。


 王の力を使いこなせるように努力しているのは、あくまで俺の意思だ。

 俺が俺の能力を自由に制御できるようになりたいと考えるのは当然のことだが――何故、アイナが俺の王の力に固執する? 


「もしかして……まだ、獣人の力を見せてないから?」


 一頻り呟きを零していたアイナが、何かに思い至る。

 やがて彼女は意を決した様子でこちらへ振り向いた。


「ケイル。次の戦闘、よく見ておいて」


「見ておけって……俺は戦闘に関わるなってことか?」


「そう。これからケイルに、獣人の戦い方を教える」


 そう言ってアイナは再び歩き出し、魔物がいると思しき部屋へと向かった。

 狭い通路を突き当たりまで進むと小さな部屋へと辿り着く。床も壁面も崩れたその部屋に、大きな人型の魔物が二体、佇んでいた。


「……ゴーレムか」


 地上で戦った魔物と同種。だがその見た目は随分と違う。 

 ゴーレムは周囲の石や岩、泥で身体を構築する。地上で交戦したゴーレムは岩の身体だったが、今、俺たちの目の前にいるのは土と鉱石でできたゴーレムだった。


「アイナ。本当に任せてもいいのか?」


「ええ。代わりに――私のことを、ちゃんと観察して」


 自信に満ちたアイナの返答を、俺は信頼した。

 アイナは悠然とした足取りでゴーレムのもとへ近づく。


 そして――次の瞬間。

 アイナの存在感が、一気に膨れ上がった。


「なッ!?」


 アイナの全身から得体の知れない力が溢れ出していた。

 存在感、威圧感、気配、気――どう表現すれば良いのかわからない。


 ただ、獣人の眷属となった俺の、研ぎ澄まされた直感が反応していた。


 アイナは、今――――存在を昇華(・・)させている。


 その右腕が突然、虎模様の毛皮に覆われた。

 筋肉が膨張し、元々鋭利だった爪が更に太く、長くなる。


 人の腕ではない。獣人の腕でもない。

 それは最早、人という枠から外れた――獣の腕だった。


「ふぅぅぅぅぅ――――ッ!!」


 細く呼気を発し、アイナがゴーレム目掛けて腕を振るう。

 豪快な風圧が放たれた後、少し遅れて爆音が轟いた。


 頑丈なゴーレムの身体が、虎の右腕に殴り飛ばされる。

 尋常ではない破壊力は、やはり理知の欠片も窺えない。人が魔物を圧倒しているようには見えず、化物が化物を叩きのめしているように見えた。


 一体目のゴーレムがあっという間に活動を停止する。

 二体目のゴーレムが地響きを立てながらアイナへ接近した。


 恐怖を知らない土と鉱石の塊は、次の瞬間、一体目と同じ末路を辿る。

 膨れ上がった獣の腕は暴力的な破壊を実現した。豪快に、無惨に、ゴーレムの腹を抉り取る。ゴーレムの身体を構成していた土と鉱石が、盛大な破壊音と共に辺りへ飛び散った。


「はぁぁぁぁぁ――」


 二体のゴーレムを倒したアイナは、目を閉じて、長く呼気を吐いた。

 心を落ち着かせている素振りに見える。アイナの右腕が徐々に獣のものから人のものへと戻った。


「アイナ、今のは……?」


 理解が追いつかない俺の疑問に、アイナは振り返って答えた。


「『部分獣化』。今からケイルには、この技を覚えてもらう」



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