09「神族の遺跡」
ゴーレムを倒した後。
演習の合格条件であるディーグリン鉱石は、今のところ四つ集まった。
俺たち五人が全員合格するためには、あと一つ必要である。
「うーん……何処にもないね」
クレナが溜息混じりに呟いた。
かれこれ二時間近く探しているが、最後のひとつが中々見つからない。
「既にこの辺りは、全部取られた後かもしれないね」
エディの一言が俺たちの肩に重くのし掛かった。
はっきり言って、俺たちは岩場という地形を舐めていた。
凹凸の激しい砂利道では常に足腰に力を入れる必要があり、大きな段差を上ると足に負担がかかる。
体力の消耗が思った以上に激しい。
クレナ、エディ、ライオスが肩で息をする中――体力に余裕があるのは俺とアイナの二人だけとなった。
どうやら獣人の眷属になれば、体力も向上するらしい。
身体能力が全体的に人間の時と比べて高くなっている上、身体の使い方も効率的になっているのだろう。俺とアイナの二人だけは、微かに汗を垂らす程度の消耗に留まっていた。
「ん? ……なんだあれは?」
足を止め、前方に見える何かに注目する。
岩場を進んだ先に、小さな構造物らしきものが見えた。
「あれって……人工物、だよね?」
「……こんなところにか?」
自信なさげに言うクレナに対し、俺は疑問を募らせた。
だが近づいて、改めて見てみると、それは紛れもなく人工物だった。
「なんだこりゃ。遺跡か?」
ライオスが首を傾げる。
俺たちの目の前には、不思議な建物があった。
屋根は完全に崩壊しており、太い柱だけが左右に屹立している。床はひび割れ、壁も殆どが崩れ落ちていた。
「もしかして、神族の遺跡かな?」
エディの言葉に、全員が振り返る。
「聞いたことない? 最近、世界各地でこういう遺跡が発見されてるんだって。学者たちの話によると、かつて実在したとされている伝説の種族……神族が築いた遺跡の可能性があるらしいよ」
神族――聞いたことがある。
それは伝承でのみ語り継がれてきた、伝説の一族だった。
伝承によると、かつてこの世界には亜人が存在しなかったらしい。
亜人という種族は、ある時を境に突然誕生したそうだ。
亜人が生まれると同時に、世界は大きな混沌に包まれた。
その混沌を鎮めたのが神族と呼ばれる者たちだ。
彼らは種族という概念を作り、人間と様々な亜人が共存できる世界を構築した。
つまり、今の俺たちが生きるこの世界の、礎を作ったのだ。
「でも、あれって、伝承の話なんじゃないの?」
「今のところはね。だから、こういった遺跡を研究することで、その伝承の真偽がはっきりするかもしれないって話題になっているらしい」
エディの説明に、クレナは「へぇー」と感心を示した。
確かにその話は気になるが、今の俺たちには他にやることがある。
「今はそんなことよりも、ディーグリン鉱石だ」
遺跡について考えるのは、別に今でなくてもいい。
「ケイルの言う通りだね。この辺りを探してみよう」
皆で手分けして遺跡の周辺を探す。
だがディーグリン鉱石は見つからなかった。
「お、地下へ続く入り口があるぞ」
ライオスの声に、俺を含む他四人が集まった。
見れば、崩壊した屋根と思しき瓦礫の下に、地下へと続く階段があった。
辺りの瓦礫が邪魔で階段の先は良く見えない。ここを通るにはまず瓦礫を退かす必要がありそうだ。
「どいて」
アイナが短く言って、瓦礫の下に片足を挟む。
そして勢い良く瓦礫を蹴り飛ばした。
「お、お見事……」
涼しげな顔で瓦礫を吹っ飛ばしたアイナに、俺は苦笑しながら礼を述べた。
「一応、先まで続いているね……えっと、どうしよっか?」
クレナが階段の先を覗き込んで言う。
俺たちは顔を見合わせ、互いの状態をなんとなく把握した。
遺跡について会話したことで小休止を挟むことはできたが、体力の消耗はまだ回復できていない。
現状、体力に余裕があるのは俺とアイナの二人だけだ。
「二手に分かれましょう。体力に余裕のある私とケイルで、この中に入ってみるわ」
アイナの提案に、クレナは一瞬不満気な顔をした。
だがその提案は合理的だった。誰か一人が不合格になって成績が下がってしまうくらいなら、そうした方がいい。
「そうする他ないかな。正直、今の僕らがついて行っても、戦闘に参加できそうにないし」
エディが納得した様子を見せる。ライオスも同様の反応を示した。
「二人とも、気をつけてね」
クレナの言葉に、俺とアイナは首を縦に振って、階段を下りた。
次回はクレナ、ライオス、エディ視点。
ものっすごいネタバレ的な悩みなんですが、これハイファンタジーじゃない気がしてきました。




