06「意地の終わり」
「お、おぉ、これは……」
翌日の昼休み。
中庭にて、俺はアイナに渡された弁当箱の蓋を開いたところで硬直した。
「どう?」
「あぁ、いや、その……正直に言うと、だな」
アイナの問いに、俺は戸惑いながらも答えようとする。
蓋を開いた先にあったのは、サンドイッチだった。但しその具は殆どが肉である。
パンに挟まれた肉は、弁当とは思えないほど新鮮に見える。脂が僅かに光っており、噛めば肉汁が滴ること間違いなし。
俺はそんなアイナの手作り弁当を見て、正直な感想を述べた。
「めっちゃ美味そう」
「良かった」
実際に美味かった。
弁当に入った五つのサンドイッチを、ほぼ無心になって平らげる。年頃の男が満腹感を得られる量だった。とは言えアイナも同じ量を食べているため、俺のことを気遣ってこれだけの数を用意したわけではないのだろう。
「ぬぬぬぬ……」
視界の片隅で、こちらを睨んでいるクレナのことは無視する。
「ちっ」
一方、反対側からはライオスが俺のことを睨んでいた。
先日まで、昼休みはライオスとエディの三人で過ごすことが多かったが、今日はアイナに弁当を作ってもらうこともあり、アイナとクレナを加えた計五人で過ごしていた。アイナ曰く「感想が聞きたい」とのことだ。
「ご馳走様。美味かったよ」
「味付けはどうだった?」
「ああ、全部好みだった。あと俺、肉好きだし」
「他にも食べたいものがあったら是非教えてちょうだい」
アイナはいつも通りの無機的な表情で言った。
彼女がどういう感情を抱いているのかは、良く分からないが、少なくとも俺はとても満足していた。昼に肉を食べたのは久しぶりだ。
「三人とも、仲良いんだね」
場を和ますためか、エディが朗らかな笑みを浮かべて言った。
「ていうか、ケイル。クレナさんは、まあ同じクラスだから分かるんだが……いつの間にアイナさんと仲良くなったんだ?」
ライオスの問いに、俺は少し過去を思い出した。
そう言えば、俺とアイナが最初に出会ったのは――。
「サバイバル演習、だよな? 確か俺が間違えて深層に入って……」
「そう。そこで私がケイルを眷属にしたことが切っ掛け」
お世辞にも良い記憶とは言えなかった。
あの日、俺はいつものように同級生に虐げられ――逃げた先で、アイナと出会ったのだ。
「眷属か……そう言えば、この前のローレンスとの決闘でも、ケイルはクレナさんの眷属になってたよね。……成る程。確かに、人間の能力が使えなくても、亜人の眷属になったら問題なく戦える」
エディが持ち前の勘の良さを発揮して、俺たちの事情を少しずつ看破していった。
「もしかして三人が最近よく一緒に帰ってるのって、ケイルの修行に付き合っている感じ?」
「……正解だ」
エディの質問に、俺は首を縦に振った。
厳密にはギルドで一緒に依頼をうけるためだが、エディの言葉もあながち間違いではない。俺が持つ【素質系・王】という力をどうすれば使いこなせるのか、二人も一緒になって考えてくれている。
「なあ、ケイル。次のサバイバル演習、俺らも一緒に参加していいか?」
ライオスの提案に、俺はクレナ、アイナと視線を交わした。
不意の提案に俺たちが驚いていると、エディがわけを説明する。
「ケイル……君は少し薄情だよ。僕らがどれだけ君と一緒にあの演習に参加したかったと思うんだい?」
そう言われて――俺は気づいた。
ああ、そう言えば、そうだ。
俺は今まで、幾度となく二人の誘いを断って、一人で演習に参加していた。
二人の足を引っ張りたくない。二人に頼りっぱなしになりたくない。
友人として。一人の男として。くだらない意地を張り続けてきた。
だが、それも――もう終わりにしてもいいのかもしれない。
「……そうだな。次は一緒に行動しよう」
頷くと、ライオスとエディは笑みを浮かべた。
「というか、お前だけ美少女と一緒とか俺が許さん」
「台無しだよライオス」
エディが溜息を零した。




