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01「使いこなせない力」


『プギョエーーッ!!』


 王都の傍にある広大な森で。

 身の丈三メィトルほどある猪型の魔物――ワイルドボアが、鳴き声を上げた。


「ケイル君、そっち行ったよ!」


「ああ、任せろ!」


 巨大な血の鎌を携えたクレナが、俺に向かって叫ぶ。

 精神を集中させ、身体中を巡る血液の流れを意識する。

 ナイフで傷つけた手の甲から、シュルリと血液が飛び出すと同時、俺は迫り来る魔物目掛けてそれを解き放った。


「――《血旋嵐(ブラッディ・ストーム)》」


 赤い刃の嵐が魔物を襲う。

 前後左右、四方八方。ワイルドボアの巨躯は無数の刃によって斬りつけられた。

 動きを止めた。後は――トドメを刺す。


「アイナ!」


「ん」


 短く返答した獣人の少女、アイナが力強く地面を踏み抜く。

 刹那。少女の身体は低空を飛ぶかの如く加速した。嫋やかな身体を宙で捻り、鋭利な爪でワイルドボアの腹を貫く。


 ワイルドボアは一瞬だけ痙攣した後、その巨体を地面に横たわらせた。


「ふー。依頼完了だね」


 安堵に胸を撫で下ろすクレナに、俺とアイナも相槌を打って、肩の力を抜く。

 これで、今日の依頼は終わりだ。


 ――吸血鬼領から戻ってきて、一ヶ月が経過した。


 激動の日々を終えた今。取り敢えずは、落ち着いた毎日を過ごせている。

 平日は学園に通い、放課後になったらギルドで依頼を受ける。


 俺たちは全員、習慣的にギルドに通う理由があった。


 アイナの場合は、勘を鈍らせたくないから。

 クレナの場合は、学費や家賃を稼ぐため。

 そして俺は、ミュアの紐を脱却のために生活費を稼ぐことと――――。


「――どう、ケイル君?」


 王都への帰り道。

 馬車の中で腰を下ろす俺の顔を、クレナが覗き見た。


「駄目、だな」


「うーん、なんでだろうね」


 クレナと一緒になって首を傾げる。

 俺は一ヶ月前に自覚した、己の能力について改めて考えた。


 ――【素質系・王】。


 クレナの母、エルネーゼさんの言葉によると、この能力の効果は「あらゆる種族の王になれる素質」といったものらしい。恐らくその予想は当たっている。ギルフォードを倒した時の俺は、間違い無く吸血鬼の王に相応しい力を得ていた。


 しかし――どうやらその力は、簡単には使いこなせないらしい。

 俺がギルドに通う二つ目の理由。それは、魔物との戦闘を経て、どうにか能力を使いこなせるようにならないか試行錯誤するためだ。


「多分、その気になれば、王の力を使えると思う。ただ……今使うと、どうしても自我を失ってしまう」


「暴走状態になるってことだよね。……うーん、それはちょっと実用的じゃないね」


 クレナの言葉に頷く。

 その時、向かいに座っているアイナが俺の方を見た。


「獣人の眷属になったら、使えるかもしれない」


 アイナが言う。


「ケイル。私の眷属になってみて」


「だ、だめだめ! 今日は私の番だって決めてるでしょ! アイナさんは明日!」


 何の順番だよ――。

 溜息を零す。しかし、彼女たちのお陰で助かっているのも事実だ。


 俺の能力――【素質系・王】は、確かに強力だ。

 しかし、この力を使うためには亜人の眷属にならなければならない。

 クレナやアイナには何度も世話になっている。今度、礼でもするべきだろう。


「あーあ。こういう時、ファナちゃんがいれば良い意見とか貰えそうなんだけどなー」


 クレナが残念そうに言う。

 ファナは吸血鬼領に留まることとなった。

 理由は、クレナの母であるエルネーゼさんの身辺警護だ。エルネーゼさんの体調はまだ万全ではないため、誰かが彼女の護衛を引き受けなくてはならなかった。可能ならば、一ヶ月前の真相を知る誰かが望ましい。そう考えた時、適任者として選ばれたのがファナだ。


 ファナはエルネーゼさんの前では「謹んでお受けいたします」と言っていたが、いざクレナと別れる時は号泣していた。最後に見た彼女の顔は鼻水に塗れており、正直、お世辞にも良い別れ方をしたとは思えない。


「ワイルドボアの討伐、完了しました!」


「はい、お疲れ様ですアンさん。それでは、こちらが報酬金になります」


 ギルド天明旅団に到着した後、受付に依頼達成の報告を行う。

 討伐の証拠として、クレナは受付嬢にワイルドボアの牙を渡した。


 そう言えば、ギルドには偽名で登録したままだったな……。

 また機会があった時にでも、本名で登録し直した方が良いかもしれない。


「ケイル」


「ん?」


 アイナが俺を呼ぶ。

 ここでの俺の名はノウンで通っているため、その声は潜めたものだった。


「ケイルの能力は、眷属としてのものではなく、人間としてのものだと思う。だから、力の使い方で行き詰まっているのだとしたら、同じ人間に訊いた方がいいかもしれない」


「……確かに、そうだな」


 俺の力は眷属にならないと効果を発揮しないが、その力自体は人間の種族特性だ。


「一応、私の方でも貴方の力について調べてみる。何か分かればすぐに連絡するわ」


「ああ……ありがとう。面倒をかけるな」


「利害の一致。ケイルには、是非ともその力を使いこなせるようになって欲しいから」


 その言葉に俺は首を傾げた。

 偶にアイナは、発言の意図が読めない時がある。

 しかしこういう時は、追求しても適当にはぐらかされてしまうのだ。

 実害があるわけではない。気にはなるが、今は無視してもいいだろう。


「しかし、誰に相談すればいいのか……」


 自慢じゃないが、俺は友達が少ない。

 日頃、学園で接している友人と言えば、クレナとアイナを除けばライオスとエディになるが……二人とも素質系ではない。

 できれば、俺と同じ素質系の能力者に相談したいところだが……。


 ――いるじゃないか。


 素質系の能力者で、しかも頼めば幾らでも相談に乗ってくれそうな相手が。

 ギルドの壁に立てかけられた、銀髪の少女の絵画を眺めながら、俺はある人物を思い浮かべた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が属になることなく彼の能力の最小の力を使うことができるとしたらどうでしょう。たとえば、彼は人間の状態で自分自身で少なくとも数パーセントの力を吸収して使用することができ、それはより良いも…
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