14「泣き虫な護衛」
その日の夜。
「……疲れた」
ボスン、と音を立てて、ベッドに身体を沈ませる。
無事にEランクになれたことで、俺は早速、天明旅団が運営する宿泊施設を利用していた。宛がわれた部屋は値段のわりに小綺麗で、居心地も悪くない。椅子とテーブルがないため少し物寂しい気もするが、代わりにシャワー室やトイレがあった。
ベッドに寝そべりながら、今日起きたことを思い出す。
今日は本当に――色々あった。
◆
『ママが……危篤?』
悪魔の男を撃退した後。
ファナが告げた衝撃の一言に、クレナは驚愕していた。
『クレナ様が吸血鬼領を出た後、クレナ様の母君が唐突にご体調を崩されました。原因は病とのことですが、処方された薬を摂取しても回復せず……寧ろ、病状は悪化の一途をたどっています。……私が、クレナ様をすぐに追いかけられなかったのは、こうした事情があったからです』
ファナは申し訳なさそうに言っていた。クレナの護衛である彼女が、今までクレナの傍にいなかったのは、それまでクレナの母親を看病していたかららしい。
『クレナ様。どうか……手遅れになる前に、吸血鬼領にお戻りになってください』
手遅れ。その言葉が何を意味するのかは、態々語るまでもない。
クレナは唇を噛み、暫く沈黙した後、答えた。
『……わかった。戻るしか、ないね』
ファナが頷く。
『ここから吸血鬼領までは距離があります。恐らく、何度か襲撃を受けることになるでしょう。あまり時間はありませんが、できるだけ準備を整えてから出立する必要があります』
『……そうだね』
クレナが不安そうな顔をした。
ファナという護衛がいるとはいえ、危険な旅には違いない。
だから――。
『クレナ。俺はまだ、お前の護衛だよな』
俺の言葉に、クレナが目を丸くした。
『護衛が主の傍を離れるのはマズいだろ? クレナさえよければ、俺も一緒に行こう』
『ケイル君……』
クレナが目尻に涙を溜めた。
ここまで来たら、俺も殆ど当事者みたいなものだ。こんな半端なところで投げ出したくはない。
『私も行く』
次いで、アイナが言う。
『今、ケイルに死なれたら困るから』
相変わらず――アイナは何を考えているのか、良く分からなかった。
だが、彼女が同伴してくれると言うなら心強い。クレナは嬉しそうに頷いた。
『悪い。俺たちは下りるぜ』
一方、ドロスとピクシスは申し訳なさそうな顔をしていた。
『力になりてぇのは山々だが……ついて行ったところで、足手纏いになる未来しか見えねぇからな』
『ええ。正直、あの悪魔と対峙してから……足の震えが止まりません』
クレナは微笑を浮かべ「わかった」と伝える。
これは完全に、俺たちの事情だ。無理強いすることはない。
その後。俺たちは馬車に乗り、王都の方へと戻った。
天明旅団で依頼の達成を報告し、報酬を山分けした後、一同は解散となった。
ドロスは妻子持ちであったらしく、「早く帰らないと妻が怒る」と言い残し、急いで帰路に着いた。
ピクシスは寝床にしているところがギルドから少し離れた位置にあるらしく、ドロスの次に俺たちのもとを去った。
『ケイルさん。貴方が剣姫の兄だと聞いて、少し納得しました』
去り際に、ピクシスが言う。
『あの剣姫も、最初から強かったわけではありません。しかし、彼女には常に強敵と立ち向かう勇気があった。どんな相手にも物怖じせず、戦い続けたからこそ……剣姫と呼ばれるようになったんだと思います』
『随分と、詳しいんだな』
『天明旅団の団員は、七割以上が剣姫のファンですよ?』
ピクシスが笑みを浮かべて言う。
それは知らなかった。しかし、ギルドにミュアの絵画が飾られていたことを思い出す。あり得そうな話でもあった。
『僕は今回の仕事を経て、ケイルさんにも、剣姫に通じる強さがあると感じました。……近い将来、貴方も剣姫と肩を並べるほど、有名になっているかもしれませんね』
そう言ってピクシスは去った。
◆
「ミュアと、肩を並べる……か」
ピクシスの言葉を思い出す。
彼には悪いが、流石にそこまでの輝かしい未来は見えない。
ピクシスは知らないのだ。――俺が学園で、なんと呼ばれているのか。
ドロス、ピクシスと別れた後、俺たちはギルドの傍にある店で夕食を取った。
アイナとは夕食をとった後に別れている。翌朝にギルド前で集合する手筈だ。
話し合った結果、吸血鬼領への出立は翌朝となった。俺はともかく、天明旅団のAランクであるアイナがいる以上、襲撃を危惧した最低限の戦力は既に揃っていることになる。なら、すぐにでも吸血鬼領に向かうべきだ。――クレナの母が、手遅れになってしまう前に。
コンコン、とノックの音がした。
俺の部屋番号を知っているのはクレナとその護衛であるファナの二人だけだ。
何かあったのだろうか。
ベッドから起き上がり、ドアを開ける。
「……ファナ?」
そこには、クレナの護衛である少女、ファナが立っていた。
「少し、お時間よろしいですか?」
「あ、ああ。構わないが……クレナの護衛はどうした?」
「問題ありません。事前に調査いたしましたが、大手のギルドなだけあって、ここの警備は信頼できます」
本職の護衛がそう言うのであれば、間違いないだろう。
「それで、何の用だ?」
そう訊くと、ファナは鋭い目つきで俺を睨みながら答えた。
「私と勝負しませんか?」
「……は? 勝負?」
「明日のためにも、互いの戦力を確かめるのは大切だと思いませんか」
……そういうことか。
それにしては――やけに敵意を剥き出しにしているように見えるが。
しかし、今のうちに互いの実力を把握するのは、確かに大切なことかもしれない。
「……まあ、そういうことなら」
「では早速、訓練場の方へ行きましょう。受付の方は既に済ませていますので、ご心配なく」
随分と用意周到だ。
足早に部屋を出て訓練場へ向かうファナについて行く。唐突な提案に、まだ頭が追いついていないが、ファナは俺と違って護衛のプロだ。ここは彼女に従うべきだろう。
天明旅団の本部は、宿泊施設の他に訓練場も営んでいる。
ファナの案内のもと、辿り着いた訓練場は、ただ広いだけの真っ白な空間だった。
(……眷属化は、まだ続いているな)
ファナと対峙しながら、身体の調子を確かめる。
クレナに血を注がれたのは今日の午後三時頃。多めに血を注いでもらったので、俺の身体はまだ吸血鬼のものだった。
軽く身体を解していると、ファナが唐突に上着を脱いだ。
ファナは今、全身のシルエットが見える、薄い軽装だけを身につけている。露出度が高い。何故、あんなものを好んで着ているのだろうか。――そう思った次の瞬間、ファナの背中から一対の羽が広がった。
「……なんですか? じろじろ見て。いやらしい」
「あ、ああ……悪い」
謝罪し、目を逸らす。
どうやらあの軽装は、羽を存分に広げるためのものらしい。
「折角ですから、賭けをしませんか?」
「賭け?」
「負けた方が、勝った方の言うことを一つ聞くんです」
ファナが怪しげな笑みを浮かべて言う。
「私が勝てば、貴方にはクレナ様の護衛をやめてもらいます。明日も同行していただかなくて結構です」
唐突な宣言に、俺は思わず目を見開いた。
「どういうことだ。……それは、クレナにも相談したことか?」
「いいえ、私の独断です」
ファナが言う。
「理由は二つあります。ひとつは、私が貴方を信用していないこと。……貴方、学園では落ちこぼれと呼ばれているみたいですね」
ファナの言葉に、俺は硬直した。
何故、そのことを知っている。
「少し貴方について調べさせてもらいました。剣姫の兄にしては知名度が低かったものですから、何かあるのではと探ってみたんです。……その予感は的中しました。どうやってクレナ様に取り入ったのかは知りませんが、落ちこぼれの貴方に、クレナ様の背中を預けるわけにはいきません」
中々、腹の立つ意見だったが、残念なことに否定はできない。
押し黙る俺に、ファナは続けて言った。
「それと、もう一つ。――私は、貴方が気に入りません」
二つ目の理由は随分と感情的なものだった。
「このナイフが床に落ちたら、始めましょう」
ナイフを取り出したファナが言う。
ファナはそのナイフで掌を軽く切り、血を流した。俺も懐からナイフを取り出し、手の甲を傷つける。
ファナがナイフを投げた。
くるくると回転しながら放物線を描くナイフが、床に触れると同時――ファナが一気に接近する。
「――《血閃鎌》ッ!」
ファナの掌から、血の鎌が放たれた。
身を翻し、それを回避する。
「甘い!」
ファナが叫ぶ。
すると、血の鎌が軌道を変えて再び俺のもとへと迫った。
(鎖鎌か……!)
放たれた鎌は、良く見れば薄らと赤い糸が伸びており、その糸はファナの掌へと繋がっていた。血を極細の糸に変え、暗器のように使用しているのだ。
「《血堅盾》!」
広範囲に血の盾を展開し、鎖鎌を防ぐ。
次の瞬間、ファナが肉薄してきた。
――速い。
単純な脚力ではない。――羽だ。床を踏み抜くと同時に、ファナは素早く羽ばたいていた。空気を押す反動を利用して加速しているのだ。
「《血短剣》ッ!」
ファナの掌に、真紅の短剣が生まれる。
紅の刀身が瞬く間に、俺の首筋へと迫った。盾の展開は間に合わない。間一髪のタイミングで身を屈め、短剣を避ける。
「はっきり言います! 貴方は目障りです!」
ファナが叫んだ。
「貴方が、単にクレナ様と同じ依頼を請けた仲間であるならば良かった! 或いはあのアイナという獣人のように、クレナ様とは別の目的があって、吸血鬼領まで同行するならば許せた! しかし――貴方はあろうことか、この私の目の前で、クレナ様の護衛を名乗った! それは私に対する侮辱です!」
短剣を振り抜きながら、ファナが感情を吐き出す。
「そんなつもりはない。俺はただ、クレナとの関係を、普通に伝えようとしただけで……」
「貴方とクレナ様に、関係なんてものはありません!」
ファナが怒りを込めて言う。
「大体、クレナ様の眷属でありながら、クレナ様の護衛をするなど、笑止千万ッ! クレナ様の護衛は私一人で十分です! 貴方の手を借りる必要はありません!」
「それは――」
それは、そうかもしれない。
ファナは強い。こうして戦っていれば良く分かる。彼女の一挙手一投足はとても洗練されており、長年の積み重ねを感じた。それに、今回はAランクのアイナも同伴する。彼女がいれば百人力だろう。ひょっとしたら俺は不要なのかもしれない。
だが、それでも――。
「――俺が不要なら、クレナがちゃんとそう告げる筈だ。お前に、とやかく言われる筋合いはない」
「な、生意気な……っ!」
もしかすると、ファナは誤解しているかもしれない。
俺も、真剣なのだ。生半可な気持ちでクレナの護衛を引き受けたわけではない。彼女の傍にいることが、どれだけ危険であるかは理解しているつもりだ。
「……いくら、貰っているのですか?」
ファナが攻撃の手を止めて、訊いた。
「所詮、貴方は金で雇われた身の筈です。ならば私がクレナ様の代わりにお支払いいたします。貴方はそれを持って、クレナ様の前から去りなさい」
この少女は、どうしても俺のことを認めたくないらしい。最早、彼女は勝負に拘ってすらいない。ただ俺を追い出すための提案を口にした。
「さあ、いくらですか? 銀貨二枚……いえ、三枚くらいですか? 高くても銀貨五枚くらいが妥当でしょう」
ファナがこちらを見下した様子で言う。
少し腹が立った俺は、正直に答えることにした。
「一日につき、金貨五枚だ」
「金貨五枚っ!?」
流石に驚いたようだ。
ファナが予想した金額の、凡そ十倍である。
「そ、それだけの価値が、貴方にはあると言うんですか……?」
いや、それは……どうだろうか。
俺に護衛を頼む時、クレナは襲撃を受けた後ということもあり、かなり追い込まれていた。この報酬については彼女も無理をしているに違いない。
「わ、私ですら、一日で銀貨七枚だというのに……」
ファナが震えた声で言う。
その言葉を聞いて、俺は気まずさのあまり、視線を逸らした。
流石に申し訳ない気分になってきた。
そう思い、ファナの様子を窺うと――。
「お、お前、泣いてないか……?」
「泣いてませんっ!」
ファナは慌てて手の甲で目元を拭い、怒鳴った。
「お、お金なんて関係ありません! 私には――クレナ様との、強い繋がりがあります!」
ファナが言う。
「私は幼い頃からクレナ様にお仕えしてきました! その長い積み重ねは、私とクレナ様だけのものです! 私たちは最早、一心同体! たとえどれだけ離れていても、心が通じ合っている――そう、以心伝心の間柄なのです!」
「以心伝心って……お前ら、今日まで、どっちも見捨てられたと勘違いして――」
「うわああああああああああ!! それを言うなあああああああ!!!!!」
逆ギレかよ。
頭が痛くなってきた。
ファナが両手に短剣を生み出し、素早くステップを踏みながら攻撃してくる。
攻撃の手数が多い。小回りのきかない盾では防ぎきれない。
ファナが持つ真紅の短剣は、『血舞踏』の一つだ。
なら――俺にも使える筈である。
「『血舞踏』――《血短剣》ッ!」
左手の甲から、真紅の短剣を生み出し、それを右手で握り締める。
迫る一本目の短剣を避け、続いて閃く二本目の刃を、作ったばかりの短剣で防いだ。
「認めましょう。眷属の身でありながら、『血舞踏』をここまで使いこなせるなんて。……貴方は確かに特別な人間かもしれません。ですが――クレナ様の特別は、私一人で十分ですッ!!」
そう言って、ファナは大きく距離を取り、右腕を頭上に掲げた。
ファナの掌から大量の血液が放たれる。少女の頭上で、赤い液体が激しく渦巻いていた。
「さあ、凌げるものなら、凌いでみなさい! これこそが、アルクネシア家の『血舞踏』ッ!」
ファナがその手を振り下ろす。
「――《血閃斬牢》!!」
解き放たれた真紅の力は、勢い良く分散し、四方八方から俺の方へと迫った。
全方位から斬撃が迫る。回避不能な上、その威力もこれまでの『血舞踏』と比べて桁違いに高い。ファナはこの一撃で決着をつける気だ。
『亜人は人に非ず。故に、人としての心は不要』
窮地に立った俺の脳内に、アイナの一言が蘇った。
だが同時に、ゴブリンたちが惨殺されていたあの光景も思い出す。
意識を手放してはならない。今、目の前にいるのは倒すべき魔物ではなく、クレナの専属従者であるファナだ。
(少しだけ――墜ちる)
集中力を研ぎ澄ます。思考を緩め、己の直感を信頼する。
身体中を駆け巡る血が、熱を帯びたような気がした。不思議な気分だ。俺ではない、他の誰かが身体にいるような感覚。血が俺の身体を乗っ取り、暴れたがっている。
――分かった。
何故、俺が『血舞踏』を使えるのか。
血だ。この身体に流れるクレナの血が、『血舞踏』の使い方を教えてくれているのだ。
理屈ではない。だが確信があった。
肉体も精神も、全てはこの血の乗り物に過ぎない。
吸血鬼の身体は、血が支配しているのだ。
「『血舞踏』――《血守護陣》」
手の甲から、ぶわりと血が広がった。
六角形の盾が十枚近く顕現する。それをすぐに周囲へ展開した。
四方八方から迫る斬撃が、展開する盾にそれぞれ防がれる。
恐らくこれは、《血堅盾》の上位互換となる技だ。一度に複数の《血堅盾》を展開し、それを自在に操作することができる。
「そんなっ!?」
とっておきの『血舞踏』を防がれ、ファナは驚愕していた。
慌てて距離を取ろうとするファナ目掛けて、俺は周囲に展開した盾を放つ。盾はあっという間にファナを囲み、逃げ場を奪った。
無防備になったファナへ肉薄し、《血短剣》を突きつける。
「勝負、アリだな」
そう告げて、展開した盾を解除する。
ファナは半ば呆然とした様子で、ペタリと地面に尻餅をついた。
「こ、この私が……」
ファナが、震えた声で呟く。
「クレナ様の、護衛である私が……ただの、眷属に負けるだなんて……」
紅の瞳に、涙が溜まっていた。
「う」
「う?」
「うぁああぁあぁ……っ! あぁあぁぁああぁんっ!」
ファナがいきなり、大声で泣き出した。
流石にそれは予想外だ。どうすれば良いのか分からず、困惑する。
「お、おい。ファナ……?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 負けたぁぁぁぁ~~!!」
ボロボロと涙を流すファナ。
声をかけても反応はない。
「わぁあああぁぁぁああ~!! や、やっぱりクレナ様は、私を捨てたんだぁぁ~~~!!」
「す、捨てたって、そんなことないだろ。クレナも違うって言ってたし……」
「じゃあ……じゃあ、なんで!? なんでクレナ様は、貴方を雇ったんですかぁ!!」
ファナが鋭く俺を睨んだ。
「ク、クレナ様の専属護衛は、わ、私の筈なのに……ずっと、何年も仕えていた筈なのにぃ! なんでいきなり、貴方を雇ってるんですかぁ!」
「それはだから……偶々、ファナが傍にいなかったから……」
「待ってくれてもいいじゃないですかぁ! わぁぁぁぁぁん!!」
クレナに言え。
なんだこれ、どういう状況だ。俺のせいなのか?
「こ、これでも、我慢しようとしたんです!」
ファナが目元を拭いながら言う。
「私が、クレナ様のお傍にいられなかったのも、事実ですから……他に護衛を雇うのも、仕方ないって。……で、でも、貴方、私よりも沢山お金を貰ってるじゃないですか! し、しかも、私より強いじゃないですか! こんなの絶対に、私を捨てる気じゃないですかぁ! うわぁぁぁぁぁん!!」
堰き止められていた感情が、一気に流れ出す。
そんな彼女が吐露する本心を聞いて、俺はとにかく困惑した。
「わだじがグレナ様の護衛な゛の゛に゛ぃぃぃ~~~!!! 眷属のぐぜに゛ぃぃぃ~~!!」
面倒なことになった。
どうするべきか。悩みながら頭を掻いていると――。
「ケイル君!? な、何があったの!?」
クレナが慌てた様子で訓練場に入ってきた。
いつまで経ってもファナが部屋に戻ってこないため、疑問を感じたのだろう。ギルドの受付で、ファナが訓練場を借りたことを聞いたのかもしれない。
クレナはすぐに俺の姿と――その足元で泣きじゃくるファナに視線をやった。
「あっ、あぁ……大体、状況は把握できたかも」
クレナが苦笑して言う。
どうやらクレナにとって、ファナのこの状態は慣れたものらしい。
「グレナ様ぁ゛ぁぁあぁ~!! 捨でないでぐだざい゛ぃぃぃ~!」
ファナがクレナの来訪に気づき、涙を流しながら懇願する。
クレナは苦笑しながら、縋り寄ってくるファナの頭を「よしよし」と撫でた。
「うぅ、ぐすっ、な、なんでもしますからぁ、捨でないでぐだざい゛ぃぃぃ」
「な、なんでもって……じゃあ、取り敢えず泣き止んで……?」
「無理でずぅ゛ぅぅぅぅぅ~!!」
クレナが疲れた様子で溜息を零す。
ファナはその後も十分近く泣き続けた。
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