第七十九話
宣伝です。
「たかが子爵嫡男に高貴な人たちがグイグイきて困る」
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ラブコメ系の本作と違い、物語の進みが遅いのが、悩みどころですが、興味が有れば、見てやって下さい!
理緒の周囲を凍り付かせた発言に、一番早く立ち直りを見せたのは、浩也だった。ちなみに今はバイト中。その要望に応える気も、友人として気軽に接する気も浩也には選べない。
「いらっしゃっいませ、お客様。本日はお一人ですか?」
理緒も自分のしでかした事とは言え、明かに空気が変わった状況を察して、目を泳がせる。
「あっ、はい、1人です。宜しくお願いします」
「はいお一人様ですね。生憎今店が混み合ってまして、ご相席でお願いしたいのですが、宜しいでしょうか?」
相席?その言葉にハテナが浮かんだ理緒は、店の中を見渡すと、そこには最強の幼馴染みが座っていた。
「はい、大丈夫です。相席でOKです」
浩也としては、問題ごとを一纏めに、理緒としてもライバルがそこにいるのだ、受けて立たないわけにはいかない。
ただそんな2人の思惑をよそに、激しく動揺する有里奈。
『ええっ、この状況で理緒ちゃんを一緒にする!?』
やはり店の客の動向は、浩也と理緒に集中している。そんな状況を無視する様に、浩也は有里奈の席へと案内をし、有里奈とシズに声を掛ける。
「お客様、申し訳ありませんが、こちらのお客様を相席でお願いできませんでしょうか?」
するとまだ動揺から復帰できていない有里奈を尻目に、シズが面白がる様に反応する。
「ええ大丈夫ですよ。あっ私、有里奈の方に座るから、こっち座って」
「有難うございます。では、お客様こちらへどうぞ」
浩也はシズが移動したのを見計らい、理緒をその席へと案内する。
「お久しぶりです、有里奈さん。えっとそちらの方は、生徒会の......」
「ああ私は有里奈の友達で早瀬静香。後輩くんにはシズ先輩って呼ばれてるから、それで良いわ。って、有里奈いつまで呆けてるのよ、シャキッとしなさい。シャキッと」
シズは有里奈の方を小突くと、有里奈もようやく再起動する。
「ごめんなさい。余りにもビックリしちゃって、あっそれよりも理緒ちゃん、さっきのアレ何かな?」
さっきのアレ部分だけ声を潜めて、有里奈は周囲に気を使いつつ、笑顔で圧力をかける。ただこういう所では決して怯まないのが、理緒らしいところだ。
「ああ、ギュッとの事ですか?それはそのままの意味ですよ。それ位は友達として仲が良いので」
理緒はニッコリと微笑む返す。ちなみにギュッとの事の部分は周囲に悟られないよう小声だ。
「なら私もあとでして貰う。理緒ちゃんばっかりはズルい」
「駄目です。早いもの勝ちです。大体有里奈さんは幼馴染みなんですから、自重して下さい」
「それなら理緒ちゃんだって、同級生なんだから、もっと周りに譲るべきよ」
そんな2人のやり取りを見て、周囲がまた騒めき始める。かたや男子のテーブルでは、
「おいアレって、痴話喧嘩か?」
「残念ながら、よく聞こえんが、表面上笑顔だが」
「でも海生高校2年3年のNO1揃い踏みだぞ?ああ、あの席羨ましい」
「まだお前の情報は古いな。何故ならあのウエイトレスの子、海生高校1年のNO1だ」
「な、何だとーっ」
論調が、今この瞬間の美少女占有率に対する驚愕とそれを堪能をする方向へ変わりつつある。一方の女子はというと、その分析は男子より細かい。
「あれって彼女未満な感じだよね?」
「まあ幼馴染も同級生も微妙に負けフラグ?」
「じゃああの後輩ちゃん有利?」
「妹甘える系なら、確かにニーズ有りだけど。しかもあの子、やば、負け組より大きいよ」
「ロリ巨乳!?ヤバ、鉄板すぎ?」
こちらも最早、大きく脱線しだす。そんなカオスな状況は、収拾がつかないかに見えた。ただそこで終止符を打ったのが、由貴だった。由貴は注文を受けた飲み物を片手に有里奈達のテーブルにつくと、大きな声で注意する。
「はいはい、2人とも、言い争わないの。お店の迷惑よ。そろそろディナータイムだし、お店の回転を上げるか、追加でオーダー貰うかしないとディナーを楽しみにしてくれるお客様にも迷惑だから、その辺ちゃんと気を遣ってね」
「「はい、気をつけます」」
そんな2人にニッコリとして、由貴は顔を近づける。
「フフッ、3人には浩也の奢りでいいから、食事を頼んで貰いたの。そしたら店の回転も上がるからね」
由貴はそう小声で言った後、今度は大きい声で続きを言う。
「さてそう言う事だから、ご注文が決まりましたら声をかけてね」
由貴は笑顔でその場を去っていく。当然、周囲には気不味い空気が流れ出し、有里奈達が食事を注文し始めると、1組また1組と順に客は回転し始めるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
客も順に入れ替わり、普段の店を楽しむ客が席を埋め尽くした事で、有里奈達は気兼ねない食事を楽しんでいた。
「それにしても、今日は大変だったね。理緒ちゃんの方はどうだった?」
「私は男子がウザかったです。女子は元々私と浩也が仲良いのは知っていて、浩也への取次もしないの知っているので、影響はあんまり無いんですけど」
理緒は憮然とした表情でそう答える。シズは同じ学年のアイドルでも随分と立ち位置が違うものだと感心する。
「なら有里奈と逆だね。男子は明かに有里奈の初スキャンダルに凹んでたけど、女子は幼馴染って言うキーワードに興味深々でね」
「なんか似たような質問なんだけど微妙にニュアンス変えて、でも結論は一緒みたいな」
そんなシズの感想に有里奈も追従する。するとバイトを一足先に上がって、浩也の終わりを待つべく合流した飛鳥が、感心した口調で言う。
「2年、3年生は大変ですね。1年生はそこまで大変じゃ無かったですよ」
そう1年生では、まだそこまでの喧騒はない。勝手に学年NO1とか言われているが、理緒や有里奈程の知名度はまだなく、浩也に対しても憧れ程度で根掘り葉掘りは聞かれない。
「ああでも飛鳥も気を付けた方が良いよ。うちの学年でも確実に知名度上がったみたいだし」
「ああ、3年男子も似たような事言ってたかも」
「ええっ、マジですか?」
嫌な事を聞いて、思わず飛鳥は声を上げる。そんな飛鳥を見て、ニヤリと理緒は笑みを溢す。
「上級生に知られちゃうと、一気に告白が倍増するから、頑張ってね」
「ああそうかも。私も生徒会長前後から、大変だったなー」
片やまあ諦めろと言わんばかりに、片やそうなる事を憐む様に後輩に言う。受けた後輩は、顔を痙攣らせ、テーブルへとうつ伏す。
「へーモテる子って大変ね。1番早い解決法は彼氏作っちゃうのが良いけど、こりゃまだまだ、誰1人解決しなそうね」
あくまで第三者であるシズは、他人事の様に言うと、3人全員がテーブルの片付けをしている浩也をジト目で睨むのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな酷い目にあったその日の夜。バイト帰りで理緒や飛鳥、有里奈を家近くまで送り家について、風呂に入って、自分の部屋に戻ったのは、22時を過ぎた頃だった。
浩也はベットに転がり、スマホを立ち上げると、ラインでメッセージが届いているのに気がつく。相手は陽子で、メッセージ内容は今暇?と言う内容。メッセージが来てから30分ほど経ってはいるので、一応返信は期待せずに、メッセージを送る。
浩也-すまん、風呂に入ってて気が付かなかった。
すると陽子からは、すぐ返信がくる。まだ寝てなかった様だ。
陽子ー今電話出来る?
陽子とは、ラインでやり取りは多いが、わざわざ電話でというのは、珍しい。むしろ何かあったのかと思い、慌てて電話する。
『あっもしもし、高城ですけど』
『あ、うん、電話ありがとう、浩也君』
陽子の声は、そう差し迫ったものではなく、のんびりしたもの。浩也は内心でホッとする。
『どうしたんだ?突然電話だなんて』
『フフフッ深い意味なんてないの。ちょっと声を聞きたかっただけ。夜遅くに迷惑だったかな』
『別に問題ないぞ。陽子の声聞けて俺も嬉しいし。正直、今声を聞けて1番ホッとするのは陽子かもしれないな』
浩也も陽子に釣られる様にのんびりしてくる。
『はるかから聞いたよ。なんか大変なんだって?朋樹君曰く、身から出た錆だって言ってたみたいだけどね』
『まあ朋樹は明日シメる。大変云々はそうなんだけど、夏の海は恵まれてたと改めて実感したよ』
『そうなの?』
どうやら陽子は気付いていないみたいだ。まあ今日陽子が言い寄られていたわけじゃないから、仕方ないと思う。
『ほら夏のバイトは、すぐ側に可愛い彼女がいたろ?あの効果は絶大だったよ』
『ああ、そう言う事。フフフッ、なら私にもカッコいい彼氏がいたから、凄く嬉しかったわ。なんてったって、人生初彼氏だし』
『本当色んな意味で恵まれてたんだけど、今は、言い逃れも出来ないから大変でさ』
それは浩也の本音だ。相手が客なだけに、露骨に拒絶も出来ないし、大変なのだ。
『ならまた私を彼女にしちゃえば?』
『いや俺はまだ、誰かに決めた訳では......』
『ああ違う、違う。そういう意味じゃなくて、夏のバイトと同じ意味での彼女。どうせ浩也君、同じバイトだからって、同じ学校の飛鳥を彼女役には出来ないんでしょ?有里奈先輩や理緒もそう。なら私の名前使っちゃえばって事」
浩也は思わず息を詰まらせる。ある意味ありがたい話だ。それ以上に自分に都合の良すぎる話だ。それに返事ができていないのに、利用するみたいで、正直申し訳なくなる。
『申し出は嬉しいけど』
『まって。なんか申し訳なく思っているみたいだけど、浩也君、それは違うよ』
『いや、陽子、流石に無理があるだろう』
浩也の否定の言葉に対し、陽子はハッキリと自分の意思だと説明する。
『浩也君、私は役であろうと浩也君の彼女になれるのが嬉しいの。勿論、他の3人には役と言って構わない。でも対外的には彼女になれるし、他の3人には出来ない事でしょ?私は浩也君と違う学校だから、やっぱ会う機会がが少ないし、ハンデがあるんだから、それくらいは許して欲しいな』
『アハハッ、そうか、確かにハンデが有るもんな。うんうん、納得出来た。なら折角だから大々的にやっちゃうか』
浩也はどこかツボに入った様に大笑いすると、浩也らしい悪戯っ子の笑みを浮かべる。
『ちょっ、浩也君?程々に頼むわ、ミスコンみたいのはやめてよ!?』
『ハハッそう言えば、別に陽子を振った記憶がないもんな。そうすると付き合ってから1ヶ月位か。うんうん、楽しくなるぞ」
慌てる陽子の静止も浩也には届かず、浩也は内心でドンドン盛り上がる。途中、陽子はその気にさせ過ぎたと、悪ノリ浩也に深い溜息を吐くのだった。
こっちは更新が不定期飛び飛びになります。




