第七十七話
今別の連載にも手を掛けてまして、ファンタジーを書きたい熱でそっちにかかりきりとなっていました。
ちなみにタイトルは、
「たかが子爵嫡男に高貴な人たちがグイグイきて困る」
https://book1.adouzi.eu.org/n4269fv/1/
ラブコメ系の本作と違い、物語の進みが遅いのが、悩みどころですが、興味が有れば、見てやって下さい!
夏休みが漸く終わり、久々の学校生活が始まる。その日の朝は、飛鳥たっての希望で、朝、一緒に登校する事になった。待ち合わせは、西条駅。浩也と飛鳥共々、最寄りの駅である。
「浩也先輩、おはようございます」
「おう、おはよう」
実はこの朝の登校、有里奈からも同様に誘いを受けていたが、一旦断った。二人が幼馴染みという噂が、どの程度浸透しているか不明だったので、リスク回避をしたのだ。ちなみに理緒は部活の朝練で、既に学校にいる事だろう。
飛鳥に対して了解したのは、話す機会を増やす事と、バイトの後輩という言い訳が出来るからだ。まあ有里奈に比べれば、注目度も低いだろうと言うのも算段としてある。
ただ結論、それは浩也の油断でしか無かない事を思い知らされる。
まず、電車を降りて、学校へ向かう徒歩の途中、何やら周囲に見られている気がする。
「なあ、飛鳥、なんか視線を感じるんだけど、気のせいか?」
「い、いえ、浩也先輩、なんか明らかに注目されている気がします」
焦った声でそう返事をする飛鳥。確かに遠巻きながら、視線を感じている。そしてその注目は、学校に近づくにつれ、次第に大きくなる。
「おい、あれっって・・・・・・」
「な、榎本さんだけじゃ・・・・・・」
「あの一年の子もめっちゃ可愛い・・・・・・」
内心、聞こえてるぞ、このやろうとツッコミを入れたくなるくらい、ヒソヒソを通り越してガヤガヤとした喧騒が聞こえてくる。
「これはあれか?有里奈のせいか?」
「わかんないですけど、そんな気がします」
どうやら有里奈ショックは、想像以上の様だ。浩也は、飛鳥にそっと耳打ちをする。
「飛鳥、これはやばいかも知れない。マジ、飛鳥に迷惑がかかりそう。取り敢えず、一緒に登校は、今日だけな」
「ははっ、流石は有里奈先輩。最強の幼馴染みですね」
流石の飛鳥も乾いた声を漏らし、有里奈の事を褒め称える。すると周囲は、密着した浩也と飛鳥を見て、更にざわめきだす。
「何だ、有里奈様がいるのに、他の美少女とイチャつき始めたぞっ」
「何だ、あのタラシ野郎はっ?」
「やるか、やっちゃうか?」
「ヒッ」
周囲の怨嗟に思わずたじろぐ飛鳥が、浩也の腕を掴む。そしてその行為に、更なる怨嗟が募る。まさに負の連鎖、浩也はさりげなく飛鳥を庇いつつも、校門を潜るその時まで、背筋に冷や汗を流しまくっていた。
そして昇降口まで無事飛鳥を見送った後、浩也は精神的な疲れを滲ませながら、教室の扉を開く。
「おっ、学校の話題を一身に背負う浩也様の登場だーっ」
そう歓声をあげたのは孝太。そして夏のバスケ部の大会で一緒になった高崎もニヤニヤしながら、はやし立てる。
「おっこのモテ男、今日も朝から女子とご出勤かーっ」
そしてその他のクラスメイトも、興味本位で、浩也に注目する。ただ彼らは分かっていない。浩也は原則、やられっぱなしではない。まずは、口火を切った二人をニヤリと見て、冷静に反応する。
「あーまず孝太くん、君、夏休み楽しそうだったよね〜、ショッピングモールで。あんなファンシーな趣味があったんだねー。まあとある人物に是非また一緒に行きたいって孝太が言ってたって、伝えておいてあげるよ。うん、俺って親切だよね〜」
「なっ、浩也、お前そんなことしたら、また奢らされるじゃねーかっ」
「うん、なら是非奢らせて欲しいって伝えておく、彼女きっと喜ぶぞ〜」
「ヒイィッ」
思わず呻き声を上げて、打ちひしがれる孝太。まずは一人。
「さあ次は、あれっ、彼女持ちの高崎君じゃないですか?」
「くっ、俺は彼女持ち公言しているから、高城の圧力には、屈しないぞっ」
流石は彼女持ち。孝太とは余裕が一味違う。ただしここでは役者が違う。そんな余裕など1mmも通用しないのだ。
「ふふーん、そんな彼女持ち高崎君のホットな情報をバスケ女子の通称Rさんから頂いております。とある女子Tさんとの一夏の思い出のお話です」
「申し訳ありませんでしたーっ」
浩也の会話を即効で遮り、土下座をかます高崎。あら高崎君、どうしたのだろう。うーん、何か後めたい事でもあるのかな?ああ、今度、高崎君には、夏の階段何段飛ばしと聞いてみよう。理緒そう言う事教えてくれないしね!
そしてそれを見て、周囲をニヤリと見渡した後、のんびり席につく浩也。周囲は勿論、無言で、目を合わそうとすると、サッと逸らす。そしてそんな完全勝利に酔いしれれているところに、朋樹がやってくる。
「相変わらず、浩也の報復は恐ろしいなぁ」
「まあそれを一番わかっているのは朋樹だけどな。ちなみに、夏休み中の部活でどの程度、噂は広まっていた?」
vそこで朋樹は、考えながら返答する。
「浩也が有里奈さんと幼馴染み」
「ふむふむ」
「浩也がミスター西ヶ浜」
「ほうほう」
「浩也が有里奈さんと付き合っている」
「うーん」
「浩也が井上と付き合っている」
「はあ?」
「浩也がバスケ部女子にハーレムを築いている」
「言ってる奴正気かっ」
「浩也が有里奈さんと井上とで二股を掛けている」
「くっ、まだあるのかっ」
「浩也が井上、飛鳥、有里奈さんと三股掛けている。あっ、これ今日の最新情報だな」
「おい、噂早すぎるだろうっ、暇か、暇なのか?」
すると朋樹が補足とばかりに説明を加える。
「まあ二股、三股と言ってる奴は、大抵やっかみだな。とは言え、学年別NO1女子を網羅しているだけあって、その恨みは根深いものがある。それと女子の浩也への興味度も上がっている。実際、先輩、後輩、同級生問わず、俺のところにも、問い合わせ殺到中だ。流石はミスターだな」
「その響きを聞くだけでイラッとする。来年必ず朋樹をエントリーするからなっ」
ただ情報はかなり手に入った。噂の速度と尾鰭は凄まじいが、想定範囲内でもある。他校の生徒である陽子の話が出てないところを見ると、伝聞が多いのかも知れない。
「まあ浩也はあんま気にしないだろうけど、女子の方は女子の方で大変だから、フォローした方がいいぞ」
朋樹はそう言って、浩也の側から立ち去っていく。相変わらずのイケメンっぷり。浩也は感謝しつつも、さてどうなることやらと、深い溜息を吐くのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「だから彼氏とかじゃなくて、幼馴染みだよ。ホント、それだけだから」
有里奈は始業式後、HRが終わった後に、周囲の友人から様々な質問を受けていた。側にはしずもいるのだが、火消しはちゃんと自分でしなさいとばかりにしずからのフォローはない。ただそれは、有里奈の要望でもあるので、側に居てくれるだけで有り難かった。
「えっ、ヒロの紹介!?あっ、ヒロそういうの嫌いだから、基本断ってるの。ごめんね」
質問の大半は、付き合っているのかと幼馴染みなら紹介しての2つ。本当は最初の奴を付き合っていると言えれば、随分と楽なのにと思わなくのないが、流石にそれは駄目だろう。後者の方は、只々お断り。これ以上、ライバルが増えては、堪らないのである。
「えっ、ハグしているのを見た!?あれはヒロの悪戯。なんか周囲がヒソヒソ話しているのが、イラッとしたのでビックリさせたんだって」
「えーっ、ハグ慣れしてる?してないしてない。ヒロは付き合い長いから悪戯だってわかっただけ」
はぁ、大変と有里奈は内心で心底ぼやく。正直言って、大変だ。ただこれで有里奈にとっての浩也が認知されれば、一緒に過ごす事の出来る時間が増える。有里奈にとっての高校生活はあと半年しか無い。ならば少しだけでも高校生活での思い出を作りたい。
『なら頑張らないとねっ』
延々と続く、質問の集中砲火の中、有里奈は、内心で気合いを入れた。
「井上、俺と付き合ってくれっ」
理緒は、中庭の比較的人気の少ないところに呼び出され、告白を受けていた。夏休み明け初日から既に2件。この後にもう1件ある。浩也に関する噂が広まったことによる余波だった。
「ごめん、私好きな人がいるから」
「井上の好きな奴って、高城って奴か?あんな方々の女に手を出す様な奴の何処が良いんだっ、俺なら井上だけを見てやれる。俺の方がきっと井上を幸せにしてやれるぞ」
最初の1件目もそうだったが、彼らは何を見ているのだろう。まるで私が浩也を好きでいるのが不幸だとばかりの言い草だ。理緒にしてみれば、完全に余計なお世話であり、頼んでもいない事だった。
「はあぁ、悪いけど私はあなたの事を好きじゃないの。そんな人に私だけ見ると言われても、正直嫌なの。私の好きな人は私が決める。他人にとやかく言われる筋合いはない」
「ぐっ、やっぱり見た目で惚れてんのか」
「はあっ?あなた浩也の何を知ってるのよっ。確かに見た目は貴方より何倍も良いかもしれない。けど、それっておまけよ。私は浩也の良さを知っている。それが私を幸せにする事を知っている。残念だけど、貴方には絶対無理だから」
理緒はそう言い放つと、その場をスタスタと離れていく。思った以上にキツい言い回しになってしまった。これまでは、好きな人とは言っても、浩也の名前を出すことは無かった。でも、流石にあそこまでバカな奴には、歯止めが効かなかった。
私が好きな人をバカにするのは、私に対する冒涜だ。その好きな人を貶めれば、自分を好きになるかもと思う奴らは、最低である。少なくても同じ土俵に立って勝負しようという気概のない相手は、全く好意を抱けない。
『あー、もう、浩也成分が足りないっ』
理緒は男嫌いだ。男性不信というべきかも知れない。当然、警戒心は強い。でも浩也だけは、素の自分でいられる。警戒しないでいられる。だから、理緒は浩也が大好きなのだ。




