第八話
ジャンル別日間現実世界〔恋愛〕2位
ジャンル別週間現実世界〔恋愛〕8位
総合日間 13位
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今日は夕方、もう1話更新予定。どうぞ皆様、お楽しみ下さい!
海生高校では5月最終週に中間テストが実施される。科目は国語、数学、英語、理科、地理歴史の5科目。2日間に渡って試験は実施され、試験開始の1週間前は部活動の自粛が促される。
浩也は元々テストを苦にしないタイプの人間で、その勉強スタイルは効率を重視する。そもそもの授業のみに集中し、ポイントをキッチリノートに纏め上げ、授業の合間の休み時間に読み返して復習するだけである。宿題もバイトから帰って小一時間程度で終わらせて、それ以外の時間は殆ど勉強をしない。テスト期間前も教科書とノートの復習のみで、その他の参考書等は持ってもいなければ、使う事も無かった。それで平均80点以上はこれまでもクリアしてきたし、成績自体もクラスでも10位以内には必ず入れた。今回のテスト期間前にバイトを休むかと由貴にも聞かれたが、問題ないと断っているほどである。
なので今テスト前という事で浮き足立つ教室内においても特段あせる事もなく、のんびりと周囲の様子を伺っている。すると同じくテストにさしたる不安の無い友人が近寄ってくる。
藤田朋樹である。朋樹は学年でも上位を争う成績優秀者なので、特段テスト前だからといって慌てる素振りはない。浩也が同じくテスト前だからとバタバタするタイプの人間ではないのも知っているので、周囲のムードを気にする事無く話しかけてくる。
「なあ浩也、中間テストの期間中もバイトなのか?」
「ん?ああ、貧乏暇無しだからな」
浩也は別に貧乏というわけではない。むしろバイトで稼いでいる分、同級生よりは遥かに裕福だろう。ただなんとはなしに、バイトがある旨をそんな言葉で返してみる。ただ朋樹はその言葉遊びはスルーをして、自分の用件を伝えてくる。
「なら、中間テスト明けの週末ならどうだ?できれば日曜がいいんだが」
「土日はどっちかバイトに出ればいいから、日曜確定なら日曜休むが、何だ?遊びか?」
週末は朝から晩までの通しでバイトだが、土日どちらかで良い。今から由貴に話しておけば休む事自体は問題なかった。
「うーん、まあな。ちょっと複数で遊びに行こうって話になっててな。男子メンバーは俺が集める話になってるんだが、浩也だけは参加要請が入ってる」
浩也はそれを聞いて不思議そうな表情を浮かべる。朋樹目当ての集いで呼ばれて参加する事は前にもあったので、まあそこは良いのだが、浩也が指名される理由がわからない。
「理緒がいるのか?」
「しっ」
朋樹が珍しく焦った様に浩也の口を塞ぐ。浩也は目線を理緒の方に向けるが、理緒はテスト前の勉強で周囲の女子たちと勉強しており、こちらに気付いた雰囲気はない。
「浩也の対外的な女子の交友関係は理緒オンリーだからな。今回の集まりは完全に別口だ。むしろバレると不味い」
朋樹はあたりを警戒するように、顔を寄せて小声で浩也に話す。浩也は「お、おう」などと言葉を零すが、別に理緒にバレたところで痛くも痒くも無いのだがと思っていたりする。
「でも珍しいなあ。朋樹がその手の集まりに参加するのは。どっちかって言うと避けていたろ、そういうの」
「まあな。いつもはぶっちゃけ俺に言い寄ってくる女子だけだったりするから、誘った男子メンバーに悪くてな。ただ今回は浩也指名があるみたいだし、俺もまあ、気になる女子がいるしな」
浩也はその発言に思わず目を見張る。まあ自分に指名がある云々は全く身に覚えのない事なので、正直眉唾だと思っているが、その後の朋樹の発言にびっくりしたのだ。朋樹は正直モテる。浩也にしてみれば、モテるべくしてモテる人間の最たるものだと思っている。アイドル顔負けのルックスに性格良し、成績優秀とまさに三拍子そろった逸材だ。ただこれまで朋樹は余りそういう方面に目を向けていない節があったので、非常に感慨深いものがあった。
「そうかー、朋樹にもいよいよ春か。ただ俺はぞっとするよ。断末魔を上げる周囲の女子たちに、ナンマンダ、ナンマンダ」
浩也はそう言って、朋樹の事を念仏を唱えながら茶化す。まあ周囲の女子が愕然とするのは間違いないだろう。
「やめろっ、縁起でもないっ」
「はははっ、モテる男の辛いところだな。まあ頑張れ」
そう言って2人はテストとは全く関係のない話題で盛り上がる。ちなみに遠目で余裕そうな2人の姿をチラ見した理緒は、『あいつら、絶対に後で絞める』などと不穏当な事を思いつつ、テスト勉強に没頭していくのであった。
結局、浩也のバイトを始めてから初の中間テストは、これまでとさして変わらない成果で幕を閉じる。自己採点でも平均80点越えは確実で、特に理数系の結果は目を見張るものとなりそうだった。
浩也の周辺メンバーでは、朋樹も相変わらず余裕の結果そうで、孝太はぼちぼち、理緒は得意不得意の差が激しく、不得意にいたっては、赤点ギリギリの結果だったが、本人は赤点ギリギリでもギリギリセーフだった事にいたくご満悦の様子だった。
浩也はテスト後、バイトまで少し空いた時間で朋樹や孝太とダラダラと時間を潰す。そろそろ頃合かといった時間を見計らって、2人を連れ立って教室を出ると、通りすがりの女子達がなにやらワーキャー言っている。その2人は良く見るとこの前お店に来ていた伊藤と篠崎だと言う事に気付く。浩也が声をかけようかどうか逡巡しているうちに、2人が、こちらに気付いたのか、2人の内の1人、伊藤の方が話しかけてくる。
「あっ、高城君、わっ藤田君も。えー、孝太もいるの」
見事な三段活用である。そこで落ちである孝太が伊藤に突っ込みを入れる。
「おいこら、伊藤てめえ、俺を泣かしたいのか、むしろ泣いちゃうよっ」
「孝太の泣き顔なんて、キモいから見たくない。むしろ高城君と藤田君と並んで歩いて欲しくないんだけど」
すると辛辣な罵倒を伊藤が繰り出し、2人は罵倒の応酬を始める。そんな2人を尻目にもう1人の女子篠崎が浩也達に近寄り話しかける。
「あの2人、家が近所で小学校からの幼馴染なの。言い合ってる割に、仲が悪いわけじゃないんだけど、美由めんくいだから」
浩也も朋樹もそこで同意を求められてもなんとも言えず、思わず苦笑いをする。浩也は取り合えず孝太たちは置いておいて、猫かぶりモードで先日の来店のお礼を言う。
「そういえば篠崎さん、この前はご来店ありがとうございました。お店の方はどうだった?」
「ふふふっ、名前を覚えていてくれたんだ。ありがとう。お店も凄く良かったよ、ケーキも美味しかったし。美由は週末に家族でご飯を食べに行ったっていっていたけど、パスタも凄く美味しかったって。私も今度パスタも食べてみたいかも」
篠崎の好評価に思わず浩也も笑みを零す。素直に店を褒められるのは嬉しい。
「こっちこそ、また来てくれるのを待ってるよ。少しくらいならオマケもつけてあげられるから」
「うん、近いうちまた行くねっ。取り合えずケーキ全種類制覇が目標なの」
「そりゃ大変だ。一応季節で種類が変わるから、頑張ってね」
「うう~っ、そんなところに落とし穴が。お小遣いがもたないよーっ」
片や殺伐と、片や仲睦まじく会話をしている友人達の間であっけに取られていた朋樹だが、殺伐としてないほうの浩也の脇を小突き、声をかける。
「浩也、いつの間に井上以外の女子としゃべるようになったんだ?」
「ああ篠崎さんとあっちの伊藤さんはこの前店に来てたんだ。その流れでちょっと感想を聞きたくてな。それに別に理緒以外の女子ともしゃべるぞ。普通に」
浩也は少し不満気にそう答える。普段から積極的に女子と関わろうとは思っていないのだが、これもリピート客を捕まえる為の仕事の一環だと思えば、別に苦になる程のことでもない。
「ああでも少し判るかも。高城君って女子は井上さんとしかしゃべってないイメージあるよね。私ももっとしゃべり辛い人かと思ってたし」
篠崎も朋樹に同意するようにそんな事を言う。浩也としては、確かに付き合いの長い理緒は喋り易い相手だが、男子はともかく女子にまでそう思われているのは正直意外だった。まあしゃべり辛いというのは、言われ慣れているので特段気にしない。
「まあ自分から積極的に女子と会話しようという気概が無いのは認めるけどね。理緒の場合は向こうから話しかけてくるからな。ああ、むしろちょっかいをかけられるが正解か」
「はははっ、確かに。機嫌の悪そうな浩也に土足で踏み込んで暴れまわる感じだよな、井上って。まあ見てて面白いけど」
そんな浩也の率直な感想に朋樹も面白そうに乗っかってくる。篠崎はそんな2人の自然なやり取りに少しだけ顔を赤くする。イケメン同士の仲睦まじい姿なのだ。見てるだけで何故かテレてくる。そしてそんな篠崎の元に漸く罵声が一段落したのか、伊藤も合流する。
「ちょっと楓、人がブサイクの相手をしている時に、何うっとりしてイケメンを堪能しているのよ。私もそっちが良いっ」
「ちっ違うよ、そんなんじゃないよ。ただ高城君と藤田君の井上さん評が面白かっただけだから、う、うっとりなんてしてないから」
篠崎は顔を真っ赤にして、図星を指された事に動揺をしながら誤魔化す。伊藤はそんな篠崎をジト目で見ながら、そう言えばと思い出した様な顔をする。
「そう言えば、その井上さん。さっき三年生に告られてたよね。名前は知らないけど、多分男子バスケ部の人。ちょっとカッコいい人で良い雰囲気だったから、楓とさっき盛り上がってたんだ」
「そうそう、あっ、これって高城君にしゃべっちゃ駄目な奴だった?」
篠崎はついつい話に同調してしまったが、目の前にいる浩也を見て、しまったという顔をする。浩也はそのリアクションに苦笑して答える。
「その手の話は全然問題ないよ。この前も理緒に早く彼氏を作れと言ったばかりだしね。ただ3年の先輩って……、ああいやなんでもない。とにかく変な気を回さなくて良いよ。理緒とはただの腐れ縁だから」
伊藤と篠崎の2人は、浩也が全く動じていないのを感じて、ほっとする。浩也は3年生の先輩というフレーズに先日の会話を思い出し、言葉にしそうになるが、敢えて広める事でもないと思い、言葉を濁す。すると、その浩也の後ろから、伊藤に打ち負かされた満身創痍の孝太が、現れる。
「浩也、俺はもう駄目だ。俺はミジンコ以下だ。生きてる価値が無いんだ。一生童貞なんだ……」
「安心しろ、孝太。そんなお前の為に、朋樹がきっと幸せを運んでくれる。なあ、朋樹」
「ええーっ、そこで俺に振るの?まあ、考えてみるけど……」
「おおーっ、神様、仏様、朋樹様ーっ」
そんな3人のやり取りを篠崎は楽しそうに、伊藤は孝太に対して厳しい目で、「死ねばいいのに」と呟いていた。




