第七十五話
今別の連載にも手を掛けてまして、ファンタジーを書きたい熱でそっちにかかりきりとなっていました。
ちなみにタイトルは、
「たかが子爵嫡男に高貴な人たちがグイグイきて困る」
https://book1.adouzi.eu.org/n4269fv/1/
ラブコメ系の本作と違い、物語の進みが遅いのが、悩みどころですが、興味が有れば、見てやって下さい!
そうして浩也と有里奈は、コンビニ経由でホテルへと向かう。勿論、彼らは高校生。泊まるにあたり、フロントに事情を説明し、スマホのテレビ電話で、親の同意ありを説明し、何かあってもホテル側は一切責任を負わない旨の一筆をしたため、何とか宿泊に漕ぎ着ける。
いかがわしいという意味では、ラブホなども選択肢としてはあるのだが、正攻法でキチンとしたところに泊まる方が、健全だと考えたので、あえて難易度の高いミッションを優先させた。
部屋に着いたのはそれでも21時を回っており、思ったより時間を食ってしまった。浩也は取り敢えずベットに横たわり寛ぐ事を優先する。
「フフフッ、今日のデートはなんか盛り沢山だったね」
同じように隣のベットに腰掛けて、のんびりする有里奈も柔らかい口調だ。
「ああ、まあな。有里奈がナンパされるのは、最早お約束だけど、まさか帰れなくなるとは思わなかった。まあ明日のバイトも休みに出来たし、良かったよ」
浩也はやはり両親と同じように、帰れなくなった旨を由貴に伝え、バイトを休み了解をとっている。由貴からは、了解の意味のスタンプと頑張れの意味のスタンプの二つが送られている。一体何を頑張れなどと突っ込みを入れるが、それ以上はむしろ考えたら負けだろう。
「お陰で明日は、朝、急がなくても良いもんね」
まあ電車の復旧状況次第だが、のんびり出れると言う事であれば、電車も動く可能性が高いだろう。
「ふぁぁ、まあそうだな。少しのんびりしたいなぁ・・・・・・」
ベットに横になって、気が緩んだのだろう。浩也は不意に眠気に襲われる。そんな浩也を微笑ましく見ながらも、有里奈は優しく嗜める。
「ほらほら、ヒロ、まだ着替えも歯磨きもまだでしょ、眠いのはわかるけど、やる事やって」
浩也はもう一度欠伸を挟みつつ、グッと伸びをする。
「ハハッ、なんかうちの母親みたいだな。まあ、ちょっくら大浴場に行ってくるか」
「もう、そこはせめてお姉さんでしょっ、あっ、私も行くから一緒に行こう」
「はいはい、畏まりました。有里奈お姉ちゃん」
「うっ、やっぱそれもキモい。ちょっと待ってて、支度するから」
有里奈はパタパタと洗面所へ移動をし、浩也はそれを眺めながら、別に混浴でも無いので、別々でも良いんじゃないかと、漠然と思うのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後二人で大浴場に向かい、軽くお風呂に浸かって、部屋へと戻る。既に温泉にも入っているので、長風呂の必要がないのだ。
部屋に戻れば、寝るだけ。本来、若い男女であれば、色々と持て余すものがあるのだが、浩也は相変わらずの平常運転。二人でのんびりテレビを見ていたが、気付けば、寝息をたてていた。
一方の有里奈はと言うと、浩也ほど割り切れない。隣に大好きな人が寝ているのだ。勿論、いきなり襲い掛かられるとは思っていないが、何かこう甘い雰囲気的なものも期待していたのだ。なので、今現状に、酷く不服である。
『もう、ちょっといくら何でも何もなさすぎじゃない?』
実際に何かあったら、それはそれで、他の子たちに後ろめたさがない訳でもない。でもここまでスルーされると、自分の女子としての魅力が何か欠落しているのではないかと、勘ぐりたくなるのだ。
有里奈は一念発起して、少しだけ行動に出る。ベットはツインなので別々。今は隣のベットで浩也は寝息をたてている。そして静かに立ち上がり、浩也のベットを覗き込む。
浩也は横向きに寝ており、その顔は有里奈のベットの方を向いている。
『フフッ、ヒロの寝顔見るの久しぶりかも』
有里奈と浩也は家族ぐるみの付き合いの為、小さい頃からよく家族共々で、浩也の家に泊まる機会があった。大人は夜な夜な飲み明かしていたりするのだが、子どもの浩也と有里奈はそうはいかない。大抵は二人仲良く子供部屋に寝かされて、よく一緒の布団で寝ていた。
勿論、今の浩也の寝顔は、当時と違い大人の男の子それだ。浩也は男性としては綺麗な顔立ちをしており、寝相も良い。昔一緒に寝ていても、有里奈が抱きついていた事は何度かあったが、浩也が有里奈に抱きついたり蹴っ飛ばされたりした事はない。
ふっと浩也の唇に有里奈の目が止まる。有里奈と浩也のファーストキスは、幼少の頃に体験済みだ。証拠写真もある。勿論、母や由貴の様な身内は除いてだが。それでも他人としては、有里奈がファーストキスと言うのに間違いはない。でもそれは所詮、幼少期の事。ファーストキスに含めて良いものかと言われれば、微妙なところだろう。本当であれば、浩也からして欲しいものだが、この先、一生訪れないかもしれない。有里奈以外が選ばれたなら。
有里奈はそう考えると、いてもたってもいられなくなる。自分のファーストキスの相手は、浩也しか考えられないからだ。仮に他の誰かが選ばれて、自分も他の誰かとキスする事になったとしても、大切な初恋相手との思い出は欲しいのだ。
だからこそ、有里奈はその顔をゆっくりと浩也に近づける。
『いいのかな、でも・・・・・・、やっぱり』
葛藤がない訳ではない。これはちょっとしたズルだ。他の浩也を好きな女子達の事を考えると、抜け駆けになるのだろう。でも、それでも、という気持ちが湧いてくる。
すると横向きにだった浩也が寝返りをうって顔が上を向く。
『チャ、チャンス!?これなら少しくらいチュッとしても・・・・・・』
ここまでくるともう止まららない。有里奈は自分も浩也のベットに横たわり、浩也に覆い被さる様に、その顔を近づける。だがそこで浩也が反応する。
「ん・・・・・・?有里奈?・・・・・・ったく、しょうがないな・・・・・・」
薄目を開けた浩也が徐に有里奈を抱きしめると、有里奈に腕枕をして、抱きつきながら、再び寝息をたて始める。
『ちょっ、ヒロ〜〜〜っ!?』
抱きしめられた体は、浩也と密着し、無理に起きようとすると浩也を起こしてしまうかもしれない。慌てふためく有里奈は、どうしたら良いのか、混乱する。
『ふぁ、ヒロ、あったかい。えっ、ウソ、近い。あ、でも凄く嬉しい』
有里奈は落ち着き始めると、寧ろ今の状態に嬉しさが込み上げてくる。寝惚けた浩也は、有里奈が側にいても嫌がる事なく抱き寄せてくれた。側にいてくれて良いと態度で示してくれたのだ。キスは出来なかったけど、これはこれで有りだと思った。
だから有里奈は自分も離れない様に、浩也のシャツを掴み、そっと目を閉じた。朝起きた時に、浩也がどれだけビックリするかを楽しみに思いながら。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
浩也は左手に痺れを感じて、薄く目を開ける。カーテンから、薄く日の光が感じられたので、もう朝なのだろうと思い、ゆっくりと目を開ける。するとそこにはよく見知った顔がある。浩也の腕を枕代わりにして、スヤスヤ眠る幼馴染み。
『はっ?何これ?』
昨日の浩也の記憶では、テレビを見ながらウトウトし、恐らく寝てしまったのだろう。そこまではあやふやながら、記憶がある。ただその後は、寝てしまった為、当然記憶がない。
ちなみに着衣の乱れは双方になく、腕枕で寝ている有里奈は。浩也のシャツを掴んでいる。うん、そういった事は流石に無いな。そこ迄は冷静に考えられるが、何故有里奈が浩也の腕枕で寝ているか?については、全く判らない。
『有里奈がこっちのベットに潜り込んだか?』
結論としては、その線が濃そうだが、腕枕をしている事から、自分も寝ぼけてなんかしたかと思う。問題は何処までしたかだが、まあ相手が有里奈なので、何があっても問題にはならないだろうと内心で溜息をつく。
『腕枕で腕が痺れているのは、幸いだな』
浩也も高校男子である。それなりに持て余すものはある。まして寝起きであれば、自然現象の類もお盛んだ。ただ今は腕が痺れて良い意味で紛れている。ましてや隣に眠るのは、学年、いや学校でも有数の女子である。薄着のその柔らかい肢体が、寄り添っているのである。いくら身内枠とは言え、意識してしまえば、興奮せざるを得ないのだ。
『いくらなんでも無防備過ぎるだろう』
これが浩也の正直な感想だ。反面、浩也だからこそ無防備だと言うのもわかる。もしそうなっても良いと思ってくれているのだ。勿論、浩也としては、誰彼構わず、とはいかない。自分の気持ちに決着をつけるまでは、何かをして、傷つける訳にはいかなかった。
すると今度は、有里奈の方が、薄目を開けて、ぼんやりとする。
「エヘヘ〜、ヒロだ〜」
寝惚けた彼女は緩みきった笑みを見せながら、浩也に思いっきり抱きついてくる。薄着の姿で抱きつかれた事で、否応なしに有里奈の柔らかい部分がダイレクトに伝わってくる。
「わっ、有里奈、バカ、やめろっ」
折角抑えていた色々が、色々大変になる。慌てた浩也は、有里奈をなんとか引き離そうとするが、寝惚け、幸せ絶頂の有里奈には、浩也のその声は届かない。
こうして有里奈がキチンと覚醒し、恥ずかしさで悶絶するまで、浩也の男の子の苦悩は続くのであった。
そうして二人は、朝の一悶着はあったものの、朝食を食べて、無事チェックアウトを済ます。電車も夜のうちの復旧作業で、朝から通常運転になっており、浩也達は安堵して帰路につく。そうして電車を乗り継ぎ、家の近くに着いたのは、それでも昼前。浩也は伸びをしながら、隣を歩く有里奈に話しかける。
「そう言えば、志望校見学って、行き先は決まったのか?」
以前話した時に、キャンパス見学を約束していたのを思い出し、なんとなく話題にする。
「うん、志望校はあらかた絞ったよ。本命は、明和女子大にしようと思って」
言われた大学名は、女子大の中では、TOPクラスの偏差値を誇る名門女子大だ。まあ優等生の有里奈なら、届かない学校では無いのだろう。すると浩也が渋い顔を見せる。
「えっ、キャンパス見学って、もしかして女子大?」
「あっ、そっちはしずと行くから大丈夫。ヒロとは、共学の希望校に付き合って貰うつもり。一応、青学と立明館の予定ね」
共にまあ電車で通う分には通える範囲であるが、微妙に遠くもある。
「まあ片道1時間から1時間半ってところか。俺も大学入ったら、通うか一人暮らしか考えないとな」
「えっ、ヒロ一人暮らしするの?」
すると一人暮らしというキーワードに、驚く有里奈。有里奈自身は一人暮らしという選択肢を全く考えていなかったので、浩也が遠くに行くかと思い、ビックリしたのだ。
「ん?いや可能性としてはあるかも程度だな。大学行ったら、バイトも変えなきゃいけないだろうから、大学近くに住んだ方が便利だしな」
「なら、もし一人暮らししたら、遊びに行ってもいい?」
「有里奈が彼女なら問題ないけど、そうじゃ無いなら問題じゃ無いか?」
「そこに幼馴染み枠は?」
「無いな、俺はともかく、相手がOKしないだろう」
そう言って浩也は呆れた顔をする。それはブーメランで、有里奈が彼女となった後、理緒や陽子が入り浸るのと同義だ。どっちにしろ無しだろう。
「うーっ、やっぱ彼女にして貰うしか無いね。ヒロ、またどっかに泊まりにいこう!」
「はいはい、もう夏休みも終わりなので、そんな機会はございません。つーか受験生、勉強しろっ」
なんだか最後の最後で、またまた疲れることになる浩也だった。
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