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第七十四話

すいません、随分久しぶりの投稿となりました。今別の連載にも手を掛けてまして、ファンタジーを書きたい熱でそっちにかかりきりとなっていました。

ちなみにタイトルは、

「たかが子爵嫡男に高貴な人たちがグイグイきて困る」

https://book1.adouzi.eu.org/n4269fv/1/


ラブコメ系の本作と違い、物語の進みが遅いのが、悩みどころですが、興味が有れば、見てやって下さい!

「うおお〜ああぁ」


 浩也の口から深い溜息が溢れる。今は日帰り温泉のいくつかある温泉の露天風呂。空を見上げると夕焼け空が広がっており、反対側の空からは、夜空の星がチラチラと見え始めている。


 思い返せば、今年の夏は怒涛と言うに相応しい出来事で満載だった。陽子達との再会に始まり、飛鳥の告白からミスコン告白まで途中、

理緒とデートとかもしたっけ。


 浩也はそう考えると色んな女子と遊んでいる駄目な奴に自分が思えて、少しグッとくる。ただ、この状況、どないせいっちゅうねんと自分にツッコミを入れる。


 多分、誰も告白をしてこなければ、流れで有里奈と付き合っていただろうと思うのが本音だ。付き合いも長い、気心も知れている。家族がゴールと言うなら、既にゴールにいる様なもんだ。


 ただ本当に有里奈がそれで良いのかと思うと、もう少し色々なものに目を向けてもいいのではと思わなくもない。それは自分が決めることでは無いが、有里奈にとって自分以上の存在がいないとも限らないのだ。


 いや、この考えは駄目だな。有里奈が誰を1番に思うかは、やっぱり彼女が決めることだ。自分はその気持ちにどう答えるかだけを考えないと。


 温泉で1人のんびりと浸かっていると考えがどうどう巡りになる。浩也は、ざばぁと湯船を出ると、露天風呂を後にする。


 浩也は温泉をあがって、待ち合わせ場所につくとスマホを取り出してのんびりと有里奈を待つ事にする。湯上がりの水分補給にスポーツドリンクを買っており、それをグビリと飲むと、スマホ立ち上げ、のんびりとニュースを眺める。


 ニュースは、政治家の失言問題やら、コンビニ強盗事件やら、まあこれといって興味をそそるものは無い。ならとばかりに、帰りの電車の時間でも確認するかと、乗り換え検索のサイトを開こうとしたところで、有里奈から声がかかる。


「ヒロ、お待たせ。結構待たせちゃった?」


「うん?そうでも無いぞ。ここの露天風呂気持ち良くてさ、ついつい長風呂しちゃったよ」


 すると有里奈もそうだったようで、話を合わせてくる。


「そうそう、丁度時間帯も良かったのか、空も綺麗でね〜」


「確かにな。そうそう、晩飯、ここで食べていくんだろ?そろそろ行こうぜ」


 浩也達は少し早いが、施設に併設された食事処で夕飯を済ませて行く予定だったので、そう声をかけて、食事処に移動する。


「ああうん、私は何食べようかな」


「俺はもう決めてる。ガッツリ、カツカレー大盛りにする」


 メニューを眺めながら悩む有里奈に対し、浩也は、悩む事なく断言する。


「もう折角温泉に来てるんだから、それらしい物にすれば良いのに」


 そう文句の言う有里奈に対し、浩也はニヤリとする。


「高校男子は質より量だろう。まあ、肉の名産なら、確実に頼むけどな」


「はいはい、ヒロは昔からそうだよね。なら私はこの山菜の天ぷらのお蕎麦にしよっと」


 昔から浩也は、土地のものとかより、自分の食べたいものを優先する。有里奈はそんな浩也に呆れながら、自分は土地の名産を優先する。


「おっ、有里奈なかなか良いチョイスだな。俺のカツと一つトレードしようぜ」


「もー、お蕎麦にカツは合いません。トレードは、はい却下します」


「ちょっ、有里奈、彼女のくせにケチくさいぞ」


「こんなどうでもいい時だけ彼女扱いしてっ、本当に幼馴染の扱いがなってないんだから」


 有里奈は、そう不満顔を見せつつも、届いた料理を前にして、思いついたとばかりにニヤリとする。


「じゃあ、しょうがないから1つあげるわよ、

はい、あ〜ん」


「あ、あ〜ん!?」


 有里奈の攻撃は、まさかのあ〜ん攻撃。これによって照れる浩也を眺める算段だ。ただそこは浩也も慣れたもの。照れることなく、素面でそれをパクリと食べる。


「お、美味い!なら俺もお返ししないとな」


 今度は浩也がニヤリとする番。しかも浩也は更に上乗せをする。


「有里奈、間接キスになっちゃうけど、はい、あ〜ん」


 すると有里奈は耳まで真っ赤にして、照れる。


「ふぇ、か、間接キスって、あっこの箸も、もう・・・・・・」


 その光景は、側から見るとただのバカップルである。ただし、本人達には日常であり、こういう関係が浩也の女性慣れを培うものだと、陽子あたりが見たら、確実に呆れるものだった。


 食事も終えて、いざ帰宅するべく、バスで駅まで移動する。時間はなんだかんだ20時を回っており、少し遅い時間になってしまった。


「今からだと家に着くのが22時位になっちゃうか」


 浩也はそう言って、バスに揺られながら、帰りの電車の時間を見るべく、さっき開きかけていた乗り換え検索サイトを表示させる。


「うげっ」


「えっ、ヒロどうしたの?」


 サイトを見て何やら呻き声を上げた浩也に有里奈は何事かと聞いてくる。


「人身事故。どうやら電車止まってるっぽい」


「え、そうなの?今日帰れない?」


「まあ、駅まで行ってみないとわからん。ほらこの線、本数少ないから、そのまま本日運休とかになると、帰れなくなる」


 まあこればかりは事故なので、ついていないとしか言いようがない。二人は、仕方がないので、バスでは大人しくして、駅に着いたと同時に、駅員がいる場所へと急ぐ。


「あ、あの、今日電車って?」


 駅員は申し訳なさそうな顔をして、謝罪をしてくる。


「申し訳ありません。踏切でトラックが往生してるみたいで、今日はもう運休が決定してしまって」


「ああ、そうですか?明日は動きますかね」


「動くと思いますが、時間までは約束できないです。なるべく早期復旧が出来るよう頑張っていますので、ネット等で進捗を確認していただければと思います」


 浩也はそこで有里奈に向き直る。


「有里奈、今日はどっかで泊まりだ。ちょっと今から場所探すから、和美さんとかうちに連絡入れてくれる?」


「うん、わかった」


 浩也は早速とばかりに、ホテルの検索にかかる。幸い近隣に温泉街もある街なので、ホテルもいくつか候補がある。その中で浩也は比較的有名なビジネスホテルチェーンを見つけ、部屋の空き情報を確認する。結果、シングル二部屋は空いていない。ツインとダブルなら空いているようだ。そこで一旦、有里奈に確認を取る。


「有里奈、ツインかダブルなら空いてそうだけど、流石にダブルは不味いだろうから、ツインでいいか?」


 すると有里奈は、顔を赤らめながら、ジッとスマホ画面を見ている。浩也は、訝しげな表情になりながら、もう一度有里奈に、声をかける。


「おい、有里奈?」


「ふぇっ、はい、私はヒロとなら、あっ、いや、その、何?」


 浩也はどうせ和美さんか自分の母親かに揶揄われたのだろうとあたりをつけ、呆れた表情になる。


「いや、ホテル、シングル二部屋は空いて無くて、ツインとダブルなら空いているけど、ツインで良いかという話。ちなみに母親ズの言う事は無視をしておけ」


「いや、そのお母さん達、何にも言ってないよ。二人が結ばれても、むしろ歓迎とか、明日は赤飯とか、全然言ってないからねっ」


 語るに落ちるとはこの事だが、浩也は一旦、スルーする。ここはツッコんだら負けのパターンだ。


「で?」


「へ、何?」


「だから、ツインで良いかと言う話。一体何を聞いてるんだ、有里奈は?」


 有里奈は少しバツの悪い顔をして、乾いた声を零す。


「ハハ……、うん、……ダブルでもいいよ?」


「却下だっ、ったく、やっぱ、シングル二部屋探すか。身の安全を考えないと」


 浩也が憤然として、シングルを探そうかとスマホを操作し始めると、有里奈が慌てて、それを遮る。


「ツイン、ツインにしよ!折角なのに別々の部屋はやだよー、寂しいよー」


「はいはい、じゃあツインを予約、ポチッと」


 元々、浩也はツインの部屋を抑えるべく、スマホの画面を一切動かしていなかった。なんだか話の進まない有里奈に対して、業を煮やして、脅しただけだった。だからあっさり処理を終えて、ニッコリと微笑む。


「じゃあ、近所のコンビニで買い出しをして、さっさとチェックインしようぜ。一応、最上階に大浴場もあるみたいだから、堪能しないとな」


「うっ、ヒロ、最初から、私の意見きく気がなかったでしょう?もう、私一人ヤキモキさせて、ヒロのバカ」


 まあ選んだ選択肢は最善だと思っていたので、別に何を言われようが、気にはしないのだが、そう言えば今日は彼女だったよなと思い出す。なので、拗ねる有里奈のその手を握り、優しく言う。


「シングルを無理に探さないで、ツインにしたのは俺の我が儘だぞ。一緒にいたいと思ったのもな。流石にダブルは不味いと思ったのは、常識的判断だ。それが不満か?」


「もう本当、ヒロはズルイ、この女たらし」


 有里奈はそう言って不満顔を見せるが、手を離さないで、そのままその手に抱きつく。結局、浩也も一緒にいたいと思ってくれた事が嬉しくて、いつもの有里奈に戻るのだった。


もう2、3話は書き溜めました。引き続き応援宜しくお願いします!

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