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第七十二話

有里奈回。今回は有里奈がかなり積極的に行動するターンにしようと思っています。浩也君の心持ちが大きく変わるかが、ポイントになります。

そんな飛鳥とのデートの後、今度は有里奈とのデートの日となる。浩也は我ながら、日替わりで違う女子とデートをする自分にやや呆れた気分になるが、今、現時点では、こればっかりは最早宿命と受け入れるしかなく、だったら誰か一人と付き合えばいいじゃんと心の中のもう一人の自分がささやくが、じゃあ誰にするんだと言い返すと、もう一人の自分も愛想笑いを浮かべフェードアウトするという、何の解決にもならない1人コントを頭の中で思い浮かべていた。


「ヒロ、ヒーロー、聞いてるのっ?」


「うわっ、あ、有里奈か。ああ、おはよう」


完全に上の空で、有里奈が近くに来たことに気付かなかった浩也は、油断をして思わず、声を上げる。


「?う、うん、おはよ。どうしたの?」


「ああ、いやなんでもない。ちょっとボーッとしてただけだ。それより、なんでわざわざ駅で待ち合わせなんだ?面倒くさい。有里奈ん家のエントランス待ち合わせで良かったろうに」


「駄目、駄目、それじゃあいつもと変わらないじゃない。今日は彼女っぽくデートをしたいの。ヒロも彼氏っぽく振る舞ってよね」


有里奈はそう言って、顔を綻ばせる。我が幼馴染は本日、彼氏設定をご所望らしい。ちなみに普段と彼女設定との違いが良くわからない浩也は、少し首を傾げる。


「んー、まあ彼氏設定は別にいいけど、具体的に彼氏って何をするんだ?」


「ふぇっ、そ、それはその、手を繋いだりとか?名前で呼んだりとか?」


「?それって普段と何が違うんだ?手も繋いでるし、名前でも呼んでるだろ?」


「うっ、そ、それはそうだけど、今日の私は彼女。ま、まずは気持ちだけでも彼氏っぽく振る舞ってよね。わ、私も彼女っぽく振る舞うから」


有里奈は半ば逆切れ状態で、そう宣言する。浩也はとしては、行動としては余り変わらないので、まあ幼馴染ではなく、ん?幼馴染の彼女か?と変なところで引っかかる。


「なあ有里奈、その場合、幼馴染の彼女って話だろ?幼馴染で彼女って場合、心持ちはどっちの方が、比重が大きいんだろうな?幼馴染か?それとも彼女か?」


「はあぁ、また変なところで引っかかって。私は彼氏が比重が大きくて、彼氏の要素に幼馴染があるって感じかな。って、それ重要なの?」


有里奈も浩也との付き合いが長いだけに、時おり変なところで引っかかる浩也の性格をよく知っているので、少し呆れつつもきちんと回答する。浩也はなら今日は彼女でその要素に幼馴染という有里奈の心持ちに乗っかる事にする。


「んーまあな、有里奈が彼女、有里奈が彼女、うん、なんとなくイメージが付いた。ああ、それで今日はどこに行くんだ?ちなみにこの前、飛鳥と映画を見たので、それ以外で頼む」


「ふふふっ、今日はデートなので、水族館に行くことにします。イルカやペンギンが私を待っているのです」


有里奈はそう言って、ノリノリで返答をする。何やらテンションが微妙に高い。


「水族館?イルカショーとかやるような奴だと結構遠出になるな。場所は調べてきたのか?」


「勿論、しかも今日は上り側の水族館じゃなくて、下り側の水族館にチャレンジします。それと帰りに温泉に入って行こうよ」


「温泉?あーそうすると、海側のあの水族館か?そういえば、昔、家族同士で遊びに行ったな」


浩也はそう言って、少し昔を懐かしむように有里奈に言う。有里奈も浩也が覚えていたことに満足そうな表情を見せて、うんうん頷く。


「そう、この前、お母さんと話をしてて、それでちょっと行きたくなっちゃったの。お母さんもヒロとだったら、多少遠出でも何も言わないしね。という事で、今日は水族館アンド日帰り温泉ツアーとなります」


「はいはい、了解。それじゃ有里奈、行こうか」


浩也は有里奈にそう言って、有里奈の前に左手を差し出す。有里奈は嬉しそうにその手を握り、寄り添うように歩きながら、二人は改札へと向かった。


乗った電車は日中の下り方面という事もあり、比較的空いている。二人はのんびりとした風景の中、並んで席について、目的地へと向かう。この前、キャンプに行った駅は終点の駅からバスでの移動だったが、今回は途中で下車をし、乗り換えて目的地である水族館のある最寄の駅へと向かう。


「そういえば、前に行ったときは電車は使ってなかったよな」


浩也は昔の事を思い出しながら、隣に座る有里奈に話かける。


「前の時は、ヒロのお父さんに車を出してもらって、うちの家族も乗せてもらって行ったよね。私もヒロも帰りは疲れ果てて、車の中で寝ちゃって、気が付いたら家の前についていたのを覚えてる」


「ああ、そうだったな。有里奈がやたら、イルカとペンギンの前でテンション上げて、俺もそれに連れまわされたんだっけ。そういえば、その時買ったイルカのキーフォルダー、部屋を探せばどこかにあるな」


「ああ、そうそう。お揃いでキーフォルダー買ったよね。ちなみに私はちゃんと部屋に置いてあるよ。大事な思い出だからね。誰かさんみたいに、そこらへんにほっぽいたりしないから」


有里奈はそう言って、少し得意気な表情を見せる。別に浩也も適当にしているわけではないのだが、あの手の小物は特段意識して保管しているわけではないので、ついつい、どこに置いたか忘れてしまうのだ。


「いや、ちゃんと部屋にはあるはずだ。別に捨てた記憶もないからな。でも気が付いたら、そうやって有里奈とお揃いで買ったものとかって、結構、増えたよな。なんだかんだ、どこか行くたびにそういうものを買ってる気がするぞ。ああ、でもどっかの土産屋さんで木刀買おうとしたら、それはお揃いを拒否されたっけな」


「当たり前でしょ。女子になんてもの買わせようとしてるのよ。あれ、でもヒロ結局木刀って、買ってないよね?」


「その時は言うほど、魅力を感じなかったからな。でも中学生の時の修学旅行では真剣に悩んだけどな。ただ持って帰ると理緒とかに馬鹿にされそうだったから、結局買わなかったんだ」


「ふふっ、理緒ちゃん、ナイスだね。陽子ちゃんも呆れそうだし」


浩也がそう言って渋い表情を見せた後、その表情を見て有里奈が楽しそうに合いの手を入れる。


「そういう意味ではあの二人は遠慮ないよな。飛鳥とかは渋い表情を見せるけど、結局許してくれそうだし」


「飛鳥ちゃんは、そう言う意味ではヒロにまだ遠慮があるのかもね。私も幼馴染で付き合いが長くなければ、そこまで強く言えない気がするし」


有里奈にして見れば、幼馴染である浩也との関係に遠慮はいらない。むしろ遠慮をしたら浩也に気を遣わせてしまうだろう。気を遣ってくれる事自体は嬉しいのかもしれないが、有里奈としては普段のままの浩也と一緒にいたい。だから、自分も素のままで浩也と過ごしているのだ。


「ははっ、確かに。有里奈は俺以外の男子とかだったら、間違いなく強気には出れないだろ。まあ、俺にしてみれば、今の有里奈の方が馴染みがあるし、好きだけどな」


「ふぇっ、す、好きって、その、どうもありがとう」


「有里奈、動揺しすぎだろ。いくら幼馴染だからって、好きでもないヤツと遊びに行ったりしないぞ。まあ、好きにも度合があるけどな」


浩也はそう言って、少し呆れを滲ませながらも、正直な気持ちを言う。そんな浩也を有里奈は少しテレながらも顔を膨らませて睨む。ただやはり真剣に怒る事は出来ないのか、ちっとも怖くはない。


「もう、ヒロの意地悪。ちょっと位、夢を見させてくれたっていいじゃない。今日は彼氏なんだから」


「ははっ、そういえば、そうだったな。いかん、いかん、つい幼馴染比率が高くなってしまった。やっぱ、有里奈の彼氏って、難しいな」


「ええー、別に難しくないよ。ヒロの事だから、相手を決めたら、他の女子と遊びに行ったりはしないでしょ。そしたら私だけの彼氏にちゃんとなれるもん」


「あー確かに。付き合ってる感は若干乏しいかもしれないけど、そうなったら、そうなるのか。目から鱗だな。そういう考え方は無かったな」


確かに有里奈に言うとおり、有里奈に限ってだが、付き合ったら他の女子とは個別で遊びに行ったりしなくなるだろうから、今の延長線上で幼馴染が恋人に名称が変わるだけなのかと妙に納得をする。他の女子達は今の関係がただの友達なだけに、恋人になると友達ではなく恋人に変わるが、幼馴染は恋人でも幼馴染なのだ。そこは大きく違う気がした。


「ふふーん、そうでしょ。多分、私とヒロって、付き合ったとしてもそんなに関係が変わらないかもしれないけど、でも私は私だけの彼氏になってもらいたいの。ヒロ、そこのところ、よろしくね」


「へいへい、まあ参考にさせて頂きます」


浩也は、そう言って、あえて適当に返事をする。今、自分にできる精一杯の返答がそれだ。勿論、話はちゃんと聞いているし、有里奈の思いも理解している。別に今に始まった事ではなく、ミスコンでキチンと意思表示をされる前から、わかっていた事なのだ。でも今は、明確に自分の気持ちが定まっていない以上、きちんとした返事をする事は出来なかった。勿論、有里奈もそれはわかっているので、自分の精一杯のアピールをする事にとどめ、やはり顔を膨らませつつも、文句は言わずに浩也の腕にしがみ付くのだった。


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