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第七十話

すいません、間が少し空きました。今気分転換に短編を書いているのですが、短編と言いつつ、思いのほか字数がかさみ、3話構成とかになりそうで、思いのほか時間を取られています。今週位にはアップできそうなので、できたら、是非読んでやって下さいませ。

夏休みも終盤に差し掛かり、浩也には怒涛のスケジュールが組まれていた。まあそれでもバイトに勤しみ、宿題もほぼ終わらせている為、浩也の日常はそう大きな変化はないのだが、何よりその合間に組まれている、浩也に好意を持っている女子とのデートがそのスケジュールを怒涛たらしめていた。そしてその先陣を切るのが、飛鳥とのデート。飛鳥とは初めて二人きりで遊びに行く約束をし、今、浩也はその彼女との待ち合わせ場所に来ていた。


「浩也先輩、お待たせしました」


浩也が待ち合わせ場所についたのは、待ち合わせ時間の10分前。そして今、時計は待ち合わせ5分前をさしており、浩也は特段、まってはいない。なので、笑顔で飛鳥に(かぶり)を振る。


「いや、今さっき来たとこだ、ってなんかこのセリフもベタだな。いや、ほんと、今さっき来たんだぞ」


「やだなー、そんなところで疑ったりしませんよ。でもこうして待ち合わせして遊びに行くのって、ほんとデート見たいで、少しだけテレますね」


浩也の変な言い訳に飛鳥は少し苦笑しながら、それでも嬉しそうに頬を染める。今日の飛鳥の服装は、少しだけ頑張っておめかししましたといった服装で、淡い青色のワンピースに、可愛らしい白のリュックを背負っている。足元も少しだけヒールのあるサンダルで、いかにも夏の女子らしい装いだ。


「何言ってんだ、今日はデートだろ?一応、俺もそのつもりで来てるんだから、今日は一日よろしくな」


「はい、任せてください。今日一日で浩也先輩をメロメロにしてやります」


「ははっ、そこはお手柔らかに。で、今日は何をするんだ?」


今日のデートは飛鳥がやりたいことをするデートとなるので、基本浩也はどこで、何をするのかは知らない。そういえば、以前理緒と出かけた時も、同じように何をするかわからずに、待ち合わせに来たなとふと思う。


「うーん、正直色々考えたんですけど、普通のデートがしたいなって思ってます。なので、今日は映画を見て、ウインドショッピングして、カフェでお茶して、最後にのんびり公園でくつろいでなんて思ってるんですけど、どうでしょうか?


飛鳥はそういって少し、不安げな様子を見せる。浩也としては、飛鳥の事をより知る為のデートという意味合いもあるので、特段不満はない。どちらかというと素の飛鳥が見れるのなら、大歓迎だった。


「いいんじゃないか、普通のデートで。ちなみに何の映画を見るんだ?」


「邦画で恋愛もので、見たいのがあるんです。少女漫画が原作の実写版映画で、私、その原作を読んでいたので、それが見たいんですけど」


「ああ、了解。俺は基本、雑種だからえり好みはしない。恋愛だろうが、ホラーだろうがなんでも楽しんでみる派だ。映画が気に入ったら、下手したら原作に手を出しかねん」


浩也はそう言って、大真面目な顔で了承する。すると飛鳥は嬉しそうに、浩也を見る。


「もし気に入ったら、私が漫画貸してあげます」


「ああ、それは嬉しいな。あっ、でも学校の昼休みに俺が少女漫画とか読んでたら、結構シュールな絵だな。朋樹とかめっちゃ笑いそう」


「フフフッ、それなら是非、学校に持っていきますね。私もその絵に興味あります」


浩也の感想にのってきた飛鳥は少しだけからかいを含んだ声で、浩也に言う。浩也はそれを優しい笑顔で受け止めて、飛鳥に言葉を返す。


「なら映画の査定は厳しめにしないとな。迂闊に気に入ったら、飛鳥にも笑われる。っと、ならそろそろ行くか」


浩也はそういうと飛鳥にその左手を差し出す。飛鳥は呆然とした表情でその左手を眺め、急に顔を真っ赤にさせる。浩也はその反応に少しだけ意地悪な顔を見せていう。


「デートなら手を繋ぐ位はした方がいいのかと思ったが、繋がない方が良かったか?」


「むー、浩也先輩のイジワル」


飛鳥は顔を真っ赤にさせながらも、自分の右手で浩也の手を握る。浩也は握られた手を優しく包み、軽く恋人繋ぎに繋ぎ方を変える。飛鳥は顔を俯かせて、耳まで真っ赤になる。


『わっわっ、浩也先輩と手繋いでる、あっ恋人繋ぎ』


内心、嬉しさと恥ずかしさで完全に飛鳥は思考停止に陥る。浩也は、別に慌てる必要はないので、ゆっくりと飛鳥が起動しなおすのを待つ。しばらくして、飛鳥が気合いを入れ直すような、声を出す。


「よ、よし、さ、さあ、浩也先輩、行きましょう!」


「おう、飛鳥、今日は楽しむぞ」


そうして、顔を赤らめつつも、やはりその表情は嬉しそうな笑顔を見せる飛鳥に対し、浩也は優しい笑顔で宣言した。そうして二人が歩き出す。2人が向かったのは、商業施設の中にあるシアターで、近隣には、海の見える公園もあり、今回のデートには、うってつけの場所だった。お目当ての映画は、原作が少女漫画の実写版ということもあり、女性客が中心で、男性はほぼカップルの片割れだった。浩也は内心、男一人なら相当気後れするなと思ったが、今は隣に飛鳥がいるので、普通にカップルとして見られているのか、あまり周囲には変な目で見られるようなことはない。時折、女子だけのグループから、何やら羨ましげな目線を送られるが、まあやっぱ、女同士よりからは、カップルで来たいものなのかと、漠然と考えていた。


「浩也先輩、どうしました」


そんな周囲の視線を気にして、不思議そうな顔をしている浩也を見て、飛鳥がきょとんとした顔で、浩也に話しかける。浩也もちょっと気になったので、素直に飛鳥に女子の意見を聞いてみる。


「いや、女子ってやっぱこういう映画って、彼氏と見に来たかったりするものなのか?なんかチラチラ羨ましそうに見られている気がするんだよな」


飛鳥が浩也の言葉を聞いて、周囲の女子達を見ると、飛鳥とは目線を合さないように、その女子達は目線をそらす。飛鳥はそれで合点がいったとでも言わんばかりの表情になり、浩也の腕にしがみ付く。


「お、おい、飛鳥?」


「ちょっと我慢してください。これは周囲への威嚇行動です。多分ですが、周囲の女子、カップルを羨ましがっているわけではないみたいなので」


「ん?どういう事だ?」


浩也は意味が分からず、飛鳥に質問を返す。飛鳥は少しだけ呆れた顔をしつつ、鈍い浩也にどう説明したらいいのか、思わず悩む。キチンと説明すべきか、誤解をさせたままにすべきか。ただ飛鳥も先人達と同様に、後者を選ぶ事にする。モテないと思ってもらう方が、無駄なトラブルを増やさなくていいからだ。なので、ニッコリと微笑んだ後、飛鳥は浩也に言う。


「さあ、どう言う事でしょう?ただ言える事は、こうしていた方が、彼女達もいい刺激になりますし、何より私が嬉しいので、これでいいんです」


「お、おう。まあ、飛鳥が良いなら別にいいか」


浩也はそう言って、手に持ったパンフレットを眺め出す。そんな浩也の様子を見て、飛鳥は、これが浩也と一緒にいる時の苦労かなどと、内心でため息をついた。


そして上演、映画を観終わった後、二人は商業施設内にあるカフェで一息をつく。カフェは全国チェーンのありきたりなカフェで、夏休みということもあり、思った以上に混んでいた。浩也たちは先に席を確保し、浩也が飲み物を買いに行って、飲み物をトレーに乗せて戻ってくると、飛鳥が何やら真剣な表情で今見た映画のパンフレットを眺めている。


「飛鳥、お待たせ。って、どうしたんだ、そんなにパンフレットをガン見して」


「あっ、はは、すいません。飲み物買いに行って貰ってしまって」


「いや、それは別に構わないんだけど?」


浩也はそう言って、飛鳥の前に飲み物を置いてあげながら、訝しげな表情を作る。すると、質問の続きを聞きたいのだろうと飛鳥が、苦笑しながら説明をする。


「ほら、さっきの映画、原作の漫画をみてたって言ってたじゃないですか。やっぱり実写版だと少し違和感があって、キャラのイメージがそのしっくりこないっていうか。話自体はすごく良く再現されてたんですけど、俳優さん、もう少し何とかならなかったのかなー、てつい思っちゃって」


「へえ、そんなにイメージと違うのか?俺は普通に恋愛映画として見てて、面白かったけどな。ただ時々、なんでここで笑うんだってところで、飛鳥も笑ってたろ?あれってやっぱ、原作知ってるから笑えるポイントなんだろ?」


「ああ、はい。そうですね。そこ映画のシーンだとそんなに面白いところでもないんですけど、漫画だと、思わず笑っちゃうところというか、あのキャラの女優さんはすごくイメージ通りだったんですよね」


飛鳥はそう言って凄く楽しそうに話だす。映画自体はそう奇をてらったような作品ではなく、オーソドックな学生、青春を謳ったような恋愛映画だ。登場人物は男子がサッカー部同士の親友で、同じクラス。二人に共通の幼馴染がいて、そこに可愛い訳ありな転校生がやってきて、4人それぞれの恋模様が描かれるといった内容だった。キャラを見ていて、主人公とその親友は、なんだか自分と朋樹のような関係だなと思ったし、幼馴染は、有里奈でも理緒でもなく、なんとなく陽子っぽく、ヒロインの転校生キャラは飛鳥に近い気がした。


「ちなみに飛鳥がイメージと違うって言っていた男子のキャラはどっちだ?主人公?親友?」


「主人公です。親友の方は、イメージに近いと思ったんですけど、主人公の方は、なんかあんなチャラい感じの人じゃなくて、もっとクールで優しい感じというか、少しとっつきにくい感じというか、うーん、私がいつも想像している感じの人と違うんです」


飛鳥には何やら、飛鳥なりに思い描いている人物像があるようだ。正直そこまで言われるとなんだか、どんな話なんだか、原作が気になってくる。


「なんかそこまで、言われると、原作を実際に見て見たくなるな。そうそう、あの転校生って、なんか飛鳥っぽいとも思ってたんだ」


「ふぇっ、あ、あの、その、ありがとうございます。私もあのキャラ大好きなんで、嬉しいです」


ちなみにそういわれて、テレる飛鳥を見て、浩也は少し不思議そうな顔をする。実はその転校生は主人公と最終的に結ばれるハッピーエンドが用意されている。そして原作を読んでいた時、その主人公のキャラと浩也を飛鳥は重ねており、飛鳥にしてみれば、浩也こそあのキャラに一番近い人物像だった。だから浩也に言われて、転校生と主人公が結ばれる展開を想像し、思わず顔を赤くする。ただそんな飛鳥の内心を知らない浩也は、ただただ、首をかしげるのだった。


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