第六十九話
今回は陽子のお姉さんとの話。ちなみにフラグは立ちません!
その後浩也は、陽子とまいと朝食を取りながら、他のメンバーが起きるのを待つ。最初に朋樹がやってきて、その後、春香や理緒ら女子メンバー、遅れて男子メンバーもやってくる。コンビニに買い出しに行くものや、昨日のうちに何かしら用意していたメンバーもいた為、朝食はバラバラにとっている。その後は、帰るのは午後になってからとなっており、予定通り、午前中はのんびりとした時間を過ごしながら、いよいよキャンプ場も終わりと告げる。
「どうもお世話になりました」
陽子の姉である引率者の京子が、佳樹の祖父にお礼の挨拶をした後、他のメンバーもそれに続く。
「「「お世話になりました」」」
「なんの、なんの。又、いつでも遊びにおいで」
佳樹の祖父はそういって、顔をほころばせる。結局、佳樹の祖父には世話になりっぱなしだったが、それでも優しげに微笑んでくれる。いい意味で佳樹もそういう存在を目指して欲しいと、なんとなく思う。
その後、メンバーは行きと同じくバスに乗り、今度は上り始発の電車に乗って帰路へとつく。行きとは違いまいも陽子に抱えられ、今はぐっすり眠っており、そのまいを抱きかかえる陽子とその隣に座る理緒もまた、まいにつられるように寝息をたてている。浩也はというと、元々、浩也の隣にまいがいたのだが、まいが船を漕いだタイミングで抱っこした為、今はBOX席の廊下側の席で一人、ぼんやりと周囲を見ている。朋樹と春香は起きて何やらのんびり会話しており、その他のメンバーも寝てたり、スマホをいじったりとあまり音も立てないような行動をとっている。そこで浩也も大きな欠伸を1つすると、後ろの席から肩をトントンッと叩かれる。
「浩也君、いま暇でしょ?ちょっとお姉さんと話しましょ」
浩也に話かけてきたのは、陽子の姉の京子。今回の引率者で、まいの母親でもある。浩也は少し警戒するような口調で、取りあえずはその話にのる。
「話ですか?まあ、今みんな寝てるんで、良いですけど」
浩也はそう言って京子の前の席に移動すると、席に着いたタイミングで京子が話出す。
「浩也君、今回はまいの面倒を見てくれてありがとうね。一度ちゃんとお礼をしておかなくちゃと思って」
そう言って母としての穏やかな笑みを見せて、お礼を言ってくる。浩也は少し警戒した自分を恥ずかしく思いつつも、そのお礼に対しては、首を横に振る。
「いいえ、俺自身も楽しかったですし、まいちゃんも楽しんでくれてたみたいなので、お礼を言われる程の事ではありません。こちらこそ、無理言って、参加していただいたので、有難うございました」
「フフフッ、それこそお礼はいらないわよ。ほら、陽子ちゃんから聞いていると思うけど、私、離婚して出戻りでしょ?両親は孫可愛さに何も言ってこないけど、やっぱ気を使うところは気を使うから、偶にはこうやって外にでてのんびりできて良かったもの。若い子達の可愛いところも見れたしね」
浩也は出戻り云々のところで、思わずどう返答したらいいか迷うが、話の流れなので、仕方なしに少しだけ掘り下げる。
「京子さんだって、まだまだお若いですよ。ん、これってセクハラ扱いになるんでしたっけ?あ、まあそれは兎も角、まいちゃんはお父さんとは会っていないんですか?」
「うーん、正直合わせないようにしているっていうのが、正解かしら。ああ、父親本人は会いたがってるし、別に離婚もお互い嫌になってとか、旦那がDVでとかそういう重いものじゃないのよ。今でも連絡は取り合ってるし」
そんな京子の話を聞いて、浩也は少し不可解な気分になる。今の京子の話振りは、正直、相手の事を気遣っていて、なぜ離婚に至るのかが、さっぱり意味不明だった。なのでその返答も当然疑問形になる。
「は、はあ?え、えーと、離婚されてるんですよね?」
「ええ、一応キチンと離婚したわ。まあ、復縁の可能性は否定できないけどね」
「は、はあ?」
「フフフッ、意味わからないわよね。まあ簡単に言うと、結婚自体が少し早すぎたって事かしら。私は兎も角、相手が重荷に耐えられなくなったっていうのかな。私の旦那さんね、私が教師1年目の時の教え子なの」
浩也はあっけらかんと身の上話をし始めた京子に対して、いや、その話の内容も含めて、びっくりするのを通り越して、思わず唖然とする。
「教え子ですか?」
「ああ、これは私の名誉の為にもいうけど、教え子時代に手は出してないわよ。彼が卒業して大学生2年生の時に再会して、その後色々あって、彼が大学を卒業と同時に結婚したの。その頃には、もうお腹にまいもいたんだけどね」
「ああ、なるほど。そういう事なら、重荷っていうのもわかるかもですね」
「そう、彼は私の事もまいの事も大切に思ってくれてたし、頑張ってくれてたの。でもやっぱりどこかで無理がたたって、体調を崩してね。私も蓄えがあったから、そこまで無理をしなくてもといってたんだけど、やっぱ、彼無理しちゃうの。だから、彼と向こうの両親、私と私の両親を交えて、色々話し合って、最終的に一度、リセットって事にしたの」
そう言って、京子は少しだけ寂しそうな笑顔を見せる。当然、浩也は当人同士ではないので、細かい部分の経緯は不明だが、その旦那さんにしても家族にしても、当然京子さんにしても苦渋の選択だったことは容易に想像つく。
「だから今はまいちゃんを旦那さんに合わせられないんですね」
「そう、写真とか映像とかは向こうの親御さんにも渡しているし、私も彼とは電話では話すから、その時にまいの事も話すんだけど、私やまいと直接会うと、また彼の重荷になるから。今は彼が、もう大丈夫って言ってくれるまで、私たちは待ってるの。ああでも強制もしてないのよ、もしそこで彼が他の誰かを選んでも、それは離婚後の話だから、そうなったらそうなったと思ってるしね」
そういって最後のところで京子はおどけた表情を見せる。浩也にはそれが、本心かどうかはわからない。でもきっと、本心では、やはり迎えに来てくれる事を待ってる気がした。
「大丈夫ですよ。今頃、早く家族を支えられる存在になることを目標に頑張っていますから」
「フフフッ、うん、私もそう思ってるわ。んー、初めて家族以外の人に身の上話をしたけど、やっぱテレるわね。思わず、のろけさせられちゃったし。流石、陽子ちゃんが惚れちゃうだけの事があるわね」
「いや、俺なんて全然ですよ。まあ陽子が好きと言ってくれてるのは嬉しいですが、いまいち女子と付き合うって、いまだピンとこないっていうのも事実ですし」
浩也は、多少重い話から、一転、自分の話になったので思わずたじろいで、なんとなく言い訳じみた言葉をこぼしてしまう。
「ふーん、浩也君は女子と付き合いたくないの?」
「付き合ってもいいとは思いますが、なにせ何を決め手に相手を選んだらいいかがわからなくて」
「それって、陽子ちゃんと理緒ちゃんの事?理緒ちゃんは直接聞いたわけじゃないけど、浩也君の事好きでしょ?二人で悩んでいるって事?」
「うっ」
浩也は京子の鋭い質問に思わず声を詰まらせる。どうにも話が不味い方向に進んでいる気がする。しかも京子はそんな浩也の反応を見て、更に感を働かせる。
「えっ、もしかして他にもいる?1人・・・・・・、えっ、もしかして他に2人?」
浩也はその間、一切の言葉を発していない。いないのにも関わらず、京子はその真相に近づいていく。浩也はたまらず、言葉を差し込む。
「いえ、自分の事はいいので、これ以上の深掘りは・・・・・・」
「まじかー、確かに浩也君、優良物件だもんね。お姉さんが同級生だったら、ぶっちゃけグイグイいっちゃいたいくらいだもんね。こりゃ、陽子ちゃんも大変だっ。4人の女子に真面目に好かれる男子って、本来なら刺されてもおかしくないもんね」
そんな浩也の静止もどこ吹く風で、京子はガリガリと浩也のライフを削っていく。確かに京子のいうことはもっともで、この状況が世間に知れ渡ったら、正直身の安全は保証できない。
「いや、ですので一度全員、お断りを入れているんですよ。それこそさっきの京子さんと一緒で、今は相手もフリーなので、他の誰かと付き合う事も出来るわけですし」
「でも誰も浩也君以外を見ようとはしていないんでしょ?私の彼もそうだけど、基本、他の女性には見向きもしないし。陽子ちゃんも目移りするような子じゃないしね」
さっきまでの寂しげな表情の京子はどこへ行ったのか、自信満々の表情で、京子は浩也に笑みを零す。浩也は、さっきの同情を返せと内心思うが、表面には出さずに、京子に言う。
「それはわかってます。陽子に限らず、理緒や他の女子も結局俺が答えを出すのを待っているんですよ。だから悩むわけです。多分俺は、全員に少なからず好意を持っているわけですから」
「うーん、浩也君が先に好きになってとかじゃないから、選びづらいのかな?例えば、一番話やすいのは?」
「別に差はないですね。強いてあげれば、幼馴染が付き合い長い分話易いかもですが、ジャンルによっては、他の女子の方が、話題が広がったりしますし」
「んー、あんまり好きじゃないけど、外見だったら?」
「それも俺はあんま好みがないので、ただ、4人ともすごく人気のある女子らしいです」
「わかった、これもあんま好きじゃないけど、浩也君も高校男子でしょ?もうこうなったらエッチしたいのは誰?」
「は?いや、流石にそれを陽子の身内には答えられないでしょう?それと高校男子を馬鹿にしちゃいけません、それなら確実に優劣はありません、全員魅力的です」
「ふー、お姉さんお手上げよ。まあ後はキッカケかな。結局はほかの女子を泣かせても、その子の事を幸せにしたいって思うキッカケ。そのキッカケがどこなのか、なんなのかは、人それぞれだし、教える事も出来ないけどね。でも選ぶ事は決めたなら、自然とそのキッカケはあると思うわよ。頑張ってね、悩める少年」
京子から突拍子もない質問を受けたかと思えば、学校の先生らしく、最後にはもっともらしい事を言ってくる。ただ騙されてはいけない。結局は何一つ解決はしていないのだ。だから浩也は、少しやさぐれた気分で、京子に言う。
「その自然とやらを待てる時間があれば、いいのですが。このままではいつか刺されますし、誰かを特別に邪険にするわけにもいきませんから、身が持ちません。思い切って、京子さん、俺と付き合いませんか?」
京子はそんなやさぐれた浩也をみて、思わず声を出して笑ってしまう。
「あははっ、浩也君重症ね。答えはNO、そんな事したら浩也君、その四人から刺されるわよ。あ、私の元旦那も刺すから5人かしら。ただまいは喜んでくれるかもだけど」
「ええ、まったく同感です。はぁ、キッカケ、キッカケかー」
勿論浩也も冗談で言ったので、ショックもなく、むしろ自分の悩みに没頭していく。京子はそんな悩める少年を優しげな眼差しで眺めるのであった。




