第六十七話
更新ペースが落ちてますが、所用によるので、しばらくは我慢にお付き合い願えればと思います。
そうして肝試しも個別何やらあったようだが、つつがなく終わり、いよいよ就寝という事で、男女各々の部屋に分かれていく。浩也は最後のやり取りで、どっと疲れているが、どうやら他のメンバーは、まだまだ元気なようで、布団で横になる浩也を尻目に会話を始める。
「で、浩也、お前は誰が好きなんだ?」
「あ、僕もそれは知りたい。どうなの、浩也?」
当然の帰結である。修二にしろ、孝彦にしろ、その後の自分の行動に関わってくるのだ。2人は一様にフラれた。もうそれは綺麗さっぱりに。ただそれはあくまで現時点での話であり、浩也次第では、チャンスがあると思わずにはいられなかった。ただ浩也にそれに答える義務はなく、胡乱げに天井を眺めた後、2人に目線を向ける。
「それはお前らにどんな関係があるんだ?」
浩也は当然そんな流れになるだろうと思ったが、そこは知らぬ存ぜぬで、煙に巻く。
「すごい重要だ。それ次第で再度、アタック出来る」
「そうそう、浩也が他の誰かと付き合ったら、相手はフリーになるんだから」
しかし2人は全く浩也の意図は無視をして、再び浩也に詰め寄る。
「はあ、ちなみに修二は理緒、孝彦は陽子で良いのか?そもそも俺なんか気にせず、アタックしたらどうなんだ?ああ、修二は断られ済みか」
「くっ、事実だけに辛い」
「ははは、そういう意味じゃ、僕ももう断られ済みなんだけどね」
修二は、徐に首を捻り、孝彦は乾いた笑いを零す。ただ浩也は、その2人の浩也待ちのスタンスが気に入らない。
「ちなみに修二は理緒の、孝彦は陽子の何が好きなんだ?」
するとまず、修二が答える。
「勿論、井上は可愛い。それに明るくて、冗談も言い合えるところがいいな」
そして孝彦も修二に続く。
「北見さんは、勿論、外見も可愛いけど、しっかりして、頼りになるところが好きだな」
「それなら、それぞれの苦手なところって、どこだ?」
修二と孝彦がそれぞれに好きなところを言い合ったあと、浩也は2人に今度は2人のマイナス面を聞いてみる。
「苦手なところ?井上に嫌なところなんてないぞ」
「僕も北見さんに嫌なところなんてない。全部が好きだ」
すると浩也は2人を見て、苦い顔をする。結局、この2人は、相手の表面上の事しか知らないで、良いところしか見てないのだ。理緒で言えば、見た目の元気な姿だけで、その実、凄く臆病で、甘えたがりなところだったり、陽子なら、何より自分に無頓着なところであり、自己評価が低く、人の苦労を背負いこむような所がある。ただそれをひっくるめて相手の事と気持ちを大事にしないと、どの道上手くいかないのだ。
「修二、孝彦、お前ら0点だな。別に俺がいなくても、どっち道振られてるだろ」
すると3人の会話を脇で聞いていた佳樹が驚きの声を上げる。
「ええっ、なんでダメなの?2人とも結構マジで好きなんだと思うけど」
「なら佳樹、お前も0点だな。確実にフラれる事請け合いだ。なあ朋樹、お前もそう思うだろ?」
朋樹は苦笑いしながらも、何となく浩也のいう答えを察することができた。
「多分だけど、要は相手の事をもっと知った方がいいんじゃないか?例えば、井上は男子と一定の距離を保つけど、それは何でかとか、陽子が何で学級委員長で今も慕われているのかとかな」
すると浩也はニヤリと朋樹を見て、その答えを褒め称える。
「流石は朋樹、100点だな。これまで数多の女子を振り続けていただけの事はある。まあ当たり前だけど、大抵告白してくる奴って、相手の事を知らないんだよな。理緒なんかは、いつも俺に愚痴ってるぞ、知らない奴に告白されても嬉しくないってな」
浩也自身は、飛鳥の告白以前に告白された事がないので、告白される身にはなった事はないが、理緒や朋樹なんかは、四六時中、告白される側になっているので、よくわかるのだろう。陽子は逆に浩也と同じで、そういうのを見て、呆れる口だ。結局、付き合う付き合わないは、双方に一定以上の好意があって成り立つのだ。それがない状況で結果は覆らないのが、現実なのだ。
「ちなみに朋樹、何で井上は、男子が苦手なんだ?別に結構、男子とも喋るだろう」
「そうだよ、北見さんだって、それって人徳だろ。真面目に一生懸命やってただけで、特別な事ないじゃないか」
すると朋樹は浩也を見て、お前が答えろとばかりに視線を送る。浩也は軽く溜息を吐くと、そうやって縋ってくる2人を突き放す。
「それはお前らが自分で考えろ。確かにこれは俺らの意見だから、実際に合ってるとは限らん。でも、事実、お前らは振られたんだろ?少なくとも、今のお前らよりは答えに近い可能性はある」
そう言われて、2人は口籠る。仮に浩也が2人を振ったとしても、今の自分達がスタートラインに立てるチャンスがあるかはわからないのだ。
「まあ浩也の言ってる事はもっともな話だ。全く、鈍い浩也だが、女子の扱いは一級品だからな。その部分は俺もかなわん。こればっかりは天然だからな」
「待て待て、鈍いは許容するが、女子の扱いなんて、特段意識した事がないぞ。だいたい、好かれるような事をした覚えもない」
朋樹の発言に思わず浩也は嫌そうな顔をして、突っ込みを入れる。
「まあその辺が最大のヒントだな、まあ後はお前ら次第だ」
朋樹はそう言って、不満げな浩也を無視して、修二と孝彦を見やる。ただその表情は、全く意味がわからないとばかりの表情で、こりゃ脈なしかと漠然と思うのだった。
一方の女子部屋でも、同様に会話が繰り広げられる。会話のきっかけは、やはり理緒と修二の一件からだ。
「それにしても近藤君、粘ってたねー」
そう切り出したのは、優花。浩也の側で3人の会話がよく聞けるところにいて、事態の収拾にも、一助を担ったので、会話のきっかけで切り出しのだ。
「本当、結構、わかりやすく断ったって言うのに、なんであんなポジティブなのか、意味わかんない」
「ははは、それは理緒、あんたも悪いわよ。近藤君って、空気読まないような所あるから、私も正直苦手だし、あの手のタイプは、嫌なら嫌と言わなきゃダメよ」
そう言って、美波が理緒に注意する。陽子もそれには同意のようで、同じように、理緒を注意する。
「そうそう、理緒って、結構色々考えて、断るよね。勿論、その後の人間関係もあるけど、駄目なものは駄目って言わないとねぇ」
「まあ私も今回の件は正直予想外。そもそも、どうして告白されたのか、未だにピンとこないもん。何が彼を勘違いさせたんだか」
今回の件は、正直やり方を失敗した。美波や陽子の言う通り、ばっさり振るべき相手だった。ただ軽い調子の修二なので、何か冗談のような気もして、つい気を使ってしまったのだ。
「そうね。理緒ちゃんの場合、雰囲気だけで相手がその気になっちゃう気安さがあるからね。ある意味勘違い製造器だね。うん、全然羨ましくないけど」
そう言って春香がにやりと笑う。この場においては、完全に理緒はいじられ役だった。ただ理緒もやられっぱなしは、性に合わないのでここぞとばかりに春香にやり返す。
「へーへー、いいわよね、アツアツカップルは。さっきも朋樹君と仲良さげにいちゃいちゃしてたし。もうチューとかしちゃったの?」
「ふぇっ、そ、そんなのまだだよ、まだ手を繋いで歩いただけだよっ」
「フフフッ、ほんとー、暗がりでチュッチュッしてるんじゃないのーっ、ほれ、お姉さんに言ってごらんなさい」
理緒の思わぬ反撃に脆さを見せた春香が顔を赤らめ動揺し、理緒は更なる追い討ちをかける。
「理緒、あんたオッサンくさいよ。まあでも春香がどこまで進んでいるかは、気になるところだけど」
そう言って陽子は理緒を窘めつつも、それとなく春香に視線を向ける。気付けば女子達の視線は春香に集中し、唯一の彼氏持ちの発言に注意を注ぐ。
「いや、ほんと、手だけ、手だけだから。キスは本当にまだだから」
「フムフム、朋樹君も意外に奥手ね。まあ、春香のペースに合わせているのかもだけど」
「確かに、春香ちゃんがこんなんだと、慎重になっちゃうよね」
既に涙目となった春香に理緒と優花が納得とばかりに、頷きあう。すると今度は外野で聞いていた、美波が周囲に爆弾を落とす。
「ふーん、この中だと春香ちゃんが一番進んでいるかと思ったけど、これなら理緒の方が進んでいるのかしら?」
「えっ、美波、どういう事?」
それに素早く反応したのが、陽子だ。陽子と理緒はライバル関係なので、それは気になるところだった。
「なんでも、理緒、この前、浩也君に抱き締められたんだよね。ああ、その前はデートして手を繋いだとも言ってたし」
「りーおーっ、それどういう事?抜けがけ?抜けがけなの?」
陽子としては、実はその二つとも経験済だったりするので、口で言うほど気にはしていないが、流れを汲んで、理緒を一応、問い詰める。ただ理緒も薄々陽子が同じ事をされていると思っているので、平然と答える。
「陽子、どっちも経験済でしょ。抱き締めてくれたのは、大会前に私が動揺しているのを落ち着かせてくれる為だし、手を繋いだのはデートした時だけど、陽子もデート位したでしょ」
「フフフッ、やっぱ慌てないか。ちなみに有里奈さんもこの前抱き締められてた」
「ハハハ、なんかそれだけ聞くと浩也君って相当な女たらしだよね」
軽く引き気味に美波が感想を漏らすと、それに優花が同意する。
「ほんと、それなのにその女子達全員に好かれてて、誰もそれに文句を言わないってある意味すごいよね」
すると春香が今度こそ仕返しとばかりに、理緒と陽子に言う。
「ふふーん、二人とも浩也君にベタ惚れだもんね。ちなみに理緒ちゃんも、陽子ちゃんも浩也君のどんなところが好きなのかな?」
すると2人はテレる素振りも見せず、嬉しそうに話し出す。
「浩也はね、優しいの、私が男子苦手なの知ってて、ちゃんと防波堤になってくれたり、苦しい時とか、困っている時に手を出してくれたりとか、側にいると守られてる感じがする」
「うん、それわかる。それに凄く真面目で良い意味で自分を持ってるっていうか、目標をしっかり持っていて、あまり人に流されない所とか」
「そうそう、大学だって、経営勉強したいとか、海外留学してみたいとか言ってるんだよ。本当、マイペースよね」
するとテレさせるどころか、浩也の話題で盛り上がってる2人に慌てて春香がストップをかける。
「ちょっ、待った、待った。なんでそこでライバル同士が仲良く盛り上がれるの?少しは、浩也君に恨み言とかないの?」
「恨み言?」
「うーん、鈍い事くらい?」
「あー、それはそうね。確かに鈍い」
そう言って、理緒と陽子はやはり息の合ったところを見せる。すると優花が苦笑いを見せながら、春香に言う。
「ここは春香ちゃんの負けね。2人はやっぱ浩也君が大好きみたい。いいな、やっぱ、私も浩也ガールズに入れて貰おうかしら」
「何、その浩也ガールズって。まあでも今の浩也君なら、確かに有りかも。カッコいいし、優しいし、まあライバル多いのが、玉に瑕だけど」
すると理緒と陽子が盛大に溜息を吐く。
「もうライバルはお断りよ。ただでさえ浩也悩んでるんだから、これ以上候補が出てきたら、『どいつもこいつも俺をからかいやがって』とか言い出すわ」
「本当、浩也君、女性不信になりかねないわよ。だって未だに自分はモテないって思っているんだから。今回の4人はたまたまだって言ってるくらいなんだから」
すると陽子と理緒を除く3人は大爆笑をし、そんな2人を慰める。
「まあ浩也君も大変だよね。海生高校学年別NO1の女子達に、ミス西ヶ浜海岸に告白されているんだから。しかもその女子達に好かれてるのに、たまたまって、本当いつか刺されるかも」
「本当、流石にそのメンバーに割って入る勇気はないな。うん、やっぱ浩也ガールズは辞退ね」
「まあでも本当、浩也君って誰を選ぶんだろうね」
春香、優花の順で、最後にしみじみとした口調で、美波が言う。ただ誰が選ばれても恨みっこなし的な雰囲気が理緒と陽子の間にはあるので、美波も純粋な興味だけで口にする。その後も、女子達のガールズトークは続き、和気藹々とした雰囲気で夜は更けていった。




