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第七話

本日2話目です。明日は多分、1話になると思います。

結局、山崎が立ち去ってから2時間ほど、由貴は有里奈達の席に座り、ガールズトークに花を咲かせる。浩也はその煽りをくらいほぼ一人でホール業務をこなしていた。浩也は思った以上に穏便に山崎を追い返した由貴を流石だと思うと同時に、その後ホール作業を浩也に丸投げして自分は有里奈達と楽しそうにしゃべっている姿を見て、別の意味で流石だと諦めていた。雄二も時折、「由貴は?」と聞いてきたが、浩也が事情を簡単に説明すると、「済まんが、今日は諦めろ」とだけ言って、その後由貴の事は聞かなかったくらいである。


ただ幸いな事に今日の店の客の捌けは思った以上に早く、いつもの20時になる頃には有里奈達を除き、後2組にまでなっていた。そして浩也の手が空いたのを見計らって、由貴が浩也に手を振って呼び寄せる。


「浩也、もうそろそろバイト上がって良いわよ。あとわかってるでしょ?」


浩也が近寄ってきたのと同時に、由貴は浩也に問いかける。浩也も由貴の言わんとしていることに察しは付いたので、淡々と答える。


「ん?ああ、有里奈としず先輩を送っていけば良いんだろ?と言ってもしず先輩の住んでるとこ知らんけど」


「おおー。有里奈呼び捨て発言。ホントに幼馴染なんだね~。ちなみに家は駅一個前だからそこまでで良いよ。駅から近いし」


「まあしず先輩に隠すのは悪い気がするし。幼馴染なのは事実だしな」


浩也はしずのどことなく茶化すような言い回しも余り気にする事なく、淡々と返事をする。むしろ有里奈がしずの奥で顔を真っ赤にさせて、あわあわとしている。どうやら由貴としずに散々弄られたようだ。なので浩也は二次被害を避けるべく、足早にその場を立ち去ると、さっさと着替えて帰り支度を済ませる。着替えを済ました後は、理緒のときのように裏口から正面に回らず、店の中を通って有里奈達が座る席へと向かう。有里奈達も既に帰り支度は済ませているらしく、浩也を見かけると席を立ち、由貴へとお礼を言う。


「由貴ちゃん、今日はありがとう。最初は迷惑をかけちゃったけど、楽しかった。また遊びに来るね」


「由貴さん、今日はご馳走様でした。有里奈の昔話も面白かった、また聞かせて下さいね。今度は幼馴染君も同席で」


有里奈はとても楽しげに、しずさんは少し悪戯っ子っぽい仕草でそれぞれ感謝を述べる。


「ふふふっ、私も今日は楽しかったから、また是非遊びに来てね。その時には浩也のある事ない事教えてあげる」


「ない事は駄目だろう。まあ由貴姉の話は話半分にしてくれ。大体話を盛るから。ともかく、帰ろうか」


とんでもない事を言い出す由貴に渋い顔を見せつつ、長居をしては追加でどんなとばっちりがくるか分からないので、さっさと帰宅を促す。二人もぼちぼち良い時間なのは理解していたので、そのまま玄関へと連れ立って歩いて行く。玄関口で由貴が笑顔で、「またねー」と手を振っているのを、振り返りながら2人は礼をして、いよいよ帰途に就く。


「そー言えば、しず先輩にはちゃんと自己紹介をしていませんでしたね。改めて、2年2組の高城浩也です。まあ、有里奈の一つ年下ですが、物心付く前からの幼馴染です。学校では色々面倒なので、伏せてますが、先輩後輩としては接しますので、よろしくお願いします」


「あーごめんね。私も名前言ってなかったよね。早瀬静香、3年4組よ。有里奈とは高校からだけど、3年間クラスも一緒だから、仲良くさせてもらっているわ。生徒会も一緒だしね。でも知らなかったなー。有里奈にこんなカッコいい幼馴染がいるなんてなー」


しずはそう言って、浩也に自己紹介をすると、ニヤニヤしながら有里奈を見て冷やかす。


「もー、しず、からかわないでってば」


どうやら店にいるときから同様の冷やかしを受けていたのだろう、既に涙目である。年齢の割にそう言った冷やかし免疫のない有里奈には対応に困る話なのだろう。浩也は助け舟を出すつもりでしずに話しかける。


「いや、お世辞でもカッコいいだなんて言ってくれる事は嬉しいですが、俺なんて全然モテないですから、有里奈とは全然釣り合わないですよ。幼馴染のよしみで付き合って貰ってるだけですから」


しずはそう言う浩也の言葉を聴いて、不思議そうな顔をする。自分の目の前にいる男子は、背もそこそこ高くスラッとして少し冷たい印象も与えるが、間違いなくイケメンの部類に入る。さっきまでいた山崎と比べたら10対0で浩也が圧勝だろう。ただ浩也からは、謙遜とか気取っているとかそんな素振りは一切感じず、本心でそう語っているのが感じ取れる。なのでその答えを知ってそうな親友に、その不思議な目線を向けて、「どうなってるの?」と訴えかける。すると有里奈はハハハッと乾いた笑いを零して、しずの耳元でこそこそっと説明をする。


「浩也って、多分、あんまり自分の事わかってないみたいなの。うーん、興味がないって言うのかなぁ。私がいくらカッコいいと言っても、身内びいきだからって信用しようとしなくて。それに変に自信持ってもライバルが増えちゃうだけだから」


浩也はこそこそ話をする女子2人に怪訝な表情を見せるが、あんまり女子の会話に首を突っ込むのもアレなので、少し離れて後を付いていく。


「なるほどね~。でも有里奈、うかうかしてられないよ。由貴さんの話では隠れファンも確実に作っているみたいだし」


「うう~っ、でも学年も違うし、ひろもあんなだから、なかなか身内扱いから抜けられないよ~」


「まあある意味、山崎以上の難敵かもね。私もアタックしちゃおうかしら」


「ひぇ~、し、しず、駄目だよ。しずならひろも靡いちゃうよ~」


しずはワタワタしだす親友をジト目で見ると、今その姿を世の男性が見たら、100%落ちるわっと心の中で突っ込みを入れる。浩也もそうだが、目の前の親友も自分の見た目に正当な評価を持っていないのだ。


『まあ、ある意味似たもの同士って事かしら』


しずは仏頂面で後ろを付いてくる浩也とワタワタしている有里奈を眺め見ながら、その2人に挟まれる自分が少しだけ不幸なのではないかと溜息をつくのであった。


しずが西条駅の1つ前の駅でおり、浩也と有里奈は西条駅で降りて、北口をでて家路へと向かう。ロータリーを迂回して商店街の中を通ると居酒屋らしき店から喧騒が聞こえてくる。商店街の中はまばらだが開いている店も有り、人通りもある。2人の家は同じ方向にあり、浩也の家は有里奈の家のあるマンションの前を通りすぎて、少し先にある一軒家であり、帰り道は全く一緒だった。商店街を抜けたところで、道は暗くなり、人影はぐっと減る。浩也と有里奈はそれまで少し離れて歩いていたが、周囲が暗くなったところで、有里奈が浩也の袖を掴むように隣に並んでくる。


「相変わらず人気のない暗いところは駄目か?」


浩也はくっついて来た有里奈に照れる素振りも見せずに、淡々と言葉を零す。


「う、うん。前よりは大分良くなったけど、苦手は苦手かも」


有里奈は少しだけ申し訳無さそうに、浩也にそう言う。有里奈には暗がりが苦手になるだけの理由があるのだ。浩也もそれを知っているだけに、ぶっきらぼうだが遠慮するなと言わんばかりに言葉を紡ぐ。


「ならほら、こうすれば良いだろ。多少でも人の温かみがあれば、そう言うのも和らぐだろ」


浩也はそう言うと、有里奈の手を握りしめる。指と指を重なり合わせる所謂恋人つなぎという奴だ。ただそれはテレとかは一切なく、ただ相手を気遣うやさしさだけを感じる所作だ。有里奈もそれがわかっているから、同じくテレなどなく、ただ嬉しそうに、安心してそのぬくもりを確かめる。


「ありがとう、ひろ。こうするのも久しぶりだね」


「まあ、中々お互い時間も合わないからな。せめて有里奈がスマホでも持てば、連絡もつけやすくなるんだが」


「うーん、スマホはやっぱり怖いかなぁ。でも近しい人とのやり取りだけだったら持ちたいけど」


暗がりが怖いのも、スマホが苦手なのも、中学の頃にあった出来事が原因だ。なので浩也はそこは無理強いをするつもりもなく、むしろ懸念事項を思い浮かべる。


「あの副会長みたいな奴がいると難しいよなぁ。まあ、それはおいおい考えるか。もし帰りが遅くなるなら、バイト先にこいよ。由貴姉もいるし、俺も平日はいるから。そうそう、しず先輩とは連絡先交換したから、しず先輩経由で連絡くれてもいいし」


「うん、そうする。由貴ちゃんにも同じ事言われた。しずが一緒のときはまだ良いけど、いない時は本当に困るから」


有里奈も今日の出来事は本当に困ったのだろう。今思うとしずが居なかったらと思うと、少しぞっとするくらいだ。


「ああ、まあ遠慮はするな。有里奈と俺は家族みたいなもんだからな。まあ、お姉ちゃんって気は全くしないけど」


「むー、これでも生徒会のときは後輩に尊敬の目で見られているんですけど」


「はははっ、知ってる知ってる。後輩女子に憧れの先輩って言われてるんだろ?柄じゃないのにな。どっちかっていうとしず先輩のほうが相応しい」


「もー、ひろの意地悪」


浩也はその子供っぽい反応が原因だと思いつつ、無邪気に笑いながら歩いている。そんな浩也を見て、有里奈も無邪気に笑みを零す。2人の小さい頃から続く、変わらない一幕だった。お互い人に壁を作りやすい気質ながら、2人の間には物心付いた頃から壁など存在しない。作る必要もない存在なのだ。お互いにそれがわかっているから、当たり前のように無邪気に笑い合えるのだった。


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