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第六十六話

ようやくキャンプ編に目処がついてきました。もう少し浩也が危機感を持つような展開になるかと思ってましたが、ヒロインの浩也愛が強すぎる…...。

その後、浩也、優花ペアが出発。優花は暗がりを少し怖がるようなところを見せるが、あまりに浩也が平常運転の為、自然と肩の力を抜いて、過ごせるようになる。


「夜だとやっぱり涼しいね」


優花はそう言って夜空を見上げながら、のんびりと話しかける。浩也も特段意識せずに、のんびりと言葉を返す。


「確かにそうだな。マイナスイオンだな。癒される気がする」


「星もいっぱい見えて綺麗だし、やっぱりこれて良かったなぁ」


そうしみじみと言う優花に、浩也はちょっとした疑問を質問してみる。


「そういえば、優花の場合、あんまりアウトドアって感じしないもんな。普段、休みとかって何してるんだ?」


「えー、休み?本読んだり、勉強したり、陽子ちゃんや春香と喋ったり、映画観に行ったり、ふ、普通だよ」


優花は少し焦ったような口調になるが、浩也にしてみれば、本人の言うように普通だと思ったので、それは気にせず質問を重ねる。


「まあやっぱそんなもんだよな。ちなみに優花は好きな男子とかいるのか?」


「ふぇっ、す、好きな男子っ!?」


「あ、ああ、すまん、すまん。別に他意はないんだ。ただ、恋愛感情について、興味あってな」


浩也の突拍子もない質問に、更に慌てる優花は思わずヘンな声を上げる。浩也もそんな優花の姿を見て、これはヘンな事を聞いたかと慌てて、趣旨を説明する。正直、優花の恋愛事情が知りたいわけではないのだ。


「恋愛感情?」


「そうそう、どうも俺の場合、恋愛感情が薄い気がしてな。大事とか、大切にしたいだとかは思うけど、四六時中一緒にいたいみたいな感じにならなくてな。だから未だに恋愛とか付き合うとかが、ピンとこない」


「陽子ちゃんの事?」


そんな事を言ってくる浩也に対し、少し勘ぐりを含んで、優花は聞いてみる。浩也は陽子の友達だし、まあ言いかと正直に答える。


「まあ、それも含めてって感じだな」


「例えば浩也君、女子と2人っきりでいて、ドキドキとかしないの?」


「うーん、しないな。ああ、知らない女子に抱きつかれたりとかしたら、ドキッ、とするかも」


「それって単にビックリしただけでしょ。そういうのじゃなく、胸がしめ付けられるみたいな感じよ」


浩也はそう言われて少し考える。ドキドキするとか緊張するとか、女子に対して特段感じたことがなく、胸がしめ付けられるような経験もない。


「うーん、それってどんな時にそう思うんだ?」


「えっ、えーと例えば、浩也が気になる人がいて、その人が自分とは違う誰かと付き合うとか?」


そう言われて、浩也は一応自分に当てはめて、考えて見る。例えば、有里奈や理緒が他の男子とかと付き合うとかだろうか?正直全く想像がつかない。浩也は有里奈にしろ、理緒にしろ、男子を振る姿は見たことあるが、仲よさ気にいるところを見たことがなかった。ああ、理緒は朋樹とか孝太とかと話ているか、でも2人っきりとかは見たことないなと思う。


「すまん、全く想像がつかん。他にはないか、他には。例えば優花はどんな奴がタイプなんだ」


「えっ、私?うーん、見た目だけで言えば、浩也君はタイプかも。でもこれまで、とっつき易い感じじゃなかったから、ちょっと怖い感じもしたけど、でもそんな事もなかったね。陽子ちゃんの言ってた通り」


「俺の外見が好み?優花は物好きだな。他にはどんなところに惹かれるんだ?」


優花にしてみれば、結構頑張って踏み込んだつもりだったが、浩也に完全にスルーされ、少し苦笑いをしながら、答える。


「あとはやっぱ趣味が合うとか、優しいとか、なんか特別な事は言えないかな。多分、好きになった人がタイプなんだよ、きっと」


「くっ、頭で恋愛感情とか考えているのじゃ駄目か。やっぱ、なんかそういう衝動的なのって必要だよな」


「まあその辺は人それぞれだと思うよ。少なくても、ゆっくりその人が気になるみたいな人も知っているしね」


優花はそういうと、友人の顔を思い浮かべる。陽子にしても春香にしても、どちらかと言うと、気がついたら好きになっていたとか、ゆっくり好きという感情を育んでいるのを見ている。そして2人がその好きな人の話をする時の表情が本当に幸せそうで、優花も羨ましくなるのだ。


「まあ俺も本来、そういうタイプの人間だと思うんだけどな。状況が許してくれん。優花は俺の事、どこまで、春香や陽子に聞いているんだ?」


「うーん、ミスコンで4人の女子に真剣に告白された事くらいかな。ちなみに情報源はめぐちゃん。浩也ガールズとか言ってたよ」


「ちっ、めぐみの奴、今度あったらガチで泣かすっ」


「フフッ、めぐちゃん、私も入れてもらおうかなとか、優花ちゃんも入ろうよとか冗談めかして誘ってきたけど、でも羨ましそうだったな」


優花はそう言って、めぐみから聞いたことを楽しげに話し出す。浩也はそこで心底嫌そうに、優花に言う。


「悪いが、これ以上悩みを増やさないでくれ。めぐみにも優花にも不満はないが、既に手一杯だ。大体、その何とかガールズとか、結成した覚えもないし、認める気もない」


「本当はちょっと残念だけどね。でも安心していいよ、私は陽子ちゃんを応援する役回りで満足だから。大体、メンバーが豪華すぎて、私じゃ力不足だし」


「ん?そうか?別に外見だけなら優花も充分可愛いぞ、俺に身近な女子がいなければ、普通に付き合ってもいいと思えるし」


すると優花は顔を赤らめて、頬を膨らませる。


「もう、浩也君、そういうこと誰彼言わないの。普通に勘違いしちゃう女子だっているし、それで告白とかされても困るのは、浩也君でしょ」


「お、おう」


浩也は思わず優花の剣幕に押され、返事をする。ただ素直に正しく評価しただけなのだが、お礼をいわれるどころか、怒られるとは思わなかったので、思わずびっくりしてしまったのだ。するとその返事に満足気な表情を見せて、優花は胸を張る。


「ならよし。浩也君は取りあえず、その4人の女子に対して真摯に向き合う事。1人を選んで他の3人は選ばれなかったとしても、浩也君が真摯に考えて選んだなら、誰も文句は言わないから」


「ははっ、まあそのつもりではある。今俺にできることはそれ位しかないからな。で、結局優花は彼氏を作らないのか?」


「残念ながら、たった今振られました。酷い、浩也君、私を振るなんて」


「はいはい、で、好きな人はいるのか?」


「もーっ」


そうしてその後も続く浩也の質問攻めに、優花は顔を真っ赤にさせながら慌てふためくのだった。


そんな2人の夜の散歩、もとい肝試しもようやくスタート地点であるゴールを迎える。既に前の3組もゴールに着いており、浩也はそれぞれの様子を伺うと、何やら三者三様の状況に思わず溜息を吐きたくなる。


ちなみに1番問題なさそうなのが朋樹、春香ペアで、この2人は単純に仲良さげに2人の時間を楽しんでいた。次に孝彦と陽子のペアだが、こちらは孝彦が1人沈んでいるものの、陽子自体は申し訳なさそうにこそしているが、特段、傷ついた様子があるわけではないので、一旦スルー。そして最後のペアは、正直言って、関わりたくないのだが、女子の方が浩也を見つけると、すぐさま行動を起こした。


「だから、何度も言っているけど、私は浩也以外の男子と仲良くする気は無いの!」


「またまた、井上、それってツンデレか?いやツンデレだろう」


そう言って浩也の腕にしがみついてきた理緒に対し、修二はうんうんと頷きながら、浩也達の前に立つ。浩也は何がなんだかわからず、顔を痙攣らせて、視線を陽子へ送る。陽子は苦笑いしつつも、首を傾げ、経緯は自分も知らない事を訴えてくる。浩也はほかのメンバーにも視線を送るが、誰も事情は知らないようで、ただ首をふるばかりだ。浩也は、埒があかないので、目の前の修二に話しかける。


「おい修二、これは一体何なんだ?」


浩也はその腕にしがみつく理緒見ながら、修二に聞くと修二は朗らかな笑顔で、浩也に返事をする。


「見ての通り、ツンデレだな。今は浩也に一日の長があるが、いつかそのポジション、俺が奪って見せるぜ」


「お、おうっ」


「ちょっと浩也、何返事しちゃってるのよ、そうじゃないでしょ」


修二のあまりに堂々とした宣言に、浩也は思わず気圧されて、返事をしたところに、理緒のツッコミが入る。浩也はまだことの事情がさっぱりなので、今度は理緒を見る。


「いや、話がさっぱりなんだが、これは一体なんだ?」


「もう、私も聞きたいくらいよ。なんだか急にポジティブ化してるんだもん。私は知り合い程度の相手なら付き合わないって言っただけなのに」


そこで浩也は今度は修二を見る。すると修二はしたり顏で浩也に答える。


「ちなみに俺は知り合い枠らしい。でも知り合い枠を超えたら、チャンスがあるって事だろう?どうやら浩也、お前は知り合い枠以上らしいからな、まずはそのポジションを目指す!」


確かにポジティブ、と浩也は思わず感心する。修二らしいと言えば、修二らしい。


「ちなみにどうやってこのポジションを目指すんだ?」


「それは自分で考えろと言われた。まあ当然だな。でもそれってチャンスはあるって事じゃね。考えて行動を起こせば、その目があるって事だろ」


成る程、修二の言い分には、一理ある。ただ理緒の意図は全く別で、修二のポジティブさが大いなる誤算だったようだ。すると、浩也のペアで近くにいた優花が不思議そうな顔で言う。


「うーん、浩也君って、理緒ちゃんと知り合い枠から仲良くなったの?」


「へっ、いや、なんか最初から今みたいな感じじゃ無いか?別にこっちから積極的に行動した訳でも無いしな」


「当たり前でしょ、私は最初から浩也のことが好きだったし、こっちから近づかないと、アンタちっとも近づいてこないし」


浩也が思い出しながら、優花に答えると、理緒が忌々しげに文句を言う。すると修二の顔が青ざめて、慌て出す。


「いや待て。浩也がアプローチして、井上と仲良くなったんじゃ無いのか?だって井上だぞ、あの撃墜王の」


「なんだその撃墜王って、まあ俺が理緒に積極的に話しかけたかと言えば、話しかけていないな。だいたい俺、人見知りだし。優花とまともに話したのだって、卒業してからだぞ」


「そうよねー。浩也君、バリア張ってて怖かったもん。女子の間では、理緒ちゃんと陽子ちゃんは、そんな浩也君に話しかけるから、勇者扱いだったわよ」


そんな会話を交わす2人を尻目に、修二も思い返してみると、浩也のいる所に、理緒が近づいていったイメージがある。あれ、これってスタート地点が違くね、とようやく理緒の真意に至る。そこで理緒がここぞとばかりに駄目押しをする。


「近藤君、この際だからはっきり言うけど、私は浩也に告白して、その返事を待ってるの。だから今、他の誰かと仲良くなるとか、無理だから。申し訳無いけど、そこは理解してくれる?」


「ま、マジかっ、まさかのノーチャンス!?」


そうして修二はガックシ項垂れる。そんな修二を尻目に、一応、既に断っているんだが、などと思う浩也だったが、今この場でその話をすると、面倒さが増すのでじっと言葉にするのを耐えるのだった。


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