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第六十五話

肝試しって言うか、散歩?です。

そうしていよいよ肝試しが始まる。出発順はジャンケンで決まり、理緒、修二ペア、朋樹、春香ペア、孝彦、陽子ペア、浩也、優花ペア、最後に佳樹、美波ペアの順でスタートとなる。スタートして、視界から見えなくなってから、次の順番がスタート、特に脅す役も設けていないので、本当に少し暗い中の夜の散歩程度のものだ。


月明かりもある為、一応各ペアに一つづつ割り振られた懐中電灯もあまり役に立つ事はなく、無しでも充分歩ける程である。ちなみに正面の鳥居をくぐって階段を登り、頂上の社まで行った帰り道は、側道の為、多少暗さが増すので、懐中電灯が役に立つ算段である。


「じゃあ、行ってくるわ、井上、恐ければ、しがみ付いても良いぞ」


修二がそう言って、何処と無しかテレを滲ませつつ、理緒に左手を差し出す。


「えっ、ごめんなさい。普通に嫌なんだけど」


理緒はそう言って、普通にスタスタと歩き始める。


「うっ、いや、そう素で返されると、本当に辛いんだが」


修二はそう零すとトボトボと理緒の後をついて行く。ただいつまでもそうしていないのが、修二らしいところで、2人が鳥居をくぐったあたりで、修二が再び意を決して理緒に話しかける。


「なあ、井上と浩也って、本当に付き合ってないんだよな」


今度の修二はいつものチャラけた言い回しではなく、少しだけ真摯な声音で話しかけてきた為、理緒はまたいつものやつかと思わず溜息を吐きたくなる。


「うーん、それがどうしたの?近藤君に何か関係があるのかな」


理緒は限りなく優しい声音を意識しつつ、それでも答える事に拒否の姿勢を示す。流石にこの場でぶった切る訳にもいかない。明日もあるし、まして夜中の外の出来事である。だからだろうか、やはりこれまで理緒に言い寄ってきた男子同様、それには気付かず、質問が重ねられる。


「もし浩也と付き合っていないっていうなら、なんで男子と付き合わないのかなって。だって、井上、モテるだろう」


「ああ、そうか。どうやらみんな勘違いしているんだよね、そもそも私、男子って苦手なんだよね」


理緒はそう言って、少し残念な表情を見せる。理緒は基本男嫌いだ。そもそも中学に入ってから、知っている相手にも知らない相手にも告白を受けてきた。それだけでなく、思春期真っ盛りの男子に好奇な目で見られるのだ。身の危険を感じた事も何度かある。だからこそ、男子に関しては、一線を引いてきたし、線を越えようとするものは、バッサリと切ってきたのだ。


「へっ、嘘だろう?だって結構、男友だちも多いだろう、井上って」


「男友達ねー。知り合いっていうなら、それなりにいるかもしれないけどね。例えば近藤君だって、知り合いでしょ」


「ああ、そう言われるとそうなんだが」


修二はそう言って、知り合い扱いされた事に思わず苦笑する。確かに男女で友達って表現も難しい。遊びに行った事があるくらいなら、確かに知り合い程度なのかもしれない。ただ理緒にして見れば、浩也以外の男子は只の知り合いだ。強いて挙げれば、朋樹が友達かもしれないが、そこは多分、朋樹もどっちでもいいと言うだろう。


「別に知り合い程度の人と付き合いたいと思うかって言えば、私は全くそう思わないってだけだから、誰とも付き合った事ないのよ」


「それじゃあ、どうやったら、知り合いから一つ上に上がれるんだ?」


すると理緒は呆れた表情になる。


「さあ?それこそ私が考える事じゃないんじゃないかな?だって意識してそういう存在を作るものじゃないでしょう?」


そこで理緒は再び突き放す。少なくても今の理緒にそんな存在を作ろうとする気がない。なぜなら未だに理緒の初恋は続行中なのだ。でもなぜだか修二はそこでやる気を見せる。


「確かに教わって、そういう存在になる訳じゃないよなぁ。後は俺の努力次第って事で、うぉーっ、なんだかやる気がでてきた!」


「はっ?ちょっと近藤君?人の話聞いてた?私は、男子嫌いなんだけど、特にそういうとこがっ」


「わかってる、わかってる。皆まで言うな。俺が絶対その気にさせて見せるぜっ、目指せ知り合い脱却だーっ」


空回りし始めた修二に対し、理緒は慌てふためき、修正を試みるが、俄然、盛り上がる修二に対して、その効果は全くと言って良いほど、見られなかった。


そして場所はスタート地点へと戻り、2組目の朋樹達が視界から見えなくなったところで、3組目の孝彦、陽子ペアが出発する。


「じゃあ北見さん、そろそろ行こうか」


「うん、林君、エスコートよろしくね」


そう言って陽子は朗らかに笑う。陽子と孝彦は中学3年時の学級委員長ペアでもある。当時からリーダーシップを発揮する陽子の補佐的な立ち位置が孝彦であり、なんとなくその当時から役割もかわっていない。今もエスコートよろしくと言った割に前を歩くのは陽子の方で、孝彦は思わず苦笑する。


「北見さんって中学時代から全然変わってないよね」


「えー?それって全然成長してないとかっていう意味?」


そう言って陽子はジト目で孝彦を睨む。すると孝彦は慌てて弁明をはかる。


「いや、ち、違うよ。そういう意味じゃなくて、いい意味で変わってないというか」


「ふふふっ、冗談よ。性格的にって事でしょ。確かにあんま性格って変わらないもんだしねー」


ちょっと意地悪して突っ込みを入れたが、陽子は柔らかな表情に戻って、孝彦の思っている事を代弁してやる。すると孝彦はホッとした表情を見せた後、陽子にジト目を送る。


「北見さん、酷いじゃないか、本当に焦っちゃったよ。でもそう言う所も変わってないよね」


「ごめん、ごめん、でもそういう林君もあんま変わって無いじゃない。もう少し堂々とした方が良いわよ」


陽子から見れば、この同級生は少し頼りない。勉強もできるし、性格もいいのだが、浩也みたいな堂々としたところがないのだ。すると孝彦は肩を竦めて、穏やかに言う。


「それこそこればっかりは、性格だから。でも少しは変わりたいって思ってはいるんだけどね」


「なら態度で示さなきゃ駄目よ。心の中で思われても、わかんないしね」


陽子はそう言って、姉が弟を諭すように言う。勿論、孝彦は、そうやって言ってくれる事自体は、嬉しく思うが、かといって、いつまでも頼りない男扱いされるのも嫌で、つい剥れてしまう。


「なら男らしいところを見せようじゃないか、北見さん」


「ん?何をするの?」


何やら意気込んであらたまって名前を呼ばれ、陽子は怪訝な表情をする。すると孝彦は、陽子を見て、真摯に訴える。


「北見さん、僕と付き合ってくれないか?」


「へっ、私が林君と?なんで?」


陽子は話の流れがわからず、思わず聞き返してしまう。そもそもさっきまで男らしさの話をしていたのに、突然告白されるとは、思っていなかったのだ。一方の孝彦は、今精一杯男らしいところを見せているつもりだったので、そんな返しが返ってくるとは思わず聞き返して慌てて説明する。


「いや、なんでって、そんなの北見さんが好きだからに決まってるでしょ。一応、中学からずっと、北見さんが好きだったんだけど」


「えっ、えーっ、嘘、本当に?林君、私の事好きだったの?全然、気が付かなかった」


陽子があまりにビックリした素ぶりを見せるため、最早告白特有の甘い雰囲気などなく、その場は乾いた空気となる。


「うっ、全然気が付かなかったって、自分では結構わかりやすく好意を見せてたつもりだったんだけど」


そういって、孝彦は思わず苦笑いをする。そんな孝彦を見て少し申し訳なさを感じた陽子は、一応、陽子を好きになった理由を聞いてみる。


「え、えーと、ちなみに私の何処がいいの?」


「えっ、あの北見さんは普通に綺麗だし、僕にも優しくしてくれるし、一緒にいて楽しいし」


そう言ってテレながらも孝彦は、思いの丈をぶつけてくる。本来であれば、嬉しく思う部分があっても良いようなものだが、残念ながら陽子には、そんな気持ちが湧いてこなかった。


「うーん、取り敢えず褒めてくれたのは、お礼を言うわ。でも正直、林君をそういう目で見た事がないから、私戸惑っちゃって。いま返事をしなくちゃならないなら、断るしかないわ」


そう返事を返しつつも、陽子は別の事を考える。それは浩也への好意の自覚である。やっぱり今こうして告白されても、浩也への好意が揺らぐ事がなく、気づいたら浩也のことをこんなにも好きになっていたのだと思うのだった。


「あっ、いや、返事は今じゃ無くて、全然良いよ。だってそもそも僕の好意に気づいていなかったみたいだし。取り敢えず今は、好意を伝えたって事だけで」


「でも私、好きな人がいるから、林君の好意は受けれないけど」


「えっ、好きな人いるの?それってやっぱり浩也?」


陽子はそこで返答に迷う。浩也と言うのは簡単だが、彼氏でも無いのに、迷惑をかけるのも嫌だった。


「うーん、やっぱそれは秘密で。なんかそう言うのって、口に出しちゃうと、叶わない気がするから。ごめんね」


「まだその好きな人と付き合ってたりはしないよね?」


正直、孝彦はまだ諦めきれずに、最後の確認をする。


「そうね、付き合ってないわ。付き合えるかもわかんない。でもいいの、まず自分の気持ちを大事にしたいから」


そう言って陽子は楽しげに微笑む。孝彦はその笑顔が自分に向けられたものではない事に気付き、居た堪れない気持ちになる。それでも精一杯見栄を張って、陽子を応援する。


「北見さんはその人のことが、本当に好きなんだね。今はっきりと振られたってわかったよ。その人と上手くいくといいね」


「林君、ごめんね。でもありがとう。今一番、男らしいかも」


「いや、それはそれで複雑だけどね」


そう言って孝彦は、顔を痙攣らせつつ、何とか笑顔の形を作るのであった。


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