第六十四話
しばらくは不定期更新になります。冒頭の温泉とか、花火とか、もっと行数増やそうかとも思いましたが、キャンプ編収拾がつかなくなりそうなので、割愛しちゃいました。サイドストーリーとかで書けたらいいですね。
夕食後、一行は近場にある温泉へと向かい、その日の汗を流す。その帰りに、近場のコンビニへと足を向け、これまた定番で花火を買い、キャンプ場にて花火大会をする。まいは大勢のお姉ちゃんに囲まれ、温泉場ではしゃぎ、今も花火を見て楽しげに声を上げる。
「はなびすごいねー、ドーンっていうはなびもすごいけど、こっちのパチパチっていうのもすごーい」
「はいはい、そんな興奮しないで、火傷したら危ないからね」
そんな風に陽子ははしゃぐまいを優しく窘める。勿論まいも派手な行動を取るわけではないので、手に持つ花火を前にかざしながら、大人しく花火を楽しんでいる。むしろそのあたりは男子達にありがちだが、浩也がまいに気遣ってのんびり遊んでいるので、他の男子たちも羽目を外したりせずに、和気藹々とした雰囲気で花火を楽しんでいた。そしていよいよ仕上げとばかりに、小さい打ち上げ花火が夜空に上がり、花火は終了となる。
「うーん、やっぱやってみると花火ってあっという間に終わっちゃうよな」
浩也がのんびりした口調で後片付けをしながら、理緒に話かける。
「そうねー。一度隅田川とか大きい会場の花火も見てみたいけど、こういう身内だけの花火も楽しいけどね」
「そりゃ、隅田川とかは何十万人の人が見る奴だからな、手持ちの花火とは赴きが違う。でもいつか見てみたいけどな」
「なら、いつか一緒に見に行こうよ。隅田川の花火。あー、でも来年は無理か。そしたら大学に入ってから?」
「それは随分先の話だな。まあその時、俺に彼女がいなくて、理緒に彼氏がいなかったら、考えてやるよ。まあその時はどうなってるかわからんがな。もしかしたら、留学とかしているかもしれんし」
浩也は余り深く考えもせずに、ぼんやりとした気持ちでそんな事を言う。理緒は少しだけ目を剥いて、浩也に質問する。
「えっ、浩也、海外留学とかするの?」
「ん?ああ、別にすると決めてるわけじゃないが、行ってみたい気もするんだよな。日本とは違う文化にふれて、違うものを見て、色々と思うところがあるんじゃないかとか思ってな」
そんな浩也の答えを聞いて、理緒は少しだけ安心した表情を見せると、直ぐにニヤリと笑って、浩也をからかう。
「なら私も浩也の海外留学について行こうかな、シシシッ、そしたら誰にも邪魔されないし」
浩也も理緒の口調が冗談めかしたものだったから、特に慌てる事もなく、むしろ憮然とした表情で、理緒に文句を言う。
「海外で勉強する為に留学するのに、動機が不純だ。却下だな。そもそも理緒の学力で、海外留学とか、自殺行為だろ。お父さん、許しませんよ」
「ちょっと、誰がお父さんよっ。ちなみに私英語の成績はいいのよ。ヒヤリングも読解も得意だし。話すのは流石に勉強とか練習とかしなきゃだけど、結構いけると思うのよね」
そう言って理緒は軽く胸をはり、自慢げに話す。ただ浩也はそれを聞いて、ニヤリと笑う。
「いつ俺が英語圏に留学するって言った。行きたいのはイタリアとかフランス、スペインとかの料理が上手いところだぞ。英語圏は総じて飯の上手いところはないからな。そこらはあんまり、選択肢に入っていない」
「えー、ちょっとそれずるい。って、それって浩也もしゃべれない奴じゃん。条件一緒でしょ」
「ははっ、ばれたか。まあ英語が共通語だから、最低限、英語がしゃべれれば、何とかなると思ってるけどな。まあ、その前に受験、ああ、その前に志望校を決めないとな」
浩也にしてみれば、留学はまだまだ先の話だ。当然、目の前に近づく大学を決めないと、その先の話はない。やりたい事としなきゃいけない事の分別はキチンとつけられるのが浩也だった。
「浩也って、大学入ったら、1人暮らしとかするの?」
そして話が留学から大学の話にかわって、理緒が前々から気になっていた事を質問する。
「1人暮らし?うーん、受かる大学によるんじゃないか?まあ家は俺1人っ子だからな。そういう意味じゃ、経済的に恵まれていると思うし、したいって言えば、させてくれる気もするしな。ああ、母親は反対しそうだけど」
「へー、お母さん、過保護なのね」
「ああ、逆だ。家の母親がかまって欲しいタイプの人なんだよ。だから有里奈が懐いているのが、嬉しくて仕方がないんだ。反面、俺みたいに男は、そうそう母親とは絡みたがらないだろ。だから、1人暮らしするなんて言ったら、文句言うんじゃないか」
理緒もそういえば、弟の聡は母親と買い物とかを嫌がるようになった。まあ理緒の家の場合、その辺は理緒が付き合うので、あんまり母親もワーワー言わないが、男子ってそんなものなのかと思う。
「ふーん、でももしかしたら1人暮らしをするって事ね。私はどうせ実家通いだから、いい休憩場所になるかな。それはそれで楽しみかも」
「ぶぶーっ、残念ながら家は女人禁制です。大体、男の1人暮らしの家に上がりこむなんて、お前アホだろ」
「えー、だって浩也でしょ。あら、私の魅力に参って、押し倒されちゃうのかしら」
するとそんな浩也と理緒の会話に聞き耳を立てていた修二が、言葉を挟んでくる。
「い、井上、俺卒業したら、1人暮らしするから、遊びに来ないか?なんなら、合鍵も進呈するぞっ」
「はぁ?なんで私が近藤君の部屋に遊びに行かなきゃいけないの?しかも合鍵って、まじキモい」
理緒にしてみれば、折角浩也と2人で話しているところに、変な横槍を入れられて、正直イラッとして、厳しい口調で思わず修二をぶった切る。
「ごふっ」
その言葉は的確に修二の心を抉り、修二は膝から崩れ落ちる。浩也はそんな2人を見ながら、そんな先の話じゃなく、今どうこうするべきだろうに、などと思っていた。
そしてその日のやるべき事は一通り終了し、さあ後は寝るばかりといった時間になるが、それでもまだ21時をまわったところで、流石に寝るにはまだ気持ち早い。そして浩也を除く4人の男子が妙にソワソワし始める
「ん?珍しいな。朋樹までソワソワし出すなんて」
そう、この手のイベントでは、当事者の癖に第三者的な立ち位置をキープする朋樹にしては珍しく、少しソワソワしだしている。
「うっ、いや、春香の家って結構厳しくて、こんな夜に会える機会なんて、そうないからな」
「ああ、そういう事か。まあ女子の場合は、門限とかあるもんな。ならとっとと、夜の散歩にでも誘ったらどうなんだ?」
するとそこに2人の会話を聞きつけた佳樹が、浩也達に提案する。
「なあ、なら折角だから、肝試し行かね?このキャンプ場から階段で登った所に、神社があるんだけど、そこをお参りして、脇道を通って帰ってくるってルートでさ。男女1組ずつで順番に出発して帰ってくるって感じで、どうかな」
すると浩也が少し考え込む。まあ、どの位の暗さかにもよるが、幸い今日は月明かりで結構明るい。迷子とかにならなければ、まあいいかと思い、佳樹に言う。
「俺は別に構わんぞ、ただ、京子さんの了承があればな。流石に夜出歩くのに、引率の了承は必要だろ」
「ちなみにそのペアっていうのは、どう選ぶんだ?」
と今度は朋樹が質問する。まあそれも当然で、自分の彼女が夜、自分以外の男子と2人きりなど、許容範囲外だろう。
「安心しろ。彼氏、彼女はワンペアで良い。後のメンバーはクジでいいか?」
「その辺は女子の意見を聞いてくれ。勝手に決めると文句も出るだろう」
「確かに。じゃあ京子さんのところ経由で、女子部屋にも聞いてくるわ」
そう言って、佳樹は部屋を出て行く。ちなみに京子にはあっさりと承認されるが、女子からは思わぬ駄目だしがでる。男女ペアという部分に難色を示されたのだ。
「別に女子同士でもいいじゃない。なんか夜道に男子と一緒とかそっちの方が危なくない?」
「いや、流石にこんなみえみえのところで、どうこうする勇気はないだろう。それに男子とつるんでも全く面白くない、頼むよ〜」
美波がそう文句を言うと、佳樹が平身低頭で懇願する。まあ確かに男子2人で肩よせ合いながらは、あまり絵面的にも宜しくない。なので苦笑いをしながらも、陽子が助け舟を出す。
「美波、まあそう目くじら立てなくても良いんじゃない。普通に歩いて20分位の道のりでしょう?まあ、夜の散歩と思えばね」
「流石は委員長!話がわかるって、失礼しました、北見先生、口が滑りました!」
委員長と言われて、ギロリと睨む陽子に、瞬時に腰をおり頭を下げる佳樹。するとそこに理緒がやってきて、質問する。
「ちなみにペアはどう決めるの?藤田君と春香は決定?」
「ああ、流石にそこは崩せないだろう。後のメンバーで、一応クジにしようかと思っているけど」
「えー、なら私、浩也が良い」
「理緒、ずるいわよ、私も浩也君が良い」
「いやまって、まって、それなら私も浩也君が良い」
「あー、あの、私も浩也君が」
理緒から始まり、陽子、美波、優花の順で次々に浩也への指名が入る。
「くっ、これがモテる者とモテざる者の差か」
女子全員の指名が浩也に重複したところで、佳樹が思わず、呻き声を漏らす。そんな佳樹を尻目に、完全外野の春香が、客観的に解決策を提示する。
「やっぱ、クジしかないね。ジャンケンとかで指名制にしたとしても、残された男子可愛そうだし」
「最後まで残ったら心が折れる自信があります、何卒、ご勘弁を」
「ならクジにしようか、まあ浩也以外だったら、誰でもいいし」
「あの井上さん、そういうのは、俺のいないところで言って頂けると……」
そんな佳樹の心を折りまくる出来事の末、ペアが決まる。修二と理緒、孝彦と陽子、佳樹と美波、浩也と優花の組み合わせである。そして一行は、管理棟前に集合し、夜の神社に向けて、順々に出発するのだった。




