第六十二話
なかなか忙しくなり、更新ペースが落ちています。しばらくはこのままのペースで2、3日に1回更新ペースになりそうです。なので出来上がったら、不定期にあげます。
浩也達は、終点で電車を降りるとその後、近辺で買い出しをしにスーパーへ。今回のキャンプの食事係のリーダーは美波で、その仕切りで買物を進める。今日の夕食の献立は、キャンプの定番でカレーとバーベキュー。焼きそばやお好み焼きといった選択肢もあったが、無難で外れの無いものが採用されている。材料は集められたお金の範囲内で買われ、それ以外で個別欲しいものは、自腹での清算となっている。
「食材はこんなところか?」
浩也は食材選びに美波に付き合っており、カートを押しながら、美波の方を振り返る。
「人参、玉ねぎ、じゃがいも、牛肉、カレー粉と、後はバーベキューの食材、んー、まあこんなもんか」
そう言ってカートの中を見ながら、不足がないかを確認する。仮に不足があったとしても、キャンプ場近くにコンビニはあるようなので、多少の補充は可能だった。
「それにしても、美波がいて助かったよ。他の女子達も料理は出来ても、キャンプ慣れはしてないしな」
「でも浩也君、海の家で焼きそばとか作ってたんでしょう?」
美波はそれに先程電車の中で聞いた情報で返す。すると浩也は、苦笑いをして、被りを振る。
「確かに鉄板担当だったから、焼きそば、お好み焼きは散々作ったが、材料は予め用意して貰ってたからな。あれは調理と迄は呼べんだろう」
「ああ、仕込み済みだったんだ。なら、楽よね。うちもお父さんが朝早くから仕込みをしてるから、その苦労は良くわかるわ。私も子供の頃から良く手伝ってたし」
「ならその包丁捌きは見ものだな。ますます期待が膨らむ」
「ちょっ、やめてよ、ハードル上げるの。今日はカレーとバーベキューなんだし、誰が作っても大してかわらないわよ。それに自然の中で食べるっていうスパイスが重要なんだから」
「ははっ、確かに。まあ手伝えることがあったら、言ってくれ。基本なんでもやるから」
そんな浩也に感心した表情を美波は見せる。大抵の男子はなかなか調理に対し積極的な姿勢を見せない。正直、後ろ向きだ。勿論、浩也はバイトでの経験があるので、一日の長があるのだが、それでも嫌がる素振りを見せないのは、美波的にポイントが高いのであった。
そして買い物を済ませた一行はいざ、キャンプ場へと向かう。バスに揺られる事、約30分。その間、周りの風景はすっかり森の中、心なしか空気も澄んでおり、暑さも多少和らいでいる気がする。そしてキャンプ場前のバス停を降りた後、安藤佳樹先導の元、キャンプ場の管理棟へと移動し、佳樹の祖父に挨拶をする。
「じいちゃん、予定通り友達と一緒に遊びに来たよ」
「おーう、佳樹、ようやく来たか。待ちくたびれたよ。一応部屋には布団を人数分用意してあるから、取りあえず荷物をおろして来い。施設の案内はその後してやるから」
「うん、了解。あ、その前に挨拶だけ、一応今回の引率の北見さん。後ろのメンバーが俺の友達だ。これが俺のじいちゃん。このキャンプ場の責任者だから、わからない事があったら、聞いてくれ」
そこで紹介された京子が、先頭に立って挨拶をする。
「どうも初めまして。今回のキャンプの引率を頼まれた、北見京子といいます。大勢で押しかける形で、色々ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
京子の挨拶にあわせ、一同も声をそろえて挨拶をする。それを見た佳樹の祖父は顔を綻ばせて、首を振る。
「なんの、なんの、孫の頼みじゃし、施設にあるものを使ってもらうだけじゃ。孫やその友達が楽しんでくれるなら、全然構わんよ。困った事があれば、何なりと言ってくれ」
「有難うございます。お言葉に甘えさせていただきます。取りあえず、みんな、荷物をおいてきちゃいましょう」
そう京子が仕切ると、それぞれ荷物を抱えて佳樹案内の元、部屋へと移動する。勿論、男女別、京子はまいと一緒の部屋で別で一室を割り振られる。
「なんか男だけで泊まりとなると、修学旅行を思い出すな」
早速荷物をおいた浩也が、朋樹に話しかける。今回のメンバーでは修学旅行の班分けで浩也は朋樹、佳樹とは同じ班であり、修二と孝彦は別の班だった。
「ああ、あの時は大変だったな。なんか女子は部屋に遊びに来るわ、佳樹は調子に乗ってはしゃぎまくるわ、浩也は我関せずでさっさと寝るわ、今思うとまとまりが全然なかった」
「へー、そっちの部屋はそんなんなってたん?俺らの班はむしろ女子部屋に遠征行ってガチ拒否くらって、寂しい夜を過ごしたっていうのに」
そう言って修二は不満そうな表情になる。それは孝彦の班も同じだったようで、同じような表情になる。
「あー僕たちの班も女子の部屋に行きたがってたなぁ。でもそこまで仲のいい女子もいなかったから、北見さんに聞いてみたけど、苦笑いして断られたっけ」
「へー、お前らそんなに女子の部屋に興味があったのか?まあ修学旅行っぽいちゃあ、修学旅行っぽいが」
そんな2人の話を聞いて、浩也は感心した顔を見せる。まあ中学3年の修学旅行、浮かれる気持ちもわからないではないが、案外みんな頑張ってるんだなと思っている。
「だから今回の夜は楽しみだ。流石に拒否られる事もない。しかもクラスの綺麗どころぞろい、これで気合をいれずして、何時入れる」
「そんなに楽しみか?せっかくだから誰かに告ったりするのか?」
気合を入れる修二を見て、浩也は率直に思ったことを聞く。
「ふふふ、そんな度胸は俺にはない!まずは個別で遊びに誘うくらいまでだ。そこを足がかりに何とかいい方向に話を進めたい」
「あー、わかるね。僕もできれば遊びに誘いたいかも」
「へー、お前らそれぞれ意中の相手がいるのか?まあ誰かは聞かんし、応援もしないが、頑張ってくれ」
浩也はそう淡々と答える。まあ遊びに行くくらい、別にそう難しい事ではないので、独力でどうにでもなるだろうと浩也は考えている。すると朋樹がニヤニヤしながら、浩也に小声で聞いてくる。
「おい、浩也、いいのか?井上や陽子狙いかもしれないぞ」
それを聞いて浩也は理緒や陽子が、誘いにのるとも思えなかったが、一応2人を振っている手前、咎めるいわれもないので、肩を竦めて朋樹に答える。
「まあ、2人がその気になったならいいんじゃないか?陽子もそうだけど特に理緒が誘いにのるとは思えんが」
「まあな。陽子は人が良いから、一度くらいは付き合うかもしれんが、井上は拒否する姿しか想像できんな」
「だろう?」
そう言って浩也と朋樹は佳樹も交えて盛り上がる3人を見て、その健闘を祈るのだった。
そしてその後は、夕食の準備まではまだ時間があるので、全員で集合した後、近隣にあるアスレチック場に遊びに行く。浩也はまいと行動を共にして、そこには当然陽子が付き従う。本当であれば、浩也は難度の高いアスレチックを楽しみたいところだったが、流石にまいはそこまでのものは難しいので、朋樹や修二、理緒や春香などの体育会系メンバーはそっちへ向かい、浩也と陽子に橘優花と孝彦の運動苦手組がのんびりチームに合流している。ちなみに美波と佳樹は運動もそこそこいける為、体育会系メンバー側についている。
「浩也君、まいにつき合って良かったの?朋樹君たちと一緒じゃなくて」
「ああ、問題ないぞ。まいちゃん見てると楽しいしな。それに懐かれると流石にほっとけないしな」
「フフフッ、高城君って以外に子煩悩なのね」
そう言って会話に混じってきたのが、優花。優花も一応動きやすい格好をしてはいるが、アスレチックにチャレンジする事もなく、浩也達と一緒にまいを眺めている。
「そうか?みんなこんなもんじゃないのか?まあ子供が苦手って奴もいるが」
「ああ、それなら僕は苦手かも。なんかどう接していいかわからなくなる」
そういって苦笑をしながら、同じく会話に混じってくる孝彦。
「んー、確かに過保護はいけないし、かといって放任は駄目だし。その辺の頃合って難しいわよね。私も姪っ子だから、まだ良いけど、これが全く他人の子供だったら、扱いに困るかも」
「そうか?陽子、お前バイトで子供の世話上手くやってたじゃん」
「ああ、あれもやっぱお客さんだからってのもあるのよね。まあ嫌いでも苦手でもないんだけど、扱いに困るってのはやっぱあるかも」
そう言って陽子は考える素振りを見せる。すると子供の話から、話は広がりを見せ、孝彦が陽子のバイトに言及する。
「あれ、北見さん、バイトなんてしてたんだ」
「え、ああうん。浩也君と一緒にね。海の家でバイトしてたの」
「へー、浩也と。なんか最近、2人って仲が良いよね」
「うーん、中学の時とあんま変わってない気もするけど、まあ男子では1番仲が良いかな?」
そう言って陽子は少しだけテレた様な表情を交えつつも優しく微笑む。それは恋をしている女子だけが見せる、男子を魅了する笑みだった。そんな陽子の表情に焦った様に孝彦は、話し出す。
「へ、へーっ、そうだよね。中学の時から仲は良かったよね。も、もしかして、付き合ってたりとかするのかなー?」
ちなみ陽子の隣には優香もいて、2人の会話を聞いていたが、孝彦の大根役者っぷりに、半ば呆れているが、当の本人たちは、全く気付いておらず、会話はそのまま継続される。ちなみに浩也は、まいの近くで相手をしており、その場からは離れていた。
「フフフッ、海の家で彼氏彼女だったけどね。そういう意味では、ちょっと付き合ってたのかも」
そんな孝彦に陽子は爆弾発言を投げかける。
「ええーっ、付き合ってったって、どうゆう事?」
当然のごとく、泡を食った孝彦が、陽子に質問するが、陽子は含みを持たせる様に、曖昧な返事をする。
「うーん、それはちょっと内緒かな。なかなか説明しづらいし。聞かないでいてくれると嬉しいかも」
陽子としては、海の家のバイトで起こった出来事は、大切にしたい思い出だった。勿論彼女役という仮のものであったとしても、楽しい大事な思い出なので、あまり人に言いふらす気にはなれなかった。するとまいを抱っこして戻ってきた浩也が、陽子達を見て、不思議そうな顔をする。
「なんかお前ら、三者三様の顔をしているけど、どうしたんだ?」
陽子は機嫌良さそうにニコニコし、孝彦は打ちひしがれた表情をし、優香は何やら呆れ顔だ。そしてその呆れ顔の優香が、浩也に意味深な回答をする。
「はあ、陽子ちゃんの天然も、林君の大根役者っぷりも、浩也君の鈍さも相変わらずだよね」
その場いなかったのに鈍い呼ばわりに、浩也は思わず突っ込みを入れたくなるが、その言葉と陽子と孝彦を見て何となく察せられたので、まあやっぱそうなったかと内心で納得するのであった。




