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第五十七話

しばらくはのんびりとした話が進みそう。まあ、それで近づく関係もありますよね。

「おい、もうこの際、俺の事はどうでもいい。で、なんで朋樹は春香に告ったんだ?」


浩也は散々からかわれたので、いい加減腹を立てながら、朋樹を睨む。朋樹はそれを苦笑で返し、しょうがないとばかりに、説明を始める。


「お前、それを春香の前で言わせるか?まあ、しょうがねーな。告った理由は付き合いたいと思ったからだ。じゃあなんで付き合いと思ったかだが、まず俺と春香だと高校が違うだろ?当然、俺の知らない時間も多い。別に春香が遊び歩くとか思っている訳じゃないが、少なくても友達以上の繋がりが欲しかったっていうのが1つ」


こで朋樹は話を区切る。浩也はそれを聞いて、そこまでは納得をする。確かに高校が違うと心配にもなるのだろう。だから浩也は続きを促す。


「それはいい。友達ならば学校も違ければ、連絡もそう頻繁に取れないしな。で、他には?」


「俺が春香と一緒にいたいと思ったからだな。大体、一緒にいたくない相手とは付き合わんだろ」


そこで浩也は思い悩む。仮に朋樹に自分を当て嵌めてみると、陽子がそれに該当するが、陽子じゃなきゃいけない理由でもないのだ。有里奈や飛鳥は学年が違うし、理緒にしてみても部活をしているので、四六時中一緒にいるわけでもない。まあ一緒にいて楽しいとは思うが、友達でいい気もするのだ。


「多分、浩也君は朋樹君とは違うわよ。そもそも価値観が違うもの。私は朋樹君に告白されて、この人とならって付き合おうと思ったけど、別に元々朋樹君が好きだったわけじゃないしね」


「いや、だから本人を目の前にそういうことを」


朋樹はそう零して苦笑いをする。すると浩也が意外そうな顔をして春香に聞く。


「そうなのか?てっきり両思いかと思ってたよ。なんてったって、相手は朋樹だぞ」


「浩也君のその妙な朋樹君への信頼感はアレだけど、勿論、友達としては好意を持ってたし、朋樹君カッコいいしね。でも付き合うとか、告白するとかまでは考えた事なかったな。しかも高校も別になっちゃったしね」


「ふーん、そんなものか。じゃあ何でOKしたんだ?」


そう言って浩也は不思議そうな顔をする。すると春香はクスクスと笑い、朋樹を見る。


「朋樹君ね、告白をしてくれた時、すっごい緊張してたの。なんか台詞も噛むし、ヘンに汗かいてるし。でもそれを見て、ああ、真剣なんだなって思ったら、私も嬉しくなっちゃって、なんかOKしちゃった」


浩也はなるほどと思う。仮に浩也に対する告白が、4人同時でなければ、誰か一番最初の相手と付き合ったかもと考えると可能性がなくはないななどと思う。そうして、そのことを朋樹に伝えようと目を向けたとき、朋樹が顔を真っ赤にしてテレていた。


「春香、俺は今日、貴重なものを見れた気がするよ。中々レアだな。朋樹のテレ顔。ああ、告白の時もこんな感じか」


「フフフッ、告白の時はねー、もっと真っ赤だったよ」


「くっ、だから当人を前にそう言うことをいうなっ。緊張もしてたし、嬉しくもあったんだからしょうがないだろっ」


そう言ってテレながら文句を言う朋樹を見て、浩也と春香は笑いあう。そんな3人のところに、陽子が通りかかり、話しかけてくる。


「なんか、朋樹君、顔真っ赤だけど、大丈夫?熱中症?」


「陽子、言ってやるな。今はそっとしておいてやれ。ああ、そうそう、陽子、今度の休みってなんか予定があるか?」


浩也は憤慨する朋樹を尻目に、陽子にそういえばと質問する。陽子は何で朋樹が憤慨しているのか不思議に思いつつもそれに答える。


「今度の休み?今のところ特段予定はないけど。まいと遊ぼうかなくらい」


「ああ、なら良かった。ほらこの前の賞品があるだろ?あれを使ってちょっと買い物でもしようと思ってな。もし良かったら付き合ってくれないか?」


「ふーん、別にいいけど。何買うの?」


「ははっ、それは内緒だ。まあ行けばわかる。じゃあ予定を空けといてくれ」


浩也はそう言って、ニヤリと笑う。陽子はそれにも腑に落ちない表情をするが、暇だからまあいいかとそれに了承して、その場から離れていく。それを見ていた朋樹が春香に耳打ちする。


「なんかあの2人、前以上に自然な感じになってないか?」


「うーん、いい傾向なんだろうけど、お互い鈍いからなぁ」


そう言って春香は悩ましげな表情になる。悪い傾向ではないが、こんな2人がより関係を縮める機会があるのかと頭を捻るのであった。


そしてその次の休日、浩也は陽子を伴って、近場にあるショッピングモールへと赴く。浩也は買おうと思っているものはあるが、具体的に何を買うかは決めていない。なので色々なものがある、ショッピングモールが都合が良かった。


「浩也君、それで今日は何を買いに行くの?」


「ああ、まあ店を適当に観てまわって、それで決めようと思ってる」


まあ陽子自身は特に欲しいものがあるわけではない。先日の浩也と共に貰った商品券も、まいの買い物にとそのまま姉に渡してしまったくらいだ。なので、浩也が選ぶものが何なのかは興味がわいたが、特に店にこだわりはなかった。


「ふーん、そうなの?浩也君のことだから、てっきりこれを買うって決めてるものだと思ってた。あんま無駄遣いとかし無さそうだし」


「まあ、普段はそうだな。服も基本、着まわせるものを優先だし、趣味といっても読書くらいか」


「へー、浩也君、本読むんだ。どんな本読むの?」


「ん?何でも読むぞ。興味をひいたものなら、洋書でも手を出すし。まあでもやっぱ、小説が多いか。歴史物も好きだしなあ。ああ、最近は料理本にも手を出した」


すると陽子は少し呆れた顔を見せる。


「ほんと手当たり次第ね。洋書に料理本って。料理はバイト絡みだろうから何となくわかるけど、洋書って普通手は出さないわよ」


「それは元々翻訳本を読んだんだけど、なんかその訳がしっくりこなくてさ。だから洋書を買って辞書片手に読解した。それ読んですっきりしたから、あれはあれでありだぞ」


「浩也君って、ヘンなところでこだわるわよね。あっ、あの髪留め可愛い」


そう言って陽子は店先にある髪留めを手に取る。店は女子がいかにも好きそうな小物が置いてある雑貨屋だ。浩也は店内を見回すと浩也達のようなカップルは別にして、他の客は女子だらけだった。


『流石にこういうところに男1人ではこれないな』


浩也は内心、その空間に怯むが、カップルという免罪符があるだけにまだ耐えられる。陽子を見ると、やはりそこは女子らしく、小物を見て楽しそうにしている。


「なあ、折角だからまいちゃんに何かお土産でも買ってやろうか?」


流石にまいはまだ3歳なので、自らこういう店で小物を選んだりはしないだろうが、そのくらいの子供が少しこじゃれたものを着けているのも可愛いものだ。


「えっ、いいの?それならまいも喜ぶと思うわ。ひーろーからのプレゼントだって言うと、きっと小躍りしそう」


浩也の目にも小躍りするまいが目に浮かび、優しく笑いながら、陽子に同意する。


「ああ、いいぞ。別にそう高価なものでもないしな。それにまいちゃん実際に踊りそうだし」


「フフフッ、じゃあ私が2、3好きそうなやつを見繕うから、その中から浩也君が選んでくれる?さーて何にしようかな」


そう言って陽子は店内を物色に行く。浩也としては別に全部まとめて買っても良かったが、流石に陽子も遠慮するだろうと思い、陽子の好きにさせる。そうやって浩也が店内を回っていると、店ににつかわしくない男子を見つける。ガッチリした体格に坊主頭。基本、この店にはいない人種だ。


「おい孝太、こんなところで何やってるんだ?」


「げっ、浩也!?」


そうそこにいたのは、孝太だった。浩也は流石にこの店に孝太1人ではあるまいと思い、周囲にも気を配ると、浩也より先に相手のほうが浩也を見つける。


「あっ、高城君、こっこんなところで会えるなんて、凄い偶然!」


そう話かけてきたのは、伊藤真由だった。浩也は内心でほほうなどと思うが、表向きは表情を変えずに笑顔を見せる。


「あれ、伊藤さん。こんにちわ。もしかして孝太と一緒だったのって、伊藤さんだったの」


すると伊藤は少しだけしまったといった表情を見せるが、直ぐにいつもの調子を取り戻す。


「ああ、そうなの。一応孝太が、県大会でベスト4まで行ったご褒美で遊びに来たの。本当、感謝して欲しいわよね」


「くっ、何が感謝だ。さっきまで散々俺にたかってた癖に。何が悲しくてご褒美で奢らなきゃならないんだ」


「何言ってんのよ、寂しい男子が女子と出かけられるだけで、充分ご褒美でしょうが。馬鹿じゃないの」


伊藤はそう言って両手を前に組んで、孝太を睨みつける。孝太はと言うと既に蛇に睨まれたカエル状態で、二の句も告げられない。


「まあまあ、でもそれじゃあ俺もデートの邪魔をしちゃ悪いよね。俺もツレがいるし」


浩也がそういったところに、タイミング良く陽子が浩也の元に現れる。


「浩也君、これとこれとこれだったらどれがいい?」


陽子は小物を3つほど抱えて、浩也に話しかけると、側に見知った相手がいることに気がつく。


「アレ、孝太君?お久しぶりー。いつだったか遊びに行ったとき以来だよね」


「浩也、お前、何で陽子ちゃんと、ってツレって陽子ちゃんか?」


驚いた孝太はそう言って、浩也に詰め寄る。浩也はそれに頷いて、話だす。


「ん、ああ、ツレって陽子のことだ。今俺たち同じバイトをしててな、今日は俺の買い物に付き合ってもらったんだ」


すると事情を知らない伊藤が怪訝な顔で浩也に聞いてくる。


「あ、あの、もしかして2人って付き合ってるの?」


「いや、付き合ってないよ。俺と陽子は元々中学のときの同級生なんだ。今バイト先も一緒だから、まあ仲良くはさせて貰っているけどな。そうそう、孝太とも知り合いなんだぜ、ほら、前に言ってためぐみの友達の1人が陽子なんだ」


「ええっ、じゃあ朋樹君の彼女とも友達の?」


「ああ、そうそう。陽子、彼女は孝太の幼馴染の伊藤真由さん。由貴姉の店にも良く遊びにくるんだ。こっちは、北見陽子。今言ったように元同級生な」


「こんにちわ、伊藤さんだっけ、よろしくね」


「う、うん、こちらこそよろしくね、北見さん」


そう言ってぎこちなくではあるが、2人は挨拶を交わす。とは言え、このまま連れ立って遊びに行くとまではいかないので、そろそろいいかと、浩也は孝太に別れを告げる。


「じゃああんま邪魔しちゃ悪いから、そろそろこの辺でな。孝太は夏はもう部活はないのか?」


「ああ、一応、盆から一週間くらいは休みでその後は秋季大会に向けて、練習再開だ」


「なら今度遊びに行こうぜ、朋樹にも声をかけるから」


「おお、いいね。じゃあまたLINE送るわ」


「おう、じゃあまたな」


そう言って、孝太と伊藤はその場を離れていく。すると陽子が浩也に話かけてくる。


「ねえねえ、浩也君。あの2人って付き合ってるの?孝太君って確かめぐみのこと気に入ってなかったっけ?」


「付き合ってはいないっぽいな。孝太も気付いてないみたいだし。あれ、伊藤さんが孝太を気にかけてるんだよ。まあ素直になれないから、なんか喧嘩っぽいことばかりしているけどな。全く孝太も鈍い奴だ」


そんな浩也を見て、自分の事は気付かない癖に、何で人のことだと気付くのか、ただただ陽子は不思議に思うのだった。


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