第六話
ジャンル別日間現実世界〔恋愛〕6位になりました。まだまだ頑張りますので、応援よろしくお願いします!
ちなみに今回、主人公が頑張ると思いきや…
ではお楽しみ下さい!
「あー榎本先輩でしたか。いらっしゃいませ。お昼には2名でとのお話でしたが、3名のご来店でよろしいでしょうか?」
浩也はもしかして副会長は別口ではないかと淡い期待をして、猫かぶりモードでそう聞いてみる。すると有里奈は申し訳ないような、困ったようななんとも居た堪れない表情で、言葉を零す。
「うん、2人で来るつもりだったんだけど、なんかね・・・」
「もう本当に有り得ない。私と有里奈で来るはずだったのに、勝手についてきて。なんなのもう」
有里奈のそんな表情とは逆にいたく会計のしずさんはご立腹である。しかし副会長の山崎はそんなしずの言葉を気にもせず、浩也に向かって席を案内しろと促す。
「会長の榎本さんが行くというお店とその幼馴染のお姉さんに興味があって、僕が榎本さんにお願いをして連れてきて貰ったんだよ。早瀬君が文句を言う筋合いじゃないさ。それより、人数は3人だ。案内してくれ」
浩也は副会長の山崎の話の内容により、浩也が有里奈の幼馴染だという事はばれていない事は理解した上で、ああこれは由貴姉と揉める事案になるなと心の中で深く溜息をつく。とは言えこのまま立ち尽くしているのも他の客に迷惑になる為、店の端っこの席に3人を案内する。ちなみに案内途中で有里奈を見かけた由貴は一瞬明るい笑顔を見せるが、後ろになぜか男子生徒が付いてきているのを見て、これまた一瞬で怪訝な表情に変える。浩也はそれぞれが席につくと、メニューを広げ、猫かぶりモードで接客をする。ちなみに席次は有里奈としずが隣り合って座り、有里奈の正面に山崎が座っている。しずは副会長を完全無視だ。
「それではお決まりの頃にまたお伺いします」
「ひろ、あっ、えっと高城君っ、由貴ちゃんはいますか?」
「ええ、楽しみにして待ってましたよ。後程来ると思いますので」
思わずいつものように呼ぼうとした有里奈に対し、浩也は猫かぶりモードの笑顔で言葉を返す。返された有里奈の表情が少し悲しげに感じはしたが、浩也は気付かなかった事にしてその場を離れる。なんとなくフォローを入れたい気にもなったが、深入りすると揉め事になると思い我慢する。浩也がバックヤードに移動して水を用意しているところで、予想通り由貴が話しかけてくる。
「ちょっと浩也、これどう言う事?話が全然、違うんだけど?」
浩也が由貴に事前に説明していたのは、有里奈が今日来ることと、有里奈の親友も一緒に来ることだけである。親友の人柄は今日の昼に感じたことを素直に由貴に伝え、有里奈と共にその子に会えることも楽しみにしていた。それがオマケ?と言っていいかもわからない男子が付いてきたのだ。
「うーん、俺も今来て驚いたくらいだから、詳しくはわからないけど、おそらく有里奈に強引に詰め寄って付いてきたみたいだな。多分だけど、しずさん、ああ有里奈の隣に座っている、そうそう、あの人が有里奈と一緒にいないタイミングを見計らって、約束を取り付けたな。しずさん、すげー怒ってたし、有里奈も押しに弱いだろ?」
「なにそれ、そういうの超むかつくんだけど。大体あいつ何もの?なんか有里奈、話しかけられて困ってるし」
「海生高校の現副会長。俺も名前を今日知ったくらいで、どうやら有里奈の事が好きらしいって話だけど、良くわからん」
「あんた、何で有里奈を守ってやらないのっ、ったく、役に立たないわね」
「おいおい、無茶言わないでくれ。生徒会の中での動きまで把握できねーよ。ただその役目はしずさんがしてくれていたみたいだけど」
案の定、由貴はご立腹で、浩也を問い詰める。浩也としても想定外の展開で、且つ、そもそも今日初めてあった人物達の情報である。あやふやになるのも致し方なかった。
「もういいわ、ちょっと有里奈達のところに行ってくる」
業を煮やした由貴は、冷たい笑みを張り付かせて、有里奈のもとへ足早に近寄っていく。こうなっては浩也では止められない。雄二さんでも無理だろう。その後の面倒臭さも考えると有里奈達のテーブルの動向が気になるが、そればかりに構っていてもしょうがない。他に客もいるので、浩也はそちらのフォローに集中するのだった。
「有里奈~、いらっしゃい。オープンの時に遊びに来てくれた時以来だから、3ヶ月振り?もうちょっと遊びに来ても良いのよ」
由貴は満面の笑みで有里奈に話かける。有里奈も久々に由貴に会えた事で嬉しそうに挨拶を返す。
「由貴ちゃん~。お邪魔してます。本当はもっとちょくちょく来たいんだけど、生徒会とか受験考えなきゃとかで中々来られなくて。でも今日、高城君経由で誘ってくれたので、これは来なくちゃって思って」
「ふふふっ。有里奈が生徒会長だもんね。見た目だけならとっても似合っていると思うけど、大丈夫?無理してない?」
由貴はそう言って、柔らかい雰囲気のまま少し目を細める。今この瞬間は、無理しているようには感じないが、性格的に合っているとも思っていない。
「うん、最初は私も不安だらけだったんだけど、しずがいるからね。あっ、由貴ちゃんに紹介したかったの。私の親友で生徒会に一緒に入ってくれて支えてくれる、早瀬静香さん」
有里奈はそこで紹介したくて堪らなかったかのように、勢いよく隣の女子を紹介し始める。由貴がその女子に目線を移すと、堂々と親友と紹介されて、少し照れくさいのか頬を赤らめて、はにかみながら由貴に挨拶をしてくる。
「初めまして、早瀬静香です。有里奈にはしずって呼ばれてます。私も有里奈は親友だと思ってますが、なんか、本人に目の前でそう言われると、ちょっと恥ずかしいですね。もう、有里奈、もっと普通の紹介してよっ」
しずはついに恥ずかしさに耐え切れなかったのか、有里奈に文句を言い始める。由貴はそんな二人のやり取りに良い関係性を見る。
『うーん、ちょっと違うけど私と姫みたいなものかな』
そしてそんな2人を眺めながら、由貴は自分の親友との関係を思い浮かべる。姫とは二ノ宮姫香のことであり、今は海生高校の養護教員をしている。由貴と姫は破天荒な由貴の行動を姫が抑えるみたいな感じだが、この2人は天然な有里奈にしずが突っ込みを入れるみたいな感じなのだろう。由貴は思わず笑みを零しながら、しずへと話かける。
「なら、私もしずちゃんって呼ぼうかしら。私の事は、有里奈みたいに由貴ちゃんでも由貴さんでもどっちでも良いわ。本当ならこのままここに座って二人の出会いから聞きたいところだけど、えーと、一応、そちらの子の事も聞いていておいたほうが良いのかしら?」
そして由貴は少し困った素振りを見せて、有里奈の正面に座る男子へと目を向ける。その男子生徒は何度か由貴たちの会話に入り込む素振りを見せていたが、あえてそれを無視し、満を持して話しかける。
「自分は海生高校で榎本さんと一緒に生徒会をさせていただいている、副会長の山崎健人といいます。お会いできて光栄です」
山崎と名乗る男子は、漸く訪れた自分の番でアピールをすべくやや尊大に自己紹介をする。しかし由貴はそこで、ややわざとらしく、不思議そうな顔をして、山崎ではなく、有里奈へ質問する。
「ねえ、有里奈。浩也からは今日、親友と一緒に遊びに来るって聞いてたのだけど、ここで生徒会の仕事もするの?」
「えっ、えーと、生徒会の仕事はもう終わっていて、私は由貴ちゃんにしずを紹介したくてきたんだけど……」
有里奈は歯切れが悪そうに言葉を返す。由貴にしてみれば、有里奈を困らせる意図は無いので、そこで男子のほうに向き直り、不思議そうな顔を継続したまま、今度は山崎に質問する。
「えーと、ごめんなさい。山崎くんだっけ?君はどうしてここにいるの?」
山崎は悪びれもせずに、さも当然といった面持ちで質問を返す。
「生徒会の2人が学校帰りに遊びに行くというお店と会長の幼馴染という方に興味がありまして、会長にお願いして連れてきてもらったんです」
由貴はますます不思議そうな顔をして、今度はしずに質問する。
「あなた達2人は、彼も誘ってあげたのかしら?」
「とんでもないっ。私と有里奈のやり取りを盗み聞きして、私のいないところで有里奈に強引に約束を取り付けただけです。まったく、信じらんない」
しずは山崎を厳しい目で睨みつけると、憤りを隠さず、声を荒げる。引き続き不思議そうな顔を続けて由貴は、目線で山崎に弁明を求める。山崎はそれに涼しい顔で答える。
「早瀬さんはどうやら勘違いをしているようだが、盗み聞きなんで滅相も無い。同じ生徒会室にいたから、偶々、聞こえただけだよ。それに、榎本さんにお願いしたのも、偶々君がいなかっただけで、別に他意はないよ」
山崎の返答にしずは忌々しげな表情をする。有里奈はしずを気遣ってか、申し訳無さそうな表情になる。まあ事の成り行きは浩也が想像していた通りで、強いて言えば、有里奈がもう少し注意していればと思うところもあるが、まさか付いてくるとまでは思わなかったのだろう。なので由貴は思考を切り替えて、さて、どうしたものかと少し考える。
「んー、ちなみに山崎君と有里奈の関係って、付き合ってたりするの?」
「ふぇっ、ないです。ないです。全然、そんなんじゃないですっ」
由貴は判っていて、予想通りの回答を引き出す為に爆弾発言を投下する。山崎はそんなあからさまな有里奈の拒否反応に不満気な表情を見せながらも、それに同意をする。
「ええ、榎本さんの言うとおり、そんな関係ではありません。あくまで同じ生徒会の生徒会長と副会長の関係に過ぎません」
由貴はそこで初めて不思議そうな顔から冷たい笑顔に表情を変えて、山崎に言う。
「うん、ならもう山崎君はここには用は無いわね。一応興味のあったお店にも私にも会ったんだし。有里奈の彼氏とかだったら、この後の会話にも付き合ってもらおうかと思ったけど、ただの仕事上の関係だったら、プライベートの会話には参加させられないでしょ」
「なっ、僕は榎本さんの許可を経てここにっ」
「だから、ここに来たじゃない。それともただの副会長が会長のプライベートを知る権利があると思うの?」
由貴は、反論しかける山崎の言葉を遮り、有里奈と山崎の関係性を盾に反論を許さない。山崎も自分と有里奈との関係性がプライベートにわたるものでは無いと言った手前、それ以上二の句を告げず、悔しげな表情を浮かべる。
「別に山崎君をのけ者にしようとしているわけではないのよ。ただ男の子とは違って、女の子には女の子だけのお話っていうのもあるでしょう?ガールズトークにしゃしゃりでる男子って嫌われるわよ、山崎君」
「も、勿論、自分はそんな真似しませんが。ただ……」
「ただ?」
由貴はこれが最後の悪あがきだろうと、余裕の笑みでそれを聞き返す。山崎はそれを最後のチャンスと思い、意気込んで喋り出す。
「既に外も大分暗いですし、女性だけの夜道は危ないので、自分が送ってあげれればと思ってます」
「あらー、山崎君って優しいのね。ちなみにしずちゃんの家はどの辺なの?」
由貴はわざとらしく山崎を持ち上げつつ、それとなくしずに話を振ってみる。山崎が念頭においているのは、有里奈を送る事なのは明白なので、しずも女性で夜道である事を思い出させる。
「私は有里奈と同じで電車通学です。駅は一個手前ですが。それに送るとか言って、山崎君、徒歩通学じゃない。何考えてるの?」
山崎はしずからの突っ込みに少しだけあせりを見せて弁明する。
「いや、夜道は暗いから危ないってだけで、他意はない。君こそへんな勘ぐりは止め給え」
「そうよ、しずちゃん。親切で言ってくれてるんだからそんな事言っちゃ駄目よ。確かに女の子だけの夜道は危ないわよね。でも山崎は徒歩なのだからいくら副会長だからって、つき合わせちゃ悪いわね。うーん、そうねー」
ここで由貴はわざとらしく考える素振りを見せる。
「そうだ、浩也に送らせましょう!」
「はっ?」
山崎は思わず声を上げる。対して有里奈は途中から気付いていたのか、嬉しそうに微笑んでいる。しずもそう言う事かと合点顔だ。
「浩也なら私の従弟だし、どんな無茶でも文句は言わせないわ。副会長さんにわざわざ電車使わせるのも申し訳ないし。だから大丈夫よ、山崎君、安心して帰ってくれて」
由貴は笑顔で山崎に向かってそう言う。山崎はその瞬間まで浩也の存在を失念していたようで、離れたところで給仕をしている浩也を睨みつける。
「さあさあ、山崎君、これからガールズトークを始めるんだから、申し訳ないけど今日は帰ってくれる?ああ、今日の御代はおねーさんが奢っちゃう、また遊びにきてねっ」
そこまでお膳立てができると、山崎も出て行かざるを得ない。しぶしぶ絞りだすように「ご馳走様でした」と言葉を零すととぼとぼと店を出て行った。そして山崎が店の前から姿が見えなくなったのを見計らって、由貴が有里奈たちの前に座り、
「さぁ、お二人さん、事の次第を聞かせてもらえるかしら。ありゃ、ちょっと考えないと危ないわよ」
と言って、ニッコリとした笑顔でガールズトークの開幕を宣言するのだった。




