第五十五話
楽しくも長かった、コンテスト終了です。これで色々かわる・・・かもしれないし、変わらないかもしれない。でも答えはいつか出る・・・はず(笑)
陽子が舞台裏に戻った時に、開口一番、理緒が詰め寄ってくる。
「陽子ずるい!」
すると有里奈や飛鳥もそれに続く。
「そうね、陽子ちゃんずるいわ」
「陽子さん、いいなぁ」
陽子はその言葉に苦笑で答え、詭弁をかざす。
「だってしょうがないじゃない。私、今は彼女だし」
「それがずるいって言うの。私なんて浩也の彼女、たった1日だけなのに元カノ扱いよ、だからずるいって言うの」
「えー、理緒ちゃん、1日だけでも彼女になれていいじゃない。私なんて、生まれてからこのかた、幼馴染以外になった事ないもん。それなら2人ともずるい」
2人が揃って膨れっ面になる傍ら、飛鳥が1人しょげかえる。飛鳥自身、そんないい思いをした事がないのだ。
「うう〜、皆さん、ずるいです。私なんて、その存在すら、知られてなくて、まだまだこれからなのに。皆さん羨ましいです」
すると、陽子は飛鳥の頭を撫でてやり、優しくフォローする。
「はいはい、飛鳥には、きっとこの後、何かしらチャンスがあるわよ。浩也君、そういうところ、真面目だから。それに理緒も有里奈先輩も、これまで1度も良い目にあった事がないわけではないでしょう?浩也君、そういうところは天然だから。まあ悪いのは有里奈先輩だと思いますが」
「ふぇっ、私?」
「ああ、それわかるかも。浩也って妙に女子慣れしてるっていうか、テレたりしないもんね。アレって、幼馴染で、免疫ついてるって言うか」
理緒がそこで妙な納得を見せる。ただ陽子はそんな理緒にもジト目を送る。
「でもそれって、理緒も同罪よ。あんたって、昔っから、パーソナルスペース近いから。浩也君、それにも慣れてるのよ。まあそうやって、周囲に予防線張ってたのはわかるけどね」
するとこれまで黙っていためぐみが陽子を茶化す。
「さすがは陽子ちゃん、彼女だけのことはあるねー。人前であんなに熱烈に抱き合っちゃうんだもん。愛する浩也くんのことはなんでもお見通し?」
「あ、あれは、話の成り行き上、仕方なくというか、浩也君から抱きついてきたから、それに合わせたっていうか、って、みんなそんなに睨まないでっ」
陽子はそう言って青い顔になる。周囲の女子の目が、嫉妬で燃えているからだ。するとそこにパンパンッと手を鳴らして、由貴がやってくる。
「ほらほら、まだステージは終わってないのよ。最後のアピールタイム。誰にアピールするかは聞かないけど、一応、優勝もかかっているんだから、精一杯頑張りなさい」
すると理緒が気合を入れ直す。
「そうね、せっかくなら、ミスになって浩也の隣に並びたいもの。みんな勝負よ!」
すると他のメンバーも口々に気合を入れ直すなか、陽子だけ別の事を考えていた。
『あっ、そう言えば浩也君なんか決めたって言ってたけど、伝えそびれちゃったわね、まあ後で浩也君が伝えるだろうから、その時でもいいか』
実際にはその時伝えなかった事で、3人には心構えが出来たのにと文句を言われる事になるが、その時の陽子には知る術も無かった。
「さーて皆さん、いよいよ最後の審査発表です。審査は審査員の得票と会場の拍手を評価しての結果となります。エントリー者の皆さんには最後のアピールタイムとして、水着にて登場いただきます。勿論、皆さん素人さんなので、お触り厳禁、過度な反応はお控え下さいね。それでは早速エントリーナンバー1番、水谷飛鳥さんどうぞ!」
飛鳥は水着姿で登場すると、会場にどよめきが起こる。飛鳥は有里奈や理緒に比べれば幼い印象があるが、水着姿になった事で、とある部分が強調される。水着はオーソドックスな、フレアビキニで淡い水色の可愛らしいデザインで、幼い印象の水谷にあったものだが、胸元のボリューム感が、可愛いらしさに女性らしさをミックスさせて、男性の目を引いていた。
「おおっと、これはまた素晴らしい!私、脱いだら凄いんですを地でいく大人っぽさ。これはのっけから、高得点が期待できそう。それでは審査員の方々、得点をどうぞ!9点、9点、9点、9点、合計36点。そして会場の皆さん、拍手をどうぞ!」
すると、歓声混じりで、会場から喝采が起こる。喝采は男性の部とは明らかに違い、自らの推しを応援しようと熱気を帯びる。これに困ったのが司会だ。最終的にこの拍手を評価するのは司会なのだ。だからこそ、審査員の評価に差があると良かったのだが、このままでいくとその差すら期待できない。そして司会は背筋に冷たいものを感じながらも、進行を続ける。
「はい、皆さま、拍手ありがとうございます。この評価は最後に自分が独断と偏見で評価します。のっけから、高い評価で正直、ビビっておりますが、続きまして、エントリーナンバー2番、椎名めぐみさんどうぞ!」
そうしてめぐみがステージに立つ。そのどよめきは、飛鳥に引けを取らない。めぐみは背中の空いた淡いピンク色をしたワンピースタイプの水着である。飛鳥より少し背が高く、スレンダーなのだが、胸のボリュームは飛鳥の方が大きい。ただその愛らしさは、決して引けを取らず、明るく朗らかなめぐみらしい、装いだった。
「おおっつ、めぐみちゃんは小悪魔らしい性格とは裏腹に、その容姿にあった可愛らしい装いだ。ンー、ベリーキュートですね〜。あ、あまり褒めると下品になりそうなので、一旦自重して、早速ですが、採点に入ります。それでは、審査員の皆さん、採点をどうぞ!8点、10点10点、8点、合計36点、続きまして、会場の皆さんもお願いします!」
するとその喝采は、飛鳥同等の熱量の篭ったものとなり、司会は顔を痙攣らせる。
「はい、ありがとうございます。ただ、正直、飛鳥ちゃんとめぐみちゃんは全くの五分。ええっと、これ司会者いじめですか?できればもう少し、点差があるとありがたいのですが、はい、それを判断するのがお前の仕事、おっしゃるとおりです。では次は本命の1人、エントリーナンバー3番、榎本有里奈さん、お願いしますー!」
すると会場のボルテージは明らかに1オクターブ上がる。歓声の中には、「愛してる」だの「結婚してくれー」だの求愛を求める声も聞かれ、有里奈は思わず顔を引き攣らせる。有里奈の水着は色の濃い紺に花柄のタンキニだ。布面積が多いのはある意味有里奈らしく、それでも羞恥からか、首筋まで真っ赤になっている。ただそれが男心をくすぐるのか、そのテンションは下がる事がなかった。
「有里奈ちゃんはやや布面積大目ですが、それでもそのスタイルの良さが際立ちますね。その白い肌に朱がさした姿は、まさに男ならば、守ってあげたくなる女性ナンバーワンです。さて、私の解説なんかは、最早誰も聞いてないですね。はい、それでは審査をお願いします。10点、9点、10点、8点、合計37点、さあ会場の皆さんもお願いします」
すると会場の歓声はそれまでの2名より明らかに高く、司会はほっと胸をなでおろす。
「はい、皆さん有難うございます。あくまで皆さんの歓声の評価は私の独断と偏見ですが、現段階では、頭一つ抜けたでしょうか。さてお次はエントリーナンバー4番、北見陽子さんです!なんといっても浩也くんの彼女ですから、評価が分かれるところ。お願いします!」
司会者は油断していた。流石にここは評価が落ちるだろうと思っていたのだ。ただその思惑は見事に覆る。ステージに上がった陽子への歓声は有里奈に勝るとも劣らないものであり、その応援は、「頑張って」だの、「彼氏離しちゃダメよ」だの純粋な応援が多かった。ちなみ陽子の水着は、ホルターネックのビキニで、陽子に似合う鮮やかな青色をしたものだ。陽子も飛鳥に負けず劣らずのボリューム感を誇るが、その背の高さからか、あまりそこは強調されず、むしろバランスの良さが際立った印象だった。
「これは有里奈ちゃんと甲乙付けがたい歓声ですね。浩也くんとのイチャイチャがむしろ好感度をアップさせている印象。さて、審査結果をお願いします!9点、9点、9点、10点、合計37点、おーっと、有里奈ちゃんに並んだーっ、さて皆さんの拍手もお願いします!」
するとやはり、有里奈と同等の熱量の拍手が巻き起こる。はっきりいって、有里奈と陽子への声援は確実に互角だった。
「いやー、本当に参ります。これどっちも優勝で良くないですか?ダメ、マジっすか。ならばこの人もう1人の本命が突き抜けてくれることを期待します!エントリーナンバー5番、井上理緒さんお願いします!」
理緒の登場と同時に、有里奈同様、野太い怒声が響きわたる。「理緒ちゃん、彼女になって」「理緒ちゃんサイコー」などの怒声である。そこで理緒は歓声に対して、笑顔で手を振ると会場の野郎共のボルテージは最高潮になる。理緒の水着はオレンジ色のチューブトップのビキニ。なんといっても運動部で鍛えられたカッコよさと抜群のスタイル、それに周囲に見せる明るい笑顔は男性陣の心を鷲づかみにする。
「おお、これは、期待できます。突き抜けるか、お願い突き抜けて!さあ、審査員の方々、審査結果をどうぞ!9点、10点、10点、8点、合計37点、ああ、浩也くんなんで8点?」
「さっき蹴られたんで」
突き抜けるかと思われた点数が、浩也のところで失速し、思わず司会が問いただす。浩也はそれを無下にして、淡々と答える。むしろ蹴られた割に高評価だと思っているのだ。
「くっ、私情、明らかな私情。でもまだ観客評価が残ってます。観客の皆さん、応援の拍手をどうぞ!」
司会はその歓声を聞いて、絶望する。有里奈、理緒、陽子の歓声は明らかにどっこいどっこいだった。大会運営からは先程、複数、優勝者は駄目だしされた。でもこのまま自分が1番を決めれば、明らかに不平不満が飛び交う。すると大会運営の女性から、手振りで浩也が指さされ、司会は九死に一生を得る。
「参りました。ぶっちゃけ自分には、有里奈ちゃん、陽子ちゃんに、理緒ちゃん、この3人に優劣がつけられません。だって、点数も拍手も互角ですよ!?なので、ここはミスのパートナーである、ミスター西ヶ浜高城浩也くんに決めてもらいましょう!」
「いっ、マジっすか?」
浩也は突然振られた決定権に思わず目を剥く。
「ええマジです。大会運営からもそのような指示です。会場の皆さんもミスターが決めた事ですから、文句無しでお願いします!さあ、浩也くん、優勝者は、誰にしますか?」
会場中が固唾を飲んで、浩也に注目する。ちなみに理緒や有里奈は答えがわかったのか、溜息をついている。
「じゃあ、陽子で」
「ちなみにその理由は?」
「えっ、だって彼女なんで」
「私情、またしても私情、ただ納得せざるを得ない理由でもあります、したがって、今回のミス西ヶ浜海岸に選ばれたのは、エントリーナンバー4番、北見陽子ちゃーん」
すると会場は司会に対しての罵倒の嵐である。まあ当然だろう。浩也が決定者になった時点で、他を選びようもないのだ。明らかに選択ミスである。ただし、最も禍根のない選択なので、最終的に観客は祝福の歓声を送る。そして、浩也は周囲の喧騒をよそに、自らのパートナーの元へと近寄って、話しかける。
「おう、陽子やったな。ミスだぞミス」
そんな浩也をジト目で見ながら陽子も言い返す。
「どうもありがとう、ミスター、あっ、ちなみに有里奈先輩や理緒のフォローはしないから、自分で頑張ってね」
そう言われて浩也が、有里奈と理緒を見ると明らかにおかんむりだ。浩也としては振られた時点で他に選択しようもない事だったので、肩を竦めるしかない。そして、そんな2人にも同じ事を言う。
「だってしょうがないだろう?陽子は彼女なんだから、幼馴染やモトカノを優先したら、俺が殺される。だからエコヒイキは当たり前だろう」
そんな浩也に2人はワーワー喚きたてるが、浩也はどこ吹く風で、やっとこのイベントから開放されるなどと思っていた。




