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第五十四話

告白タイム後編です。いやー、色々反響があるかもしれませんが、楽しんでいただけると。

「それでは次の告白は、おおっと、本命の1人、榎本有里奈さんだー。いやー、やっぱり何度見ても可愛いですね。そんな彼女が浩也くんに対して、どんな告白を見せるのか、しかもそのシチュエーションは、これまた恋愛話の王道、幼馴染だっ。これは、男子なら誰もが夢見るシチュエーション。しかも有里奈ちゃんが幼馴染とかって、リアルだったら羨ましすぎる。それでは、お願いします!」


有里奈は、正直どうしようか迷っていた。突然の浩也への告白できるチャンスである。これまでも何度かそういう機会はあった。でも言えずにいた言葉である。だから、本当に言ってもいいのか迷うのである。でも舞台は始まった。しかもこの後には強力なライバルも控えている。だから、有里奈は勇気を振り絞る。


「あっ、あのヒロ?」


「ん、有里奈か。どうした?」


「あっ、うん、ヒロは最近、女子と話しをする機会、増えたよね」


浩也はそこで、陽子やめぐみ、飛鳥やしず、3組の女子、バスケ部のメンバーなどを思い浮かべる。


「うーん、確かに増えたよな。何でだろうな?俺自身はあんま変わったつもりはないんだけど」


「そうね、ヒロはあんまり変わってないかも。昔も今もあんまりね」


「へーへー、どうせ余り成長してませんよ」


「フフフッ、そうね。ヒロは昔っからかわらない。いじめっ子で、いたずら好きで、でも真面目で、優しくて、私が困っているときは、いつも助けてくれて」


そういえば、この前、副会長に問い詰められた時も助けてくれた。ほんと私は浩也に助けられてばっかり、困らせてばっかりいる。


「ん?そうか?まあ幼馴染なんだし、当たり前だろ」


浩也はそう言って、不思議そうな顔をする。そう、浩也は幼馴染というだけで、私を特別扱いしてくれる。それは、とても心地よくて、幸せな関係だ。だからこそ不安にもなる。


「ふーん、ならヒロに質問。もし私に彼氏ができても、今と同じように接してくれる?もし浩也に彼女ができても、今と同じように私と接する事ができるかな」


そう、有里奈にとってそれが一番の不安。今の関係はとても心地よくて幸せな関係だ。でもきっとその特別は、別の特別な存在ができたときにきっと無くなってしまうのだ。


「んー、まあ有里奈に彼氏ができたら、流石に色々自重するな。それは彼氏の役目だろ。俺に彼女ができたら、まあ、彼女次第かな。彼女が許せる範囲で、助けられる事は助けるよ」


「やっぱそうなるよね。ちなみにヒロは私が男子を好きになった事があるの知ってる?」


「有里奈が男子を?そんな奴いたか?」


浩也はそう言って、考え込む。少なくても有里奈の一番近くにいた男子として、そういう奴がいれば気付きそうなものだが、さっぱり該当者が思い浮かばない。


「うん、いるよ。その人は凄い鈍感なの。私はその人が小さい頃からずっと好き。その人が側にいるだけで嬉しくなるし、その人が触れてくれるだけで胸がドキドキする。ほんと、何で気付かないのか、不思議でしょうがないくらい」


「ハハッ、それはそいつは鈍いな。でも小さい頃?俺たちにそんな幼馴染いたか?」


浩也はそう言って、頭を捻る。ただ有里奈はそんな浩也の仕草に勘が働く。伊達に長い付き合いではない。浩也の事なら、誰よりもわかっているのだ。


「もうっ、わざとそう言ってるでしょ。ヒロの意地悪。私はヒロがずっと好き。小さい頃からずっとね」


「んー、やっぱそうか。知ってたよ」


「えっ、うそ?いつから?」


そうあっけらかんと言う浩也を思わず、有里奈は問い詰める。浩也がそんな事に気付いていると思っていなかった。鈍チンで自分の事に興味が無くて、自分への好意に疎い存在。なのに簡単にそんな事実をいう。嬉しさ半分、不満半分だ。


「ああ、それこそずっと前からな。まあ、バレバレだな。ただ答えは今はないから、諦めろ」


浩也はそう言って、苦笑する。幼馴染だからわかる。答える気が無いのだ。そう微塵も。そしてそう決めたら、どう言っても無駄だというのが。だから、有里奈は聞き方を変える。


「うー、じゃあいつか答えをちゃんとくれる?」


「ああ、答えがちゃんとでたならな」


不満気な有里奈とは対称的に浩也はそう言って、優しく微笑む。そんな浩也を見て、有里奈は小さく溜息を吐く。答えてくれるという言葉に安堵して。ヒロはちゃんと考えてくれる。なら私は、その答えが自分の望むようなもになるよう、頑張るだけなのだから。有里奈が内心でそう決意をしたところで、終了のコール。


「はい、終了ー、って言うか、なんかリアルすぎない?って言うか浩也くん焦らし過ぎない?なんか自分、凄く消化不良だよ。そこはがばーっと抱きしめるとか、俺も好きやねーんとか、言うところでしょ。もう、有里奈ちゃんけなげ過ぎ。おじさん、断固応援しちゃうから、頑張ってね!いや、なんかこの告白タイム、ドキドキもキュンキュンも正直止まりません。さてお次は陽子ちゃんの予定でしたが、流石に浩也くんの彼女という事で、彼女はトリに回ってもらいます。ですので、お次は、エントリーナンバー5番、もう1人の本命、井上理緒さーん、シチュエーションはクラスメート、これまた甘酸っぱい設定だ!さあ、理緒ちゃん、どうぞっ!」


理緒はこのコンテストに誘われた時、正直参加しようか迷った。ただ浩也の従姉である由貴さんの話ではあの榎本有里奈が参加するといわれ、返事に迷いがなくなった。ようやく肩を並べて正面から勝負出来るのだ。少なくても今の私なら、勝ち目がないわけではない。そう意気込んで、会場に来て、相対した。でもやっぱりライバルは強大で、心が折れそうになる。だからだろうか、浩也を前にした時、理緒は心が弱っていた。


「浩也、浩也って、やっぱ幼馴染が好きなの?」


予定にない言葉だった。他人の事など気にせずに、真っ直ぐに伝えるつもりだったのに、出てきた言葉は、気にする言葉。だから理緒は真っ直ぐ目を見れず、俯いてしまう。


「うーん、そうだな、好きか嫌いかで言えば、好きだと思うぞ」


「何その言い方、もっとちゃんと言いなさいよ」


すると浩也は苦笑いをして、確かに言い方がズルかったと反省する。


「ああ、確かにズルい言い方だな。好きだぞ。幼馴染としても、異性としても。ただな…」


浩也はそう言って、少し言い淀む。理緒は絶望の中から、垂らされた蜘蛛の糸に縋りつく。


「ただ?」


「それ以上の答えはないよ。今はな。考えてもみろ、俺はそういうの考えた事ないんだぜ、別に幼馴染だけじゃないみたいだしな」


「後輩女子もいるし?」


「そうだな」


「元同級生もいるし?」


「まあ、そうかもな」


「なら、私にもチャンスある?」


それは理緒の中から溢れ出た最後の希望だった。浩也はそれを聞いて、ニヤリと笑みをこぼす。


「俺は好きでもない奴と付き合わないぞ。()()()だろ、理緒は」


理緒と浩也の遊園地デート。その日たった1日だけの彼氏彼女。そうだった、浩也は例え1日だけであったとしても、好きでもない相手と付き合ったりはしない。そういう男子だった。なので理緒は理緒らしくそこで、浩也にローキックを食らわす。


「痛っ、ちょ、お前っ」


浩也はローキックキックを喰らいビックリした表情を見せて、理緒に文句を言おうとした所を、理緒が辛辣な言葉で遮る。


「この女っタラシ」


「うっ」


浩也としては、全く意図していないところで、このような事態になったのだ。仕方ないとは言え、結果的に事実になったので、思わず口籠る。そんな口調とは裏腹に、理緒は内心嬉しさで一杯だった。浩也がモテるのは本人以外、みんなが知ってる事だ。特にその苦労は理緒が1番わかっていた。同学年だけでなく、先輩、後輩その多くから問い合わせを貰ってきたのだ。だからその事に不満はない。それは浩也自身が能動的に何かしたわけでは無いのだから。むしろそれより、浩也が自分の事も気にかかる存在だと認めた事が嬉しかった。理緒が言う前に理緒の事を考えて言ってくれた事が。だから、今なら素直に言う事が出来る。ずっと言いたかった言葉を。


「でももういいわ、私ももう彼氏なんかいらないっていうのやめる。私は浩也が好き。浩也が見せてくれる笑顔が好き。一緒にバカやってくれる浩也が好き。だからもう、遠慮なしよ!どうせ今、答える気がないんでしょ、なら答えが出るまでに、全力でその気にさせてやるんだから」


理緒はそう言って両手を腰に当てて、浩也を見る。もう迷いはない。あとは全力で振り向かせるだけ。確かに有里奈も飛鳥も強敵だけど、あとは元カノの元をとってしまうだけだ。その時見せた理緒の表情は浩也が好きな、どこまでも無邪気な素のままの理緒の笑顔だった。


「はい、終了ー!理緒ちゃん、ナイスッ、いいローキックだったね、その前の有里奈ちゃんの流れを汲んでの、その設定、いやはや、最早即興劇の域を遥かに超えてるよ。ただ段々会場のヘイトが溜まるこの状況、浩也くん、ほんと夜道に気をつけた方がいいよ。いつか刺されるからね。っと言う事でいよいよ告白タイムもラスト、リアル彼女に告白させるのも心苦しいのですが、エントリーナンバー4番、リアル彼女北見陽子さん、お願いします!」


そして陽子は壇上に上がる。陽子は戸惑っていた。有里奈も理緒も真剣に前を向いて、思いのたけをぶつけていた。飛鳥だってそうだ。流石にめぐみまでもとは言わないが、少なくてもその3人は、浩也君の前に立つ事を選んだのだ。多分これが最初で最後の機会。選んだものと選ばなかったものの運命の分かれ道。ならば私の答えは・・・。


「ねえ、浩也君。随分とモテるのね」


陽子はそう冷たい目で浩也を見る。陽子の胸はこの告白タイムが始まってから、ずっとチクチクと痛みっぱなしだった。だからこそこの視線も厳しくなる。浩也は両手を上げて、降参のポーズをすると、素直にそれを認める。


「どうやらそう見たいだな。少なくても3人には好かれているみたいだ」


「あら、数が合わなくない?」


陽子の視線は鋭さを増す。まだ浩也の勘定に誰かが入っていないのだ。それが誰だか陽子は直ぐに気づくと、今度は無償に腹が立ってくる。本当に鈍い。確かにそう言う素振りは少なかったかも知れないが、でも気付いても良いだろうに。


「いや、だって、お前」


「おや?本当にわからないの?この()()()()()私でもわかるのに?」


「えっ、いやお前いいのか?」


そこで浩也は戸惑いの表情を見せる。浩也が勘定に入れてなかった女子は、陽子のことだ。だからこそ、不満を露わにする。人を勝手に彼女にしておいて、人を勝手に喜ばせておいて。


「なんの事かしら?ああ、もしかして今回のこの茶番で私が愛想を尽かすとでも思った?まあ、幼馴染に同級生、ああ後輩女子も私の友達まで、みんな人の彼氏に劇とは言え、熱を込めて。でもこの際だから、言っておく。そんな事で私の気持ちを疑らないで、私は好きになったら、ぐらついたりしないわ、いい、私が好きなのは、浩也君、あなただけわかったっ」


するとそんな目の前で啖呵を切られた浩也は、思わず吹いてしまう。まさかそうくるとは思わなかった。今この瞬間の立場を利用して、1番強い想いを伝えられる。やはり陽子は誰よりも頭が良い。


「プッ、アハハ、やっぱり陽子だな、うん、今この瞬間、陽子が彼女で良かったよ。うん、俺は陽子のそういうところが好きだな」


浩也はそう言って、笑いながら、陽子に近づくと優しく包み込むように抱き寄せる。


「ふぇっ、ひ、浩也!?」


動揺して顔を赤くする陽子を尻目に、浩也はその耳元で、愉快さ混じりの声を出す。


「彼女だろ、このくらいは許してくれ。色々モヤモヤしてたけど、ひとつだけ決めた事がある。だから、サンキューな」


陽子は浩也が何を決めたのかは知らないし、わからない。勿論、それが自分にどういう結果をもたらすのかもだ。ただそう悪くもない事なのだろう。だから体の緊張を解いて陽子も浩也に抱きつく。もう少しだけ、この幸せな瞬間が続きますようにと心から願って。


「はい終了ー!はーい、そこのバカップル、あんま公衆の面前で、イチャコラしないでくださいね。まあ、ラブラブなのはわかりましたから。当然、彼女が1番なのはわかってますから。ただし、審査員、会場の皆さんは別。この後は5分の休憩を挟んで、いよいよ、審査結果の発表です。皆様が今ここで見た彼女達の中から1番ミス西ヶ浜に相応しい方をお選び下さい。では陽子ちゃんも一度ステージ裏へお願いします」


そう言って、司会は舞台袖、陽子は舞台裏へと下がっていく。そして浩也は審査員席に戻って席に座ると、疲れを滲ませながら、早く終わらないかと、しみじみと思うのだった。


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