第五十三話
いよいよ告白タイム、前半戦、頑張ってもらいましょう!
司会の呼び出しに応えて、理緒が壇上に上がる。その際のどよめきは有里奈に匹敵し、いい意味で2人が対称的なので、会場の品評が過熱する。
「おい、なんだ、またスゲー可愛い子が出てきたぞ」
「さっきの子と双璧かっ」
「うぉー、悩む、ショートも良いが、黒髪清楚も捨てがたい」
そんな周囲の喧騒を理緒はさして気にする事なく、浩也と目が合うと、悪戯が成功した子供の様に、ニヤリと笑う。ちなみに理緒の服装も、他のメンバーと合わせたのか、Tシャツにショートパンツで特に目立つのは、そのスタイルの良さだろう。有里奈とは違い、バスケで鍛えられたスタイルは健康的で、その肌も少しだけ小麦色であり、ショートカットの明るい髪に良く似合っていた。
「いやー、ほんと、この大会マジでヤバい。正直出てきた女性陣全員、アイドルで通用するよ!なんなら自分、芸人やめて、プロデュースしちゃうよ!あ、お呼びでない。はい、失礼しました。さて、理緒ちゃん、高校2年生で青春真っ盛り、今年の夏も忙しいのかな?あっ色んな意味で」
「はい、忙しいですね。部活に宿題に、やる事一杯です」
「おっと、返しが上手いねぇ。ちなみに意中の相手とかいるのかな?」
「フフッ、どっちに見えますか?ご想像にお任せします」
「いや、ほんとに手強い。現役アイドル並みの模範解答、この司会者泣かせ! といつまでも芸能リポーター見たいな事をしても仕方ないので、ドンドン進めます。まず最初のコーナーは・・・」
そう言って司会が進行を進めるタイミングで、理緒が隣に並ぶ陽子に話かける。
「あれ、陽子はあんま驚いていないのね」
「そりゃそうよ、私が理緒の連絡先を由貴さんに教えたんだもの。由貴さんもそんなニュアンスを出してたし、正直、ああやっぱりって感じ」
そう言って、理緒に苦笑いを見せる。理緒はそのあと、陽子の奥に目をやって、陽子に目配せをする。
「ああ、理緒は有里奈先輩とは初めてだっけ?その奥のめぐみもだよね。えーと飛鳥は知っているのか。一応簡単に紹介するけど、有里奈先輩は浩也くんの幼馴染で、私も先輩後輩で仲良くさせてもらってるの。めぐみは、私の高校の友達。藤田君とか中川君とかも知っているのよ。で、彼女は井上理緒、私の中学時代の同級生で、浩也くんとは今も同じクラスなんだよね?」
「大丈夫、それであってる。井上理緒です。浩也とは中学からずっと仲良くして貰ってます。」
「うん、知ってるよ。ヒロとは中学からずっとクラスが一緒なんだよね。私はヒロの幼馴染の榎本有里奈、よろしくね」
するとお互いが笑顔なのに、何か凄みみたいなものを感じて、めぐみは尻込みする。
「よっ陽子ちゃん、なんだか入って行き辛い雰囲気を感じるんだけどっ、ど、どういう事?」
そして2人の友人であり、それぞれの事情を何となく察している陽子が溜息交じりに、説明する。
「うーん、一言で言うなら浩也君絡みかしら。ああ、飛鳥も含めて関係者ね」
「ちょっと、陽子もなに他人事のように言ってるのよ。さっきのアレ何?」
「そ、そうだよ、陽子ちゃん。いきなり彼氏ってっ!?」
そう言って他人事を決め込んでいた陽子が両サイドの2人から、突っ込みを入れられる。陽子としてはただ浩也の悪ふざけにのっただけなので、そう勘ぐられるような事はないのだが、今はコンテスト中で説明するのも面倒くさいので、端的に言う。
「今、バイト先でそう言うことになってるから、そうしただけ。あくまでフリよ、フリ」
とそんなやり取りが行われつつもコンテストの進行は進んでいく。やはり、人気は有里奈と理緒に二分され、めぐみや飛鳥はそれぞれ好みのタイプでファンがついているようだった。陽子はというと、浩也の彼女という立場から、人気面ではやや不利な状況。ただ海岸という会場の特性上、家族客などもおり、そう言う層にはお似合いのカップル的な評価で好感度を上げていた。
「さてお次のコーナーは、お待ちかね、告白ターイム。という事で、男性の部を見ていただいた方ならお分かりですが、告白というシチュエーションで大いに観客の皆さんをキュンキュンさせちゃってください。ちなみに男性の部の優勝者、浩也くんはこの告白で、優勝を手にしたと言っても過言ではありません」
観客はまってましたとばかりに、歓声をあげる。確かにさっきの告白では、浩也の告白が一番真実味があり、観客をキュンキュンさせた。しかも今回は近年稀に見るクオリティの女子ぞろいである。いやがおうにも観客のボルテージが上がっていく。
「ちなみに今回は女子からの告白という事で、本当であれば、私がされる側となりたいのですが、流石に絵になりません。なのでここは一つ、男性の部優勝者である高城浩也くんに相手役を勤めていただきたいと思います。浩也くん、彼女さんがいるのに申し訳ないけど、お願いできるかな?」
当然、浩也としては断る選択肢などないので、首を縦に振る。ただどう対応したらいいのかがわからないので、そこは確認をする。
「あ、ただこれって振ったり、断ったりしてもいいんですか?ちょっと勝手がわからなくて」
「ああ、そうですね。浩也くんは素人さんですから、演技をしろといっても難しいと思います。その辺は比較的自由にやっていただいて結構です。それと女性陣は予め、どういうシチュエーションを希望するのかを言ってください。浩也くんもそのほうがイメージしやすいと思いますので」
司会がそう言って、いよいよ告白タイムが始まる。告白の一番手は飛鳥。飛鳥が選んだのは同じ部活の先輩と後輩で、後輩がずっと先輩を慕っていたというものだった。
「高城先輩、すいません、突然呼び出しちゃって」
「ああ、別に構わないけど、用って何だ?」
「はい、先輩は私が先輩の事を好きだって知ってましたか?」
「うっ、すまん、知らなかった」
浩也にしてみれば、実際の関係で知らなかった事実だったんので、素直にそう答える。すると飛鳥はその答えを知ってたかのように、ニコリと笑う。
「ですよねー。私がいつも先輩を目で追っても、先輩が振り向いてくれる事がなくて、勇気を出して話かけても素っ気なくて、私のこと全然興味がないんだって、結構ショックだったんですよ」
「かさねがさね、すまん」
「フフフッ、でもです。でも一度だけ先輩が私に優しくしてくれた事があったんです。どうせ覚えていないと思いますが」
すると浩也はそんな事あったかと、首を捻る。まあ特段邪険にしてた記憶はないが、かといって意識して優しくした記憶もなかった。
「それはサッカー部の練習の時で、用具が倒れて私が足を挫いた時、先輩が1番先に私に近寄ってきて、挫いた足を見て直ぐおんぶして、保健室に連れて行ってくれたんです。大丈夫かって真っ先に心配してくれて、すごく嬉しかったんです」
そう言って飛鳥は本当に嬉しそうな顔をする。浩也はそんな記憶全くない。練習での事故であれば、少なからずあるし、けが人を保健室に連れて行く事くらい、別に特別なことでもない。だから日常の1コマとして、忘れてしまったのだが、それは飛鳥にとっては大切な思い出だった。なので浩也は頭をかきながら、改めて謝罪する。
「いや、すまん。全く覚えていない。っていうか、それって普通の事だろ?怪我した後輩を保健室に連れて行くことくらい」
「フフフッ、先輩、一つ覚えておいて下さい。女子はそんな事で平気で恋に落ちるんですよ。だから私は先輩に恋をしたんです。でも今はまだ先輩の事をまだまだ知らないんだと思います。先輩も私の事を全然知らない。だから、これから覚悟していて下さい、絶対先輩を振り向かせて見せますからっ」
「お、おう」
そう言って浩也は、少し気圧されて返事をする。それは告白でもあるが、なんか決意表明みたいだななどと思うのだった。
「はい、終了ーっ。いやー、後輩ちゃんの淡い恋心、迫真に迫ってましたね。流石の浩也くんもタジタジでした。ホント浩也くんも飛鳥ちゃんも迫真の演技だったよ。うん、後輩女子の淡い恋心、自分大好きです。さて、次のシチュエーションは、彼女の友達?これは難易度高めですね。小悪魔めぐみちゃん、さあお願いします」
司会はそう言って舞台袖に移ると、浩也の前にめぐみがやって来る。
「ひーろーやくん、最近陽子ちゃんとの仲ってどう?」
「なんだ、藪から棒に。別に普通だ。普通」
めぐみの思惑が見えない浩也は、警戒心を抱きながら、普通の応対をする。そもそもめぐみはコミュニケーション能力が高い。そのめぐみがどんな手を繰り出すのか、さっぱり予想がつかなかった。
「ふーん、そう。相変わらず仲良しかー。そうか、そうか」
「なんか奥歯にものが挟まった様な言い草だな。何が言いたいんだ?」
「ふふーん、じゃあ今から浩也くんを少し困らせても良い?」
「断る!」
あからさまなめぐみの物言いに、浩也は憤然と拒否をする。流石に断言されるとはめぐみも思わず、慌てて言葉を継ぎ足す。
「いや、流石にそこは話くらい聞こうよ、ね、お願い、聞くだけでも」
「ふむ、そこまで言われたら、聞いてもいい気持ちにもなるが、だが、断る!」
そんなめぐみの懇願に浩也は気にもせずに拒否をする。めぐみもそれならばと戦略をかえたのか、先ほどの懇願モードから今度は逆切れモードに移行する。
「むー、じゃあもう、勝手に言っちゃうもんね。浩也くんのバカ。私は浩也くんが好き、陽子ちゃんには悪いけど、ガチなやつだからねっ」
「チッ、こいつ最後まで言いやがった。だから聞くのが嫌だったんだ」
「へへーんだ、少しは悩んでハゲちゃえ、このイジワル」
ここまでくると最早泥仕合の様相を呈してくる。なので浩也は再び、告白路線へと話を戻す。
「くっ、わかった。少しは悩んでやる。ただ答えはきっと変わらんぞ」
「ふん、そんな事わかってる。でも言いたかったの。だから、そう言う気持ちがあった事だけ覚えていてね、浩也くん」
めぐみはそう言って、最後は少し切なげに微笑む。浩也はやっぱめぐみはすごいなと感心する。浩也的には結構無茶ぶりをしたつもりだが、それを完璧に打ち返す。めぐみに本気で告白されたら、多分太刀打ちできる男子はいないんじゃないかと思う。そして司会者が一区切りと判断して、終了を告げる。
「終了〜、泥仕合かと思いきや、一転、切ない恋バナに早変わり。これは切ない、でも言わずにはいられない、これも告白の醍醐味ですねー。それにしても浩也くん、断るの早すぎ、もうちょい、女子に優しくね」
「うす、善処します」
浩也としてもめぐみ相手以外ならここまで無茶振りをしないので、ここは素直に受け入れる。するとめぐみが浩也に近寄って、小悪魔な一言を告げる。
「ほんと浩也くん酷いよ、でも楽しかったけどね。だからまた陽子ちゃんに内緒で遊んでね、浩也くん」
そしてめぐみは楽しげにでも少しだけテレを覗かせて微笑むのだった。




