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第五十二話

ミスに対して、男性側、思わずミスターにしましたが、我ながらミスターって思う今日この頃です。。。

その後、トロフィーやら賞品やらを受け取り、浩也はようやく壇上からおりる。賞品は商品券10万円分で、この手のコンテストにしては値のはるもので、それは素直に喜ぶ。


「浩也くんおめでとうーっ、ミスターだね、ミスター」


「めぐみ、それ絶対馬鹿にしてるだろ」


祝福にきためぐみに対し、浩也がジト目をかえす。正直、ミスターはいただけない。そんなことを考える浩也に対して、陽子達もやってきて、祝福や感想の言葉を述べる。


「ヒロ、おめでとう、優勝しちゃったね」


「浩也君、全然恥なんてかかなかったじゃない。この裏切り者」


「高城先輩、流石です。私の目に狂いはありませんでした!」


浩也は祝福されるのはやぶさかではないのだが、やはり少し微妙な表情を見せる。


「まあ、ありがとうと一応言っておく。ミスター西ヶ浜海岸と言う名前と消去法的な選択の印象は拭えないが、まあ1位は1位だ。賞品も出たし、良かったと思っておく」


「なに、その微妙な評価は・・・」


陽子はそう言って、苦笑いをする。やっぱり浩也は浩也で、例えミスターになった今でも、自分はモテないなどと平気でいいそうであった。そんな浩也達の元に運営側スタッフとして、会場にいた由貴があらわれる。


「浩也、やるじゃない。ミスターよ、ミスター。まあ今回は相手に恵まれた感は否めないけど、それでもミスターは伊達じゃないわ。今度、店の名札にもミスターの称号をつけようかしら。きっとお客様から黄色い歓声が聞こえてくるわ」


「ちっ、人が気にしてるところを抉りやがって、何しにきたんだっ」


「ああ、あんた優勝者だから、裏じゃなくて、表の審査席に行きなさい。特別審査者として舞台にいなきゃいけないから、呼びにきたのよ」


「はっ?まだなんかやらされるのか?本当に勘弁してくれ」


そう言って、浩也は項垂れる。しかし由貴はどこ吹く風で、さっさと浩也を表へと追い立てる。そうして重い足を引きずるように浩也は裏手から出て行ったところで、由貴が女性陣に向き直る。


「さて、あなた達、これからが本番よ。聞いての通り、浩也はミスの相手役に選ばれたわ。浩也の相手として選ばれるのはただ1人。勿論、浩也に興味がない子でも、賞品は10万円分の商品券がつく。これで燃えなきゃ女が廃るわ、ここからは友達じゃなくて、みんながライバル。頑張りなさいっ!」


まさに高校野球の監督さながらの、激励っぷりである。こういうノリには乗らなきゃ損と思っているめぐみや、浩也の相手を射止めたいと思っている有里奈や飛鳥はやる気を見せるが、ただ1人陽子はしり込みする。確かに浩也の相手や賞品は魅力的だが、なんかそれだけで燃えると言うのもちょっと違う気がするのだ。


「あれ、陽子ちゃんどうしたの?」


何となく陽子だけ余り気乗りをしていない風で、有里奈が気になって声をかける。陽子は少し作ったような笑顔を見せて、首を横に振る。


「いえ、何でもないです。ただ、多くの人の前で、なんかドキドキしちゃっただけで」


「うう~、それはいわない約束だよ。私だってそういうの得意じゃないんだから」


そう言って、有里奈のメンタルが、一気に弱る。すると今度は陽子が元気づけるように有里奈に言う。


「ほらほら、有里奈先輩、そんな弱気だと、私が浩也君の相手になっちゃいますよ。ほら、みんなライバルなんですから」


「ううっ、そう、そうよね。負けてられないよね、うん、頑張らないと」


「そうそう、その意気です」


そう言って陽子は朗らかな笑顔を見せる。そして、まあ、なるようになるとさっくり割り切れるところが、陽子と浩也の似ているところだった。


そうして暫くのインターバル後、イベント会場はミス西ヶ浜海岸を選ぶコンテストへと移行していく。司会は先ほどとかわらず、売れない芸人さん、審査員は先ほどのメンバーに加え、特別審査員として、ミスター西ヶ浜海岸に選ばれた浩也が加わっていた。


「さー、始まりました、先ほどの男性部門に続き、今度は女性部門のミス西ヶ浜海岸コンテストとなります。ちなみに男性部門の優勝者、高城浩也くんが特別審査員として、審査に加わります。浩也くん、よろしくね」


「あっ、はいよろしくお願いします」


浩也はマイクを向けられ、猫かぶりモード全開で爽やかに挨拶をする。ちなみに浩也が挨拶すると拍手とともに黄色い歓声が響く。そしてなぜか浩也の隣に座る心美がムッとした表情を見せる。ちなみに浩也が会場に現れ、アイドルグループの隣に席を設けられた時、心美は嬉しそうな顔をしたのを司会の芸人は見逃してはいなかった。


「心美ちゃん、浩也くんが隣だけど、事務所の社長、大丈夫?駄目だよ、勝手に手を出しちゃ」


「出しませんっ、もう、ヘンな事言わないで下さいっ」


そう言って心美は突っ込みを入れる。勿論、多少のテレが入っており、それが会場の笑いを誘う。そんな心美で掴みをとった司会は、色んな意味で浩也に内心感謝しつつ、進行をするめる。


「さて、心美ちゃんのお陰で、すっかり会場が和んだところで、いよいよコンテストを開催します!では今回のエントリー者を順々に紹介していきますので、呼ばれましたら、壇上にお越し下さい。まずはエントリーナンバー1番、おおっと、今回の最年少、水谷飛鳥さーん、どうぞー」


飛鳥が司会に呼ばれ壇上に上ると、会場のボルテージが1つ上がる。飛鳥はTシャツこそ羽織っているが、下は水着姿で、ショートパンツといういでたち。厳密に言うとバイトメンバー全員が似たような格好をしており、バイト先を出たときと同じ格好なのだが、その健康的なすらっとした足が、世の男性には魅力的に見えるらしい。今日は肩まで伸びる髪を二つに割って小さなツインテール姿で、まだあどけなさの残るその表情にマッチした可愛らしい格好だった。


「おおっと、これは可愛いらしい女子ですねー。えーと、手元の資料によるとまだ高校1年生との事。飛鳥ちゃんは、何か部活とかはやってるのかな?」


「あ、いえ、今はしてません。前はサッカー部のマネージャーをしてたんですが」


「おお、いいねぇ、マネージャー。部員の先輩とか同級生とかから告白とかされたでしょう」


「あ、はい、あ、あれ、こういうのって言っちゃってもいいんですかね?」


思わず司会の質問に素直に答えていいもんなのかと飛鳥はしどろもどろになる。逆に会場はそんなうっかりしたところが可愛らしく見えて、歓声が上がる。


「はははっ、別に都合の悪いところは言わなくてもいいよ。あっ、僕は仕事だから、どんどん聞いちゃうけどね」


そう言って司会はおどけると、会場がドッと笑いがおこる。飛鳥は少し顔を赤らめて恥ずかしそうにするが、それが更に好感度を上げているようだった。


「さて続きまして、エントリーナンバー2番、椎名めぐみさーん、壇上へどうぞーっ」


2番目にめぐみが壇上に上がる。服装は先ほどの飛鳥と同様、Tシャツにショートパンツ。ただ人一倍お洒落な服装をするめぐみだけあって、Tシャツも洒落た柄入り、ショートパンツもジーンズ地の少しダメージが入ったもので、服装の印象ではカッコいいものだった。加えてその容姿、めぐみの容姿は可愛い系なのだが、少し茶色がかった髪を後ろで1本にまとめ、大人びた印象を与える。


「おおっとこれまた可愛い子がきました。めぐみちゃんはなんかお洒落な感じがするねーっ、彼氏さんとかもカッコ良さそう」


「フフフッ、残念ながら、彼氏なんていません。そんなみえみえの引っ掛けには引っかかりませんよ」


「おおっと、これは一本取られました。うん、めぐみちゃんはなんか小悪魔的な手強さがありますねー。いじられたい自分としては、ちょっとマゾっ気が」


司会はそう言って、クネクネ体をよじらすと、会場がワッと盛り上がる。めぐみもそれに楽しそうに笑って、花を添える。


「さて、自分のヘンな性癖は置いておいて、続きましては、エントリーナンバー3番、榎本有里奈さーん、ステージへどうぞー」


そうして有里奈が壇上に登ると、会場のボルテージが最高潮に達する。有里奈は恥ずかしさから、少しモジモジしていたが、浩也を見かけると嬉しそうに笑顔を見せ、その笑顔が会場の男子を虜にする。


「やっべー、あの子マジ可愛くねえ!」


「前の2人も可愛いけど、この子は別格だわ」


会場の男子の品評が至るところで繰り広げられる。有里奈の格好も前の2人と同じだが、際立つのは色の白さだ。綺麗な肌に、テレで薄っすら朱がさす姿は、前の2人にない、色気を感じさせる。


「おいおい、この大会はどうなってるんだ?明らかにレベルが高すぎる!えーと、有里奈ちゃんは高3で今年受験生なんだよね、大学に入ったら、1人暮らしとかするのかな?そしたら彼氏と離ればなれになっちゃうねー」


司会はあらかさまに誘導するような質問をするが、テンパり気味の有里奈は、思わず素直に答えてしまう。


「いえ、家から通える大学を受けようと思ってるので、そういう事にはならないと思いますが」


「おお、ていう事は、有里奈ちゃんには意中の相手がいるのかな」


「あっ、いやその、それは違うというか」


有里奈のテンパりはますます混乱を極め、もはやしどろもどろだ。するとそこに本来は呼ばれてから会場に出なければいけない陽子が、颯爽と現れて、有里奈をかばう。


「ちょっと司会さん、こっちは素人で緊張してるんだから、あんまり意地悪しないでくれる」


しかし司会もプロの端くれ、そんなイレギュラーをチャンスに変える。


「おおっと、ここでエントリーナンバー4番の北見陽子さんが乱入だーっ、しかも勇ましくカッコいい!って、せめて呼んでからきてよーっ」


そう司会が叫ぶと会場は爆笑の渦に包まれる。有里奈も流石に落ち着きを取り戻し、陽子を見てホッとした顔をする。


「陽子ちゃん、ありがとう、今の凄い助かっちゃった」


「いえいえ、どういたしまして」


そう言って、陽子らしい明るい笑顔を見せる。


「2人の熱い友情シーンのところ悪いのですが、ここで陽子ちゃんに質問、ズバリ、彼氏はいますか?」


すると陽子はキョトンとした顔で周りを見ると、浩也と目が合う。ちなみに浩也は面白そうだから言ってみろと言わんばかりの視線をよこす。なので、せっかくのイベント、盛り上がる方が楽しいかと思い、その思惑に乗っかってみる。


「えっ、ああ、あそこに」


すると指差した先には浩也がニヤニヤしながら座っている。


「ええーっ、なんと陽子ちゃん、ミスター西ヶ浜海岸の浩也くんの彼女だったー!?」


すると浩也に惹かれていた女性陣からは、悲鳴、陽子をいいなと思っていた男子からは怒号が沸き起こる。


「はい、今もそこの海の家で一緒にバイトしてるんですよ」


そう言って司会に笑顔を見せる。司会は慌てて浩也にマイクを向けて、その真相を確かめる。


「ひ、浩也君?陽子ちゃんはそう言ってるけど、本当なの?」


「はい、付き合ってますよ。だって陽子、可愛いでしょ」


浩也はそうシレッと言ってのける。内心では、流石は陽子、アイコンタクトで全てを理解するとわなどと賛辞を送っている。司会もこれ以上は進行に遅れをきたすと判断し、会場に笑いを取りに行く。


「心美ちゃん、残念だね、浩也くん彼女いるって。さあ僕の胸で泣くといい」


司会はそう言って心美の前で両手広げる。すると心美はどこから持ってきたのか、スリッパを持ち、司会の頭をスパーンと叩く。


「だれが泣くかっ」


スリッパの乾いた音と心美のツッコミが会場に響き渡り、再び会場は大いにわく。


「さて、色々痛い思いましたが、なんとか最後のエントリー者に辿りつきました。最後のエントリー者はこの方、エントリーナンバー5番、井上理緒さんだーっ」


「なっ」


浩也は完全に呆気に取られ、言葉を無くす。由貴の言っていた秘密兵器、最後に現れたのは浩也のよく知る井上理緒その人だった。


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