第五十一話
いやー初レビュー、頂きました。めっちゃ嬉しいです!正直、催促したような形なので、ちょっと心苦しくもあるのですが、それ以上にファンでいてくれているのが、嬉しかったです。今回は浩也節炸裂の回なので、浩也ファンは楽しんで下さい!
浩也が壇上に登ると既にエントリーしている男子4名が待っていた。
「さあ、ラスト、エントリーナンバー5、今回最年少の高城〜浩也〜」
司会の売れない芸人の呼び声で、浩也は会場に目をやって軽く手を振るとと、ワー、キャーと女子達の黄色声が響き渡る。浩也はサクラも頑張るなーなどと思っているが、その実、普通に一般客の女子の声である。ちなみに最後の登場なので、それまでのエントリー者の入場を見ておらず、黄色声援が出たのが、浩也だけと言う事実を浩也は知らない。当然司会は、今回の本命が浩也だと感じており、積極的にマイクを向ける。
「いやー、浩也くん、すごい人気だね〜。今日1番の歓声だったよ」
「ありがとうございます。年少者なんで、気をつかって声を出していただいたんだと思いますが、素直に嬉しいっす」
「おやおや、若いのに発言も謙虚だね〜、非常にポイント高いと思うよ。それより浩也くん、一応、コンテストだから、その頭に巻いたタオル、取った方がいいよ」
司会がそういうと、会場がドッと湧く。浩也も緊張してない風で、どっかで緊張してたのだろうと思い、素直にタオルを取って謝罪する。
「ああ、すいません。やっぱ緊張してたみたいで」
するとタオルを取って、軽く頭を振って髪を手櫛でとかすと、再び観客から黄色声が上がる。中には審査員のアイドルグループのメンバー迄もが、少し顔を赤らめている。
「おおう、その方がいいよ。ダントツイケメンだね〜、っとあんまり浩也くんとばかり喋ってると僕が浩也くんを狙ってると疑われちゃう。ちなみ自分は女子好きですよーっ、浩也くんにはグラッときますが」
そう言って再び会場がドッと湧く。気を良くした司会はコンテストの進行を小気味良く進める。
「さて最初のコーナーは、告白ターイム!と言われても、なんのことかわからないですよね。ここに審査員の心美ちゃんがいます。この心美ちゃんをガチで落とすつもりで、告白して下さい。その時のセリフ、仕草が観客の皆さんの評価ポイントに繋がります。それではエントリーナンバー1番の方からどうぞ」
司会はそう言って舞台袖に移動すると、エントリーナンバー1から順に告白を始める。告白相手の心美はさして緊張した面持ちも見せず、どちらかと言うと笑いを誘導するように相手を振ったり、去なしたりする。浩也は素直にプロは上手いなあなどと感心して観客の1人になっていた。その結果、自分の番がくるまで楽しんでいたため、いざ自分の時には、完全にノープランで臨むことになる。
「なあ心美、今時間あるか?ちょっと話があるんだが」
冒頭、自分のセリフを言った後、浩也はそう言えば心美って何歳なんだ?などと考えている。年上ならさん付けの方が良かったかと思ったが、思わずいつもの調子で名前呼びしてしまった。すると心美は気にした風もなく、普通に返事をくれる。
「話?少しくらいなら良いけど」
そして浩也は、二つ目の疑問を抱く。あれこれってどこまで近付いていいんだ?勿論、他の候補者は近付いてはいたが、触れたりはしてなかった。まあその辺が線引きだろうと勝手に判断して、心美の正面に立つ。心美の身長は160cmそこそこで、浩也が目の前に立つと少し見上げるくらいの目線である。
「なあ、心美は今、付き合ってる奴いるのか?」
心美は正面に立つ浩也がそう言って、普通に告白するような口調と緊張感で話しかけてきたことで、ドキッとする。
これは心美の事情だが、心美は高校に入ってからアイドル生活を送っており、恋愛といっても中学時代の淡いものしか経験がない。さっきまでのエントリー者は心美より年上で、言わば仕事場にもいる年代の男性だった。だから普通に仕事として接することができたが、今、目の前にいる浩也は、同年代の男子で、不思議とその淡い思いが蘇ってきてしまう。
「えっ、今はいないけど」
「好きな奴は?」
「うん、好きな人もいない」
すると浩也はニカッと笑って、顔を寄せて言う。
「俺は心美が好きだ。俺と付き合ってくれないか」
「うっ」
あまりに直球で自然に浩也が言うので、心美は思わず声を詰まらせてしまう。すると浩也は追い討ちをかけるように右手を心美の頬に当て、その瞳を覗き込む。
「俺じゃ駄目か?」
「だっ、駄目じゃないけど」
「なら付き合ってくれる?」
「う、うん」
心美は顔を赤らめて、思わず頷いてしまう。その瞬間、心美は仕事を忘れ、普通の女子として普通に嬉しげに微笑んでいた。
「しゅうりょーう、いやー、浩也くん、キュンキュンさせられたよ。甘酸っぱい、んー、青春だね〜」
すると浩也は心美から離れ、司会の方へと歩き出す。
「あっ」
心美はそう声を漏らすが、その残念そうな声には、幸いな事に誰も気付かない。
「いや、なんか普通に告白するしか、思いつかなくて、心美さんの演技に助けられました。素人の棒読みで、本当にすいません、なんか会場も静かですし」
と言って、静かな会場に申し訳無さそうな表情を見せる。ただ司会はむしろ会場を静かにさせる程、ドキッとする告白だと感じている。事実、何人かの女子は、今も顔を赤らめて、羨ましそうな表情をしている。そして浩也が告白した相手も同じような表情で、今も物欲しそうな顔をしている。
「何言ってるの、浩也くん、恋愛禁止のアイドル心美ちゃんが思わずうんって言っちゃったんだよ、ねえ、心美ちゃん。ガチでうんって言ってたよね?」
司会者がそう突っ込みを入れると、ようやく仕事と思い出した心美は慌て出す。
「い、嫌だなー、演技、そう、演技ですよ、もう」
「そうですよね、心美さん、可愛いから、思わず勘違いしそうになりましたよ。いやー、プロって凄いですよねー」
そう言って、浩也は微塵も疑わず、心から相手を褒める。心美は、微塵も演技出来ていないのはわかっていたので、思わず乾いた声を漏らす。そう心美は、告白が成立したのに、瞬時に振られ、今は顔で笑って、心で泣くのだった。
そんな浩也告白劇の舞台裏、ミスコンに参加するメンバーは、裏でそれぞれの反応を見せる。
「うーん、流石浩也くん、あのアイドルの子、完全にキュンキュンしてたよね」
「ええ、流石は浩也先輩です。私的には、あのアイドルをいじめたくなりましたが」
そう言って普通の感想を言うめぐみと仄暗い笑みを浮かべる飛鳥。一方頬に手を当てて、顔を赤らめる有里奈。
「うーっ、ヒロ、また変なところで、ファンを増やして。あんなの見せたら、またライバル増えちゃうよ」
「まあ、浩也君のあれ、天然ですからね。絶対未だに演技だと思ってますよ」
そんな有里奈に対して冷静に合いの手を打つ陽子を見て、めぐみが不思議そうな顔をする。
「あれ、陽子ちゃん案外普通だね。もっとテレたりするかと思ってたけど」
「ああ、だって浩也君、自分でも言ってたけど、セリフ棒読みだったじゃない。なんか嘘っぽいっていうか。だからかな、あの告白あんまピンとこなくて」
そう言って陽子は素直な感想を言う。浩也の性格を知っているので、もし浩也が告白するなら、もっと真剣に、でもちょっとしたテレを見せると思ったのだ。すると有里奈がそれに同意する。
「ふふっ、確かに。ヒロは真面目だから、あんな軽くは告白しないと思うな。まあ大抵の女子は、今のヒロでコロッといっちゃうかもだけど」
「う〜、なんか2人ともずるいです。私も早くその域まで達したいです」
そう言って羨ましそうな顔を飛鳥は見せる。有里奈は勿論、陽子もまた浩也の事を良く知っているのだ。自分はまだまだ差があると自覚させられる。
「はいはい、そう羨ましがらないの。浩也君なら、ちゃんと飛鳥を見た上で答えを出してくれるわよ。勿論、飛鳥も浩也君の事をしっかり見て、答えを出しなさい」
「おお、陽子ちゃんが恋愛マスターかのごとき発言、大人になったねー」
「ええっ、陽子ちゃん、大人になったって、どう言うこと?ヒロとなんかあったの?」
「ありません!って言うか、めぐみも適当な事言わないのっ」
とまあ、裏では姦しく喚き立てる女子陣。そんな裏側を他所にステージでは進行が続き、気づけばいよいよ審査発表のタイミングとなっていた。
「さて、いよいよ審査発表のお時間となりました。得点は審査員の方々の投票と会場の皆さんの拍手が得点に加算されます。ただ、皆さんの拍手に関しては、私の独断と偏見で判断しますので、あまり物とか投げないで下さいね」
ここで会場がドッと湧く。その時ヤジも飛び、「八百長すんなよーっ」と言った観客の声で再び会場が湧く。
「はい、一切八百長はありませんので、ご安心を。それではエントリーナンバー1番から、審査員の方々、得点をどうぞ!」
するとアイドルグループ含む審査員達3組はボードに点数をつけて、会場に見えるようにする。
「5点、6点、6点、合計17点、これがまあ基準点になりますかね。そこがエントリーナンバー1番の辛いところ。そして会場のみなさん、エントリーナンバー1番の方がミスターに相応しいと思った方は、拍手をお願いします」
するとパチパチとまばらな拍手が起こる。
「なるほど、ちなみに観客の皆さんの拍手の点数は、最後の方を聞いたところで、発表します。あっ、文句はやめて下さい、でないと私、すごくテキトーに点数つけちゃいますので」
そこでおどける司会に対し、再び会場が湧く。そうしてその後大きな盛り上がりもなく、進行が進むと、いよいよ最後の浩也の番が訪れる。
「さーて、いよいよエントリー者も最後となりました。エントリーナンバー5番に得点をどうぞっ」
「10点、9点、10点、あーパーフェクトがならずっ。ちなみに9点の塩見さん、あと1点足らなかった理由は?」
「だって彼、心美ちゃんを惚れさせたでしょ、僕、心美ちゃんのファンだから」
「い、いや、だからあれ、演技ですからっ」
顔を赤くして、慌てる心美の突っ込みに会場が笑いの渦に飲み込まれる。
「おやおや理由は思いっきり私情でしたね。あ、心美ちゃん、多分、今日、事務所の社長から怒られるから、頑張ってね」
「いやーっ」
恋愛禁止のアイドルが、恋愛成分を撒き散らしたのだ。当然社長の説教が待っている。ただそんなやり取りで会場は再び盛り上がる。
「さて、なんかもう、結果が見えてる気がしますが、さあ、会場の皆さん、エントリーナンバー5番が優勝に相応しいと思うかた、拍手をお願いします!」
すると会場は割れんばかりの拍手が鳴り響きく。浩也はただそれを呆然と聞いていたが、その瞬間にも、これって出来レースか?などと勘ぐっている。まあ正直言うと嬉しくない訳ではないが、他のエントリー者は正直、年齢も20代前半から30代前半までと年齢がやや高く、消去法で自分が選ばれたと思っている。なので、まあ選ばれた事は素直に喜ぶが、勘違いはしないようにしないとな、などと考えていた。
「もう皆さん、これは満場一致ですね、今回の優勝者はエントリーナンバー5番、高城浩也ーっ」
そうコールされると、会場は再び割れんばかりの拍手に包まれる。そうして浩也は、ミスター西ヶ浜海岸に選ばれるのであった。ちなみに浩也本人は、ミスター西ヶ浜海岸ってなんかカッコ悪いななどと思っていた。




