第五十話
今回一区切りの50話となりました。文字数も20万を超え、思えば遠くに来たものだと感じております。それもこれもブクマや評価、感想をいただける方々や作品を見ていただける方々のお陰だと思っております。やはり評価はモチベーションになりますので、まだブクマや評価をいただけてない方は、是非、ポチッとお願いします!ああ、あとレビューなども。。。という事で、50話お楽しみ下さい!!
次の日曜日、助っ人にきたのは、水谷飛鳥だった。源治が雄二に頼んで応援を出してもらったらしい。飛鳥も浩也のいるバイト先への派遣と言う事もあり、二つ返事で了承したらしい。陽子は勿論、有里奈も一度顔合わせをしていた事もあり、めぐみも人見知りするたちではない為、大幅な戦力となってくれた。ただ浩也達の店は、可愛い女子揃いの評判が更に際立ち、その混雑は土曜以上となった。それでも陽子が全体を上手くまとめ、一生が英吉の手綱を握って使い倒した事で、その日曜日もなんとか乗り切れた。
そしてその次の日の月曜日、浩也は午前中、ダラけきった時間を過ごし、午後からは宿題に精を出す。時折、有里奈や理緒からLINEが入り、それに答えながらも、集中して宿題をこなす。有里奈はその日、予備校帰りに浩也の家に来訪し、その日の夕飯を浩也の母親である泰子と共に作っていた。結局、宿題は一切開かず、夕飯を共にして帰って行った。本人曰く、「予備校で頑張ったからいいの」らしい。浩也は何しに来たんだかと思いつつも、まあ当人は楽しそうにしてたので、まあいいかと思うことにした。
ちなみに理緒の夏の大会は、日曜日のベスト4の対戦で惜しくも破れている。相手はここ数年、連続で全国大会に行っている有名私立で、流石に一般の公立高校では歯が立たない。それでも2ゲーム目は取ったようで、決してやられっぱなしではなかったらしい。理緒からのLINEにも、満足気な雰囲気があった。
そして次の土日の前の金曜日、なぜか浩也は由貴に呼び出される。理由はきてから話すといわれ、仕方がなしに海の家のバイト上がりに陽子と連れ立って、カフェジラソーレへと足を運ぶ。
「あっ、高城先輩、陽子さん、いらっしゃい。由貴さんに用ですよね?」
「ああ、でも喉も渇いたから、客席の方でお願いするよ」
「はい、わかりました」
飛鳥はそう言うと2人を客席へと案内する。浩也は席について飛鳥に注文をすると、程なくして、頼んだものと一緒に由貴がやってくる。
「あっ、浩也、お疲れ〜。悪いわね、仕事帰りに」
「ああ、それは良いけど、何の用だ?わざわざ呼びつけて」
そう言って浩也は、警戒心を滲ませて、話を急かす。わざわざ呼びつけてるのだ。どうせ、ロクでもない話に違いない。しかし由貴はそんな浩也の警戒心を気にするでもなく、いつもの調子で話し出す。
「やーねー、そんな急かすもんじゃないわよ。余裕のない男子は嫌われるわよ、ねえ陽子ちゃん」
「ふぇっ、は、はい。そうですね?」
完全に部外者と思って、油断していた陽子は、何だかわからないままに同意する。浩也はそんな陽子をジト目で見た後、目線を由貴に戻す。
「こらこら、いきなり陽子に話を振るな。で、用件は?」
「はいはい、用件ね。ほら、アンタの友達で可愛い子いるでしょ、ショートカットの。あの子、今度の日曜日に海の家に呼べないかと思って」
浩也は直ぐに理緒の事を言っていると思ったが、嫌な予感が増大しており、なんとかはぐらかそうと試みる。
「ショートカットの可愛い子?そんな女子いたかなぁ?俺、女友達少ないし」
「浩也君、何言ってるの?それって理緒の事でしょ。ほかに該当者いないじゃない」
と陽子が横槍を浩也にぶっ刺す。すると由貴が悪い顔でニヤリとし、ターゲットを陽子へと切り替える。
「えっ、陽子ちゃんもその子と知り合い?連絡取れたりとかする?」
「えっ、はっはい、中学の時の同級生なので、普通に連絡は取れますけど」
「あっ、バカ、陽子っ、そんな素直にっ」
素直に返事をしだす陽子を慌てて浩也は止めにかかるが、時すでに遅しである。由貴はそれを聞いて、目を輝かせ、陽子の手を取る。
「ん〜、ナイス、陽子ちゃん!これで役者が揃うわ、うーん、今年の夏は盛り上がるぞーっ!」
「ふぇっ、えっ」
由貴に手を取られた陽子は、頭の上に?マークを浮かべながら、由貴にされるがままになっている。そしてそんな2人を呆然と眺めた浩也は、きっとロクでもない事になると、顔をひくつかせるのであった。
そしてその懸案の日曜日。その日何故だか海の家の応援に、飛鳥だけでなく、雄二と由貴の姿があった。実際には地元の商工会主催のイベントが海岸で行われるのだが、そのイベントの手伝いでかり出されたとの事だった。幸いイベント迄の時間は、余裕がある為、こうして海の家のフォローへと足を向けている。
「いやー、雄二さんが来てくれて嬉しいっす。」
そうあからさまなおべっかを言うのは英吉。雄二の姿を見た瞬間、明らかに舎弟状態とかし、媚を売っている。
「お前、どうやら今年も役に立ってない様だな」
「い、いやっ、今年はめっちゃ働いてるっす。な、浩也、俺頑張ってるよな」
そう言って英吉はあからさまなウインクと共に、浩也に助けを求める。すると浩也は困った顔をして、陽子に評価を丸投げにする。
「いや、自分はホール見てないんで、よくわからないです。陽子、英吉さんは、役に立ってるか?」
すると陽子は冷たい顔で英吉を見る。
「一生さんがいる時はマシですが、いない時はぶっちゃけ役に立ってないです。有里奈先輩やめぐみに声をかけようとするわ、店に来た女子をナンパしようとするわ、ああ、オーダー間違いや器物破損はデフォルトですね。フォローする身にもなって欲しいです」
「ほうっ」
雄二はそう一言声を発すると、英吉の顔面をアイアンクローで捕まえる。
「痛っ、イタタタっ、ギブ、ギブです、雄二さんっ」
そしてその状態のまま、雄二は調理場へと連れていかれ、断末魔をあげる。
「あれ、私、なんか不味い事言った?」
「ああ、あれは気にするな。身から出た錆びだろう」
浩也は陽子にそう答え、調理場に向いて合掌をした。
そんな事がありつつも店はオープンし、土日の怒涛の様な仕事が始まる。ただその日は戦力が充実しており、店はスムーズに回る。調理場には雄二がおり、接客には由貴と飛鳥がいる。特に由貴が場を仕切るので、その分陽子が自分の仕事に専念できて、全体に余裕が生まれる。まさに好循環だった。
浩也はと言うと、接客に必ず1名誰かがついてくれるので随分楽に仕事ができた。そして14時過ぎに突如店は休止を迎える。
「さあみんな、これからイベント会場に向かうわよっ」
宣言したのは由貴。そして雄二やタエさんを除く、バイトメンバー全員が顔を見合わせる。
「えーと、由貴ちゃん、どう言うことなのかな?」
「ふふふっ、今言った通りよ。これから全員でイベント会場に向かいます。ああ、3人トリオはどっちでもいいけど、浩也達は必須ね」
また由貴姉が何やら騒ぎ出したと、浩也は露骨に嫌な顔をする。
「そのイベント会場とやらで、俺たちは何をするんだ?どうせ、ロクでもない事だろう?」
「あら、ここにいるメンバーには、有意義なものになると思うわ、これからみんなにはとあるイベントに参加してもらいます。ああ、サプライズゲストも手配済みだから、拒否は出来ないわよ。もうエントリーは済ませてるし」
「エントリー?」
「そう、ミス、ミスター西ヶ浜コンテストへのエントリーをね。浩也はミスター、女子陣はミスにエントリー済み、今年の夏は盛り上がるわよ!」
「「「ええーっ」」」
由貴のその宣言に誰もが絶叫を上げる。この話、当然のごとく誰も聞いておらず、特に女子陣は慌ててふためく。
「ゆ、由貴ちゃんっ、き、聞いてないよっ」
「やだ、絶対やだ、だって有里奈先輩がいるんだよっ」
「へへへ、なんか面白そう」
「高城先輩がミスターで、私がミスになったら、はわわっ」
そんな様子を見て浩也はため息を吐く。まあ女子達はいいだろうが、俺が出てどうなる、などと思っている。なので、取り敢えず、その場で恥さえかけばいいかと考え、早速諦める。
そして一行は連れ立ってイベント会場に移動する。会場にはステージが建てられ、ステージ前には既に数百人規模の観客がいる。コンテスト迄は、然程有名でない芸人やアイドルのグループが場を盛り上げており、その芸人がコンテストの司会、アイドル達は審査員の一員として、ステージに座っている。
「うう〜、なんか本格的なんだけど」
怖気付く陽子が、ステージ前の人だかりですっかり場に飲まれていた。因みに有里奈も陽子同様、場に飲まれており、めぐみと意外にも飛鳥は楽しげな表情を見せている。
「陽子ちゃん、そんなビビる事ないよ。別に負けたって誰も笑ったりしないから」
「そうですよ、陽子さんなら有里奈先輩と張れますよ。頑張りましょう!」
余裕組はそう言って口々に陽子を励ます。浩也もそれに続いて、陽子を激励する。
「そうだぞ、俺なんて最初から負け戦だ。気楽なもんだ。陽子は可愛いんだから、俺みたいな恥をかく事もない。気楽に楽しめばいいんだ」
「よし、私も諦めた。陽子ちゃんも一緒に頑張ろう」
そしてようやく踏ん切りをつけた有里奈が最後に励ます。流石にみんなから声をかけられてうじうじするのは、申し訳無くなり、陽子は一度大きく深呼吸をする。
「スーハーッ、まあ夏の恥は掻き捨てよ、もうどうにでもなれってもんよ」
そう言って半ば、無理矢理に気力を振るい立たせる。
「では男性の参加者の方、壇上へどうぞ」
「おっ、呼ばれたな。じゃあ恥かいてくるよ」
そう言って女子陣に手を振ると、壇上に向かう階段を一歩一歩登り始めた。




