第四十四話
いや〜、なかなか順調に執筆する時間が取れず、更新タイミングが遅れすいません。3バカをもう少し面白可笑しく書きたいのですが、なかなか難しいですね。最後はチョロっと有里奈登場。少しずつ関係が変わってきますが、この後どうなるか。悩みどころですね。
その日の浩也は、昨日と同じように鉄板の前で灼熱地獄と闘った後、やはり昨日と同じような時間に休憩に入る。ちなみに今日はお好み焼きを片手に裏手の木陰で昼食をとり始めると、そこに一生が休憩をしにやってくる。
「あ、お疲れ様です」
浩也は一生が近くまでくるとそう挨拶をすると、一生もそれに返事をする。
「おう、お疲れ。今昼か?」
「ああ、はい。中々客も途切れなくて」
「ははっ、確かに酷い人だもんな。ありゃ、お前目当ての客も多いだろ」
一生は、そう言ってニヒルな笑みを浮かべる。浩也はそれに苦笑いで答えると、そう言えばと思いついた事を聞く。
「確かに良く声はかけられますが、なんか男子にはメッチャ睨まれるんですよね。まあ、直接害はないから、いいんですけど」
「ああそれは北見の所為だな。アイツ、絡まれる度に、彼氏がいるからって、お前を指しているからな」
「うへぇ、まあならしょうがないですかね。何かあっても困りますから」
浩也はそう言って、仕方がないと諦め顔になる。
「ん?お前ら付き合っているんじゃないのか?俺も何度か聞かれたぞ、お前が彼女持ちかどうか。面倒くさいので、いつも北見を指差しているが」
一生はそう言って嫌そうな顔で、聞いてくる。ちなみに一生は女子が大の苦手なので、話しかけられた事が苦痛だったんだろう。
「ああ、バイトの間だけの仮です。そうでもしないと、かわし切れないので」
「はは、モテるリア充は大変だな。そのモテっぷり、少しは英吉に分けたらどうだ」
「いや、英吉さんは奇行をなんとかしないと駄目じゃないですかね」
「確かに、あのバカは、昔っから、女にはモテないからな。大体何を根拠にあそこまで、自信満々になれるのか、さっぱり意味がわからん」
「そう言えば、3人は付き合い長いんですか?」
「ああ、地元商店街の息子達って意味では、それこそ物心ついた頃からの知り合いだな。俺ん家は、コンビニ、英吉は酒屋、モウちゃん家は肉屋だ」
「ああ、だから中村さんはレジ対応が慣れているんですね」
浩也はそう言うと納得顔をみせる。流石にコンビニなら、レジの応対はお手のものだろう。
「まあな、コンビニなら接客は最低限で済むし、何より女と会話する機会がないのがいい」
「女子でもいい奴はいるんですけどね、それこそ陽子とか」
すると一生は興味なさそうに、首を横にふる。
「北見はいい奴かもしれんが、眩しすぎる。あんな絵に描いたようなリア充、俺らオタクには手に負えんよ。まあいかにも優等生タイプだから、話が通じるのは有り難いが、これで空気を読まない奴だったら手に負えん」
「ああ、あれ、でも土日はさらに女子が2人増えますよ。多分陽子と同等のリア充女子が。ああ、性格は良い奴らなんで、安心して下さい」
「おい、それはマジかっ、なら休む事も検討しないと」
浩也の発言に一生は顔を青くして、震えだす。浩也はそれを見て、土日は色々大変だな、などとぼんやり考えていた。
そして休憩を上がり、再び焼き場の前に浩也が戻るとそこに英吉がやってくる。
「おう後輩、ちょっと頼みがあるんだが」
「はい、どうしました?」
「この俺様に、焼き場の仕事を教えてくれっ」
突然お願い事をしてきた英吉に、浩也は怪訝な顔を見せ、焼き場で働きたい動機を確認する。
「はあ、それはなんで突然そう思いついたんですか?一応、焼き場の仕事は調理なので、それなりに気を使う必要があるのですが」
実際、この店で調理師免許を持っているのはタエさんで、浩也は立場上、タエの管理下で働いているに過ぎない。勿論、最終的な判断はタエに委ねるが、相談するにも理由が必要だった。
「そんなもん決まっているだろう、焼き場にいるとモテるって聞いたぞ。お前ばっかチヤホヤされやがって、俺もチヤホヤされたい」
理由としては最低のものだが、少なくてもやる気はありそうだ。動機は不純極まりないが。ただ浩也としても、休憩の際に代理で出来る人がいた方が有り難いので、もう少し確認を入れる。
「なるほど、なら実際に女子から遊ぼうと言われたら、どう対応しますか?」
「は?言うまでもない、据え膳食わぬは男の恥だ」
「じゃあ、今から行こうよって言われたら?」
「んー、流石にバイトがあるからなぁ」
そう言って悩みだす英吉。浩也も流石にバカにし過ぎかななどと反省しようとした矢先、英吉は悩んだ末の答えを言う。
「決めた。その場合は、バイトを辞める」
うん、反省しなくて良かったな、浩也もそう思うとあえて表面上、難色を示す。
「うーん、とは言え、自分には判断出来ませんね。少なくてもここの現場責任者はタエさんなので、タエさんのOKは必要になりますね」
「ふむ、まあ当然か。ちなみに焼き場は本当にモテるのか?」
「まあ、モテるかはわかりませんが、女子からはよく声をかけられますね」
「たまにではなく、よく声がかかるのか?」
多分、このバイトにきて1番の真剣な表情を見せて、英吉は聞いてくる。浩也は思わず、ここでその表情ですかと言いかけるのを堪え、真剣な表情でそれに答える。
「恐らくですが、この焼き場はイケメン補正がかかります。なんでしょうね、若い男子が寡黙に汗を滲ませながら仕事をする姿が、カッコいいんですかね。間違いなく、声がかかりますよ」
「うっひょーっ、何故そんな簡単な事が思いつかなかったんだ、もーう、俺のバカバカっ」
浩也の説明に期待値MAXとなった英吉は、頭をポカポカやりながら、可愛らしく反省してみせる。ちなみに仕草は可愛らしいのだが、実際にやってる姿は、キモいの一言だ。
「で、どうします?」
「決まっている、タエさんに直談判だっ、タエさーん!」
そう言って意気込んで、英吉はタエさんの元に直談判へ行く。
「ギャフッ」
タエの繰り出された拳が、見事英吉の鳩尾を撃ち抜く。浩也は実は背後でタエさんが話を聞いていたのを知っていた。なので、その結末は当然の帰結だった。
「別に真剣に働いていれば、それだけで好感度も上がるのに、勿体無い」
浩也はそうこぼすと、調理場で前のめりになり崩れ落ちた英吉に合掌をした後、淡々と持ち場の作業へと戻るのであった。
その日のバイト上がり、浩也は陽子を伴って、とある建物の前に来ていた。栄進ゼミナール、所謂、予備校の前だった。ここには有里奈としずが夏期講習で通っており、バイトの様子を聞きたいという有里奈の希望を考慮して、バイト上がりに待ち合わせをしたのだ。
時間も夕方になり、夜の部の授業に参加するだろう生徒たちと、午後の部で授業を受けた生徒達が入れ替わるタイミングという事もあり、予備校の入り口前は、思ったより人でごった返していた。
「浩也君、なんか人多いね」
「まあな、この人達受験生だろう?流石にこういうのを見ると、少しだけ焦る気持ちにもなるな」
「本当、今年は遊べるのも最後だからと予備校やめて、遊びに振りきっちゃったけど、冬くらいからは、本格的に勉強始めないと駄目かなぁ」
「そこはどこを目指すかによるだろ。陽子は志望大学とかあるのか?」
「うーん、少しずつは調べて見てはいるんだけど、実際はまだやりたい事もなりたいものも曖昧かな。お姉ちゃんが学校の先生だったから、そっち方面も興味はあるけど」
そう言って陽子は悩む素振りを見せる。陽子が学校の先生とかになったら、人気がでるだろうなあと浩也は思い、ちょっと陽子を茶化してみる。
「北見先生、ここの問題がわからないんですけど」
「あっ、先生といっても小学校の先生だから、高校生はお断りです」
陽子は茶化しにきた浩也をあしらうと、してやったりな気分になり、ニヤリとする。浩也はそんな得意げな陽子の表情を見て、ムカッとするより、思わず吹いてしまう。
「プッハハッ、そんなに得意げにならなくてもいいだろう。残念ながら陽子先生との禁断の関係はお預けだな。ある種、高校男子の夢だろう。そういうの」
「禁断の関係って。それって男の先生に女子がくっつくみたいな方がありえなくない?少なくても4、5歳以上年上の女性よ。男性が年上で女性が年下なら、4、5歳くらい上でもおかしくないけど」
浩也はそれを聞いて、自分が社会人のお姉さんと付き合う事を想像してみる。身近な人なら、ロケットおっぱいこと二ノ宮先生くらいだが、実際に男子生徒の人気を考えると、全然ありなような気もする。そこでそれから話を広げようとしたところで、漸く有里奈としずが現れる。
「ヒロー、お待たせー。入れ替わりでごたついててちょっと遅くなっちゃった」
「ああ、陽子と駄弁ってたから、大丈夫・・・?」
浩也も少し慌てた表情の有里奈に問題ない旨を伝えたところで、何やら周囲からの視線を感じ、不思議に思う。すると有里奈の隣から顔を出したしずが、ちょっと慌てて、有里奈を注意する。
「ちょっ、ちょっと有里奈、今後輩君をヒロって呼んでたよ。ほら周囲で聞き耳立ててる人、もう耳ダンボ状態だよっ」
浩也はそれを聞いて、ああ、と合点する。周囲に今度は浩也が聞き耳を立てると、何やらひそひそと憶測が飛び交っている。
「お、おい、今榎本さん、ヒロって呼んでなかったか?」
「何っ、彼氏か?俺らの女神榎本さんに、ついに男の毒牙がっ!?」
「あの男、さっきまで、隣の可愛い子と話してなかったか?二股か?二股なのか!?」
いつもならここで慌てて有里奈が否定するところだが、今日は妙に動じてない。有里奈はしずに顔を向けるとニッコリとして、平然と言う。
「もう幼馴染って言うの、解禁したの。だって隠すの面倒くさいでしょ。ヒロもいいって言うし」
逆に慌てだしたのはシズの方だ。そんな有里奈の様子を訝しむように浩也にどういう事かと視線を送る。そこで浩也は少し困ったような表情を見せながら、シズに言う。
「まあそう言う事です。有里奈がそうしたいって言うので、別に構わないって言っただけです。まあ幼馴染なのは事実ですから、しょうがないでしょ」
するとシズは大きく溜息をついた後、冷静になって事の次第を受け止める。
「はぁ、まあお互いがいいなら別にいいわ。確実に隠すよりその後の方が面倒くさくなると思うけど」
するとようやく話の輪の中に入れるタイミングを見つけた陽子が浩也の脇を突く。
「ねえ浩也君、取り敢えず場所を変えない?なんか物凄く注目されている気がするんだけど」
確かに周囲にはかなりの数の好奇の目が群がっている。なんだか浩也は悪戯心が湧いてくる。まあどうせ中途半端に噂されるぐらいなら、思いっきり派手にいくかと思うと、有里奈を手招する。有里奈は特段勘繰る事もなく、素直に浩也の前に立つと浩也は優しく有里奈をハグする。
「えっ」
思わず声を零す有里奈の耳元で浩也はボソッと呟く。
「有里奈、逃げるぞ」
そして浩也は手を引いて、有里奈を連れ去っていく。陽子は見ていた。浩也が抱きつく寸前、悪戯心が湧いて笑顔に歪むその顔を。だから動じる事もなく、有里奈同様に呆然としたシズに声をかけて、浩也達の後を溜息まじりに追うのだった。




