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第三十八話

クラス会編終了。最近登場人物が増えたので、整理が必要と思う今日この頃です。

それから10分後、事態の紛糾に収まりがつかず、浩也の鶴の一声の「ジャンケン」との言葉で、大ジャンケン大会が実施される。場内は一体となり、大いに盛り上がりを見せる。恐らく中学時代もここまで盛り上がったことはないだろうといった盛り上がりである。浩也は呆れ気味に、遊びに行きたいなら、別でいけばいいだろうにと思っていたが、彼ら彼女らにもお目当てがいて、そのお目当てに自分が含まれてるとは、一切、考慮していなかった。


そして男子1名、女子2名の追加メンバーが決定する。男子の1名は近藤修二、女子は橘優花と中村美波の2名だ。近藤は浩也や朋樹と同じ元サッカー部メンバーで、2人とは良くじゃべる仲で、見た目ややチャラい癖に、ポジションはDFとやや地味だった。高校は浩也達とは1つランクが下の海南高校で、今もサッカーは続けているらしい。


そして女子の方の橘は、陽子や春香と同じ藤女で、クラスは違うらしいが、たまに一緒に遊ぶらしい。見た目は大人しいおっとりした感じの女子で、元図書委員で本好きの、どちらかというとキャンプとかは似合わないタイプの女子だ。本人曰く、だからこそ夏の思い出にそういう事に参加したかったらしい。一方の中村はいかにも目立つ感じの気っ風のいい女子で、キャンプは似合いそうなイメージだ。

実際に家が食堂で、家の手伝いで料理とかも上手らしく、このメンバーの中では一番の即戦力だ。近藤と同じ高校だが、自分の派手さのわりに、チャラい近藤を苦手にしていたりする。


さてメンバーが決まると、改めて、事のおさらいを朋樹がする。


「では改めて、メンバーは男子が、俺、浩也、安藤と林、それに修二の計5名。女子が春香、陽子、井上に、橘と中村の計5名、合わせて10名の大所帯だ。一応、引率の候補者である陽子のお姉さんのOKと場所の方のOKが出たらになるけど、この10名でキャンプに行く事になる。まあ、時間や場所はグループの中で共有するから、キャンプ絡みのやり取りはLINEの中でしてくれ」


するとその中で追加メンバーの1人である、中村が朋樹に質問する。


「参加するっていったけど、予定っていつ頃わかるのかな。私、家の手伝いもあるから、早めに予定を決めたくて。外泊とかは、親、何にも言わないんだけど、店に迷惑はかけられないから」


するとそれに陽子が返事をする。


「家のお姉ちゃんには帰ったら、話をするから、OKかどうかは明日には連絡できると思う」


「あー家もじーちゃんに話をするだけだから、明日にはOK出せると思うぞ」


安藤も陽子に合わせるように、答えを言う。すると中村は顔を綻ばせる。


「うん、明日にでもわかるなら大丈夫。家は店やってるから、夏っていっても中々どこにも遊びに行けなくて、だから超楽しみなんだ」


「ああ、美波の家って、定食屋さんだもんね」


そう言って理緒がうんうんと頷いていると、浩也が理緒に声をかける。


「あれ、理緒と中村って仲良かったっけ?」


「美波?美波の家と私の家って、結構近くだから、たまに家族で食べに行ったり、出前頼んだりするよ。帰りにあったりしたら、普通に話して帰ったりするし」


「高城君は、あんま女子の交友関係とかって、興味無さそうだもんねー。このメンバーだと私は理緒と、橘さんは陽子ちゃんと仲が良いのかしら。ああでも学校が一緒だから、川添さんとも仲良いかもね」


そう言ってキャンプに気を良くしている中村が、気軽に答えてくれる。浩也はそんなもんなのかと思って感心する。


「ふむふむ、呼び名でそれとなく距離感がわかるのか。じゃあ、折角の機会だ。全員名前呼びにしよう」


「へっ?それってどういう事?」


「いや、だから折角キャンプに行くメンバーなんだから、全員名前呼びに統一しよう。ほら、俺は、既に初期メンバーは全員名前呼びだし、人によって苗字でさん付けとかって距離感あるだろ」


そう言って動揺する中村に対し、もっともらしい事を言って、浩也は説明する。朋樹も理緒も浩也の本音を理解しているので、その本音を解説しだす。


「藤田君、今の浩也の話、本音だと思う?」


「確かにそう思っている部分もあるだろうが、本音はもっと単純だな」


「そうよね、ただ面倒臭いだけよね」


「ああ、間違いないな」


そしてそれを聞いた浩也もニヤリとする。


「流石は朋樹に理緒、良く判ってるな。正解だ。と言う訳で、中村、お前は今から美波と呼ぶから」


「ええっ、どういうわけ」


朋樹は動揺する美波を見て、ああ、陽子のときと同じ、デジャブだななどと思っていた。浩也はその後も、橘を優花と呼んで、真っ赤にさせ、男子連中に女子を名前呼びさせて、テレさせまくったりして、大いに楽しむ。浩也としては、すっかり名前呼びに抵抗感がなくなってしまったので、他人の反応が楽しくてしょうがなく、特に大人しい優花が、浩也以外の男子からも名前呼びされたときは、頭から湯気が出かねない状況となりむしろ、陽子から怒られる始末だった。


「大体、女子はともかく、男子のお前らは、何でそんなテレるんだ?」


浩也は自分を基準にして、テレる男子達に呆れた目線を送る。ちなみに朋樹も浩也ほどではないが、テレはなく、チャラい修二のほうがテレてるくらいだった。


「いや、普通に浩也が名前呼びしているのが、おかしいから」


「そうそう、浩也って、ある日突然、井上も理緒呼ばわりしてたし」


そう言って、新参メンバーの修二や孝彦は文句を言ってくる。修二は元々だが、林も浩也を名前呼びに変えており、同性同士は問題ないようだった。そして浩也はその文句を聞き流し、理緒を呼び寄せる。


「理緒、取り合えず、ここに座ってくれ。今から、彼らがお前を名前呼びする練習をするから付き合ってくれ。優花だと陽子に怒られる」


すると理緒もあからさまに嫌な顔をするが、浩也はそれを無視し、男子にチャレンジをさせる。


「じゃあまずは、孝彦、お前からだ」


「ええっ、井上さん、なんかごめん。り、理緒っ」


すると理緒は寒気がしたのか、思わず両手を抱えて、半身を逸らす。


「浩也、何、これ、新手の嫌がらせ?」


「うん、孝彦、0点だな」


浩也は理緒のリアクションを見て、孝彦に落第を告げる。続いては、修二。


「へい、理緒。俺と遊ぼうぜっ」


すると理緒は座っているソファの後ろに隠れ、浩也を睨みつける。


「ちょっと浩也、このまま続けるようなら、あんた殴るわよ」


「修二、お前は台詞も不味い。マイナス50点」


修二も理緒のリアクションを目の当たりにし、がっくしと項垂れる。浩也も余りにできの悪い生徒ばかりで、いくばくか身の危険を感じ、優等生を指名する。


「なんかすまんな、井上じゃなかった、理緒」


すると今度は嫌悪感こそ感じさせなかったのか、再び席についた理緒が微妙な顔をする。


「藤田君には、ずっと井上って呼ばれてたから、違和感半端ない」


「それには俺も同感だ」


朋樹はそう言って、苦笑いをする。ただ浩也はそんなやりとりを意に介さない。


「流石は朋樹、ただ最初に井上っていったから、50点」


そして最後のおおとりが、安藤だ。安藤は緊張していた。お笑いキャラとして、ボケるべきか、真面目に言うべきか。ただこの機会を逃すと二度と理緒と親密になる機会はないのかもしれないと、一念発起する。


「大丈夫だ浩也、俺は普通に言うぜ、理「無理」ぉ」


安藤が言うより先に、理緒は安藤に呼ばれることを拒否し、その場を離れてしまう。浩也はそんな理緒を見て、冷静に採点する。


「もはや呼ばれることすら拒否されるとは。安藤、マイナス100点」


「ええーっ」


結局は落第の男子3人の心にざっくり傷をつけつつ、結論、同性同士は名前呼び、異性に対しては呼びやすい呼び名で呼ぶことに決定した。


そんなこんなでクラス会はお開きとなる。キャンプメンバーに含まれなかった同級生達は、こぞって冬も企画してくれと、朋樹達初期メンバーに懇願して帰っていく。浩也は正直、クラス会で良いじゃんと思っていたりするが、まあ考えておくとだけいって、話を濁す。


そして、浩也達キャンプメンバーは、理緒は美波と帰ることを早々に決め、朋樹は帰りの方向が一緒という事で、春香と優花、修二を伴って帰っていく。孝彦と佳樹は、この後、ちょっと用があるとそれぞれで、その場を離れ、結局浩也は行きと同じく帰りも陽子と帰ることにする。


「あー、ぶっちゃけ疲れたな」


「フフフッ、そうね。浩也君が普通にはしゃぎすぎってのもあるけど」


帰りは夜道。夏の生暖かい空気の中、2人はのんびりと歩いている。今回のクラス会は本当に喧騒の渦だった。その前の冬のクラス会では、浩也がいないことで、理緒のやる気はないわ、朋樹も早々に帰ってしまうわで、なんだか盛り上がりに欠けていた。今回は理緒も朋樹もなんだかんだ楽しんでいたし、陽子も春香もその輪の中に入れて、本当に楽しかった。そういえば、その5人でワーワー言い合ったのっていつ以来だろうと陽子がぼんやり考えていると、浩也が別のことを聞いてくる。


「そういえば、陽子のおねえさんの説得は大丈夫なのか?」


「ああ、うん、多分大丈夫だと思う。お姉ちゃん、今のところは暇そうだし、来年からまいを幼稚園に入れるまでは、仕事をするつもりも無さそうだし。それに、こういうなんか青春っぽいもの?好きみたいだし」


「青春っぽい?ああ、そう言われると、そんな気もするな。実際自分で口にすると、相当恥ずかしい台詞だが」


浩也がそう言って、冷静に突っ込みを入れると、陽子が顔を赤らめて、そっぽを向く。


「うるさいわね、私だってそう思ったから、意識しないように注意してたのにっ。浩也君の意地悪」


「はははっ、まあそれはともかく、大丈夫そうならよかったよ。中学の時絡みのなかった、優花とか美波とか、なんか楽しみにしてたしな」


「ああ、そうね。浩也君は女子でしゃべっても、理緒、私、春香の3人くらいだもんね。今の浩也君からは想像もできないくらい、交友関係狭かったよね」


のんびりとした口調で、そんな感想を漏らす陽子に対し、浩也は不思議そうな顔をする。


「そうか?俺自身はあんま変わってないんだが」


浩也自身は正直、昔も今も対して変わらない。昔も別に女子を避けていたわけではないし、今のように男子とは変わらず馬鹿をやっていた。佳樹などは今も昔も浩也の突っ込まれ担当だし、キャンプメンバー男子では、孝彦が絡みが薄いかくらいだ。


「フフフッ、本人にはわからないのかもね。でも本当にこの夏は楽しくなりそう、よろしくねパートナーさん」


そういって柔らかく微笑む陽子こそ、中学の時より変わったじゃねーかと浩也は思ったが、それを言うと陽子が慌てだすと思って、あえて口をつぐむ。今の柔らかい陽子がなくなるのが、少し勿体ない気がしたからだ。だから返す言葉は、別のものにする。


「まあ任せろ。きっと思い出深いものになるさ。なんてったって、青春だからな」


「もーっ、それは言わないでっ」


結局陽子の優しい雰囲気は浩也の最後の一言で台無しになる。言わずにいられないのが、浩也だった。ただその2人を取り巻く空気は変わらず優しいままだった。


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