第三十七話
今日も予定通り。文量も自分的な目安で4000文字と思っているので、まあまあです。お話はクラス会編、後半。夏への仕込みですが、妄想が広がります。
そしてクラス会の時間も更けていき、さて次はいつやるかといった雰囲気になる。厳密には、この夏にあわよくばもう一度チャンスが欲しいと願うメンバーが存在する。そしてそのメンバーの大半は男子であれば、理緒狙い。女子でいえば、朋樹狙いの筈だったが、今回の交際報道でその思惑が外れており、今にわかに浩也へ注目が集まっていた。
そんな周囲が騒がしくなる中、浩也は相変わらずマイペース。特段、周囲を気にすることなく、朋樹達と喋っている。
「朋樹達は、夏休み、どっか行くのか?」
「まあな。お互い部活もあるから、タイミングが合う時にな」
「あれ?春香って、部活やってるの?またマネージャー?」
そう言って、理緒が会話の腰を折る。すると春香が嬉しそうな表情になる。
「えへへっ、私今、チアやってるんだ。それやりたくて、藤女に入ったようなものだし。前から憧れてたの」
「へー、チアいいよね。海生にあったら、私も悩んだかも。華やかだし、可愛いし」
「私なんか、運動系苦手だから、正直羨ましいもん。ダンスの時の春香達、凄くカッコいいし」
3人の女子が喋りだすとその場が一気に姦しくなる。そこで浩也がボソっとこぼす。
「あれ?会話の起点は俺だったよな?」
「ああ、井上がボールを拾って、サイドからのクロス経由で春香と陽子が詰める構図だな。流石浩也、会話のピルロだな」
そう言って朋樹は往年の名レジスタの名を挙げて、感情の乗らない声で褒めそやす。
「違う、あれはお前のワンツーの返しが悪いから、理緒に拾われるんだ。アイツこの間、バスケの試合でも、やたらインターセプト決めてたからな」
浩也は浩也でやはり気持ちの乗らない声で、バスケに例える。
「あんたらなに暗い声で、地味な会話広げてるのよ。それより今決まったんだけど、夏休み、どっか遊びに行こうよ!」
「部活の話から、どうしてそこまで話が広がるんだ」
浩也は楽しそうに宣言する理緒に対して、唖然とする。朋樹も同じようにびっくりしていたが、春香に目をやり、話の流れを確認する。
「あはは、なんだかんだ、部活やらバイトやらで、ここの女子3人とも夏休み前半は忙しいみたいな話になって、なら後半どっかに遊びに行こうってことになってね」
「ああ、なるほど。って言っても何するの?」
朋樹は話自体には納得したが、当然の疑問を呈す。ただそこは女子の間でも話がまとまっていないらしく、候補がいくつかあがるに留まる、陽子がそれを言う。
「海か、プールか、お祭りか、キャンプ?」
「海はバイトで散々行くから、勘弁したいな。お祭りはタイミングがいいのがないだろ?」
「お盆の神社の祭りはダメなの?それに海でバイトって、今のお店でバイトじゃないの?」
浩也が候補のうち2つに難色を示したところで、理緒の横槍が入る。浩也はそう言えば、理緒には言ってなかったかと思い説明する。
「ああ、夏休みはバイト先の店長の叔父さんが経営する海の家の応援になったんだ。多分、お盆まではそこでバイトだから、神社の祭りもいけるか微妙。ちなみに陽子も一緒だから」
「陽子も?えー、なにそれっ。ずるい。なんで私も誘ってくれなかったの?」
理緒はそこで文句を言う。海の家でのバイトはそもそもなんか楽しそうだし、それ以上に自分ではなく、陽子が誘われた事実にモヤッとする。しかし浩也はそれを宥めるように、理緒を選ばなかった経緯を話す。
「だって理緒、部活だろ?一応バイトは土日の出勤が必須だったからな。流石に大会もある理緒は候補から除外だ。ちなみに陽子は暇そうだったからな」
「暇そうって、浩也君ちょっと酷くないっ」
すると浩也の説明に陽子が突っ込みを入れるが、浩也はスルーする。理緒が拗れると面倒だからだ。
「うっ、そう言われると、しょうがないけど、いいなぁ、陽子。楽しそうで」
理緒はそう言って、渋々引き下がる。土日必須の時点で、諦めるしかない。陽子はそんな理緒を見て、苦笑いする。
「一応バイトだから、楽しいだけじゃないと思うけどね」
「まあ、裏情報によると即戦力と期待された大学生3人組は頼りにならない説があるから、下手したら地獄になる。だからあんまいいもんじゃないぞ」
「えっ、浩也君、それは初耳なんだけど」
それを聞いた陽子が真っ青になる。するとこれまで外野で聞いていた朋樹が、やれやれと言った表情で話を戻す。
「まあ浩也達のバイトの話はその辺でいいだろう。でどうすんだ?プールかキャンプか。他に候補があれば言ってくれ」
「なあ、藤田達は夏休みどっか行くのか?」
そこに話しかけてきたのが、陽子とともに中学時代に学級委員長だった林崇彦だった。林は藤女と並んで1番学力の高い藤高に通う秀才君だ。ちなみにそれでも中学時代の成績は朋樹の方が良かったりする。実は周囲の何人かは、浩也達のグループに混じりたそうにしており、林がその先陣を切った格好だった。
「ああ、林か。夏休みの後半なら、みんな予定があきそうだって話をしてただけだ。林はどっか行ったりするのか?」
「はは、僕は夏休みも夏期講習ばっかだよ。流石に後半は入れてないけど」
「へー、もう夏期講習受けてるんだ。大変ね」
林の言葉に陽子が素直に同情する。
「なに言ってるの。藤女だって、勉強大変でしょ?北見さんは、夏期講習行かないの?」
「ああ、今年はパスしたの。だって来年嫌でも頑張るんだもん。今年くらいはいいでしょ」
「さんせー。私も陽子に一票」
「理緒、お前は理数系だけは何とかしろ。宿題とか、手伝わないからな」
陽子の夏期講習に行かないと理緒の行かないは次元が違うので、浩也は念の為釘を刺す。
「手伝わなくても良いけど、わからないところは教えてね」
「はぁ、お前、追試で懲りただろ?まあ勉強を教えるのは良いけど、答えは自分で考えろよ」
「やった!流石は浩也、愛してる!」
「だから愛はいらん。結果だけ出してくれ」
そう言って浩也は憮然とした表情を作ると、見ていた林が笑い出す。
「ははっ、相変わらず高城と井上さんは仲良いね、側から見てると付き合っているみたいだよ」
「はいはい、もう耳タコだ。それでどうする、どこに行く?」
浩也は面倒くさくなってきたので、話をまとめにかかる。
「もしキャンプとかだったら、泊まりか?流石に今からだときついだろ。俺と浩也はともかく、家族に説得とか大変だし」
「夏休みに友達だけで、泊まりでキャンプとかって、楽しそうだけどね。流石に男子と一緒では厳しいかな。せめて大人が参加とかだったら、なんとか説得できるけど」
そう言って、朋樹と春香のカップルは、現実路線を提示する。浩也はそこでフムと考える。店のことを考えなければ、由貴夫婦を巻き込んでとも考えられるが、まあ、現実的ではないだろう。
「ならみんなでプール「ちょっと待ったっ」って誰だ?」
「今の話は聞かせてもらった。悩める子羊達に救いの手を差し伸べようじゃないか」
声をかけてきたのは、安藤だった。安藤は低い背を懸命に大きく見せて、胸を張る。どうやら何か提案があるようだが、浩也は絡むのが面倒くさいので、スルーする。
「で、消去法でプールということで「ああ、ちょっと待って、せめて話だけ聞いてっ」って、ああもう、うるせー」
浩也はそう言って、安藤に睨みを利かせる。すると流石に理緒が可哀想に思ったのか、浩也をたしなめる。
「もう浩也、話くらい聞いてあげなさいよ。安藤君、涙目だよ」
「おお、女神様、感謝いたします」
「そういうのは要らない。さっさと喋って」
助け船を出した理緒に、安藤は調子づくが理緒はそれをばっさりと切る。
「はっはい。えーとですね、うちのじーちゃんがキャンプ場を経営してて、そこだったら提供できるという話でして。近くに温泉場もあるから、おすすめは出来ますが」
「「「おおっ」」」
意外にもみんなが驚く。なんだそのじーちゃん、すげえな、などと言っている。
「一応、じーちゃんが住んでる管理棟に空いてる部屋が3つくらいあるから、うちの家族が遊びに行く時はそこに泊まるんだ。だから、寝るところは、提供できる。食事はキャンプ場で自炊になるけど」
「そういえば場所はどこなんだ?」
「西条駅から下って終点の駅からバスで30分ってとこだな。車があれば、車で行くのも良いけど」
「うーん、人数増えそうだから、車は無理かな。まあ電車でいいだろう。そうなるとあとは引率か」
朋樹と浩也が代わる代わる質問をして、問題点を整理する。やはり、最大のネックは引率者だ。
「それなら、お姉ちゃんに聞いてみようか?」
すると陽子が小さく手を上げて、恐る恐ると言った声で言う。それに浩也がなるほどと即座に反応する。
「ああ、それなら良いかも。なら折角だからまいちゃんも連れて行くか?」
「そしたらまいも喜ぶと思うけど、お姉ちゃんに聞いてみないと」
確かにまいに関しては、親の意見も重要だ。そもそも陽子の姉が来てくれるかどうかの方が問題か。
「なあ、陽子のお姉さんって、いくつなんだ?」
浩也が色々思っている時に、朋樹が陽子に聞いてくる。そもそも女子達の親御さんに了承貰えるかが問題なのだ。
「お姉ちゃんは今年で28歳。結婚する前は学校の先生だったから、それなりに説得力あると思うよ」
そして離婚して出戻っているまでは当然言わない。まあ、女子達には後で説明するが、親御さんにまで伝える情報かは、女子達に任せる事にする。
「ならあとはメンバーだな。男子は元々話をしている俺、浩也、それと場所提供の安藤までは確定として、林も来るか?」
「ええっ、良いの?良いのなら嬉しいけど」
「安藤、その部屋って何人ぐらいまで行けるんだ?」
「一部屋5〜6人てところかな。8畳が2部屋に1つは6畳だから、広くないけど」
「うーん、なら男子はあと1人、2人ってところか。林と安藤、他に呼びたい奴いる?そっちは任せていいか?」
そこで安藤と林は顔を見合わせる。その周囲を見ると、参加希望者の目がギラついている。
「お、おい林、どうする?」
「なんかみんな目が殺気だってるよっ」
そうして追加メンバー選定を一任された安藤と林は、希望者の渦に飲まれるのを尻目に、朋樹は女子にも同様に追加の有無を確認する。
「春香達の所も2〜3人くらいなら、追加いけるからそっちは任せていいか?」
「うん、いいけど。理緒ちゃん、陽子ちゃんも誰かいる?」
すると話を振られた、理緒と陽子の顔も、安藤達同様に青ざめる。やはり周囲には、参加希望者多数で、2人に送られる目線が厳しくなる。
「ひっ、よ陽子、お任せしちゃって「駄目よっ、運命共同体よっ」ですよねー」
慌てて全権移譲をしようとした理緒の手を陽子はホールドする。そしてこちらも女子達のアピール合戦に飲み込まれるのであった。




