第四話
なんと昨日の初投稿でジャンル別現実世界〔恋愛〕デイリーランキングで20位になりました。ブックマークや評価、感想を入れていただいた方々、ありがとうございます!
さてお話は次のヒロインのお話に移ります。彼女は主人公に最も近い存在ですが、作者にとってなかなか扱いが難しい女子です。ちなみに他のヒロインが頑張らなければ、主人公は彼女と結ばれるでしょう。それ位近い存在です。流れで3~4話位彼女のターンですが、お楽しみください。
県立海生高校には新校舎と旧校舎の2棟が存在する。地域の人口増加に伴い、生徒の増員と共に校舎も増築されたのだ。その増築された校舎を新校舎と呼び、元々あった校舎を旧校舎と呼ぶ。新校舎には職員室や専門教室、更にはPC機器などが設置された部屋なども存在する。加えて、2年の特進クラス及び3年生全クラスがあり、1、2年のクラスは2年の特進クラスを除き、全クラス旧校舎にある。ちなみに図書室は旧校舎側にあり、文化系の部室も旧校舎に存在する。体育会系の部室は校庭脇にあるプレハブに纏められ、男子、女子では1F2Fと明確に区分けがされている。なおプレハブは当然ながら、旧校舎と新校舎でも明確な違いが存在する。夏場の空調だ。冬場はまだいい。暖房自体は旧式とは言えあるからだ。しかしクーラーは別で、新校舎にしか設置されておらず、その環境の差異はまさに天国と地獄である。
そんな新校舎に2年生である浩也が足を運ぶ機会は決して多くない。今はまだ5月の下旬で夏場の暑さももう少し先の話で、より一層近寄る機会は少なくなる。そんな浩也があえて新校舎に足を運んでいる。新校舎の2階にある職員室の先の部屋に用があるからだ。並び的には階段を上って、職員室、生徒指導室、校長室と進んで、その部屋がある。それは生徒会室だ。
この学校の生徒会は所謂どこの高校にもあるような、生徒会である。雑用全般を一手に引き受け、委員会や部活との連携、その予算組み含めて取り纏めをしている。当然、推薦を貰いたいような真面目で優秀な生徒たちがそろっており、生徒会メンバーは一応名目上、選挙による当選となっているが、大抵は候補者各一名の信任投票となっている。本当であれば、浩也も不真面目とは言わないが、決して優等生と言える程ではないので、生徒会などはご縁が無いタイプの生徒なのだが、知り合いがいるとなれば、話は別で、今もその知り合いを訪ねるべく、渋々ながら足を運んでいる。その知り合いはこのご時世に携帯を持っておらず、直接会うしか連絡手段がない。まあ携帯を持たないのには事情であるので、そこは既に諦めている。
「失礼します」
浩也はドアをノックした後、しっかりとした口調で挨拶をして、扉を開ける。中には生徒会長、副会長、会計の3人がいる。目的は生徒会長である榎本有里奈だが、副会長と会計からは、いや、特に男性である副会長からは突然の来訪者という事で奇異の目を向けられる。とは言え、有里奈は浩也の姿を見ると表情を綻ばせる。浩也は有里奈が迂闊な発言をする前に、機先を制して、意識して硬い口調で話しかける。
「生徒会長の榎本先輩に少し私的な用で来たのですが、少し、お時間をいただいてもいいですか?」
有里奈はそれを聞いて、直ぐに応じようとするが、それを遮るように副会長が口を突っ込んでくる。ちなみに浩也は顔は見たことがあるが、名前は知らない。銀縁の眼鏡をかけたいかにも頭の良さそうな少し鼻持ちならない印象を与える人物である。恐らく特進クラスの生徒だろう。
「君はどこのクラスの生徒だ。突然きて、不躾じゃないか。そもそも会長に何の用だ?」
「俺は二年二組の高城です。突然とおっしゃいましたが、そもそもアポイントが必要なのでしょうか?それに私的な用とお話しましたが、プライベートを開示しなければいけないのでしょうか?」
浩也は内心カチンときたが、表面上は平静を装って、回答する。ちなみに視線に嘲りが滲んでいるのは、否定しない。その態度に更に腹を立てたように、副会長は口を開きかけるが、会計の女子が冷静に突っ込みをいれる。
「山崎くーん、彼の言っている事のほうが正しいよ。大体有里奈の態度見なよ。どうみても知り合いでしょ。ごめんねー、高城君だっけ。副会長が変ないちゃもんつけて」
「いやー、自分も榎本先輩がアポイントを必要とする人になったのかと思って、内心あせりましたよ」
「ないない、そんなのどこぞの会社の社長かって話よ。あっ、私も有里奈様って呼ばなきゃ駄目かしら」
「ちょっと、しず、止めてよ。そんな柄じゃないの知っているでしょ。高城くん、ここじゃあれなので、ちょっと外いこ」
そこで漸く副会長のブロックを掻い潜れた有里奈が行動を起こす。副会長は会計さんと浩也のやり取りで顔を真っ赤にして浩也を睨んでいる。どう考えても浩也に非は無いのだが、明らかに逆恨みな様相だ。
「わかりました。どうもお騒がせしました。失礼します」
浩也は主に会計さんに向けて、軽く会釈すると会計さんは気軽に手を振って「ごゆっくり~」などと言っている。有里奈はそのまま真っ直ぐ階段の踊り場まで移動していく。浩也はその後姿を追いながら、前を歩く有里奈に気になって聞いてみる。
「なあ有里奈、会計さんとは仲がいいの?」
「えー、しず?仲良いよ。私が会長をやらされる時にわざわざ付き合って会計になってくれたんだ。しずがいなければ、会長なんて、やってけなかったよ」
有里奈は話しかけた浩也に振り向いて、嬉しそうにそう言う。確かに会計さんからは有里奈に対する気安さと気遣いの両方を感じた。それに比べて、と浩也は副会長を思い出して渋い表情を見せる。
「それにしてもあの副会長はなんなんだ?会計さんも言ってたけど、ありゃ頭おかしいぞ」
すると有里奈も困った表情を見せて、申し訳無さそうに言う。
「ごめんね。しずの話なんだけど、彼、多分私の事が好きなんだって。んー、好きっていうか愛情というより所有欲的な?だから私に男子が話しかけるのを極力回避するような事を勝手にするの。ひろも判ってると思うけど、私も男子苦手だから、あまり強く言えなくて」
浩也と有里奈は幼馴染である。元々母親同士が学生来の友人で、2人の家も近所、それこそ物心つく前から家族ぐるみで付き合いがある。有里奈の母親である和美さんは今でも仕事をしており、榎本家は夫婦共働きだ。実家も遠い為、有里奈は和美さんが仕事に出ている時は、高城家に預けられていたという事情がある。
なので有里奈は中学に上がるまでは、基本浩也の家に帰宅して、夜、和美さんが迎えに来るまで高城家で過ごしていた。中学に入ってからも時々浩也の家に来て、浩也の母親である泰子と一緒に夕飯を作っていたりしており、浩也が家に帰ってきたときにギョッとした記憶がある。
そんな浩也と有里奈だが、身内のときだけの会話は、浩也は有里奈と名前で呼び、有里奈は浩也をひろと略して呼ぶ。対外的に幼馴染という事は伏せていたので、もし聞き耳を立てていた奴がいれば、その親しげな呼び名は驚かれるだろう。
浩也は有里奈の性格であれば、本来生徒会長なんかは向いていないと思っている。矢面に立ってというよりは、控えめでおっとりとした性格である。ただ母親である和美さん譲りで、優等生然とした美人といわれる容姿を持つ為、自薦他薦問わない生徒会長候補に運悪くノミネートされてしまった。結果ダントツの投票数で信任されてしまう。とは言え任されたら責任を感じて、行動してしまうたちでもある。悪く言えば流されやすい。あれよあれよという間に生徒会長を続けて現在に至っている。そんな有里奈の性格も知って、あえて付き合ってくれる友人というのは、非常に有難い。良い意味で浩也は会計のしずさんに好感を持つ。
「副会長さんの人物評は面白いな。所有欲、確かに俺のものに触るな的な感じで、愛情よりそっちの方がピンとくるかも。ったく、有里奈は変な奴に好かれるな」
「知らないもん、頼んで好きになってもらった訳じゃないし。もう、そのことは良いでしょ。それより、今日はどうしたの?」
有里奈は拗ねたように文句を言った後、漸く本題を思い出したかのように、浩也に聞いてくる。
「ああ、由貴姉が店に遊びに来いってさ。平日なら俺もバイトだから、帰りは心配しなくていいだろ」
「そう言えば、由貴ちゃんに会うの久しぶりかも。行くの今日でもいい?」
ちなみに浩也の従姉である由貴と有里奈は、由貴が浩也の家に入り浸っていた時期から可愛がられていた関係である。由貴は従弟の浩也以上に溺愛していた。そんな由貴を有里奈も憧れている節があり、関係性だけで言えば、姉妹以上の仲良しである。有里奈はそんな由貴との再会を心待ちにしているのか、非常に嬉しそうに笑顔を見せている。
「ああ、俺もバイトでいるし今日でも構わないけど、良かったら会計さんも誘ってみたらどうだ?」
有里奈は突然、浩也がしずを誘ったことにちょっとびっくりして、思わず聞いてしまう。
「えっ、いいの?そうするとしずにひろが幼馴染だってばれちゃうけど。内緒にしなくて良いなら嬉しいけど」
普段、高校の中では殆ど接点を持たないだけに、浩也と有里奈が幼馴染だという事実を知っている奴は浩也の周りだと朋樹しかいない。ただいるといないでは大きな違いもあるので、有里奈の周りにもそういう人が一人くらいいてもいい気はしていた。
「うーん、会計さんならばれてもいいだろ。有里奈の親友なら内緒にしておくのも失礼だしな。副会長対策にもなるし」
「うん、しずなら大丈夫だよ。内緒でって言ったら内緒にしてくれるし。じゃあ今日しずを誘ってお店に行くね」
「ああ、お客様、心よりお待ちしております、じゃ、また後でな」
浩也はそう言って、恭しくお辞儀をしたあと、ニカッと笑って手を振ると、振り返って階段を下りていく。有里奈も浩也が階段を下りて見えなくなるまで見送った後、嬉しそうにしずのいる生徒会室に向かうのだった。




