第三十六話
なんとか今回は17:00更新に間に合いました。ちなみに話はクラス会編に突入!といっても浩也全開ストーリーです。
由貴が合流し程なくして浩也は着替えにバックヤードに戻ると、雄二から声がかかる。
「どうだ海の家は大丈夫そうか?」
「そうですね。働いてみないと判りませんが、経験者もいるみたいなので、多分大丈夫だと思います」
源治の話だと大学生の男子3人組は経験者だという事だ。恐らく頼りになるのだろうと浩也が思っていると、その幻想を端的に雄二は打ち砕く。
「あいつらは余り役に立たん。何かあれば、直接叔父貴に相談しろ」
「ええっ、経験者じゃないんですか?」
「やった事があるだけだ。去年は俺が散々使い倒した。今年はお前が使い倒せ」
「ええーっ、相手一応、年上なんですけど」
「まあ見れば判る。期待するな」
雄二は伝えたい事は伝えたつもりなのか、それだけ言って、キッチンへと戻る。浩也はただ不安を煽られただけだったが、ある意味心構えができたと無理やり前向きになる。そして控え室で私服に着替えた後で、陽子のいる席へと向かう。
「陽子、悪い、待たせた。ちなみに有里奈とめぐみはこの後どうするんだ?」
浩也と陽子は予定があるので、このまま共に行動するが、めぐみだったら駅まで、有里奈だったら西条駅まで一緒に行く事はできるので、そう聞いてみる。ちなみにクラス会の会場は地元西条駅の近くのカラオケBOXだ。酒の飲めない高校生がある程度の人数集まれる場所など限られているので、結果そうなっている。
「ああ、私はこの後、由貴ちゃんとお買い物。夏の海用の水着とか見てこようかなって思って」
有里奈は元々由貴と約束していたらしく、そう言ってくるが、めぐみは対称的に悩ましげな表情を見せる。
「うーん、私はどうしよう。まだ帰るには少し早いし」
「ならめぐちゃんも一緒に行こうよ。折角一緒にバイトするんだし、ねっ」
そう言って有里奈が予定のなかっためぐみを買い物へと誘う。
「良いんですか?なら私も水着を見てこようかな。由貴さんもお邪魔しちゃって、大丈夫ですか?」
「フフッ、全然問題なしっ。若い子が選ぶものって刺激になるし、大勢の方が楽しいし」
「なら決まり、私達は由貴ちゃんの用意を待ってるから、ヒロたちは先に出ても良いよ」
有里奈はそう言って、笑顔を見せる。浩也としては、水着選びにつき合わされないように、さっさと出ることを決断する。油断をすると引っ張りまわされかねない。
「了解、なら陽子、先に出ようか。じゃ、有里奈、めぐみ、またな」
「うん、またLINEするね。陽子ちゃんもまたね」
「ばいばい、浩也君。陽子ちゃんもまた学校でね」
「うん、有里奈先輩もめぐもお疲れ様でした」
各々笑顔になりながら、別れの挨拶を交わした後、浩也と陽子はクラス会へと向かった。
そしてクラス会会場。何だかんだ浩也と陽子は、集合時間に少しだけ遅れて到着する。部活組など遅れてくるメンバーも結構いるらしく、定員20名の個室で席はまだ3分の2程度しか埋まっていなかった。
「おお、高城、遅いぞ。って女連れか、って委員長?」
浩也が部屋に入って早速話しかけてきたのは、安藤佳樹だ。安藤は、海生高校でいうところの孝太のような立ち位置の弄られキャラだ。孝太はガタイの良い愛されキャラでもあるが、安藤は痩せチビのお笑いキャラである。
「だー、いきなりうるせえっ。俺が陽子と一緒にきたからって喚きたてるなっ」
「なっ、なっ、よ、陽子だとーっ。お前らいつから付き合い始めたんだっ、井上、井上はどうしたーっ」
浩也が陽子といったのは正直失言だったが、浩也は気にも留めずに、喚き立てる佳樹を思いっきり叩く。ちなみに心なしかそれまで聞こえていた会話の音量が小さくなり、誰もがその返答に聞き耳を立てる。
「だからうるせえっ。委員長が委員長って呼ばれたくないから、陽子って呼んでるだけだっ。それに理緒が何の関係があるんだっ」
「な、なら、2人は付き合っていないのか?ど、どうなんだ委員長っ」
浩也に詰め寄ると再び叩かれそうな予感のした安藤は隣にいた陽子にターゲットを変えて詰め寄る。しかし陽子も、呆れた表情を見せて、安藤をあしらう。
「安藤君、そんな人の事なんて、どうでも良いでしょ。大体、あなた達、いつまで私を委員長呼ばわりするのよっ。私には北見陽子って名前があるんだけどっ」
「いっ、いや、えっとその陽子・・・さん?」
安藤は、浩也に倣って名前呼びをしようとするが、テレからか思わず言い淀む。
「キモい。どうせ呼ぶならテレずに言いなさいよっ」
「はっはい、北見さん。北見さんで自分は統一させていただきます」
どうやら陽子は陽子でいつまでも委員長呼ばわりされる事にご立腹だったらしく、虫けらも見るが如き冷たい視線を安藤に浴びせ、安藤は震え上がる。ただ周囲はまだ2人に対する疑念を感じているらしく、女子の1人が、陽子へ質問する。
「ねえねえ、陽子ちゃん、それで2人は付き合ってないの?」
「付き合ってませんっ。今日は偶々一緒だっただけ」
陽子はめんどくさそうにそう答える。大体浩也の周りには、有里奈といい、理緒といい、自分が敵いそうにない女子がたくさんいるのだ。だから自分なんかが相手にされるわけないのだと思ったところで、何だが胸がチクッと痛む。あれっ?と思うが、春香が話しかけてきたので、うん、気のせい、気のせいだわなどと自己完結し、春香と会話を交わし始めた。
浩也と陽子の付き合っている騒動の後、程なくして朋樹や理緒を始めとする部活組も合流を果たす。理緒と朋樹は学校から一緒に来た事で、先ほどの浩也達と同様に、疑惑の目を向けられるが、その疑念をいち早く浩也が晴らしにかかる。ちなみに浩也が動き出すと、春香が顔を赤らめ、ぷるぷるしだし、朋樹は朋樹で引きつった笑みを浮かべている。
「諸君、君達は明らかに誤解している。俺は朋樹の親友として、その誤解を晴らさなければならないと確信している。さて、我が親友よ、ここへっ」
そう言って、浩也は壇上からマイク片手に朋樹を呼ぶ。理緒は完全に浩也が悪ノリしていると思っているのか、関心無さそうに、注文されていたポテトを摘まんでいる。ちなみに陽子は呆れ顔で春香の隣に座っている。そして朋樹が渋々壇上に来たところで、浩也は宣言する。
「さて諸君。我が親友である朋樹は、見ての通り、稀代のイケメンだ。100人いたら100人の女子がイケメンだというイケメンだ。性格も良く、頭もいい。しかもサッカーも部活では2年にしてレギュラーと優秀だ。この超優良物件、男だったら、妬ましいよな、安藤っ」
「ふぇっ、俺?いや妬ましいか妬ましくないで言えば、妬ましいが」
「そうだ、世の女子の注目を一身に浴びるこの男、男子から見れば、羨ましくも妬ましいこの男。だが男子諸君、我われ男子にもようやく救いの時が来たのだ。この度、我が親友、朋樹は1人の女子と結ばれたのだっ」
「なにーっ」
「えーっ、うそーっ」
「相手は誰だ?井上か、井上なのかっ」
様々な憶測や怒声、悲鳴が響き渡る。半分はノリだと思うが、もう半分はマジなリアクションだろう。浩也はその混乱を右手を上げて、制止する。
「静粛に、静粛に。まだ話はこれからだ。実はここで重大な事実を告げようと思う。この超優良物件を射止めた女子が、この中にいるっ」
そしてその浩也の一言で、部屋の中はシーンと静まりかえる。ちなみに理緒はズズーッと飲み物を音を立てて飲んでいる。ええいっ、緊張感のないっと浩也は理緒を睨むが、理緒は全く気にする素振りを見せない。そして、浩也は1人の女子へと顔を向ける。
「その女子の名は、川添春香、通称はるはるだーっ」
バシッ
「ここでその通称使うかっ、ていうか悪ノリしすぎだっ」
浩也の悪ノリについに堪え切れなかったのか、朋樹は浩也を思いっきり叩いて、突っ込みを入れる。それがきっかけで、部屋の中は阿鼻叫喚となる。まず春香。いつかはこんな日が来るとは思っていたが、周囲の質問攻めにただただ慌てるしかできない。そんな春香を庇うように陽子が一生懸命、質問する女子達の交通整理をしている。朋樹は朋樹で、なぜか男子より感謝と祝福の嵐にまみれ、こちらも時に突っ込み、時に感謝しと対応に追われる。そして騒動の立役者である浩也は、理緒の隣に座り、満足げにのんびりとポテトを摘まむ。
「浩也、楽しそうだったね」
「ああ、まあこれでこのクラスでは、あの2人をやっかむ奴はいないだろ」
「結構良いこと言ってるけど、純粋に楽しんでたでしょ」
「そんな事はない、あくまで善意の行動だ」
「本音は?」
「むっちゃ、楽しんだ」
浩也はそう言って、ほとぼりが冷めるのをのんびりとした空気で理緒と待っていた。
そしてほとぼりが冷めた頃、浩也と理緒の元に、解放された朋樹と春香がやって来る。陽子も苦笑いをしながら、2人の側へとやって来る。
「浩也、俺達に言うべきことはないか?」
朋樹はそう言って、浩也を睨む。ただ浩也は朋樹の性格を良く理解しているので、別に気にする事もなく、しれっと答える。
「朋樹、春香、おめでとうっ、幸せになってくれ」
「くっ、お前はそう言う奴だよな。はあ、とにかく散々なクラス会だった」
「ホント、浩也君、今度何かバイト先で奢ってもらうからねっ」
「ははっ、それ位ならお安い御用だ。ご祝儀代わりに、たんと奢ってやろう」
浩也に対して、恨みがましく言う春香に対し、浩也は鷹揚に答える。まあ、浩也も楽しんだし、2人が苦労したのも事実なので、それ位は甘んじて受け入れるつもりだった。
「それにしても、みんなの付き合う事への興味って、凄いよね。別にそれを知ったからって、何か得する訳でもないのに」
先程まで、質問の交通整理をしていた陽子が、しみじみと言う。
「ああ、あれな。さっきも、陽子や理緒と付き合っているのかって、聞かれたけど、本当、どうでもいいだろうに」
浩也も陽子の話に同意して、ぼやく。すると理緒はニヤリとして、浩也に絡む。
「あら、私の場合は、浩也とそれっぽく見えると、メリットあるけど」
「俺にはデメリットしかねぇ。人を隠れ蓑にしやがって」
そしてそれを聞いてた朋樹が口を挟む。
「確かに浩也と理緒の付き合ってる説は、未だに根強いからな。ああでも、今回で陽子とも噂になるか」
「ええっ、私っ?ないない、ないでしょ、理緒がいるんだし」
陽子はそう言って、それを否定する。すると理緒が悪ノリをして、陽子に絡む。
「あら陽子、私の浩也に粉をかけるっていうの?なら全面戦争よっ」
「誰が私の浩也だっ、もう面倒くさいから、彼女でも作るか」
浩也の発言に小さくないどよめきが起こる。遂にあの難攻不落の浩也が、彼女作りをするのかと色めき立つ。
「ええっ、高城君にチャンスあり?」
「井上に北見に更に彼女だとっ。殺すっ」
「井上か、相手はやっぱ井上なのかっ」
そこで先程のお返しとばかりに、朋樹がからかう。
「いよいよ、浩也の時代突入か?井上に陽子に更に新たな女子とか、まさにハーレム野郎だな」
「チッ、誰一人、実利のない名ばかりのハーレムじゃねーかっ。大体、新たな女子って最早架空のだろ」
そんな二人のまわりでハーレム要員とされた理緒と陽子は、新たな女子に同じ人物を思い浮かべる。もっとも新たではない新たな女子を。そして2人は同じような苦い顔をするのだった。




